母親たち part 4
第一部から続くエピソード「母親たち」です。
1
同日。
そのころ一方。
株式会社招き猫広告。の、三階社長室。
斑紋小判は、社員たち全員を避難させて電話対応をしていた。社長のプルートが東京都本庁まで護送する現行犯の護衛を緊急に頼まれたせいで引き抜かれて、今は小判が彼女の代理を努めていた。そしてオマケに、副社長のヒメもプルートの公認で社内不在中ときた。よって、今の社内には、小判がひとりぼっちで留守番と電話対応をしていたのである。グレーの移動式チェアーに背をもたれて、彼女はタバコを味わっていた。息子の斑紋甚兵衛を女手ひとつで育ててきた長身の美しい彼女は、グレーの社長デスクの真ん中でガラス製の灰皿に吸殻の富士山を築き上げながら、愛する息子の身を案じていた。小判が愛用している一両銭を模した、長さ八〇ミリで幅五〇ミリの厚さ一ミリ以下のゴールドメッキのピアスを内線電話の傍らに置いて、シャギーの入った茶髪のオオカミヘアの頭を“わしゃわしゃ”と掻いたあと、人差し指と中指で挟んだタバコをオレンジベージュを引いた唇から離した。そして、口を尖らかせた先から「フーーッ」と斜め上に煙を吹き出していった。
そのとき。
内線電話の呼び鈴が鳴り出して。
五回鳴らせたところで小判は受話器を取った。
指に挟んだタバコを片手にデスクに片肘突いて、応対する。
「はーい、招き猫広告です」
『お宅んところの海原摩魚だっけ? 魚屋の娘のクセに脱ぎたがりなんだな? オマケに陰洲鱒の血引いてんだろ? 売春島の淫売女じゃねえか。会社ぐるみで売春でもしてたんだろ。絶対そうだよな? 認めろよ』
「はああ? 手前ぇの下心が満たされねえからって、人様の娘を淫売呼ばわりしてんじゃねえぞ! このフニャチンが!」
『ななななんだと! 貴様! それ、一般人へのヘイトだぞ! 失礼なヤツだな! お前、売女だろ!? おお女のクセに善良な市民に向かって、その態度はなんだ! この穢◉非@●落が! △■*▽&#◇●!◆□§‡※@★▲!!○‡¶〒◎△■◇†*!#★§@▽』
「死ね! 糞が!」
白い歯を剥いて、青筋を立てて、小判は電話の相手へと吐き捨てたのちにガチャン!と乱暴に通話を断った。「あーー、ムカつく…………」と、心の底から声を洩らしたのちに次のタバコを口に咥えて、尽きかけていた先のタバコの頭をその先端部に付けて火を移した。残りカスを灰皿の富士山の“山頂部”に擦りつけて消火して、新たな山頂を築いた。ひと口二口と吹かしていったときに、内線電話から新たな呼び鈴が鳴りはじめた。三口四口と追加したあとで、小判はタバコ片手に片肘突いて受話器を取った。
「はーい、招き猫広告です」
『Hello.』
「Hello.」
海外通話も受け付けていた。
多少ネイティブなアメリカ英語が話せる小判。
精悍な美貌の彼女に“様”になっていた。
海外からの電話対応は続く。
「Niec to mii you.」
『Mana Unabara. Fish cunt!』
「Fuck you very much.」
と、穏やかな顔を浮かべた小判。
直後。
「You! Mother Fucker!」
顔中に青筋を浮かべ。
地獄の底から這い上がる魔物のような声で You!と。
噛んだ下唇を力強く出して、吐き付けた。
『What? Oh my god! You fucking serious? □◆▼◇*@●◎‡†△○#&♯︎□※☆§★●△○▲*■#¶◯〒§! Hiroshima Nagasaki remember atomic bomb!』
「OK。OK。911 One more.」
『Fuck you! Yellow cunt monkey!』
