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丸山町決戦!ヘッドショットおばさん

 まんま映画『ジョン・ウィック』のクラブファイトシーンのパロディです。

 虎縞福子の声は、米倉涼子で脳内再生されています。


 1


 同じく長崎市丸山町。

 ほぼ同時刻だが。

 虎縞福子は、誰よりも一足早く『CLUB LUNA LION FISH』に到着していた。チリレッドのスポーツカーを有料駐車場に停めて、フル装備で目的地へと足を運んだ。素人目からはなんの変化もない、黒色のジャケットと膝丈スカートにワインレッドのワイシャツといった、普段着姿の福子であったが、その中身は防弾チョッキとガンベルトに主要武器のハンドガン、上着の内側とベルトと太股には予備の弾倉、腰の後ろに予備の小型ハンドガンが二丁、片方の太股にナイフを三つ。その予備の弾倉に、内ひとつに高濃度サポニンの弾丸があった。以上の装備で、福子は敵地に乗り込んで鱗の娘たちを救出する決意をしていた。


 CLUBクラブ LUNAルナ LIONライオン FISHフィッシュ 一階横の関係者出入口。

 ここを警護していた黒服姿の禿げ頭の大柄な中年男性の背後から、銃口が幽鬼のように現れて、彼の後ろ頭手前で止まった。

「風呂田さん。お疲れ様」

 静かな声で、福子が話しかけていく。

 風呂田と呼ばれたこの大柄な禿げ頭、声で誰かと分かったらしく、イヤホンマイクを外して後ろを見ないで言葉を返していった。

「お疲れ様です」

「内部の様子は、どう?」

「開店前だったんですが、怪しい団体から乗っ取られて営業をさせられています」

「状況は分かったわ。ーーー今日はもう上がっていいから、ゆっくり休みなさい」

「ありがとうございます」

 礼を述べた風呂田が関係者出入口から外れたとき、すでに福子の姿はそこにはなく、扉を静かに閉じて店内に侵入していた。その出入口は男性用トイレと直結しており、一階のプール付きバーと繋がっていた。閉じた扉を通して、大きく鳴らしている音楽と賑やかな声が聞こえてくるほどに、店の乗っ取り犯は楽しんでいた。扉の隙間から伺うと、黒服の雄人魚が“数体”くらい店内を警護している。他は、プールで遊ぶパンツ姿の男たちが数名と十字軍の軍服姿の男たちが数名。あとは、下着姿の女がひとり。そして、福子の見覚えのある若い娘がひとりいた。陰洲鱒町の糸依桃香いとより ももか。他の町の娘たちと同じように、ときたま福子は休みのとき陰洲鱒町に一時的な帰郷をして、彼女らが小さい子どものころの面倒を見ていたからだ。そしてそれは、海原摩魚の実の母親である有馬鱗子も子どものころから知っていた。福子は独り身ではあったが、そのようなこともあって陰洲鱒町の若い娘や青年たちは我が子や甥っ子または姪っ子のような感覚を抱いていた。よって、彼女の見ている先で、町の娘が嫌な目にあっていたら手段問わず助け出すのが当然となる。

 桃香ももかはマインドコントロールまたは妖術から解放されていたのか、彼女は、プールで群がってくる十字軍の男たちの手から必死に逃れていた。桃香から意識と目を外さずに、福子は静かに扉を閉めて侵入すると重なった荷物物陰に身を沈めて、雄人魚たちの出方を窺っていく。強化曇りガラスで作られていた壁に、赤い血飛沫が花を咲かせて一体目の黒服雄人魚を叩きつけた。広い赤い線を引いていきながら、額を撃たれた黒服雄人魚が膝を崩してずり落ちていく。サイレンサーのハンドガンを上着のホルダーにし舞い込んだ福子は、次の標的に移動する。イヤホン無線で鰐恵わに めぐみの指示を受けた黒服雄人魚は、頷き了解して足を進めていった、その直後。赤レンガタイルの壁の角から現れた福子の拳を横っ面に喰らって壁に背中を打ち付けるも、手を上げて次のパンチを防ぎ拳を振るう。黒服雄人魚の反撃の拳を手刀で弾いた福子が、鳩尾と喉にジャブを喰らわせて彼の口を片手で塞いだあと、下顎から小太刀を突き刺した。その切先は脳味噌まで貫通して、黒服雄人魚の命を奪った。声を上げられぬように、福子は相手の口を塞いだまま同種の黒眼を見つめたまま崩れ落ちるのと合わせて、彼女は膝を“ゆっくり”折り曲げていく。二体を始末した福子が、磨りガラスの扉を開けてガラス張りの脱衣場に入ったときも、プールで逃げ惑う桃香の様子を見ていた。百七〇センチ近い身長で色白で中肉な桃香は、それを超える大柄で筋骨逞しいパンツ姿の十字軍の男性兵隊たちにプールの角へと追いやられてしまい、そんな彼女の後ろにも、二体の黒服雄人魚と二名のフル装備の十字軍男性兵隊らに塞がれて逃げ場を無くした。この様子を、福子以外にも見ている女がひとりいて、背中全体に複数の蛇の入れ墨をした長い黒髪の色白で長身細身の美しい女が蛇の鱗の模様のビキニ水着で、パイプ椅子にゆったりと腰掛けて微笑して見ていた。ミドルのポニーテールを三つ編みにしていて、まるで辮髪べんぱつのような印象。しかし、その顔立ちは北欧を思わせた。

