116話 力(笑)の試練らしい
「あたしとした事が、宝箱を見つけて駆け寄ってる途中にタライの罠にかかって、頭がフラフラしてる間宝箱に擬態したミミックに喰われるなんて、油断してたわ」
「あんたがミミックに喰われた理由なんて聞いてないわよ」
知恵(笑)の試練攻略中ミミックに喰われてたアルテナを引っ張り出して救出後、私達は迷路の出口にあった闘技場の部屋まで戻ってきていた。
「で、エレン。ここが次の試練の場所なの?」
「多分ね。それにしても……」
かなり立派な闘技場だ。
一階部分は対戦者が戦う広い円形上の試合場になっていて、二階部分には何百人と入りそうな観客席まである。
まあ当然ながら客はいないが。
そう考えていると、バカドクロが笑いながら目の前にやってくる。
『カッカッカ! やっと揃ったか! では今から力の試練を開始するぞ!』
「え、いきなり?」
こっちは迷路をひたすら歩いてこっちは疲れてるっていうのに……。
まさかこれが狙い……?
『なんだ? 準備ができてないのか? なら待ってやってもいいぞ?』
……全然違った。
確かにそんな知恵あるわけないか……。
「それよりエロ骸骨、観客がいないじゃない! ちゃんと用意しなさいよ!」
『うるさい! ダンジョンの中なんだぞ! 客がいるわけないだろう! どうしてもっていうなら砂漠にいるワームでも連れて来るか?』
「ウゲェ!? とんでもない事言うんじゃないわよ! ちょっと想像しちゃったじゃない!」
「う……」
アルテナとバカドクロのせいで大量のワームが観客席でウネウネしている光景を想像してしまった。
気持ち悪い……。
『それより準備はいいか!』
「いつでもいいわよ! さっさと始めなさい!」
「ミラも大丈夫だよー♪」
「はぁ……しょうがないわね」
相変わらず二人は元気だ。
何が二人を突き動かすのだろう?
……財宝か。
「ここの試練は出てくる敵を倒すって事でいいの?」
『その通りだ!』
「なーんだ、簡単じゃない。どんな敵が来ようとアタシ達に敵うやつなんていやしないわ」
『カッカッカ! その余裕がいつまで続くかな!? 来い! 我がピラミッドの守護者よ!!』
向かい側の道を塞いでいた鉄格子がギィィィ……! っと重々しい音を出しながら開く。
何が来るか一応身構える。
すると、上からバンッ! っと何かが開くような音がする。
「え?」
直後、何かがドシーーン!! っと上から落ち、大きな振動が私たちを襲う。
落ちて来たものを確認すると、それは黒金の体をした一つ目の巨人だった。
両手には大きな四角いタワーシールドを装備し、とても頑丈そうな見た目をしている。
「で、でっかいのが落ちてきたよ!?」
「何よこいつ!? カッコいいじゃない!」
『カッカッカ、そうだろうそうだろう! コイツこそ我がピラミッドが誇る最強の守護者ガーディアンゴーレムだ!!』
「どっちかというと向こうの通路からじゃなくて上から落ちてきたことに驚いたけどね」
『こっちの登場の方がインパクトあるだろう!?』
いや、どこを重視してるんだか。
少し前から思ってたが、なんかアルテナと同類の匂いがする。
「まあそれはそれとして、力の試練はこいつを倒す事で良いのかしら?」
『カッカッカ、その通りだ! さあ起動せよ、ガーディアンゴーレム!』
バカドクロの目の青い炎が燃え上がると、ゴーレムの目が赤く光り動き出す。
そして向かい側の出口を塞ぐよう後ろに下がり、タワーシールドを前に構え防御の姿勢をとった。
『さあ来い! こいつの守りを突破して見せろ!』
「アルテナ、ミラ。油断しないでね」
「ふ、分かってるわよ!」
「頑張るよ!」
それぞれ武器を取り出し戦闘体制を取る。
見た目から予想はしてたが防御特化のようだ。
無闇に攻撃したら手痛いカウンターを受けるかもしれない。
まずは相手の手の内を見よう。
「ミラ、ゴーレムに攻撃をお願い」
「分かったエレン様! 行くよー!」
まずは攻守共に強いミラを正面から突撃させる。
空中を飛びながら巨大なオーガハンマーを振りかぶり、タワーシールドに向かって攻撃する。