「Dai! Sucker!」
黄色い雌猿と侮辱してきた相手に、小判は、死ね!阿呆!と返して力強く受話器を叩き置いた。そして、電話機に向かって中指を立てる。それからタバコをひとつふたつ吹かしたのち、大きく開けたキャラメルイエローのブラウスの襟元をキュッと下に張って正したあと、再びタバコを堪能していく。刹那的な静寂の中に浸り、火を絶やさないように次のタバコへと繋いで煙を緩やかに吹かした、そのとき。
小判のキャラメルイエローのスマホに着信が入ってきた。
発信者の名前を確認したのちに、彼女はタバコを左手に持ち変えて、利き手でスマホを掴んでデスクに片肘突いて耳に寄せた。
「はーい、もしもし。斑紋小判です」
『お疲れ様です。潟野崇亜です』
「おや珍しい? お疲れさん。長崎が恋しくなった?」
ニンマリと白い歯を見せて、目を緩やかな弓なりにさせた。
旧友の声を久々に聞けて嬉しそうな笑顔になった。
というわけではない。
この長身美女のBL作家、電話口の美人と良くない因縁がある。
それ故に、“んふふ”を含んだ“いやらしい”笑顔だった。
しかし、左目を隠した長身の金髪美女こと潟野崇亜は、このひと言を敢えてスルーして次の言葉を投げていく。
『ニュース見たよ。“そっち”はいろいろと大変な事が起きているのね』
「ああ、そうだね。今長崎では、一大捕物帖の大舞台が展開されているんだよね。長崎県警と福岡県警が総出してさ、あたしらの町、陰洲鱒の女の子たちを大救出しているんだ。確か、合わせて千人超えの女の子だよ。今までに無いくらい、珍しいほどの大人数の救出劇さ。ーーーあとね。ウチの息子が“これ”に張りきっちゃってさ。警察に協力して町の女の子たちを助けに行っているのよ。あたしは、もちろん心配して電話かけてみたら無事だったみたいで一安心したわ」
人差し指で“トントン”とタバコの灰を吸殻の“山頂”に叩き落としたのち、ひと口二口吸って煙を“ゆるゆる”と唇から立ち上らせながら、社長デスクに身を乗り出して片方はスマホで電話して肘を突き、もう片方はタバコを指に挟んで肘を突いているといった“お行儀が良くない”格好で、多少の威圧を加えたやや低めの声に変えて小判は崇亜へと会話を繋げていく。
「ーーーで。話し変わるんだけどさ。崇亜ちゃん、あんたはあんたで大変みたいだね? ここ三ヶ月ずっとニュースでやっているよね、財務省と自衛隊に解体を迫るデモで全共闘のジジババどもが世間知らずなお坊っちゃんとお嬢ちゃんを引き連れて暴れまわっているってね。ーーーいやぁーー。“あれ”は本当に“みっともない”ねえ。本当に年は取りたくねえな」
斑紋小判。今年で百四三歳。
人生二周目のアラフィフ女。
次のタバコに火を繋げて、吸殻を灰皿の縁に“こねくり”回して。
“山頂”を足したあとにひと口吹かしたのち。
「そんな混乱な東京にいるさ、鱗子ちゃんはどうなの? 無事?」
鱗子ちゃんこと、有馬鱗子。
漫画家。PN、おめしゃんGUY。
漫画製作事務所スケイルオフィスの社長。
有馬哲司の妻で、海原摩魚の母親。末娘に有馬虹子。
以上のような黒髪で長身美女な彼女が、今は仕事を止めていた。
『鱗子ちゃんでしょ? アシスタントの女の子たちと一緒に私の事務所に避難しているから、大丈夫よ。心配ないわ』
このように返していく崇亜。
声のトーンは少しだけ落とし気味か。
『そしてここにいるのは、彼女だけじゃない。ミドリちゃんがお世話になった、帆立プロとマタタビプロの人たちもいるわ、全員無事よ』
帆立プロダクションの日虎帆立社長と、姪の日虎海星と、ミドリの元マネージャーの飛田典子と、メイク兼ヘアスタイリストの雲丹原美奈代の計四名。