 追い詰められた桃香は、二度ほどプールの群れと縁に立つ群れとを見たあと、深呼吸を繰り返していった。こんな彼女の姿を見ながら、当の男性兵隊たちは嘲る笑みを声を出さずに浮かべた。そのうちのひとりの男性兵隊の口から「入植者の俺たちを少しは歓迎しろ。魚女」という罵りを聞いたとき、桃香の様子と目付きが変わり、続けて彼女の稲穂色の瞳が桃色に光り出した。と同時に、白い裸の周りに波紋を生んでいき、風も立ちはじめた。その次の瞬間、桃香のピンクベージュのセミロングが四方八方に鞭の如く振るわれて、伸びていった。直後、桃香の目の前と後ろの男たちと雄人魚たちはスライスされて水面と床に赤く濁った花をいくつも咲かせていった。包囲していた屈強な男たちと雄人魚たちを、ほんの一秒足らずで皆殺しである。まさに秒殺であった。そして案の定、この惨劇により、店内の空気はたちまち緊張へと一変した。警護していた他の黒服雄人魚たちと、酒を飲んでいたフル装備の十字軍男性兵隊たちが、次々に銃を構えていき、その全ての銃口をプールの若い娘にへと向けていった。桃香の初見殺しの技を見た蛇の入れ墨の美女は、一気に目付きを戦闘に変えてパイプ椅子から立ち上がり、飛沫を上げてプールに飛び入って、仲間の切り身を掻き分けながら真っ直ぐと桃香の前にきた。赤いリップを引いた唇から、白い歯を見せていく。彼女の言葉は、流暢な日本語だった。

「“鱗の娘”には、今の技を使う者もいるのか?」

「私は初めて使った。じぶんの身を守るために。そして、今のを使えるのは私だけじゃないと思った方が良いわ」

「なんだと?」

 不可解と驚きの混ざった顔を浮かべたとき、脱衣場のガラスの壁が割れる音を聞いて、蛇の入れ墨の美女と桃香はその方向を見た。


 ガラス張りの脱衣場から、桃香の様子を見ていた福子は、プールの角に追い詰められた際に繰り広げた彼女の技を目撃して、驚きに黒眼を見開いた。扉を閉めて点検に来た黒服雄人魚に背中を見られた福子が、後ろを振り向き、お互いに見つめること一秒足らず。イヤホン無線で不審者発見と連絡をしていた隙を狙って、福子は黒服雄人魚の腹にタックルを食らわせた。扉に叩きつけたあと持ち上げて、助走をしてガラス張りの壁にぶち当てたとき、福子は黒服雄人魚を担いだまま床にダイブしてその背中を叩きつけた。

 一階のプール付きクラブにある監視司令室。

 液晶モニターを見ながら、黒服雄人魚たちと黒服の男性たちのうちひとりの男が警護長の鰐恵わに めぐみを呼んだ。三つ揃いからインナーのカッターシャツまで艶消しブラックを身に纏っていためぐみは、呼ばれた男のモニターを確かめたとき、銀色の尖った歯を剥いて舌打ちする。

