109話 エレン、絆を自覚する
体調が悪くまた更新がとても遅くなってしまい申し訳ありません。
私が人生で一番感動し泣いた後、階段を降り、次の階層へと進んだ私達(アルテナはビンタで起こした)。
降りた先も再び灼熱の砂漠が広がっていて、ドラゴンスケーターに乗り、時々現れる魔物を倒しながら進んでいく。
そして、今度は蜃気楼に阻まれることなく階段を見つけたどり着くことに成功し、アルテナが歓喜の声を上げた。
「クックック、今回は楽に見つかったわね! さあ、このまま突き進むわよ!」
「いや、今日はここまでにしましょう。もう疲れたし……それに……」
空を見上げると、すでに辺りは薄暗く、もう夕暮れの時間帯だった。
丁度よく階段を見つけられたし、今日はもうここで休むべきだろう。
「それでいいわよねアルテナ?」
「ま、しょうがないわね。今日はここで野営しましょっか」
「わーいキャンプだー♪」
ここで一夜を明かす事が決まり、スケーターから降りた時だった。
「わぁ……すごい綺麗……!」
「ミラ、どうした……の……」
赤い太陽が傾いて行き、砂漠の砂が真紅に染まって行く。
風が吹くと、砂は粒子となってまるでルビーのように赤くキラキラと舞い上がって行き、静寂の中に溶けて消えて行く。
そんな幻想的な光景が、夕暮れの砂漠に広がっているのに気づき、私とミラは目を奪われた。
「惜しいわね……カメラでも持ってくるんだったわ」
指をパチンと鳴らしながら悔しがるアルテナ。
「全く、観光じゃないんだから……」
まあ、でも気持ちはわかる。
私だって、もしスマホを持っていたらここがダンジョンだということも忘れて写真を撮っていたかもしれない。
まあ、それはそれとして。
「さて、いつまでも見惚れてるわけにはいかないわ。さっさと野営の準備を始めましょう」
幸い階段付近は石畳で、足場が安定している。
休憩にはもってこいだ。
砂や魔物を防ぐために、いつものように土魔法で四方を塞ぎ、ミラが収納していたシートや寝袋、食料などを出して行く。
「エレン様、ちょっと寒くなって来たよ」
「そうね、じゃあそろそろ魔法付与したフードを脱ぎましょうか。アルテナ、焚き火をお願いね」
「ふ、任せときなさい」
砂漠の日中は高温だが、夜は凍えるほど寒くなる。
ダンジョン内でもそれはしっかりと模倣されているので、暑さ対策だけでなく、防寒対策もしっかりしなければならない。
用意していた厚手のフードをミラに出してもらい、それを羽織った上で中央に火を焚く。
それを囲む形で座り込んだ私達は、収納から取り出した温かいスープとパンを食べてゆっくりと温まり、ミラは食用? の魔石を口に入れながら、昼に使ったクリスタルシールドを地面に置いて磨いていた。
「ふきふきふき♪」
にっこりと笑顔で盾の手入れをするミラ。
因みにこの盾は、鉱山エリアにいたクリスタルゴーレムを素材に使った物である。
かなり高価な代物だが、鍛冶屋にゴーレムの素材を大量に持ち込んだらタダで売ってくれた。
「ミラ、その盾気に入ってるの?」
「うん! とっても綺麗だし、エレン様達を守ることが出来るから好き!」
純粋な顔で嬉しいことを言ってくれる。
うん、一生この子は大事にしよう。
そう思っていると、隣にいたアルテナがこっちを見ながら声をかけてくる。
「エレン、あんた今日は凄かったじゃない。ロック鳥だっけ? あのでかい魔物を倒すなんて。あ、そういえば昼に使ってたあの空飛ぶ魔法なに? あんなのいつの間に覚えてたのよ?」
「……そうね、よく勝てたものだと私自身思うって……え?」
「え?」
今更な質問を投げかけられ、反射的にミラと顔を合わせる。
「火迅の事? この前体力不足を補う案を考えてたでしょう? それで思いついたのがあれよ」
「アルテナ様、知らなかったの?」
「知らないわよ!! てっきりドラゴンスケーターの事だと思ってたわ!!」
そういえば、思いついたのはアルテナが星になった後だったし、帰って来た時は呪いの魔法に夢中になっていたからすっかり忘れていた。
それに当時は乗り物の方向性で考えてたし、誤解されても仕方ない。
これは私が悪い……のだろうか?
