115話 知恵(笑)の試練だってさ
ちょっと長めになりました
勇気の試練(笑)を突破した私達。
現在その先にある通路を三人で進んでいた。
「いやーなかなか面白い試練だったわねー♪」
「何処がよ……! いい加減忘れなさい!」
私の恥ずかしい姿を見てご機嫌なアルテナ。
いつもは醜態晒すのはアルテナの筈なのに……。
何でこんなことに……。
「エレン様大丈夫? よしよし」
苦虫を噛み潰したかのような表情をしていると、ミラが頭を撫でで慰めてくれる。
「ミラ……あなたは本当にいい子ね」
ミラの天使のような優しさに思わず涙腺が緩み、ミラを抱きしめる為手を伸ばす。
「さあ早く進むわよ! 財宝目指してレッツゴーよ!」
「財宝! 待ってアルテナ様ー!」
「え」
伸ばした手は空振りに終わり、ミラはアルテナと一緒にさっさと先に行ってしまう。
「私より財宝なの……? ミラ……。ガクッ」
結果さらに凹みながら二人の後をついていく。
宝は人を惑わすと言うが、ミラも例外じゃないらしい。
財宝に殺意が芽生えて来た時……。
「エレン! 通路の先が見えて来たわよ!」
アルテナが前を指差しながら私を呼ぶ。
走って二人に追いつくと、天井が高い部屋に到着する。
正面に重々しい鉄格子で塞がれた扉があり、その上には目の部分に炎が灯っているでかいドクロマークが彫られている
まあそれはそれとして。
『カーッカッカッカッカ! よく来たな侵入者どもグハァ!?』
何処からともなく宙に浮いたバカドクロが出現したので即撃ち抜いて粉々にする。
おかしい。
さっき風呂に沈めた筈なんだけど。
バカドクロの青い炎が燃え上がるとすぐに再生し、目前まで迫ってくる。
『貴様! いきなり粉々にするとはどう言うことだ!?』
「それより、何であなたがここにいるのよ?」
『カッカッカ、こんな事もあろうかとスペアを大量に用意していたのだ! 残念だったなカッカッガハァ!?』
とりあえず撃ち抜いてもう一回粉々にしておく。
「エレン、話が進まないからその辺にしといたら?」
「……それもそうね」
『はぁ……はぁ……おのれ不敬なやつめ。まあいい、ここから先は知恵の試練! 超複雑かつ罠もある恐怖の迷路だ! 果たしてお前達に攻略できるかな!? 準備ができたらこの扉の先へ行くがいい!」
目の青い炎が燃え盛ると、鉄格子が解除され先に進めるようになる。
「ふ、とっくに準備は出来てるわ! 行くわよ二人とも!」
「分かった、アルテナ様!」
「はいはい……」
開いた扉の先は通路と見た目は変わらない。
だが、入ってすぐ十字路に道が分かれていた。
一応ちゃんと迷路にはなってるらしい。
「よし、前に進むわよ!」
ガンガン進むアルテナに対し、私はやる気が出ず歩みが重い。
「エレン様、早く行こうよ!」
ミラに腕を引っ張られて急かされ、しょうがなく歩みを早めようとしたその時。
『おい小娘、そんなに仲間と離れていいのかな?』
「何よ、たいして離れてな……」
その時アルテナの足元からガコンッと音がする。
よく見ると、アルテナがいかにも不自然な黒い床を踏み抜いていた。
「え、何これ? うわ!?」
突如急に隣の壁がまるで風車のように回転する。
「アルテナ!?」
慌てて走るが、アルテナは回転する壁に押され、そのまま壁の裏側へと消えてしまった。
「しまった……分断されたわ!」
「アルテナ様ー!」
ミラが叫ぶが返事はない。
完全に音はシャットアウトされてるようだ。
「カッカッカ! 引っかかったなアホめ! さあどうする!? 仲間がいなくなってしまったぞ!?」
「油断してたわね……」
探知魔法はちゃんと発動していたのだが、さっきの罠は魔法ではなく単純な仕掛けで気づかなかった。
だが、こうなってしまったらしょうがない。
「え、エレン様、どうしよう?」
「大丈夫よミラ。迷路なら進んでいけば合流できるはずだから」
慌てるミラをそう言って安心させるが、アルテナ抜きでダンジョンを進むのは初めてだ。
自然と私を不安が襲う。
だが、立ち止まる訳にはいかない。
より慎重に迷路を進み始めたのだが……。
「……いや、何よこれ」
数分後、私とミラは罠がある通路に差し掛かった。
何故わかるかというと、罠の部分だけさっきと同じで不自然に黒くなっているからだ。
それだけならまだいいのだが、その部分を矢印で示したり、酷い物はワナ、危険とまで書かれている。
「ねぇバカドクロ、何よこれは?」
『誰がバカドクロだ!? 見ての通り罠だ! どうだ恐ろしいだろう!』
「いや、何であんな分かりやすくしてるのかって聞いてるのよ」
『ふん、何を言う! 我が通る時罠にかからない為に決まっているだろう!』
「……おかげで私たちにも丸わかりなんだけど……」
『……ああああしまったーーーー!!』
バカドクロがやらかしに気づき、床を転がって悔しがる。
やれやれ、なんて本末転倒な事をしてるんだろう。
一応ミスリードの可能性も含めて慎重に進んだが結局罠にはかからず、確認のため魔導銃を罠に向かって撃つと、その場にタライがガシャンと落ちてきた。
「……何でタライなのよ?」
『決まっているだろう! 万が一我がかかった場合痛くないようにうわぁ!?』
とりあえずバカドクロをタライに閉じ込め、『出せー! 出せー!』と言う言葉を無視して先に進む。
こんな迷路ならすぐ突破出来るだろう。
そう思っていたのだが……。
「エレン様、また行き止まりだよ」
「……しょうがないわね、戻りましょう」
