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ミドリ姫、帰還する 後編


 まだ続く、潮干ミドリの話し。


「この三人」

 ござの敷いてあるリビングで、ミドリはお膳の上の写真三枚を指さしていった。

「教団の鯉川鮒。学会の片倉日並。町議会議長の鯛原銭樺。この三人が、陰洲鱒を実質支配下においているわ」

「私の母さんもだけど、この写真まるで、芸能人の写真集みたいな撮られかたしているわね」

 との片倉昇子からの問いに、ミドリは答えていく。

「ね、綺麗でしょ。これはね、幹江さんが撮ったものなんだ」

 この言葉に、臼田幹江が親指を立てた。

 ミドリは話しを続ける。

「彼女、気配が消せるんだよ」

「え? それって凄くない?」

「ええ。とっても凄いことだよ。だから去年の八月から今年の八月にかけて、収穫があったんだ。幹江さんには定期的に陰洲鱒町に出入りしてもらっていたから、情報と写真のネタをいろいろと掴めたよ。そして今年も来年の八月くらいまで、また町の出入りを頼もうかなって思っているの」

「なんか、凄くない? 不定期の休暇に入ったとは言っても、幹江さん女優だよ。知られていない人じゃないんだよ。そんな人が何事もなく離島の町を観光で出入りしているって、普通じゃなくない?」

 驚きを隠せない昇子は、まくし立てていった。

 これにミドリは微笑んで。

「堂々としていると、意外と一般人に見えているみたいだよ」

「はえー。すっごい」感心する昇子。

 少しだけ考えて、ミドリと幹江に質問していく。

「そういえば、私の役目は?」

「昇子ちゃん、いろいろと顔が“く”でしょう? それを使って情報を集めてほしいんだ」

 ミドリの答えに、昇子は笑顔になる。

「なるほどねー。学会員ていろいろ“散らばっている”から私だと入りやすいってね。行動しやすそうだわ」

「でも、それがバレたときはリスクが大きいんだよ」

 心配そうなミドリに、昇子は親指を立てた。

「ほどほどにしていくよ」

 新たに参加した、院里学会を抜けたい片倉昇子に役割分担を指示して重要な会話を終えたのちに、各々が背伸びをしていく。そして、赤色の壁掛け時計に目をやった幹江。

「ちょっと(時間)早いけど、ミドリちゃんの帰還と私たちが三人無事に集まれたことを祝って、今から祝杯あげる?」

「いいねえー! 待ってました!」

「ありがとうございます! いただきます!」

 幹江の提案に、ミドリと昇子が歓喜して乗った。

 やがて、冷蔵庫から持ってきた酒類は。

 次々とお膳に並べていった。

赤龍せきりゅう黄金酒こがねざけ、ゴールドビール! あとは、ハイネケンとアサヒスーパードライとキリンビール! さあ、お好きなのからどーぞ」

「わーい! いっただきまーす!」

 ミドリと昇子は一緒に喜びの声をあげた。



 3


「以上、そういうこと」

 と、ミドリが語りを終えた。

 なお、要点だけに搾った。

 飛び込む前に、鯉川鮒と片倉日並から計画を聞き出した。

 摩周ヒメとホタルに別れの挨拶。

 海中で消えた。

 海中でハイドラと一戦を交えた。

 家族と斑紋甚兵衛に協力を頼んだ。

 今までのデーターは摩周マルに渡した。

 臼田幹江のお世話になっていた。

 臼田幹江と片倉昇子が協力者になっている。

 教団と学会に風穴を空けるネタを掴んだ。


 以上このような事実を知って、黄肌潮きはだ うしおはミドリを抜けて斑紋甚兵衛に歩み寄ってきた。そして、首に腕を優しく巻いて抱きしめていく。

「ごめんね。あたし、そうとは知らずに今まで君に厳しいこと言ってきちゃった」

「は? いや……、その……」

 耳まで真っ赤に染まる甚兵衛。

 赤らんだ美青年の頬に口づけをして、黄肌潮は離れた。

 甚兵衛の上着の袖を取って、元の位置に戻ってきた。

 この様子を、他の皆は驚き気味で見ていた。

 そして、ミドリから出てきた言葉。

「エッチ」

「なんでよ?」

 戸惑う黄肌潮。

 一段落着いて。

「敵を騙すには、まず味方から。そうすると、標的は油断して次の行動に出てきやすいし、焦りがあったらボロを出してしまいやすくなるじゃん」

 腰に拳を当てたミドリが、得意げに人差し指を立てながら語った。この言葉に、磯野マキと磯野カメは顔を見合せて笑顔になる。八爪目那智やつめ なちと妹のれんも、互いを見て笑みを浮かべた。そんな中で、皮剥実かわはぎ みのりが質問していく。