「誰かと思ったら。あの馬鹿……!」

 侵入者を福子だと理解して、恵は無線で指示を出した。

「心臓と頭以外なら構わない。撃って生捕りにして」

『了解』との雄人魚たちと男性たちの応答を一斉に聞いた。

 警護の黒服男性の肩に手を乗せた恵は、ここで監視を続けていてちょうだいと囁いたあと、懐の拳銃を確かめてから監視室の扉を開けた。

 脱衣場のガラス壁をぶち破って飛び出した福子は、背中に受けていく肘打ちに耐えながらも拳で相手の横っ腹に会心の一撃を喰らわせて弛んだところで隙を作り、腕を取って捻り上げて抜け出し、背中に乗った。銃口を“こめかみ”に付けて、撃ち殺して離脱。それから福子は、十字軍男性兵隊たちと黒服雄人魚たちにへと銃弾を頭と喉に的確に当てていき、次々と屍を築いていった。インナーのベルトのガンホルダーからハンドガンを取り出した恵が、持った両手を左下に構えて膝を浅く折った姿勢で足を進めていき、福子の位置を確認していく。店内のオブジェが当たった銃弾により粉砕したときはすでに、身を沈めていた福子。そこから数発撃ってプール越しに二人の十字軍男性兵隊と二体の黒服雄人魚を射殺したときには、一階部分の手下を全滅させた。小走りで回り込み、いまだに角にいた桃香へと手を伸ばしてプールから引き上げると、二人は一緒に上へと向かった。これを逃がすかとばかりに、恵が銃を前に構えて階段を行く二人の内の福子を狙って発射していった。短い間隔で強化ガラス手摺に二発当たるも、二人を取り逃がした恵はイヤホン無線で黒服の警護男性たちへと連絡していったあと、福子と桃香を追いかけた。プールに残っていた、背中に蛇の入れ墨をした美女が、踵を返して足を進めて中から出てきてミントグリーンのガウンを纏い、両方の太股にナイフベルトを巻き付けて戦闘準備が完了すると、彼女も福子と桃香を追った。



 2


 二階に到着した福子は、桃香を背中にしてハンドガンを前に構えて警戒していく。扉が開けっ放しの軽食屋に入り、出会い頭に黒服雄人魚の胸に二発頭に一発撃ち、蹴飛ばした。横の影から出てきた禿げ頭の十字軍男性兵隊の額と咽に撃ち込み、すぐ回れ右して反対からきた七三分けの黒服男性の胸と頭に三発喰らわせて、足を進めていきながら斜め前から銃剣を突いてきたドレッドヘアの十字軍黒人男性兵隊の手首を撃ったあと喉と額に二発当てて、桃香を庇いながら、拳銃を構えてきた黒服雄人魚に銃口を向けるも空だったので、銃の先端部でその雄人魚の喉仏を突いて、銃を持った片手で空の弾倉を落としつつ同時にもう片手で腰の後ろから新たな弾倉を取り出して嵌め込み、すぐさま胸に二発額に一発撃って蹴飛ばした。柱の影から撃ってきた黒服たちの銃弾を、桃香と一緒に物陰に身を沈めて回避して防ぎ、片膝を突いてハンドガンを突き出して柱の先の十字軍男性兵隊と黒服雄人魚と黒服男性らを次々と撃ち殺したあと立ち上がり、柱を挟んで人の気配を感じた福子は、左右と足下を見ると柱の根本から爪先が出ていたのでひとまず“それ”を撃ってみたら、激痛に相手が出てきたところを突いて至近距離で右目と額を撃ち抜き、桃香の手を引いて進み、無精髭の黒服男性の肩を撃って蹴飛ばして扉を開けた。男の手元を蹴って拳銃を飛ばしたあとに、腕に長い脚を絡めて動きを封じた福子は、銃剣を振り上げてきた二人の十字軍男性兵隊へと向けてそれぞれの喉仏と額を撃って退けたのちに、彼女の下で身悶えていた無精髭の黒服男性の右目を撃った。男の絶命を確かめた福子が、骸から黒服の上着を引き剥がして、いまだに素っ裸であった桃香にジャケットを着せてあげた。

