110話 エレン、痛恨のミスをする
前話の終わりを加筆修正しました。
話が続いてないなと思った方は申し訳ないですが前話のラストをお読み下さい
砂漠エリアを攻略し、順調に十九層まで辿り着いた私達。
だが、そこにはピラミッドという建造物が建っていた。
はるか遠くに小さな三角形の物体が見えるだけだが、太陽に照らされ黄金のように輝く確かな存在感を放っている。
「エレン! あれピラミッドよね!?」
「まあ、そうね。何でこんなところにあるのかしら?」
まさかのピラミッド出現に興奮するアルテナ。
「エレン様、ピラミッドって何?」
「昔の偉い人が眠る砂漠のお墓よ。それにしても……」
おかしい……マニュアルにはピラミッドの記載なんてなかった筈。
というか何で異世界にピラミッドがあるんだろう。
あったとしても何故ダンジョンに存在するのか……。
考えてもわからないが、とにかく一つだけ確かな事がある。
「ピラミッドには関わらないようにしましょう」
「いやいや、なんでよ!? 行くに決まってるでしょう!」
「ダメよ、絶対ロクな事にならないわ」
古代の遺跡とか絶対罠だらけの極悪仕様に決まっている。
おまけにここはダンジョンなんだからより確定だ。
そんなところ誰が行くもんか。
「私たちの目標は階段でしょう? 寄り道してる暇なんてないわよ」
「何言ってんの!? 未知を冒険してこその冒険者じゃないの! それに、次の階段がピラミッドの中にあるかもしれないじゃない!」
「う……それは……」
アルテナの言う通り、階段がピラミッド内にある可能性も否定はできない。
でも、やっぱり進んで行きたくはない。
「ミラはピラミッド行きたい? きっと危ない目に遭うと思うけど」
こうなったらミラに味方になってもらうしかない。
ミラは私の言葉に少し怯えた表情で答える。
「えっと……怖いところはあまり行きたくない……」
「そうよね。そう思うわよね」
よし、これで行かなくてす……。
「待ちなさいミラ。もしかしたら金銀財宝が眠ってるかもしれないわよ?」
「え、金銀財宝!? でも危ないところだよね……? えっと……」
ミラが頭を抱えて悩み出す。
しまった……ミラはお宝が大好きなんだった……。
そして、十秒ほど悩んだ後申し訳なさそうにこちらを見ながら……。
「えっと……ミラ、行ってみたいかも」
アルテナの女神(悪魔)の囁きに屈してしまった。
「ふっふっふ、これで決まりね。文句無いわよねエレン?」
勝ち誇り不敵な笑みを浮かべるアルテナ。
めちゃくちゃムカつくが、ミラまで賛同してしまったらもうどうしようもない。
「はぁ……分かったわよ」
結局折れて力無く頷く。
不安だが何とかなるだろう……多分。
とりあえずドラゴンスケーターに乗り込もうと足をかけると、後ろからアルテナに肩を掴まれる。
「ちょっと待ちなさい。今回はあたしが運転するわ」
「は?」
アルテナがまた妙なことを言い出した。
「急に何なのよ?」
「だってあんたばっか操縦してずるいじゃないの。あたしにも操縦させなさいよ」
「いや……アルテナ? あなた、絶対操縦出来ないでしょう?」
「何で決めつけてんのよ!? 大丈夫よ。目的地がはっきり分かってるんだから、そこまで行けばいいだけでしょ? 簡単じゃない。」
そう言って胸を張るアルテナ。
確かにピラミッドまでの道のりは平坦で、途中に目立った障害物は無いように見える。
これならアルテナでも……アルテナでも大丈夫かもしれない(大事なことなので二回言った)。
それに、アルテナは私を信頼してくれている。
だったら私も少しは信頼するべきかもしれない。
「……分かったわ。その代わり私の言うことはちゃんと聞いてよ?」
「ふ、任せなさい」
そうしてアルテナは操縦席、私は助手席に座る。
ミラはいつも通り後ろだ。
「アルテナ様、操縦頑張ってね!」」
「ふ、ミラも見てなさい。びっくりするほどの操縦技術を見せてやるわよ!」
「とりあえず魔力量の込めすぎで猛スピード出さないでよ?」
「はいはい、分かってるわよ。じゃあ出発!」
アルテナがハンドルを握りしめ、魔力を流し始める。
いきなり猛スピードにならないか不安だったが、プロペラはゆっくりと回り始め、スケーターはゆっくりと動き出す。
そして、適切なスピードを保ちながら砂漠を滑走し出した。
……そして、砂漠をスケーターで進むこと約一時間。
アルテナの操縦は安定していて、特に問題なく進んでいる。
うん、どうやら私の心配は杞憂だったらしい。
「エレン、ピラミッドまでもう少しよ!」
そう言いながらアルテナが目をキラキラさせて前を指差す。
小さく見えていたピラミッドは近づいた事で、まるで高層ビルのような高さと、眼前を埋め尽くすようなとんでもない大きさへと変わっていた。
「エレン様、すっごく大きいね!」
「ええ……本当に大きいわ」
恐怖もあるが、初めてのピラミッドに少しワクワクした感情も出てくる。
ミラも後部座席から身を乗り出してはしゃいでいる。
だが、警戒を怠っては行けない。
ピラミッドもだが、道中もだ。
「ん?」
探知魔法に何かが引っかかる。
前方の地面に魔力の塊があり、一瞬何かと思うが、それがダンジョンの罠だと言うことに気づく。
「アルテナ、前方に罠があるわ。左右に避けて進んで頂戴」
「……」
「アルテナ?」
「あれ? アルテナ様?」
返事が無いことに違和感を感じ、アルテナの方を見る。
すると、アルテナの目はピラミッドに釘付けとなっていた。
……まさか。
「アルテナ! 聞いてるの!?」
叫びながらアルテナの肩を揺さぶる。
すると、ビクッとしながらやっとこちらに気付く。
「……え? 何よエレン? どうかした?」
やっぱり……!