「はーい、ミドリちゃん」

「なんですか?」笑顔。

「どんな感じでボロを掴めたの?」

「民間人協力者として、幹江さんが写真を昇子ちゃんが“相談”として警察署に出入りしてもらっていたのよ。主に、“鱗の娘”という名の組織ぐるみの売春斡旋の情報提供としてね」

「証拠は残っていたんだ?」

「写真も押さえたし、女の子たちを運ぶ車の台数も押さえたし、あとは、その“客層”も撮ってあるわ」

「でも、警察組織にも学会員が多いんだよね」

「そう。だから昇子ちゃんなの」

「“顔”がくから?」

「うん。抜けるまでの間は、頑張ってもらおうかなーって」

 そう微笑んで、皮剥実をはじめに集まっているメンバーを見渡していったミドリは、母親のリエに視線を止めて会話を続けていった。

「そして、陰洲鱒町から毎年必ずひとり出ている“鱗の娘”の失踪と行方不明の現場をおさえたい」

 この発言のときにリエをはじめとして、黄肌潮と磯野マキと磯野カメの表情が曇っていった。ミドリは“これ”を見たうえであえて語りを続ける。

「母さんはもちろん、他のみんなも知っていると思うけれど。陰洲鱒町からは毎年ひとり、若い女性の失踪が出ているのよ。生贄とは別にね。しかし、誰もこれに町の人が動かないわけがなかった。過去にも突き詰めようとした住民たちがいたわ。貿易商館が崩壊したときと、砂金掘りのときと、そして、高校生に入ったばかりの私と摩魚ちゃん含めた八人のとき。あのときの私たちは、大人と政治の怖さを思い知ったわ」

「ミドリ……、あなた……」

「お姉ちゃん……」

「あなた、まさか、有子のために……」

「ミドリちゃん……」

 思いに声を詰まらせていくリエとタヱと黄肌潮と、そして磯野マキと妹のカメと皮剥実はほぼ声をそろえて呟いた。雷蔵と響子は静観に入っている。ミドリは話を続けていった。

「“やぐら”が二三年前に破壊されてからの十数年間は虹の鱗の娘の生贄はなかったけれども、教団と学会とによる“鱗の娘”の拉致誘拐は相変わらず毎年あっていた。それも、あの萬屋よろずやの磯野商事の鯉川鮒こいかわ ふなの主導によって。学会の片倉日並と議長の鯛原銭樺たいはら せんかは捜査が及ばないように手を回していたのよーーー根回しされて、司法機関や警察機関が非協力的だったのは、母さんたちも経験していたでしょう?」

「そうね……。若い刑事たちは協力的だったけど、被害相談中に決まって中断しに出てくる刑事や上司たちは非協力的だったわ」

 リエが低い声でそう語った。

 すると、娘への今までの疑問が突然繋がっていった。

「まさか、ミドリあんた、芸能界に入ったっていうのは!」

「そう。私たちの町から教団と学会を崩壊させて、鯉川鮒を立ち退かせるためよ。そのために、私は外に出ていろんな情報を集めて、そして去年やっと切欠きっかけを掴めたんだ。この場合は、釣れたのかな? まあいいや。とにかく、深淵を巣にしている相手を知るには、こちらも深淵に入るしかなかったの。そのおかげで、弱点が分かったけれども、私だいぶん闇に飲まれちゃった。だから最近は強い光を持っている人のそばにいるようにしたの。だって、そうでもしないと、私本当に母さんたちの前から消え去ってしまうから。でも、一番手っ取り早く光を全回復させるのなら、私の中に光を入れたほうが一番なんだけど…………」

