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新世界十字軍の合流

 ※注意!この書き物は空想上のお話しです。実在する人物または団体とは多少似ている名前が出てきていますが、全て異なります。

 ちなみに。登場人物の名前に「(かね)」が入っている人たちは、良くも悪くも現代の錬金術師たちと見て付けました。



 1


 同日。昼過ぎの夕方近く。

 CLUB LUNA LION FISH店内。

「お疲れ様です。団長殿!」

 マルモ三姉妹が、アクリル椅子から立ち上がって敬礼した。

 一緒に声を揃えて、姿勢を正して、我が軍の団長を迎えた。

 目の前の三人に目配せしたのちに、美しい団長も敬礼して。

「お疲れ様」

 新世界十字軍第八団隊団長。

 イシュタル・サプフィール・コルシュノフ。

 ロシア最強の戦闘民族、コサックの出身。

 コサックサーベルを二本常時帯刀していた。

 陽の光りと店内照明を反射してキラキラ輝くブロンドヘア。 

 光の当たり具合で銀色に偏光する青銀色の瞳。

 白磁のような肌の彼女は、その名の示す通り女神イシュタルのごとぎ美貌の持ち主であった。長身のマルモ三姉妹よりも背の高いイシュタルは、若干目線を下げるかたちとなり彼女たちの前に立った。そのような美しい団長の隣には、これまた美貌の側近がいた。

 シンバ・ダハブ。三〇歳。

 黄金のライオンという名を持つ褐色の美女。

 マサイ族の血を引く戦士。

 イシュタルと肩を並べる背の高さ。長い四肢。

 高い鼻梁と切れ長な眼差しに、整った造形の顔立ち。

 セミロングの黒髪をソバージュにしていた。

 シンバを従えて、イシュタルは口を開いていった。

「よく勝手な行動を取らなかったわね。偉いわ」

「ありがとうございます」三姉妹そろって敬礼する。

「ところで。下とここで、いったいなにが起こったの?」

「なにがって?」復唱するグリージョ。

「菊代さんと私の部隊が斬殺死体で“あちこち”転がっているんだけど。あなたたちの後ろのも“そう”でしょう?」

 そう腕を伸ばして指差した先を追うように、マルモ三姉妹も上体を捻って首を後ろに回して背後の状況を確認していく。流れること数秒後。再び前に向き直ったマルモ三姉妹が、イシュタルに話していく。

 切り出したのは、ビアンカ。

「あー。海原摩魚うなばら まなという、とっても綺麗な女の子が普段着で日本刀を振り回していました」

「え? 女の子がひとりで?ーーー男が複数じゃなくて?」

「ええ、はい。可愛い女の子を二人従えて、その綺麗な女の子がひとりで兵隊を斬りつけていました」

「マジか」

「マジです」

 驚愕していくイシュタルに同意していくビアンカ。

 報告に区切りが着いたと判断した、シンバが喋り出した。

「そういえば。団長と私、現地に着いたとき変なニガーに執拗に絡まれて大変だったのよ」

「変なニガ……黒人ブラックマンって?」言い直したネーロ。

「甲冑姿でヤスケって名乗っていたわ」

「ねえビアンカ。ヤスケって、武将だったっけ?」

 というネーロの問いに。

 ビアンカは首を左右に振って。

「彼、付き人でしょ」

「だよね」と、確認した。

 様子を見ていたイシュタルも乗ってきた。

「空港に着いて少ししてから菊代さんと私たちに因縁付けてきたんで、カーチェイスしてまいてきたの」

「危ないヤツですね」驚嘆するグリージョ。

「だからちょっとだけ遅れてしまったわけよ」

 会話も一息ひといきついたところで。

 ひとつ息を吐いたあと、イシュタルが口を再び開いた。

「エキドナの気配が消えたようね。あなたたちも薄々感じていたんでしょ?」

「はい」と、グリージョが代表して返事をした。

「現場を見に行きましょう」

「了解!」

 マルモ三姉妹とシンバがそろって敬礼した。


 同建物。五階に移動して。

 エキドナの遺体はすぐに発見できた。

 『資材管理置場』と書かれた名札の扉を開けて、命の残り香辿っていったら、部屋の角の床にブルーシートを敷いた上に彼女の身体を繋げて寝かせてあった。エキドナの死に顔には、苦悶のあとが見られなかった。この状況を一番最初に目にしたイシュタルは、静かな面持おももちで唇を開いていった。