マタタビプロダクションの黒部菫社長と、アシスタント兼モデルの西浪雉子と、グラビアアイドルの猫部白祢と、ヌードモデルの河原雫と、和装担当兼モデルの弍口桔梗と、トレーニングマネージャー兼モデルの葛針子と、ヘアメイク兼モデルの灰汁取妙子の計七名。
以上の二つの事務所の人間たちを避難と保護をしていた。
崇亜が声を落としているのは、周辺を警戒しているためか。
『あと。下の階は、鮫太郎さんが多部プロの皆を保護しているわ。大丈夫よ』
鮫太郎さん。
男のこの名前を聞いた途端に、小判の様子が変わった。
「へぇー……。“彼”も協力しているんだ?」
『え?ーーーええ、まあ、そうね。私の夫だし。それ以前に、人として当たり前の行いだと思うから。…………簡単にできるものじゃないから、難しいけれど』
「は? あんた“の”?ーーー“今は”。でしょう」
『な、なに言ってんのさ。“今は”、じゃないよ』
「元は、つーーか、今も“あたし”の旦那なんだよ。あんたこそ何言ってんだよ?ーーー十月目だった身重の“あたし”から、鮫太郎さんを誘惑して“あんた”が東京まで“逃げた”んだろ? おかげで未だに甚兵衛は“じぶん”の父親の顔を知らないままだ」
『ごめんごめん。本当に、ごめん。マジで、ごめん。本っっっ当ーーに、ごめん』
「あんたさ、人間の世界にまで降りてきてなに“やって”んの?」
『いや、その……。彼とはほら、お互い好きどうしになっちゃったし……』
「なあーーにが、“お互い好きどうしになっちゃったしぃ”、だあ? 崇亜ちゃんお前よ、前は渦鳴さんとこの次男坊と潮ちゃん作ってそれっきり会わなかったでしょ?」
『いや、あの……。潮とは、ちゃんと会ったのよ。私が東京に発つ前の日、ビール屋に嫁ぐことが決まったときに彼女と会って話したのよ。あなたは私の娘ですって。孫の有子ちゃんも知っているから大丈夫よ』
「なにか大丈夫なのさ? というか“あんた”、未だにウチの甚兵衛と顔すら合わせていないよね? 大都会に駆け落ちすると忙しくなるんだ?」
『いや、その……。マジで、ごめん。本っっっ当ーーーに、ごめん』
「あんた馬鹿みたいに綺麗だからさ、TOKYOでも雄たちに言い寄られてモテモテなんじゃないの? だから忙しいんだろうね? 鮫太郎さんが居る身でありながら、そのエッチな身体で東京のオスどもを虜にしてんでしょ? そのご自慢の“キツマン”でさ」
声に出さない“んふふ”といった小判の嘲笑と言葉に、自制のヒューズが切れて吹き飛んだ崇亜の怒りは瞬く間に脳天を突き抜けていった。
『はああ? 手前えこの、小判よ。人が下手に出てりゃあ、いつまでも調子コキやがって、手前ぇよ。お前こそさ、とっかえひっかえ不特定多数の野郎とヤってヤってヤりまくった上に、私にラインやショートメールで“私の心の穴は、彼以外には埋められない”とか送ってくんな! キメェんだよ! お前、母親でありながら“それ”かよ? いい加減にしろ! この茶髪のヤリマン女!ーーーお股ユルユルのユルマン糞売女が!』
「ああぁ? なんだと手前ぇ? 崇亜。それ、昔、不特定多数の野郎どもとハメまくって金取っていたテメェが言える立場かよ! 鮫太郎さんもどーせ、お前の“客”のひとりなんだろ? 腐った鮑のクセしやがってよ!ーーーお前の方こそマジの、お股ユルユルのユルマン糞売女じゃねえか!」
そして最後は二人一緒に。
「糞が! 死ね!」
『糞が! 死ね!』
と、対話を閉めた。
2
同日。ほぼ同時刻。
場所は東京都内に移って。
都内と言っても、二三区から出た際の場所。
眞輝神東京第二ビルの最上部四階。
潟野崇亜は自己嫌悪に陥っていた。