 このとき、雷蔵にチラッと目線を送った。

 再びリエたちを見て。

「私ね、自分勝手かもしれないと思うけれど、やっぱり一番助けたいのは友達と好きな人なんだ」

「いいえ、自分勝手じゃないよ、ミドリちゃん」

 黄肌潮が、黄緑色の瞳を潤ませて言葉を乗せてきた。

 声を震わせて返していくミドリ。

「ありがとう。おばさん……」

「あなたは、こうして“あたし”の友達の元に帰ってきてくれた。それだけでじゅうぶんだよ」

 愛娘に向けていくかのような微笑みを、ミドリへと向けた黄肌潮。これに数秒間ほどミドリは言葉を止めたので、話しは終わったものかと他の面々が思いはじめていたとき。

「いいえ。じゅうぶんじゃないわ」

 ミドリの瞳が、金緑色の光を発した。

 そして、もとの緑色に戻る。

「私は、私の友達と町のみんなを助ける。そして、私の好きな人も。決して死なせない」

 この決意に、リエをはじめに他のメンバーも飲まれた。

 このままだと空気が冷えて固まりそうだと思ったとき。

「というわけで、まずは組織崩壊をさせる基本的な第一段階として、ラスボスの足止めをしましょう」

 胸元でピシャリと軽快に手を叩いて、明るい顔でそう断言したミドリ。いきなりなにを言い出すのだろうかと、周りは当然疑問を持つわけである。

「ね、ねえ、ミドリ。ラスボスの足止めって、なに?」

 我が長女に圧倒されつつも、リエは聞いていった。

 ニコッと母親に笑みを向けたあと、隣のタヱを見て。

「タヱちゃん、スマホ貸して」

「え。いいよ」

 はい、どうぞ。と、黒いスマホを姉に差し出した。

 ありがとうね。と笑顔で受け取って、電話をかけていく。

 五回の呼び出し音のあとに、向こう側が出た。

『はい。臼田幹江です』

「潮干ミドリでーっす」

『ミドリちゃーーん! ニュース見たよ! YouTubeも観たよ! 復活おめでとう!』

「ありがとーー!」

 少し声のボリュームを戻したのちに。

「さっそく頼みたいことがあるんだけど」

『いいよ』

「GPSで、ラスボスたちの場所は分かった?」

『ええ。バッチシ』

「私のトヨちゃん引き取ってくれた?」

『今、昇子ちゃんと乗っているよ。準備万端』

「ありがとうございます。じゃあもう、その場所に行って、派手に足止めしてきてちょうだい。お願いします」

『分かったわ。大丈夫よ、今、私たち大村のうどん屋に来ているから、いつでもオーケー』

「わあ、本当! なら、さっそくお願い」

『任せて! じゃあ、長崎で会いましょう』

「はい、会いましょう」

 そして、通話を切ってタヱに返した。

 ニコニコしていたミドリ。

「幹江さんに、足止めを頼んだの」

「え? 幹江さんって、まさか、女優の臼田幹江?」

「うん」

 驚愕する母親に、ミドリは嬉しそうに返事した。

 ブーーーッと吹き出す、黄肌潮と潮干タヱと皮剥実と磯野マキと磯野カメと斑紋甚兵衛と八爪目那智と八爪目煉と、そして雷蔵と響子、周りの皆が衝撃に耐えきれなかった。そのリエは、長女の頼んだことに呆気にとられていた。床を向いて大きく咳き込んだあとに、黄肌潮が電光石火のごとく上体を起こして目の前の美しい娘を指差していく。鈍色の尖った歯を剥いて、額に青筋を立てていた。

「おおおお前! 売れっ子女優になに地上げ屋みたいなことさせてんだ! それとあれだろ? 預けていた愛車って、あの化物みたいなヤツか? そうだろ!」

「そうですよ」可愛く笑ったミドリ。

「幹江さんっつったら、大手プロダクションの人じゃない! あんた、いったいなに考えてんの! ひひひ人様の女優人生を台無しにする気! もう、やめてよ! 母さん、あんたと一緒に幹江さんとそのご家族に頭下げるだけじゃ済まなくなるわよ! もーーー、やだーーー!」

