127話 紅蓮の鉄槌、動く
カーシャside
ギルド近くにある大酒場。
そこはダンジョンで稼いだ冒険者が飯や酒を目的に毎日賑わう場所だ。
アタイのパーティ『紅蓮の鉄槌』もよく通っている。
そして冒険者たちは今日、ある話でもちきりだった。
「おい聞いたか? 今日『カタストロフ』の連中が砂漠エリアをクリアしたんだってよ」
「しかも一発クリアだってよ。信じらんねぇ」
「それだけじゃねぇぜ、数十メートルのワームを仕留めたらしい」
「マジかよ!? そんなのどうやったら倒せんだ!?」
「やべぇ奴らとは聞いてたが……」
それをアタイたちは近くの丸いテーブルに座り聞いていた。
「はっはっは! あいつらやるな!」
「まさかあっさりクリアするなんて生意気なんですけど~! でもミラが無事でよかったかな~」
イサークとシャルルも『カタストロフ』を絶賛している。
実際すごいことを成し遂げたんだから。
だけど。
「まさか役立たずを連れたままクリアするなんてね」
戦いを知らない男よりも貧弱に見えたエレンという女。
よくあんなのを連れて灼熱の砂漠をクリアしてみせたと思う。
「いや~リーダーには悪いんだけどあのお姉さん結構やると思うよ~? 認めたくないけど魔力のコントロールじゃシャルルちゃんでも勝てないしね~」
数日前シャルルから聞いた話。
ヴェルミナおばさんの呪いを操り解除して見せたという。
信じられなかったが、実際会いに行くとヴェルミナおばさんは絶世の貧乳美女になっていた。
「無能じゃないってことは認めるよ。それを踏まえても砂漠で活躍できるとは思えないけどね」
「だが一発クリアだぞ? 役立たずを連れたままできる芸当じゃないと俺は思うけどな」
イサークの言ってることは正しい。
アタイたちもシャルルの風魔法で移動を楽にし、物資を万全にした状態で何度もチャレンジし、数ヶ月かけて突破した階層だ。
ただの運とは思えない。
「まあこの目で見ないと信用できないけどね。今度あいつらと模擬戦でもしてみるかな」
そう言いながらジョッキの酒をごくごくと飲み干す。
その時、別のテーブルから気になる声が聞こえてくる。
「次のエリアを突破すればそいつらも最下層に到達だろう? まさかこのまま攻略されちまうんじゃねぇのか?」
「それならダンジョンが無くならねぇうちに稼いでおかねぇとな」
「でもたどり着いたとして攻略できんのか? 誰も帰ってきたことがない階層なんだろう?」
「俺は攻略する方に賭けるぜ。少なくともそこで半年以上挑みもせず立ち止まってる『紅蓮の鉄槌』より可能性あんだろ?」
「……っ!」
一瞬立ち上がって、文句を言ってやろうと思うけど留まる。
奴らの言ってることは事実だからだ。
最下層は過去、何度もアタイたちと同じBランク以上の高ランク冒険者がたどり着き、攻略に失敗して全滅した危険な場所。
その話が広まり、アタイたちが最下層にたどり着くころには、他の高ランク冒険者は誰もこの町に来なくなった。
アタイたちも同じ理由でビビってると思われてもしょうがない。
あながち間違いじゃないが、本当の理由は攻略する必要がないからだ。
たとえ攻略に成功し、ダンジョンコアを手に入れたところで得られるのはお金だけ。
ダンジョンが無くなった町からは人が去り、町は以前のように廃れてしまう。
だからアタイらは最下層にたどり着いても攻略をしなかった。
けれど……。
「リーダー、あいつらの言うことももっともだと思うけどな」
「このままじゃミラたちに先越されちゃうかもね~」
「うるさいね」
今まではライバルがいなかったから安心していられた。
しかし、突如やってきたあいつらが異常とも思うスピードでダンジョンを攻略し、最下層にたどり着こうとしている。
もしこの勢いで最下層も攻略されたら、ダンジョンが無くなり、さらにダンジョンコアも取られてしまう。
その焦りがアタイたちには出ていた。
「イサーク、シャルル。アンタたちはどうしたい?」
「リーダー、それは……」
「とうとう挑む気になったってやつ~?」
「……ええ、でも攻略じゃなくて探索だけどね」
最下層をよく知っておけば「カタストロフ」が追い付いても優位に立てる。
それに、最下層は冒険者の出入りが全くない。
それだけお宝も眠っている可能性が非常に高い。
攻略をしなくても十分にうまみがある。
だが、それでも危険な場所という事に変わりはない。
「二人が嫌だっていうならアタイは無理強いしない。危険な場所を避けるってのも立派な判断だからね」
そういうと、イサークとシャルルの二人は変なものを見る目でこっちを見る。
「な、なんだよその目は?」
「リーダーがそんなこと言うなんて似合わないと思ってな」
「いっつも一人で突っ走る癖に何言ってんの~? 頭おかしくなった~?」
「う……」
痛いところを突かれる。
ラディアドレイクから「カタストロフ」の連中を助けた時も一人で先走り、イサークとシャルルを置いてきてしまった。
アタイの悪い癖だ。
「はっはっは! いつものように突っ走ってればいいのさ! 俺たちはついてくだけだからな!」
「ビビらないでいつも通りに行けばいいじゃん。なんだかんだそれでいつも噛み合ってるんだからさ~」
「……そうだね、アタイらしくなかったよ」
どうやらアタイも本気でビビってたらしい。
こんな風に励まされるなんて思ってなかった。
「それに最下層なんてどんな強い攻撃で俺を痛めつけてくれる奴がいるのか……すごい興奮するぜ!」
「誰も手を付けてない宝石とかありそうだしシャルルちゃん楽しみ~♪」
「ちゃんと自分たちの欲望もあったんだねあんたたち」
まあいいか、むしろ大事な仲間に無理強いさせることにならなくてよかった。
そんなパーティめったにいないだろうけどね。
「じゃあ決まりだね。明日、アタイたちは最下層へ挑むよ!」
「よっしゃあ燃えてきたぜ!」
「財宝ぜ~んぶ頂いちゃうんだから~!」
そう言って三人で乾杯し、その日は英気を養う。
そして次の日、ギルドの前でアタイたちは決意、緊張、期待。
それぞれの感情を秘めながら合流する。
「さあ行くよ二人とも!」
「おう!」
「任せといて!」
二人を率いてギルドに入る。
いつものように冒険者たちで賑わっているギルドの中で、アタイは大声で宣言する。
「野郎ども、よく聞きな! アタイたちは今から、最下層の二十六層に挑む! 誰も帰ってこれないなんて不気味な噂はもう終わりだ!」
その宣言に、ギルドにいる冒険者たちにどよめきが広がる。
「紅蓮の鉄槌がとうとう挑むのか!」
「おいおい、ダンジョン今日で終わっちまうんじゃ?」
「どうだろうな、相当やべぇ場所なんだろ?」
「でも可能性はあんだろ?」
そんな冒険者たちの反応を背に、アタイたちは転移の間へ向かう。
半年間何も準備してなかったわけじゃない。
今のアタイたちなら必ず探索を成功させられる。
そう確信していた、だがその時。
「また愚か者が出やがりましたね……」
そんなことをつぶやいている人物がいたことをアタイは知らなかった。