「ていうかその魔法、体力不足を解決する方法としてはおかしくない?」
「別におかしくないわよ。ちょっと見てなさい」
そう言って立ち上がると、火迅を地面から少し浮くくらいの出力で発動。
体や足を傾け、素早く軽快に、焚き火を中心にぐるっと回ってみせる。
「わー♪ エレン様すごーい!」
「ありがとうミラ。どう? これなら歩いたり走ったりする必要も無いから体力使わなくて済むでしょう?」
少し得意げに言ってみると、アルテナは一瞬「ぐぬぬ」という顔をする。
真似して失敗し、砂漠に無様な姿を晒した時のことを思い出しているのだろう。
「ふ、なかなかやるじゃない。まあ? あたしの強さには全然及ばないけどね」
「……うるさいわね。そんなこと分かってるわよ」
そう言いながら私は元の場所に座り込む。
実際、これに関してはその通りだから反論できない。
アルテナが使ったあの夜を昼に変える魔法、「夜の帳」。
あんな強力な魔法、どう工夫したって私には使えない。
力の差は歴然なのだ。
まあアルテナの強さに追いつく必要など一切無いのだが……なんだろう? この胸に渦巻く感情は……。
「エレン、今後はあんたも前に出て戦うの?」
「そんなわけないでしょう? 一人で巨大な相手と戦うなんて二度とごめんよ。私でも戦える事は証明出来たし、またサポートに回らせてもらうわ」
「ふーん、まあそう言うと思ったけど。にしてもエレン?」
「なに?」
「カーシャに役立たず扱いされただけで化け物との死闘に挑むとか、あんたってかなりの負けず嫌いだったりする?」
「え?」
言われてみれば、確かに理由としては弱い。
いや、一応アルテナの信頼に少し応えてやりたいと言う気持ちはあったが……。
「……あのね、やばくなったらあなたとミラに助けてって言ったでしょう? 別に命を賭けたわけじゃないわ。……まあ、まさか戦闘中砂に突っ込んで遊んでいたとは思わなかったけど。私がピンチになったらとか考えなかったの?」
呆れた目をしながら睨みつけると、アルテナは「なに言ってんの?」と言う顔をしながら答える。
「はぁ? あんたが勝てない勝負なんて自分から挑むわけ無いでしょう? ピンチになるとか全然考えてなかったわ」
「な……あ、あなたねぇ……!」
またこっちが恥ずかしくなる事をさらっと……!
本当にいつからそんな信頼をされて……いや。
「私も……か……」
小声でそう呟く。
ロック鳥に挑む事が出来たのは、アルテナとミラが何かあっても助けてくれると信じていたからだ(裏切られたけど)。
いつの間にそんな背中を任せられるような存在になっていたのだろう(裏切られたけど)。
そんなことを考えていると。
「ふわぁ……エレン様、アルテナ様。ミラもう眠い……」
ミラがそう言いながら欠伸をする。
確かに夜も更けて来たし、今日は疲れたので眠くなってもしょうがない。
話を止め、私達は就寝の準備を始める。
皆で寝てる間にロック鳥みたいなのが来たらたまらないので、今回は話し合った結果一人ずつ交代で見張りをすることになった。
最初の見張りは私だ。
二人が寝静まっている間私は座り込み、探知魔法を発動しながらさっきの事を考える。
「……信頼か……。それに……」
私がアルテナには敵わないと思った時、胸に渦巻いた感情は“悔しさ”だった。
なんでそんなことを思ったのだろう?
分かりきってることだし、そもそも元の世界に帰りたいだけなら悔しさなんて抱く必要なんてない。
じゃあ……その理由は……。
「……アルテナと……対等な関係になりたいから?」
気づけばそう呟いていた。
戦いの時、互いに背を任せられるようなそんな存在になりたい。
私はそう思っていた……?
「いやいや、そんな存在になれたとしてどうするのよ。私は元の世界に帰りたいだけだし……ああもう、頭の中がごちゃごちゃするわ……!」
立ち上がった私は、浮かんだ考えを振り払うように頭を振り、何か気晴らしになるものでもないかと辺りを見渡した。
まあそんなものは都合よく……。
「……あったわ」
目に映ったのはキャンプの端に寄せてあったドラゴンスケーターだった。
ドラゴンの形はアルテナの趣味で作らされたものだが……。
「趣向を凝らして……何か追加してみるのもありね」
そうしてスケーターに新機能を一つ追加した後、丁度見張り交代の時間がやって来たので、私は心地よい疲れに身を委ねながら瞼を閉じたのだった。
……次の日。
危なげなく十八層も攻略し、順調に進むことに成功した私達だったが、十九層に降り立った時、妙なものを見つける。
「エレン様、アルテナ様。砂漠の向こうに変なのがあるよ? あれなんだろう?」
ミラが指差した方向、それを見て、私は愕然とする。
「う、嘘……なんであんなものがここに……?」
「クックック、面白くなって来たじゃない!」
太陽に照らされ黄金色に光る三角形の物体。
それは、間違いなく“ピラミッド”だった。