 額に青筋を立てて我が娘へと指差してキレ散らかしていたリエが、顔を両手で覆ってしゃがみこんだ。

「あーーー! もう! お姉ちゃん!」

 姉の横で、叫びながらタヱも顔を覆ってしゃがみこんだ。

 雷蔵と響子からは、どうすんだ?お前?と出した表情を向けられていた。



 4


「やってしまったものは、しょうがない」

 少し震える手の人差し指で、縁なし眼鏡をただした八爪目那智やつめ なちから放たれたひと言だった。若干強張った笑みで姉の那智を見ていた八爪目煉やつめ れんが、ミドリをはじめにして周りの面々を見ていったあとに、再びミドリに顔を向けた。

「本当、可愛いのに過激な娘さんね……」

「うちのミドリが本当にすみません」

 リエから頭を下げられた。

 実に、本当に申し訳なさそうである。

 恥ずかしそうに後ろ頭を掻いていくミドリ。

 姉と見合せて微笑んだれん

 切れ長で黒曜石のような黒目勝ちな瞳でミドリを見たあと、集まっているその他に向けてから、ハニーオレンジ色の口紅を引いた唇を開いていく。

「三人をまとめて足止めをするということなら、私たちにも都合がいいかもしれないわね」

「そうだな。今回そもそも、こうして集まってもらっていたのも各所のホテルやクラブに“配達”された“鱗の娘”たちを解放して、救出そして保護するためになんだ」

 天然ソバージュの美女、八爪目那智が妹の言葉に続けてきた。

 縁なし眼鏡越しの切れ長な眼差しの瞳で、周りを見渡していく。

 明るい茶色の髪をした美女、八爪目煉が黒目勝ちな目を緩やかな弓なりにさせて、美しい半人半妖の人魚の姉妹に柔らかな笑みを向けた。

「浜辺亜沙里さんに続いて、一昨日、虎魚虎子おこぜ とらこさんがマインドコントロールから完全に解放されてね、そこにいる磯野カメさんの協力で救出されたの。そして今は、鳳麗華おおとり れいかのもとで保護しているわ。ーーー素晴らしい対応だったそうじゃない。麗華も喜んでいたわよ」

「ありがとうございます」

 と、少し頬を赤くしたカメは、頭を下げた。

 隣のそんな妹を見たマキが、不思議そうな表情を出した。

 こんな姉妹の様子を嬉しそうに見ていた那智は。

「彼女、ときどき麗華の道場へ稽古に来ていてね。悩みを聞いた麗華が背中を押してくれたんだ」

「え……? それって、毒島家の弟子なんですか」

 ここで、驚きをあらわにした雷蔵。

 照れくさそうに俯いて、頷いたカメ。

 これに那智が話しを続けてくる。

「そうだけど? 私たちは手合わせしたことはないが、強いんじゃないの?」

「じゃあ、妖術使わなくても、神出鬼没が使えるじゃないっすか」

 再度乗ってきた雷蔵。

 無言で、首を静かに横に振ったカメ。

 雷蔵は、ちょっと残念そうな顔を浮かべた。

 再び、那智が割って入ってきた。

 自身と妹を交互に指さしながら。

「いいじゃん。私と煉が使えるんだから。あと、愛美さんもできる人だよ、神出鬼没」

「愛美さんて?」思い浮かばなかった雷蔵。

「強行課の蛭池愛美刑事のことだけど」

「え? 嘘!」

 雷蔵のこの驚きに、響子だけではなくリエとミドリとタヱと黄肌潮の声も被さった。

「あのイケてる美女が」

 リエとミドリから同時に発せられた言葉である。

 周囲の目線に気づいて、母娘ともに肩をすくませた。

 このままではチンタラすると判断した八爪目姉妹は、アイコンタクトをしたあとに、姉の那智から仕切り直しにかかった。

「再び言うが、今回、陰洲鱒町出身のご婦人方に長期の有休を指示または自主的に出して集まってもらったのは他でもない。町の若い娘たちを救いたい護りたい、町を元に戻したい。あなたたちは、そう今までくすぶっていた思いがあった。しかし、それらも過去にあと一歩のところで達成することができなかった。それは、町を支配下においている者の力が強かったためだ。理由はいろいろとある。政治的な力、メディアの監視、そして人質を利用した制裁。ーーーでももう、あなたたちは今日から“これら”を気にしなくてよくなるんだ」