スマホを持ったまま両手で頭を抱え込み、身体を丸くして屈んでいた。たった今、長崎市にいる友達の斑紋小判と口喧嘩し終えたところであった。崇亜を含めて、有馬鱗子や日虎帆立や黒部菫、そして多部重太郎と彼の妻らを各々の芸能事務所から誘導してこちらの建物にへと避難していた。
それは、長崎市の招き猫広告で“留守番”している斑紋小判も同じく、スマホを片手に頭を抱えて身体を丸めて屈み込んで自己嫌悪に陥っていた。
東京都内の眞輝神東京第二ビルの四階に戻って。
部屋の角で丸まっている崇亜を心配して、鱗子が代表して声をかけていく。
「崇亜さん……」
「ん? ああ……、わた私はしし心配ないよ。ちょっと今、じぶんが嫌いになっていただけだから……」
“ぐすっ”と、そう鼻声を交えた笑顔で返してきた。
左目を隠した、稲穂色の長い前髪を指先で流して耳に掛けて見せた黄緑色の瞳には、涙を溜めていた。
「うふふふ……。私ね、本当は小判ちゃんが大好きなのよ。町のみんなはもちろんだけど。彼女も“そう”だから私たち仲良しなんだよ。でもね、いつから“こう”なっちゃったのか、分からない……」
少し“やつれた”目もとで鱗子を見ながら、崇亜は語りだした。
そのような彼女を気の毒に思いつつ、鱗子は言葉を返していく。
「ええ……っ、と。原因は、鮫太郎さんですか?」
「違う。違うの。私も小判ちゃんも鮫太郎さんも、お互いが好きどうしで繋がっているのよ。彼が決して“こうなった”原因を作ったんじゃないの……」
「……? うん?」理解できない鱗子。
「いやいや鱗子ちゃん。分かっているのは、私たち三人だけで良いの。だから大丈夫よ」
「え……。はい」
他人様の領域には、余計なお節介で踏み込まない方が吉よね。
と、判断した鱗子であった。
ーウチの“お姫様”は、まだ昏睡状態なのかしら?ーー
このように、長女を心配したときであった。
崇亜のスマホに着信が入ってきた。
同じころ。
再び招き猫広告の社長室。
ーこんなのは駄目。こんなんじゃ駄目なのよ……。ーー
頭を抱えて“しゃがみ込んで”いた斑紋小判は、残った自己嫌悪を抱えつつ指で目もとの涙を拭い取りながらスマホを前に持ってきて、先ほど口喧嘩した友達にへと電話をかけていく。
再び眞輝神東京第二ビル最上階四階。
今度は、小判からの着信だった。
崇亜は“これ”に応じていく。
「はい。もしもし」
『斑紋小判です』“ぐすっ”と涙声。
「あら? 小判ちゃん。どうしたの?」こちらも“ぐすっ”と涙声。
口もとと目もとに、僅かな笑みが浮かんでいた崇亜。
再び小判の声を聞けて嬉しいようだ。
『崇亜ちゃん、さっきはゴメンね』
「いいえ。いいの。私も悪かったわ」本当に嬉しそうである。
『話しの続きだけど。鱗子ちゃんのアシスタントさんたちも無事?』
「ええ。皆さん避難しているよ」
『そりゃ本当に良かった』
直後。
通話終了していた鱗子がスマホを掲げて。
「文蛤出版の社長とみんなが“ここ”に到着しました。迎えに行ってきまーーす!」
切れ長でやや吊り上がった目を嬉しげに見開いて、崇亜たちへと呼びかけていった。電話口を塞いでいた笑顔を向けられた崇亜から、無言の頷きという了解を得た鱗子は、すくっと立ち上がり“いそいそ”と部屋を出ていった。
『今の鱗子ちゃん? 元気そうで良かった。相変わらず可愛いし』
「ええ。彼女の連載雑誌の社長さんたちが着いたから、迎えに行ったわ。ーーー本当ね。彼女まだ二十代の女の子みたいに可愛いよね」
『子供が二人いるって思えないくらい可愛い』
「本当ね」
仲直りと同時に、和やかな空気が小判と崇亜を包んでいった。
そして。
『ねえ、崇亜ちゃん』
「なあに?」
