104話 不安と興奮の砂塵へ
今回から再びダンジョンへ繰り出します。
ヴェルミナさんから快よく呪いの使い方を教えてもらい、アルテナで神体実験をした次の日。
私達三人はダンジョンに挑む為、ギルドの入り口に立っていた。
「ふっふっふ、今日から遂に攻略再開ね! エレン! ミラ! 張り切って行くわよ! おー!」
「おー!」
「おー」
アルテナの掛け声にミラは元気よく応え、私は適当な感じで応える。
何だろう?
前回も全く同じ事をやった気が……まあそれよりも。
「昨日ボロボロだった癖に、よく一晩で回復出来たわね」
「あんたのせいでもあるでしょうが! まあ、あたしにかかれば疲れくらい一晩で吹っ飛ぶのよ」
「……頼むから、攻略中にダウンしないでよ?」
まあ、アルテナの事だからその心配は無いだろうが。
その後、ギルドの門を潜り、マルタがいる受付へ向かう。
相変わらず誰も並んでなく、受付机に足を乗せて暇そうにしていたマルタだが、こちらを見つけるとオモチャを前にした子供のように目を輝かせ始め……。
「おや! カタストロフの皆さんいらっしゃい! 今日はまた鉱山エリアで荒稼ぎしちゃいますか!? どうせだったら鉱山夫に転職してはどうでしょう!? あ、ポンコツさんにはちゃんと汗ばんだシャツと穴だらけのズボンを用意しますので安心して下さいね!」
「なるわけ無いでしょうが!! ていうかそんな物用意するなら、せめて新品にしなさい!!」
飽きる程見たやり取りが始まる。
うん、さっさと本題に移ろう。
「マルタ、今日は鉱山エリアじゃなくて、次のエリアの攻略に挑むつもりよ」
「そうなんですか? せっかく黄金のツルハシもゲットしたんですし、もっと稼いでもいいと思うんですけどねー」
「うーん……まあ、一理あるけど……」
「は? 何で黄金のツルハシが関係してくるのよ?」
アルテナが首を傾けながら聞いてくる。
あ、そうだ。
アルテナはまだ知らないんだった。
「実は黄金のツルハシなんだけど、ギルドに見てもらった結果、魔道具だってことがわかったのよ」
「え? 魔道具?」
「そうですね! なんと、どんな硬い岩肌でもまるで砂を掘るみたいにサクサクと掘れる、鉱山夫にとって夢のようなアイテムだったんです!」
「何ですって!? じゃあ、それがあればエレンでも鉱石が掘れたって事じゃないの!! ぐぬぬ……もっと早く気づくべきだったわ……!」
アルテナが悔しそうにこっちを見る。
いや、例え気付いたとしても私はやらなかったけど。
「何よアルテナ? まさか、やっぱもう一回鉱山エリアに行こうとか言うの?」
「……いや、いいわ。それよりも次のエリアの攻略よ!」
「おや、そうですか? でも、止めといたほうがいいと思いますけどね〜?」
そう言いながらやれやれと言う感じの仕草をするマルタに対し、アルテナは不敵な笑みを浮かべる。
「ふっふっふ、あたし達カタストロフにかかれば楽勝よ」
「おや? 最近までダンジョンの階層数すら知らなかった人が変なこと言ってますねー? もしかして鏡見たことがありません? いや、見たら『あたしがもう一人いるー!?』とか言って暴れ出しそうですから、見ないほうがいいと思いますけどね!」
「何ですって!? あんたこそ、その生意気ヅラを鏡見ながら矯正したほうがいいんじゃ無いの!?」
「私はいいんですよー♪ 何処かのポンコツさんとは違って迷惑かけて無いですからねー♪」
「現在進行形で迷惑かけまくってんじゃないのよ! このクソうさぎ!!」
「……あなた達? いい加減にしなさい……!」
「「あ、ハイ」」
怒りを込めた目で睨み付け、二人を止める。
全く……放っておいたら日が暮れるまでやっていそうだ。
まあ、それはともかくとして。
「止めておいたほうがいいって言うのは、ここから難易度が跳ね上がるからって事?」