「綺麗な寝顔ね……」

 そう言って近づくと、床に両膝を突いてエキドナの額を優しく撫でていく。そして両手で彼女の両頬を持つと、ゆっくりと顔を近寄せていき、額と額をくっ付けた。直後、イシュタルの脳味噌に流れ込んできたエキドナの記憶が、脳神経系統を伝って脳内のスクリーンにその出来事を映し出していった。それは、潮干ミドリが虹色の光の力を使って、エキドナの身体を横に真っ二つにしていく場面であった。全てを視終えたイシュタルは、額と額を離したのちにエキドナの唇へと優しく口づけを交わしてからおもてを上げて立ち上がり、マルモ三姉妹とシンバに振り向いた。

「彼女を殺したのは、潮干ミドリよ。私がかたきをとる」

 そう決意を述べて、口を強く結んだ。

 次に足を進めていきながら、イシュタルは指示を出していく。

「エキドナの遺体は早急に回収させてご家族のもとに帰らせるわ。そして、丁重に埋葬する」



 2


 こちらも同日。

 ただし、少し時間を戻して。

 ミドリと鮒たちがクラブで合流していた頃と同じくらい。

 芒塚ささづかインターチェンジを出て蛍茶屋を左折して愛宕から上小島へと抜け出て思案橋を通過して西浜町に到着していた、片倉菊代かたくら きくよの運転するシルバーのアストンマーチン。トランクからルーフを通ってボンネットにかけて、真ん中に太いゴールドのラインを引いているのが特徴的な菊代のアストンマーチンだった。この西浜町通りは思案橋繁華街の出入口に関連してか、路面電車の線路が正覚寺まで走るこの西浜町の通りは昔からその歩道にも個人営業の飲み屋が数多く並立ち、押し合いへし合いしていた。なので、二車線のうち第一車線は主に客待ちの各社タクシーたちが路肩に停車しており、用事のない限りは停めるのは難しい場所であった。がしかし、海外勢の新世界十字軍には「侵略する国の地方の事情などはなからどうでもよい」わけで。なので“そのようなこと”などお構い無しに、二〇トントレーラー五台と複数の装甲車両が待機していた。第二車線から変更して先頭の大型トレーラーの先にアストンマーチンを着けて停めたのちに、安全を確認して菊代きくよたち三人が車外に出てきた。団長の菊代をはじめ、側近のインとヤンのファ姉妹も新世界十字軍の軍服に着替えていた。大型トレーラー五台分の運転手の顔を確かめていきながら、菊代は装甲車両まで足を進めて、その車両の先頭から二番目の車両に足を止めた。運転席のドアをノックして、運転手の兵隊を労う。