『東京さ。なんで“こんなこと”になっちゃってんの?』
「まだ確定していないんだけど。護衛人さんたちと公安の調べによるとね、どーーも、カタクラメディアの社長の片倉暁彦が情報操作して事態を動かしているらしいのよ」
『え? 暁彦くんが?』
「そう」
『彼って、マスコミと芸能事務所の社長でしょう? 他になんかあった?』
「暁彦くん。院里学会の影の会長(教祖)だってさ」
『十田耕作は?』
「十年以上前から彼の操り人形だったそうよ」
『そうなんだ。ーーーまあいいや』
小判は“あっけらかん”と流したのちに。
『ねえ、崇亜ちゃん』
「なあに?」
『“そこ”で鱗子ちゃんを守れるのは、あなただけだから』
「ええ。分かってる」
『彼女をお願い』
「ええ。分かってるわ。私が、しっかり守る」
『ありがとう』
「どういたしまして」
最後は、このように交わして通話を切った。
3
四階に文蛤出版の面々を案内してきた有馬鱗子。
避難してきた社員たちの最後尾に、ワインレッドのワイシャツにGパン姿の、セミロングの茶髪をハーフアップにした長身の格好いい感じの美女が着いて部屋に入ってきた。
四階会議室の大部屋の面々を見渡したのちに彼女は。
「お疲れ様です。皆さん、ご無事で良かった」
眞輝神樹梨。三〇歳。
眞輝神財閥の養女。
そんな大財閥の美女に、四階の皆が見とれていく。
ーはああーー。樹梨ちゃん、相変わらず綺麗ねー……。ーー
思いにふけっていた鱗子のスマホに、再び着信が入った。
発信者を確認してから、電話に出ていく。
「はーい、お疲れ様」鱗子が声を弾ませる。
『母さん、お疲れ様』相手は、娘の虹子だった。
「どうしたの?」
『昏睡状態から覚めた姉さんと、一緒に移動しているよ』
「え!? 嘘! やだ! 本当!?」
目を見開いて、声をあげてしまう。
両膝を床に突いて、背筋がピーンと伸びた。
愛しのアシスタントたちと文蛤出版の面々から集まる視線を感じた鱗子は、キョロキョロと眼球を動かして皆さんの顔ぶれへと目配せしたのちに“ゆっくり”と身体を沈めていき、床にペタンコ座りをして上体を屈めた。そして、声のボリュームを下げていく。
「それマジなの? というか、今どこに行っているの?」
『マジマジ。刀振り回して悪い連中を“ばったばった”と斬りまくるくらい元気に快復しているよ』
「ファッ!?ーーーウチの娘が人殺し?」
この驚嘆に再び注目をされたが、鱗子は構わず会話を続けた。
「なになに? 警察に追われているわけ?」
『違うよ、母さん。姉さん、新世界十字軍と名乗る侵略者たちとその協力者を倒しているだけだよ。それと、長崎と福岡の警察が連携してね、教団と十字軍から陰洲鱒の女の子たちを助け出しているんだ』
「へ? そうなんだ」
『うん。だから、私たちや響子と雷蔵ちゃんは“彼ら”から助けられているよ。安心だよ』
「良かったーー。そういうことだったのねぇー。摩魚が人を斬りまくっているって聞いたとき、お母さん心臓止まるかと思っちゃった。本当に良かったーー」
『うん。本当に良かった』
我が娘の可愛い声を聞いた鱗子は、目じりを下げていきながら“ホッ”と大きな安堵の息を着いていった。電話越しでもあれ、娘たちの無事を確認できたなら良いことである。
『あ。ーーー姉さん、化粧が終わったから私たちそろそろ次に向かうね』
「え? 次にって?」
『稲佐山の町にある院里学会の建物にたくさんの陰洲鱒町の女の子たちが閉じ込められているから、それを助けに行くんだよ』
「あら素敵。頑張ってきてね。母さん、東京から応援しているわ」
『あはは。ありがとう。じゃあね』
「うん。じゃあね」
母娘ともに笑顔で会話を閉じて、一時的なお別れを告げた。