こいつ、ピラミッドに夢中で私の言葉を聞いてなかった!
「アルテナ、よく聞きなさい! 前方にわ……」
「分かったわ! 前方に向かって全速前進ね!」
「いや、違!? うわ!?」
「わわわ!?」
アルテナが急にスピードを出し始め、私とミラはその衝撃で席に倒れる。
そしてそのまま、スケーターは罠の上を一気に通過。
すると、罠があった場所に巨大な鐘が現れ、『ゴォーン! ゴォーン!』と巨大な音が鳴り響く。
「え、一体何!?」
鐘の音に驚いたアルテナはスケーターを止めながら振り返ると、鐘はすぅっと何も無かったかのように消えていき、後には風が砂を運ぶ音だけが残っていた。
「ちょっとエレン、何だったのよさっきの鐘は?」
「アーールーーテーーナーー!!!!」
「ギャァァァァァ!?!?!?!」
怒りで鬼の形相になった私の顔を見て恐怖で悲鳴を上げるアルテナ。
「わぁぁぁぁ!?」というミラの悲鳴も聞こえるがそんな事はどうでもいい。
アルテナの襟を掴みこちらに引き寄せる。
「何で自分から罠に突っ込んだの? 私言ったわよね? 前に罠があるって。もしかして聞いてなかった? 何で聞いてなかったの? 納得のいく理由を教えて頂戴。さあ、早く」
「え、えっと……その……」
アルテナがダラダラと汗を流しながら答える。
「こ、孔明の罠だったから……かな?」
「孔明に謝りなさい!!」
「ギャァァ!?」
アルテナをドラゴンスケーターから蹴り落とす。
私は何を間違っていたんだろう。
アルテナが私を信頼してくれてようが、友情めいたものを感じようが関係無い。
私は……“アルテナを信じてはいけなかった”!(強さ以外)
そんなのわかりきってた筈なのに……く、痛恨のミスだ。
言い訳しようがない。
だが、そのことを悔いてる暇はなかった。
「エレン様! 地面から何か来るよ!」
「え!?」
ミラが指差す方向を見ると、ゴゴゴゴゴ……! と砂の地面を盛り上げながら何かが近づいてくる。
よく見ると、それは地面に落ちたアルテナへと迫っていた。
「アルテナ、危ない!」
叫ぶと同時に、そいつが姿を現す。
白くぬめった細長い姿をし、先端には胴体が裂け、円形状に無数の牙を生やした巨大な口がついている。
その魔物は『キシャーー!!』という声を発しながらアルテナに向かって飛びかかって来た。
「うげ!? 何よこいつ!?」
アルテナは咄嗟にその魔物を避けながら剣を抜き、胴体を真っ二つに切り裂く。
断末魔を上げながら息絶えるその魔物を確認すると、アルテナは慌ててドラゴンスケーターに乗り込んだ。
「アルテナ様! 大丈夫!?」
「び、びっくりしたわ……! エレン、何よあの気持ち悪い魔物!?……まさかワーム!?」
「ええ、間違いないわ。サンドワームっていう砂漠に住むワームの一種ね。それよりまずいわ……囲まれてる!」
探知魔法で見るまでも無く、すでにドラゴンスケーターを囲むように大量のワームが迫って来ていた。
さっきの罠はこいつらを呼び寄せるものだったに違いない。
「ど、どうしよう!? 囲まれちゃったよ!?」
「く……弱ったわね……!」
「ちょっと、何ビビってるのよ!? たかが気持ち悪いミミズの魔物じゃないの! 最初は驚いたけど簡単に倒せたし、どうせそんなに強くはな……」
その瞬間、正面の砂が爆発した。
サンドワームが素早く地中から飛び出し、ドラゴンスケーターの首にその牙を食い込ませる。
そして、一瞬でガリっと岩でできた首を噛み砕き、私達の頭上を弧を描くように飛び越えた。
それを見たアルテナは、少し体を震わせながら……。
「ふ、ふーん……なかなかい顎してるじゃない」
「そんな事言ってる場合かー!!」
って、私もツッコんでいる場合じゃない!
どうにかしないと……と思ったその直後、一斉に周りにいたワームが地中から飛び出し、私達に向かって飛びかかってきた……。
体調が悪く更新ペース遅くなってますが生きています。




