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105話 砂塵を駆けろ! ドラゴンスケーター!

 ヴェインのダンジョン十六〜二十階層にかけて続く砂漠エリア。

 そこに降り立った私達は攻略を開始しようとしていた。


「にしても、この暑さはほんと異常ね……ミラ、大丈夫?」

「うう……暑いよー……」


 太陽の焼け付くような熱線と、視界がぼやけるほどの熱気に襲われ、汗と共に体力がどんどん奪われて行く。

 ブルーオーガの一撃にも耐える、強靭な本体(見た目は木の宝箱)を持つミラにもこの環境は辛いらしく、本体から体を半分出して、ぐったりとしながら浮いている。

 本当にここはダンジョン内なのだろうか?

 とにかく、このままでは探索どころではない。


「ミラ、この為に用意したものがあるでしょう? アレを出してくれない?」

「うん、わかった。えいっ」


 ミラが私に向けて手を振ると、光と共にポンッと白いローブが現れ、私の手の中に収まる。

 それを、ミラの本体の蓋を塞がないようクルクル巻いていき、ローブをしっかりと固定する。


「じゃあミラ、少し魔力を流してみて」

「うん。……うわー! 冷たい風がミラに流れ込んでくるよ!」


 元気を取り戻したミラが、空中をクルクル回りながら喜ぶ。


「よし、上手く行ったわね」


 これは、私が魔法付与エンチャントした特製のローブだ。

 内側に弱い氷の魔法を仕込んであり、魔力を流すと冷気が出る仕組みになっている。

 早速私もミラに出してもらい、ローブを着る。


「はぁー涼しい……生き返るようだわ……」


 ひんやりとした空気が私の体を包み、砂漠の熱気で奪われた体力が戻って行くような感覚を感じる。

 よし、これなら砂漠でも活動できそうだ。

 破れた時用に予備もたくさん用意してあるし、問題はないだろう。


「アルテナ、あなたも着なさい」

「いや、あたしはいらないわ」


 そう言って、差し出したローブを突き返すアルテナ。


「いや、何でいらないのよ?」

「だってせっかくの砂漠よ! この暑さも楽しまないと損じゃ……」


 そこまで言ってアルテナの口が閉じる。

 まあ無理もない。

 ただでさえ容赦ない太陽の熱線が注がれてる上に、熱がこもりやすい黒いローブを着ているのだから。

 アルテナの額からはだくだくに汗が流れ落ち、数秒後。


「……やっぱ無理、頂戴」

「……あっそう」


 結局観念し、白いローブを受けとったのであった。


「よし、先に進むわよ! この砂漠を攻略してやるんだから!」

「そうね、じゃあ早速準備しましょう」

「ええ、早速準備を……え? なんの準備?」


 アルテナがポカーンという顔して、首を傾げる。

 そういえば、アルテナが星になっていた時に思いついたからまだ言ってなかった。

 とりあえず、見せれば分かるだろう。


「ミラ、もう一つ用意したやつを出してくれる?」

「うん、わかったエレン様! えーい!」


 今度は両手を前に向かってかざすと、ドンッと大きな物が出現する。

 ミラが収納から出したのは、私が土魔法で作った長さ五メートルほどの、四人乗りボートだ。

 砂漠で目立たないよう色は黄色にし、底部には摩擦を軽減するためスキー板のようなものを設置、後部には魔法で高速回転する大きなプロペラを設置してある。


「え……なにこの乗り物!?」

「風の推進力で砂漠を滑って進む乗り物、名付けて『サンドスケーター』よ」


 砂漠で厄介なのは暑さだけじゃない。

 歩くたび柔らかい砂に靴がずぶりと沈み、まるで泥沼を歩いているように足を取られる。

 こんな中歩けば、いくら魔法付与エンチャントしたローブがあるとしても、私の体力がもたないだろう。

 そのため考えついたのが、この乗り物というわけである。


「へぇ、あんたにしては良い名付けセンスじゃない。てっきり魔導船とか言うと思ったわ」

「こっちの方がしっくり来たからね、とりあえず乗るわよ」


 腰の高さまであるサンドスケーターに足をかけよじ登り、プロペラを動かすためのハンドル(今回は飾りではない)が設置してある操縦席に座る。

 船の中はツルツルするように作ってあり、乗り心地もなかなか良い。

 

