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107話 エレンVSロック鳥

初めての一対一の戦いです

 砂漠の灼熱の陽光が、ロック鳥の黄色い岩肌を黄金のように輝かせる。

 その巨体から発せられる威圧と眼光は、まるで砂漠の王者と言わんばかりだ。

 逆に対峙してる私は、王に献上された生贄と言ったところだろう。

 相手も同じ事を思っているのか、ニヤつきながら鋭いくちばしを広げた。

 そして、私を丸呑みにする為一気に頭を振り下ろしてきた。


「エレン様! 危ない!」


 ミラが叫んだ直後、ドォォン!! とロック鳥の嘴が地面に突き刺さり、砂漠の砂を大きく巻き上げる。

 以前の私ならそのまま喰われるか、ギリギリ何とか避けるくらいしか出来なかっただろう。

 だが、今の私は一味違う。


「何処を攻撃してるのよ? 私はこっちよ」


 手応えがなく、首を傾げているロック鳥に対し、私は“背後”から声をかける。

 その事に驚き瞬時に体ごと振り向いたロック鳥は、再び私を視界に移すと、すぐさま嘴をまた私に向けて振り下ろして来る。

 

「何回やっても同じよ」


 再び背後に移動した私に対しイライラしたのか、今度はその大きな足で私を踏み潰そうとしてくる。

 やれやれ、どうやらロック鳥は何が起こっているかわかってないらしい。

 だったらそろそろタネ明かしをしてやろう。

 

「よく見てなさい、『火迅ブーストフレア』」


 足が迫るその瞬間、私の足から赤い炎がゴォオ!! っと噴き出し、私を一瞬で空へと押し上げる。

 ドォォン! とロック鳥の足が砂漠の大地を踏みつけた時、私は既に空中へと飛び上がり、少し高い位置からロック鳥を見下ろしていた。


「悪かったわね。空を飛べるのはあなただけじゃないのよ」


 これが私の新魔法『火迅』。

 足に炎魔法を魔法付与エンチャントし、噴射する事でロケットのように素早く、そして空を飛ぶことができるようにしたものである。

 SF映画でよく見られるものと言ったら分かりやすいだろう。

 最初はバランスが取れず苦労したが、そこは私のスキルの使い所。

 1日足らずの練習で自由自在に飛ぶことが可能となったのである。

 

「ほら、悔しかったら追いついてみなさい!」

 更に上空へ飛び上がる私をみて、ロック鳥は大きく鳴きながら後を追い、空へと羽ばたく。

 挑発された挙げ句、他者を見上げる側になってプライドが刺激されたのだろう。

 もう私を餌ではなく、倒すべき敵として認識したようだ。

 

「……問題はここからね」


 さっきは背後から攻撃する事も出来たが、今回の目的は強敵と渡り合えるかどうかを試す事。

 相手と正面から戦わないと意味が無いのだ。

 とはいえ、火迅のお陰で機動力こそ得たが、私の体が貧弱な事は変わらない。

 一撃でも貰ったら終わりだ。


「まずは相手の攻撃を見極めないと……ん?」


 遠くからドスンという鈍い音が聞こえ、砂塵が小さく舞い上がった気がするがなんだろう?

 ってそんな事はどうでもいい。

 後ろを振り向くと、ロック鳥は私を鋭い目で睨みつけながらすぐ後ろを追いかけて来ている。

 そして、私より上の高度へ移動したロック鳥は、大きな爪で引き裂こうと一気に私に向けて急降下して来た。


「はぁ……そんなのじゃ私を捕まえられないわよ!」


 足の角度を調節し、横に急旋回してロック鳥の攻撃を避ける。

 ロック鳥はすぐに体勢を立て直し、同じ手段で何回も襲ってくるが、瞬時に移動方向を変えられる私を捉える事は不可能だ。

 それしか攻撃方法が無いのかと思ったが、そう簡単にはいかないらしい。

 ロック鳥が空中で静止し、翼に魔力を集中していく。


「まさか……遠距離攻撃!?」


 まずいと思った私は、すぐに火迅の火力を上げ、ロック鳥から距離を取る。

 その直後、ロック鳥から何かがカトリングのように発射され始めた。

 高度を下げ、地面スレスレを高速で移動する私の後ろから、ドドドドド!!!と砂が爆発するような音が巻き起こり始める。

 どうやら岩で出来た羽を弾丸として飛ばしているらしい。

 連射力も威力も相当なものだ。

 しかし。


「分かってしまえばそれほど脅威じゃないわね」


 火迅の機動力さえあれば避ける事は難しくないし、攻撃の前に魔力を集中しなければならない以上、タイミングもわかりやすい。

 おまけに撃ってる間は集中するためか、空中で静止しなければならないようだ。

 よし、相手の行動を観察するのはもう十分だろう。


「そろそろ攻撃に移らせてもらうわよ!」


 地面スレスレを飛んでいた私は再び空中へと飛び上がり、ガトリング弾を旋回して避けながらロック鳥に近づいて行く。

 そして背後をとった瞬間、魔導銃をホルスターから抜き、銃口を翼に向ける。


「『肥大化の弾(ビッグショット)!』」


 ヴェルミナさん直伝の、呪いを込めた魔法弾。

 着弾した瞬間呪いの黒い糸が出現し、ロック鳥の翼を縛るように絡みついていく。

 そして呪いが発動。

 片翼が肥大化した事でバランスが崩れ始める。

 