すると、ガキィィン!! と言う金属音が鳴り響き、ミラの攻撃が弾かれる。
「わわわ!?」
弾かれながらも空中で体制を整えるミラ。
一方ゴーレムは攻撃の衝撃で少しよろめいたが、なにもなかったかのようにすぐ防御体制に戻った。
「すっごい硬いよこのゴーレム!」
「へぇ、なかなかやるじゃない!」
「ミラの攻撃が効かないなんて……」
巨大クリスタルゴーレムですら砕いたミラのパワーが通じない。
バカドクロが用意するものだから実は大した事ない可能性も考えてたが、そうでは無いらしい。
『カッカッカ! 残念だったな! こいつは強力な魔法障壁で守られた特別なゴーレムだ! 腕力だけで砕くことなど出来んぞ!』
バカドクロが勝ち誇った笑みを浮かべる。
だが、戦いはまだ始まったばかりだ。
「ミラ、あんたは下がってなさい。クックック、次はアタシが相手よ! かかってきなさいガーディアンゴーレム!」
強敵に燃えたアルテナがデスサイズを構え、ガーディアンゴーレムと一騎討ちの勝負を挑む。
しかし。
『…………』
何故かガーディアンゴーレムは一切動かず、辺りがシーンと静まり返る。
「あれ? ゴーレムさん動かないよ?」
「……ちょっと! 何でこいつ動かないのよ!?」
アルテナがバカドクロを問い詰める。
『何を言っている? ガーディアンだから自分から攻めるわけないだろう。動いてる間に出口に行かれたら意味無いではないか!」
「そりゃそうだけど、目からビームとか遠距離攻撃くらいあるでしょ!」
『そんなものは無い!!』
「無いの!?」
……確かにミラが攻撃した時も防いだだけで何もして来なかった。
……と言うことは。
「このゴーレムは一切攻撃して来ないってこと?」
『カッカッカ! その通りだ!』
「な、何よそれ……」
激しい戦いを期待していたアルテナが呆然として膝から崩れ落ちる。
「流石に手抜きすぎない?」
『手を抜いたわけではない! 防御に特化するため余計なものをつけなかっただけだ! それに厄介なことには変わりあるまい!』
「……確かにそうね」
向こうとしては私たちを倒す必要はない。
先に進ませなければいいのだ。
そう考えれば確かに理に適ってるかもしれない。
「まあ、あくまで倒す方法がない場合に限るけどね」
『ふ、バカめ! 倒す方法など……』
「アルテナ、さっさと斬っちゃいなさい」
『は?』
バカドクロが?マークを浮かべてる横で、既にアルテナが怒り心頭で立ち上がり、デスサイズをおおきく振りかぶっていた。
「よくもアタシの期待を裏切ってくれたわね! とりゃーーー!!」
アルテナがそう叫びながら大きく跳躍。
ゴーレムの頭上からデスサイズを垂直に振り下ろす。
すると、ガーディアンゴーレムはパカッと卵が割れるように綺麗に真っ二つとなり、
そのままズシーン……と沈んでいった。
「ふ、これで試練クリアね。ほら、さっさと行くわよエレン、ミラ」
「やっぱりアルテナ様凄い!」
「はいはい」
『いやいやいやちょっと待てーーー!!!!』
先に進もうとする私達をバカドクロが遮る。
「なによエロ骸骨? もう試練はクリアしたでしょう?」
『そういうことじゃない! 貴様何をした!? 何であんな簡単に斬れる!?」
「クックック、あたしのデスサイズは防御を無視できるのよ」
『そんなドヤ顔でとんでもないこと言うな! というかちょっと待て! この先には進むな!」
「はぁ?」
何だかバカドクロの様子がおかしい。
試練を理不尽に突破された事とは別に何か焦っているようだ。
「この先に何かあるの?」
『何もない! いいか! とにかく進むなよ! 一週間……いや、三日待て! 分かったな!』
そんな無茶を言ってバカドクロが通路の先に消えていく。
「……せめて鉄格子くらい閉めていけばいいのに。どうする二人とも?」
「なんでここで三日も待たないと行けないのよ! 当然先に進むわよ!」
「ミラも行きたーい!」
「そうね、じゃあ先に進みましょうか」
しかし、さっきのバカドクロの慌てようが気になる。
この先には一体何があるのだろうか?
今回の試練も、(笑)とつけたけど案外まともだった気がする