「わーいお船だー!」


 サンドスケーターにはしゃぎながら、後部座席にちょこんと座るミラ。

 後はアルテナが乗れば出発出来るのだが、何故か不満そうな顔をしてサンドスケーターを観察している。


「アルテナ? どうしたのよ?」

「いや……ちょっと見た目が地味すぎない? もっとカッコいいデザインにしなさいよ」

「はぁ?」


 また変なことを言い出した。

 確かに、見た目は後部にプロペラを乗せただけの船だが、シンプルイズベストとも言うし、そんな気にする必要は……。


「ミラだって、もっとかっこいいのがいい筈よ。そうよねミラ?」

「……うん! ミラもカッコいいのがいい!」

「ちょっと、ミラをダシに使うのは卑怯よ」


 だが、こうなってしまったからにはしょうがない。

 観念して一旦ミラとサンドスケーターを降り、アルテナの近くへ行く。


「っで? 具体的にどんなデザインがいいのよ?」

「そうね……まずは船体に翼が欲しいわね。後、船首部分に短い首と顔を作って欲しいわ。後は……」


 アルテナが指示する通りに土魔法でボートのデザインを変えて行く。

 そして。


「……どう? これで満足?」

「ええ、流石エレンね! 完璧よ!」

「わーすごい! ドラゴンだー!」


 出来上がったのは、船首に首と頭(口の中まで細かく作らされた)を、船体の横に翼を、船尾から尻尾を生やしたドラゴンの船だった。


「全く……手間かけさせないでよね。ていうか、何でドラゴンなの?」

「異世界を旅する乗り物として相応しいじゃないの! 冒険してるって感じがしていいわ!」

「うん! ミラもこっちの方がいいー♪」


 正直、このデザインに実用性はないと思うのだが……まあ、ミラが喜んでるなら良いか。


「じゃあデザインも完成したし、今度こそ出発するわよ」

  

 再び乗船し、私は操縦席、ミラは後部座席に座る。

 そして、アルテナはドラゴンの頭の上に飛び乗り。


「さあ! ドラゴンスケーター! いざ出発よ!」


 そう言って前に向けて指を差し、カッコつけ始めた。


「勝手に名前変えないでくれる? まあその名前でも良いけど……。それよりも、ちゃんと席に座りなさい」

「良いじゃないの。ここ、眺め良さそうだし」


 ……説得は難しそうだ。

 だったらしょうがない。


「……分かったわ。じゃあせめてこうさせてね」


 ミラの収納から長いロープを出してもらい、アルテナの足首とドラゴンの首部分をしっかり結ぶ。

 

「え? なんでロープを結ぶの?」

「今にわかるわ。じゃあ行くわよ」


 砂の上を移動できるよう設計したが、実際砂漠で使うとどうなるかは試していない。

 まずは強めにプロペラを魔法で回してみる。

 すると、ゴォオオオオ!! という音と共に、サンドスケーターが急発進する。


「わ!?」

「キャァ!?」

「ギャァァ!!」


 回転を強くしすぎたようだ。

 すぐさまプロペラの回転を弱め、丁度いい感じの速度まで減速する。


「思ったより速度が出て驚いたわね。ミラは大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。……あれ? アルテナ様はどこ?」


 ドラゴンの頭にいたアルテナの姿がなく、ミラはキョロキョロと辺りを見渡し探す。

 その時。


「ギャァァ!!!」


 アルテナの悲鳴が背後から聞こえる。

 振り向くと、足首をロープで繋がれた状態で砂の上を引っ張られているアルテナの姿があった。

 

「だから席に座りなさいって言ったのに」


 まあ、このために足首をロープで結んだのだが。

  

「と、止めてーー!?」

「いうこと聞かなかった罰として、自分でどうにかしなさい」

「何ですってーーーギャァァ!?」

「アルテナ様! ミラが助けるよ!」


 そう言ってミラが慌てて思いっきりロープを引っ張った結果、アルテナは空中に飛び上がり、船の上に「ぐぇ!?」と頭から着地する。


「ミラ、あんまりアルテナを甘やかしちゃダメよ」

「そうなの?」

「あんたが厳しすぎるだけでしょうが!! おえぇ……口に砂が〜……」


 船の外に顔を出し、砂を吐くアルテナ。 

 さて、サンド……いや、ドラゴンスケーターで進む作戦は上手く行った。

 この砂漠は平坦な道が多いし、すぐに操作に慣れるだろう。

 これで砂漠を歩く事なく探索出来る。

 だが、熱砂が渦巻く砂漠エリアをこの程度で攻略できるとは思っていない。

 なにが待ち受けているか、警戒しながら先へ進むのだった。

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