「よし、呪いが効いたわ!」


 実験でアルテナにしか使ってなかったため不安だったが、この大きさの敵にもしっかり発動した。

 さて、効くとわかった以上もう遠慮はいらない。


「後はガンガン撃ち込むだけよ!」


 呪いは構築に数時間かかるとヴェルミナさんは言っていたが、私には関係ない。  

 ロック鳥の周りをグルグルと旋回しながら呪いの魔法弾を一瞬で生成、両翼に撃ち込んでいく。

 ロック鳥は自身に起きてる異変に気付いているものの、呪いは解呪しなければ解く事はできない。

 おまけに、私の動きに翻弄されて何が起こっているかも分からないまま、大量に呪いの糸が絡まり、両翼がどんどんでかくなっていく。

 五発ずつ撃ち込んだところで、翼の大きさが元の三倍以上になってしまったロック鳥はとうとう飛べなくなり、『クエーー!』と情け無い鳴き声を発しながら地面へと落ちて行く。

 そして、ドォォォォン!!!! とまるで爆発でも起きたかのような衝撃が大地を走り、空高く砂が舞い上がった。


「……ふう。勝負あったわね」


 ホッと胸を撫で下ろし、ひたいから出る汗をぬぐう。

 砂が晴れた後、そこには翼が肥えて落ちてしまった、情け無い姿のロック鳥が地面に横たわっていた。

 ゆっくり地面に降りて確認すると、ロック鳥はまだ生きており、私に向かって憎しみの視線を投げかけてくる。

 だが、体はもう動かせず、勝負はもう決まっていた。

 


「さて、これ以上苦しまないようトドメを刺してあげる……と言いたいんだけど……」


 私の攻撃ではロック鳥を倒せるほどのダメージは与えられない。

 なのでちょっと気が引けるが……。


「悪いわね。あなたを倒すにはこれしか無いのよ。『水球ウォーターボール』」


 魔導銃から大きな水球を発射し、ロック鳥の顔を覆う。

 息が出来なくなり、ゴボゴボと音を出しながら暴れるが、体を動かせない状態ではどうすることも出来ず、ロック鳥の命は潰えていった。


 

「これで討伐完了ね……ふう」


 ホッとするとともに、勝ったという実感が胸にじわじわと浮かび上がってくる。

 

「やった……やったわ!」


 拳を天に突き上げ勝利のポーズを取る。

 そして。

 

「やったーー! エレン様ーー!!」


 声が聞こえ振り返ると、満面の笑顔で抱きついてくるミラを受け止めながらよしよしと頭を撫でる。


「エレン様スゴい! ほんとに一人で倒しちゃった!」

「ミラ……ありがとう!!」


 舞い上がった私はミラを抱き上げ、ガラにもなくクルクルと回転しながら一緒に勝利の喜びを分かち合う。

 これでもう、足手纏いなんて言わせない。

 アルテナの信頼にも応えられ……あれ?


「ミラ、アルテナは何処?」

「え? あれ、アルテナ様ー!?」


 辺りを見渡しても姿が無い。

 探知魔法で探すと、少し離れたところで頭から地面に突き刺さり、スカートの中が丸見えになっているアルテナの姿があった。


「何やってるのよあなたは!?」


 呆れながらミラと一緒に引き抜くと、死にそうな顔で「ゴホッ! ゴホッ!」と言いながらアルテナが出て来た。


「はぁ、はぁ……死ぬかと思ったわ。なかなかうまくいかないものねぇ」

「アルテナ、何をやらかしてああなったのよ」


「あー、あんたの火迅って魔法真似しようとしたら、思いっきり吹っ飛んだ上にバランスが取れなくて、そのまま地面に突き刺さっちゃったのよね」

「はぁ……」


 私が命懸けで戦ってる時にそんなバカな事をしてるなんて……。

 そういえば、戦いの最中に何か音がしたと思ったが、多分その音だったのだろう。

 まあアルテナだから仕方な……え?

 という事はまさかこいつ……。


「もしかして私の戦い……ほとんど見てなかった?」

「あーそうなのよね。結局戦いはどうな……」

「ちゃんと見てなさいよこのバカー!!!!」

「ギャァァァァ!?!?!?」


 ブチ切れた私は、久々に顔面ストレートでアルテナをぶん殴ったのであった。

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