「そう。気にしなくて良いのよ。現に、私たちから背中を押されなくてもみずから行動に移りたいでしょ? だから背中を押すかわりに、私たちは後方支援するわ。ーーーそれとね、銀色の十字架をかけていない刑事たちは、ガサ入れする気満々よ。それもこれも、ミドリちゃんやマキちゃんカメちゃんたちの協力の成果のおかげね」

 ニコニコしながら、八爪目煉が繋げてきたあと。

「ということで。ここに“配達先”のホテルと部屋番号とクラブの名前をメモした紙がある」

 腰に左手をやって、右手の指を器用に使って扇子のように綺麗に広げて見せた八爪目那智。クリアーのリップを引いた唇の端を、吊り上げていく。

「気分任せに好き放題暴れるのも構わないが、相手がデカイ組織だと話は違ってくるわけだ。よって、ここは弱点になっているひとつを突こうじゃないか。ーーーさあ、どうぞ」

 からの、ニッコリな笑みに一変した。

 お好きなのをどうぞと言わんばかりな差し出しかたである。

 今回の“お勤め”の人数は、総勢五〇〇名以上。

 場合によっては六〇〇人に達しているかもしれない。

 なので、八爪目姉妹と鳳麗華は多い“派遣先”を振り分けた。

 危険性から、二人一組で行動することを最低限にさせた。

 潮干リエと黄肌潮ペア。磯野マキと磯野カメペア。

 それぞれが三つずつメモした紙を持った。

 それでも、那智の手元に余っていた。

 皮剥実は、保護。

「なんで!」

 己を指差して、声をあげた皮剥実。

 八爪目那智から視線を送られて。

「だって君、“お勤め”の“鱗の娘”じゃん。当然、保護対象でしょ」

「こんなの嫌です。教団と学会の監視から、父さんと母さんを解放したい!」

「それでもなんだ。あなたの置かれている状況は把握しているけれど、相手の伝達も早い。そっちが単独で抵抗していると分かられたら、町のご両親がなにをされてしまうのか、考えてみてくれ」

 高圧的だが、決して脅しではない那智の言葉。

 これを理解した皮剥実は、目に涙を浮かばせたまま口を結んでいった。隣の姉に目を流したあとに、銀髪の長身美女へと微笑んだ八爪目煉。

「ごめんなさいね、うちの姉が厳しくて」

「え……、いや……、その……」

 これを見た皮剥実が、ほわほわしだした。

「じゃあ、僕はみのりさんの保護者になる。ということなら、どうですか?」

 斑紋甚兵衛も手をあげて、提案してきた。

 ギョッ!とした顔で、茶髪の美青年を見た皮剥実。

「保護者てなによ! 君と私、同じ年でしょうが!」

「まあ、いいじゃないですか」

 ニコニコしながら那智の手元からメモ紙を二枚引いた。

 当然、抱いた疑問を甚兵衛に投げていく。

「甚兵衛。お前、格闘してたっけ?」

「その経験はないですけれど、力の加減をして生活はしていましたね」

「…………。大丈夫か?」

「大丈夫ですよ」

 眩しい笑顔で美人上司に返していった。

 次に那智は、雷蔵と響子を見た。

「お前たちは、なにかやることがあるのか?」

「ごめんなさい。私たちこれから、摩魚まなさんの退院を迎えに行くんです」

 雷蔵がなにかを言おうとしたところを、遮断してきたミドリが申し訳なさそうに言葉を挟んできた。このひと言により、場の空気がたちまち不可解な雰囲気へと包まれた。そんな中で、なんだか気まずそうになっていた雷蔵と響子。リエと黄肌潮は、驚きつつも話し出した。

「ちょっと待って。摩魚ちゃんって、世間じゃ誘拐されていなかったっけ?」

「そうそう。あたしとリエ、先週その子に会ってきたばかりだったなんだけど。どういうことよ?」

 この質問に、雷蔵は答えていく。

「誘拐されているのは、有馬虹子さんです」

「はあああ!」

「ええぇ!」

「うそおお!」

 リエ、黄肌潮、そしてタヱらが驚愕していった。


「雷蔵。どういうことか、詳しく説明しろ」

 八爪目那智が、後輩に厳しい眼差しを向けて促した。



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