「はい、そうですね。お陰で多くの冒険者が鉱山エリアで稼ぐ事を目的としちゃっている状況です。勿論攻略に挑む冒険者もいますけど、大体が失敗して挫折します。それを知った上で、本当に行くつもりですか?」
真面目な顔でマルタに聞かれる。
確かに、そんな危険な場所に行きたくないという気持ちは大いにある。
だが、言ってもアルテナは止まらないだろう。
それに、見返してやらなきゃいけない相手もいる。
足手纏いと言われっぱなしで終わるつもりはない。
決意を込めた顔でマルタの問いに頷くと、肩をすくめ、諦めたかのような顔でため息をつく。
「はぁ……エレンさんまでやる気になってるんじゃ止めようがないですね。分かりました、存分に挑戦してきて下さい。でも、ちゃんと帰ってきて下さいよ? 骨を拾おうにもダンジョンで死んだら骨は残らないですからね」
「ええ、分かってるわ。ありがとうマルタ」
心配してくれるのが嬉しくて、少し心が暖かくなる。
だが、アルテナはニヤァッと笑いながらそれを茶化し始め……。
「ふ、そんなに心配しちゃって。あんた、絶対あたし達の事好きでしょう?」
「おや〜? そっちこそ毎回私のところに来るって事は大好きなんじゃないですか〜? もしかしてポンコツって言われるのがクセになってます? だったらこれからもどんどん言ってあげますよ?」
「なるわけ無いでしょう! いずれその評価覆してやるから覚悟しなさいよ!」
……否定的な事を言いつつも、両者好きと言う部分に関しては何も触れていない。
うん、絶対こいつら相思相愛だ。
「まあそれはそれとして……。ミラちゃん、いい加減私の事慣れてくれませんか?」
マルタが、私の服の裾を掴んで後ろに隠れているミラに話しかける。
ミラ自体マルタが悪い人では無いと分かっている筈なのだが、まだトラウマが残っているようだ。
「ご、ごめんなさい……でも、やっぱり怖くて……」
「そ、そんなー……エレンさん、何とかできませんかー?」
「……そう言われても難しいわ……」
第一印象という重要な場面で殺すとか言ってしまったのだ。
臆病なミラじゃ、余計に払拭するのは難しいだろう。
結局、どうにも出来ず落ち込んだマルタを背に、私達はダンジョンへ向かうのだった。
……そして、ギルドの転移陣から移動して、16階層へ向かう階段を下って行く私達。
どんな困難が待ち受けているのか……。
そんな事を思い、不安と緊張で手を握りしめるが、アルテナは逆に楽しみでしょうがないと言う顔をしていることに気づく。
「はぁ……ちょっとは緊張しなさいよね」
呆れ気味にそう言うが、アルテナは「はぁ?」って感じの顔でこちらを見る。
「何言ってんのよ? 未知の冒険は常にわくわくするじゃないのよ」
「前回ピンチになったっていうのに随分楽観的ね」
「ふ、だってエレン。あんた、弱点を克服する方法思いついたんでしょう? だったら何も問題ないじゃない。ミラもそう思うわよね?」
「うん! エレン様だったら大丈夫だよ!」
「はぁ……ミラまで……」
そんな信頼されても困るのだが。
まあいいか、悪い気分じゃない。
それに、アルテナの言う通り、今回は新しい魔法を覚えた。
それが通用するか……そう考えると、不安と共に、何かが胸に込み上がってくる。
「あれ? エレン様笑ってる?」
「え?」
ミラに言われて、自分の口角が上がっていることに気づく。
「ふ、あんたもワクワクしてんじゃないの?」
「……さあね」
やれやれ、毒されてきたものだ。
そう思っていると、体が浮遊感に包まれ、見知らぬ場所へと私達は転移される。
「へぇ……ここが次のエリアってわけね」
「うわー! 砂だらけだー!」
「やれやれ、予想より暑いわね」
焼け付くような灼熱の太陽、凄まじい熱気を帯びた風。
そして、果てなく広がる砂の大地。
目の前に広がったその光景に、それぞれそんな感想を抱く。
……やはり今回も一筋縄じゃ行かなそうだ。
「じゃあ始めましょうか、『砂漠エリア』の攻略を」