 たこ焼き屋に侵入したあとも、銃撃戦は続き。

 次々と迫りくる、黒服の男と雄人魚と十字軍の兵隊たちの銃弾や銃剣を避けたり引いたりときには防ぎながら、福子は相手の頭と胸とに的確に当てて確実に仕留めていった。福子が桃香の手を取って三階に上がっていったとき、恵はたこ焼き屋に入ってきた。そして、三階の部下たちへと指示を出していく。踵を返した恵が軽食屋を出て、反対側の階段から三階を目指した。三階のダンスホールに移り、無線で指示を受けた下顎の長い髭が特徴的な大柄な黒服雄人魚が頷き了解したあと、二人の黒服男性に合図を送った。そんな矢先に、桃香を引き連れた福子の到着を目撃。銃弾を撃とうとするも、僅かに福子の方が早く、黒服男性がひとり撃ち殺されたあと長い顎髭の雄人魚は彼女から蹴飛ばされた。真ん中を蹴った隙を狙って銃を構えたとき、黒服男性の手元から拳銃を弾き飛ばされて、後ろの襟を掴まれたときには、福子から超至近距離で胸に二発額に一発撃たれた。黒服雄人魚めがけて空の弾倉を投げ飛ばして、その隙に装填したあと、福子は肩を狙って撃ち、距離を詰めて彼の顎髭を掴むとテーブルに頭を叩きつけていって“こめかみ”にゼロ距離連射していった。桃香を柱の物陰にやった福子が、新たにきた二人の黒服男性の胸と喉と額を撃って退けたとき、銃を構えていた鰐恵わに めぐみから超硬質ゴム弾を腹と胸とに三発受けて吹き飛んだ。床に受け身を取って落ちた福子は、柱の陰に隠れて傷の具合を見ていく。ワインレッドの上着を破いて、極薄防弾チョッキに弾頭が刺さっていた。しかも、馬鹿みたいに硬いゴム弾なので痛くないわけなどなく、防弾チョッキを通して肋と胸に激痛を覚えていった。福子の隠れた柱のその隣の柱には、桃香の姿を確認。

 一瞬ではあったが、目の前の二つのうちひとつの柱に福子が隠れたのを見逃しためぐみは、ハンドガンを前に構えながらジリジリと接近していく。やがて柱との間に入ったとき、物陰から飛び出してきた福子に銃を持つ両手を掴まれた。振り払おうと拒む恵と、絶対放すものかと両手の指に力を入れていく福子の鍔迫り合いがしばらく続くと思われたとき、不意に力を抜いた福子から両腕を反対側に振られて膝から抜けた隙に、小手投げの要領で両腕を返されて恵の身の丈二メートルの身体が宙に舞い、床と天井が逆転した。床に身体の横を叩きつけられた際に辛うじて受け身を取った恵の両腕に、福子の長い両脚が挟んできた上に手首を捻り上げられたときに、痛さにハンドガンを手放した。すかさず離脱した福子は手元から落ちた銃を蹴飛ばして、恵と間合いを取った。先制とばかりに踏み入れてワンツーのジャブのあと、ミドルキックからの前蹴りを繰り出したときに、恵から脚を取られた福子の身体は軽々と持ち上げられていき、先の方へと放り投げられて床に落ちた。床で身悶えしていく福子の姿を確認していた恵にへと、腰の後ろから取り出したハンドガンから発射された。恵はとっさに身をかわして、柱に銃弾が二発当たるのを音で確認。このとき、鱗の娘を連れ回していたことを思い出して目の前の柱を見たが、そこに桃香の姿はなく、すでに福子と一緒に四階へと移動をしていた。

 女二人の背中を見送っていた恵の後ろから、声をかけられた。

「逃げられたわね」

「ん?ーーーええ。手強い“女”だったよ」

 振り返って答えてみると、蛇の入れ墨の女がいた。

 背後から刺されるか撃たれるかと思った恵であったが、目の前の美女はとくに“そうする”素振りすら見せずに、赤いリップを引いた唇を開いていく。

「そう。それは食べごたえがありそうね。次は私が相手する番よ。ーーーというわけで、お疲れ様。持ち場に戻っていいわ」

 そう青い瞳を流して見上げて労いをかけたときには、恵の横を通り過ぎていて、ミントグリーンのガウンを羽織った背中を見せて四階を目指していた。そんな新世界十字軍ニューワールド・クルセイダーの美女部隊長の後ろ姿を見ながら、恵は悔しさを噛みしめていった。

 ーいきなり押しかけられて、私が黙って従っているわけじゃないのよ。ミドリちゃんとの約束を果たすまで諦めないから。ーー



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