「お疲れ様。遅れてすまない」

「お疲れ様です。団長殿」金髪碧眼と顎髭が特徴的な男性兵士。

「夢子小隊長と幸世隊員は居るか?」

「後ろに居ます」

 運転手の言葉に、後ろを覗き込んでいった菊代が。

「夢子、幸世。出ろ」

「了解!」

 声をそろえてサイドドアをスライドさせて出てきたのは。

 金藤夢子かねとう ゆめこ菱金幸世ひしかね ゆきよだった。

 二人ともに、東京都で本拠地を構えて弱者女性たちを救済するという目標で活動しているNPO法人の『cocolaココラ bonbonボンボン』の所長と側近であった。所長の金藤夢子は、東京都庁から毎年億単位ずつ引き出させて、それを活動資金として使っていた。目立ったところでは、トー横や歌舞伎町などの繁華街を徘徊している未成年者を含む若年女性たちに寝泊まりの場と食事を与えたのちに、沖縄県の在日米軍基地建設の反対運動に彼女らを駆り出して車道に縦横並べて座らせて「肉の壁」を形成し、警備員や警察官が危険から立ち退かせようものならセクハラだの性的暴力だのと野次を飛ばして活動の武器として協力“させていた”ことである。うち、幸世は、先月の七月に陰洲鱒町で不良外国人と活動家仲間を引き連れた抗議デモをして破壊活動もしていたさいちゅうに、家と雀卓と愛車を破壊されて激怒した摩周ヒメと、同じく愛車を破壊された片倉日並から怒りの反撃にあって不良外国人たちを再起不能にさせられた上に、現場に駆けつけた警察官たちから現行犯逮捕されてしまったという。しかし、世界基督教会からの圧力のおかげで幸世は執行猶予付きの即日釈放となった。以上、このような美しい二人が今度は第九団体最高権力者の菊代団長から、日本の中心の東京都から最西端の長崎市にへと駆り出されていた。最強の菊代には、どう逆立ちしても勝てる見込みも映像も思い浮かぶことができないので、素直に従う方が良しと判断していた。銃剣の背を肩に乗せて下を手のひらで差さえ持ち、並んで敬礼した。

「お疲れ様です。団長殿!」

「お疲れ様」

 言葉は静かだが、表情が無かった。

 先の大型トレーラーへと蜂蜜色の瞳を流したのちに、夢子と幸世に戻した。

「幸世は芳金が運転するトレーラーに乗れ。夢子は一番目の装甲車に移って車を私のアストンマーチンの後ろに付けるように康人に指示を出せ」

「了解!」指示を受けて、二人は敬礼した。

 女二人並んで仲良く移動していく中で、言葉を交わしていく。

「団長殿の判断は完璧よ。稲佐町の四〇〇人を本当に持っていくつもりだわ」

「ずいぶん大胆なことをしますよね」

「最強の菊代団長だもの、大胆でなきゃ」

 こう微笑みを幸世に見せて再び前を向いて足を進めながら。

「その四〇〇人のうち百人くらい報酬として貰えたら、私が陰洲鱒の女の子たちを保護したとしてニュースで取り上げてもらって、cocolaココラ bonbonボンボンの名は強化されて私は日本で最も慈悲深い女性としての地位を固めるわ。うふふ」

「さすがですね、親分! その暁には私を所長として側に置いてください。ずっと付いて行きます」

「ありがとう。期待しているわ」

 と、お互いの野望を交わす仲良し二人組。

 この夢子と幸世に付随していた男が二人いて。

 菊代が先に名を呼んだ芳金と康人である。

 田上芳金たうえ よしかね金森康人かなもり やすひと

 二人ともに夢子が所長を勤める『cocolaココラ bonbonボンボン』の子会社的なサブの弱者女性救済のNPO法人の、『女性駆け込み寺』代表取締役の芳金よしかねと『女性救済教会』代表取締役の康人やすひと牧師。この男二人は元暴力団組員であり、弱者女性たちの救済という名を借りて違法薬物を入荷売買して、方や芳金は駆け込んできた若い女性たちをコカイン漬けにして性的関係を持ち“客たち”に斡旋して、方や康人は救済を願いにきた女性たちのうち主に未成年女性たちを狙ってシャブ漬けにして性的関係を続けた上でこちらも“客たち”に斡旋していたので、違法売春斡旋容疑と違法薬物販売使用の容疑で共に現行犯逮捕されたものの、逮捕後の翌日に執行猶予付きの釈放となり今に至る。この場合ももちろん、世界基督教会から警察への圧力と命令が下ってのこと。本庁に限らず日本全国の警察機関内部にも、世界基督教会の信者と新世界十字軍の隊員たちがいる。そしてそれは、永田町の国会議員たちの中にも、司法機関内部にも、東京都庁内部にも、芸能界にも、地方自治体にも、報道機関にも、教育機関にも、自衛隊内部にもいた。号令がかかれば、陰洲鱒町の侵攻を機に日本全体を乗っ取る尖兵と化していた。

 話を戻して。

 人員と車両の位置を入れ換え終えたのちに、菊代は合図を出してアストンマーチンを走らせた。



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