迷路を進み始めてから約二時間、私とミラはまだ彷徨っていた。
意外に迷路部分はしっかり作ったらしく、なかなか出口が見えない。
「こんな所だけきっちりしなくてもいいのに……あ、また行き止まりだわ」
「あれ、でもエレン様! あそこに何かあるよ!」
ミラが行き止まりにある何かを指す。
「あれは……宝箱?」
間違いない。
木と金属で作られた宝箱だ。
「何でこんなところに……ってここはダンジョンだったわね。あって当たり前だったわ」
「わーい!」
ミラが喜びながらふわふわと宝箱に近づいていく。
すると、宝箱がいきなり震え出し、ふたが開いたと思うと中から大きな舌が伸びてきた。
「え、あれはまさか!?」
間違いない。
あれは宝箱に擬態していたミミックだ。
「ミラ、危ない!」
ミミックの舌がどんどんミラに向かって伸びていく。
咄嗟に走り出し魔導銃を抜くが、ミラの陰に隠れてしまって舌を撃つことができない
そして。
「こんにちは!」
「え?」
ミラが挨拶しながらミミックの舌とハイタッチし、私はズザーっとギャグ漫画のようにずっこける。
「あれ? エレン様大丈夫?」
「だ、大丈夫よ……それよりも」
向こうからミミックがガチャガチャと飛び跳ねながら近づいて来る。
見た感じ敵意は無いし、寧ろ舌を機嫌良さそうに振り回している。
もしかして……。
「ミラ、もしかして仲間と思われてる?」
「うん! だから挨拶したの!」
なるほど、よく考えたらミラはクリスウィスというミミックだ。
普通に仲間と思われてもおかしく無い。
「うんうん、そうなんだよ! エレン様はミラのご主人様なの!」
『……♪』
何だか仲良さそうに話している。
相手の言葉はよくわからないが、ミラが楽しそうに話していて何よりだ。
「うんうん……え、本当!? エレン様! このお兄さんが迷路の出口教えてくれるって!」
「それはありがたいわね」
ていうかお兄さんなのか。
見かけじゃ全然わからないけどどこで見分けてるんだろう?
「でも、その前にエレン様と話したいことがあるって言ってるよ」
「え、私と?」
一体なんだろう?
そう考えてると、ミミックのお兄さん(?)が本体の中から木の棒を取り出すと、ミラから見えない位置に文字を書き始める。
「なるほど、筆談ね。えっと……『エレンさん、ミラちゃんを私に下さい』……ふむふむ」
とりあえず魔導銃を取り出してミミックの本体に突っ込む。
『!?』
(木っ端微塵と焼却処分、どっちがいい……?)
『!?!?!!!!??』
そうボソッと呟いて上げると、ミミックはガタガタと震え出しささっと私から遠ざかる。
「ど、どうしたの?」
「なんでも無いわ。すぐに案内してくれるって。ねぇ……?」
ミミックはブンブンと蓋を開け閉めすると私達を案内し始める。
どうやら諦めたようだ。
それでいい。
ミラをどこぞの馬のミミックにやるわけにはいかない。
その後、ミミックの案内で進んでいくと、通路の先にやけに明るい光が見え始める。
「もしかしてあそこがゴールかな!?」
「そうかもしれないわね。行ってみましょう」
期待を寄せ早足で駆けていくと、そこは……。
「な、何よこれ?」
「ここどこー?」
円形の大きな部屋で、向かい側には大きな鉄格子で遮られた扉がある。
上には観客席のようなものがあり、スケルトンの像二体、剣を掲げるポーズで向かい合って立っている。
何でこんなものが出口に……そう思っていた時、やかましい声が上から響いて来る。
『あーーー! 貴様ら! なんでこんなに早く迷路を突破してるんだ!?』
「あ、やっぱりいたのね」
空中からバカドクロがけたたましく降りて来る。
ここにもスペアを用意していたらしい。
『おのれ……早くても三日三晩はかかると思っていたのに……』
「おあいにく様ね。道案内がいたから簡単だったわ」
『は? 道案内だと?』
「ええ、迷路にいたミミックに……ん?」
ミラの方を振り向くと、相手のミミックと何かを話してるようだった。
「え? 『今から二人きりでピラミッドを散歩しないか?』じゃあエレン様に行っていいか聞いて来るね。え、ダメ? それはなんで?」
「死ね」
バンバンとミミックめがけて魔導銃を連射すると、ミミックは慌てて迷路の中へ逃げていった。
全く、油断も隙もありゃしない。
「ミラ、同族でも知らないお兄さんについていったらダメだからね」
「え? う、うん……」
突然の出来事に困惑してるがしょうがない。
変な虫をくっつけるわけにはいかないし。
『おい貴様! まさかミミックに案内をしてもらったというのか!? それは流石に卑怯だぞ!』
「卑怯でも何でも無いわ。だって『知恵の試練』でしょう? 本来敵のミミックに案内させるって知恵を使った突破方法だと思うけど?」
『うぐ!? おのれ! しっかりミミックに教育しておくべきだったー!!』
また悔しさで地面を転がるバカドクロ。
それはそれとして。
「ところで、この闘技場みたいな空間はなによ?」
『どうだかっこいいだろう? 早速ここの説明を……っと、その前に一つ聞きたいんだがいいか?』
「なに?」
『金髪の小娘がいないがどうしてだ?』
「あ」
そういえば忘れてた。
その後『バカモン! 探して来い!』と言われ結局もう一回迷路に戻って探すと、さっきとは別のミミックに頭から喰われ気絶していたアルテナを見つけたのであった。
何してんだか……。
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