虹色の共鳴 part 5
1
場所は変わって、長崎大学。
こちらも同日、同じ時間帯。
昼前になる。
虹色の共鳴の話しはまだ続く。
漫画研究部の摩周ホタル。
構内の医務室のベッドで目を覚ました。
ちょうど、長崎大学の在校生の盗撮常習者の深沢文雄と片倉裕美が今朝に逮捕されたことを受けて、マスコミからの取材に受け答えしたあとのことだった。もちろん、被害者として体験を簡潔に語った。他にも被害にあっていた女子生徒たちも、ホタルと一緒になってメディアに発信していったわけだ。本人はあまり自覚していなかったが、摩周ホタルはニュース映像で地上波デビューをした。後ろめたいことなど1ミリもなかったので、顔出しオッケーである。一度目の共鳴のあとに盗撮や嫌がらせなどの被害を受けた者の内ひとりとして取材を受けて、直後の二度目がきた。これにより意識を飛ばして、ホタル深い深い海の底を見てきたことを体験。自身と姉のヒメが今までに生贄として見送ってきた虹色の鱗の娘たちに会ってきた他に、もうひとつ、それは、ホタルを含めた七人の新世代螺鈿の巫女が集まって虹色の光を瞳から放っていったのちに龍のような魚のような怪獣を呼び寄せたところで目が覚めたのだ。しかもこの虹色の怪獣を呼び出す夢は、過去にも幾度となく見てきた。夢の中の七人の螺鈿の巫女たちの顔はハッキリと覚えており、ひとり目はもちろん摩周ホタル自身、二人目は生贄になったはずの潮干ミドリ、三人目も同じく生贄だった海淵真海、四人目も生贄にされたはずの黄肌有子、五人目は浜辺亜沙里、六人目は海原摩魚、そして最後の七人目はミドリと同じ黄金色の髪の毛と緑色の瞳を持った美しい娘であったが、誰であるかは見当がつかなかった。いずれ誰かは分かるだろうと考えて、ホタルはそこまで気にとめることはせず。
少し痛みを覚える身体を起こしていき、ベッドに腰をかける格好をとった。そのあと、目の前にいたのは、ホタルを心配そうに看ていた漫画研究部の間嶋聡子と歴史研究部の石神里美はもちろんのこと、他には古武術部の臨時顧問の櫛田美姫と部員の秋富士恵美、そして民間伝承などを研究している有馬哲司教授までも同席していた。これを見たホタルは、たちまち濃い稲穂色の瞳に涙を浮かべていく。
「ありがとうございます」
感動に震える声で頭を下げた。
そして頭を上げて、みんなに小さめな鈍色の尖った歯を見せて笑みを浮かべていく。
「きゃわ」と、石神里美。
「きゃわん」
間嶋聡子に続いたあと。
「きゃわわ」
最後は秋富士恵美が顔を緩ませた。
「うふふ」
鈴の鳴るような声で目じりを下げていった櫛田美姫。
安堵して軽い溜め息をついた有馬哲司教授。
そんなとき、ドアが開けられて新たな人物が医務室に入ってきた。それは、この部屋の中にいる面々ので一番巨大な“人”である。有馬教授は百八〇センチ以上の身長だが、入ってきた者はそれを上回る身の丈で、二メートルを有していた。鍔の広い黒色の日除け帽を取って、ホタルを除いた五人へと向けて会釈をしていく。そして面を上げて、ベッドに腰かけているホタルに笑みを見せた。
これを目にしたとたん、ベッドから跳ね上がって立った。
「母さん!」
「大変だったわね、お疲れさま」
微笑んでこう労った女性は、摩周ホオズキだった。
膝下から太腿まで両サイドにスリットの入ったノンスリーブの白いワンピースに、肩まである黒い長手袋と太腿の半分まであるヒールの付いた黒いロングブーツという、ホオズキが愛用している外出着姿。骨太で細身とは言えないが、かと言って決して肥満体型ではない。二メートルの身長に見合うグラマラスな体型であり、豊かな胸の膨らみと腰回りをしていた上に、腰はキュッとほどよく引き締まっていた。俗に言う、ダイナマイトボディの持ち主。ちなみに、胸の大きさは龍宮紅子を超える豊かさである。腰まである黒髪を七三分けにして、襟足のあたりから大きめなソバージュをかけていた。
我が娘、ホタルのもとへと歩いてきた。
「母さんビックリしちゃった。あなた、地上波デビューしたんだもの」
「エヘヘ。たまたま私のところに来たから、取材を受けたんだ」
照れくさそうに笑みを浮かべて、後ろ頭を掻いていく。
ヒメとホタルが虹色の光りを出したと連絡を受けて、二女の方へと飛んできた。長女のほうはこちらに任せてと尾澤菜・アメテュスト・プルートから聞いたので、彼女に託してマットホワイトのキャデラックですっ飛ばしてきた。大柄なホオズキには、このオープンタイプのアメ車が向いている。そうして、戸町を経由して長崎大学へと飛ばしていたときである。
「ああ、そうそう。ちょっと前に雷蔵くんの車とすれ違ったんだけど。私が手を振ったら彼も後部座席の響子ちゃんも手を振ってくれたと思ったらね、助手席にいたミドリちゃんの幽霊からも笑顔で手を振られたんだけどさ。運転しながら心臓止まるかと思っちゃった。ーーーひょっとして、雷蔵くん取り憑かれた?」
「やっっば。めっっちゃ怖いんだけど」
ホタルが目を見開いて母親に突っ込んだ。
「ていうかミドリさんは消えたんだよ」
「なら、死んでいないかも」
「“消えた”なら、まあ」
「ヒメが話していたことが本当なら、私が見たのはオバケじゃなかったのかもしれないわね」
「精神……体、ってとかなんとか姉さん言ってたけど」
と、口を強く結んで後ろ頭を掻いたあと手を下ろして。
「あんまよく分かんないや。ーーーシナリオのネタにはなりそうだけど」
小さめな鈍色の尖った歯を見せて笑った。
生まれつき烏賊の触手が両脚だが、摩周ホタルは“普通の女の子”であった。そして、ホオズキの手が娘の頭を優しく撫でていく。
終わったあと手を放して柔らかな笑みを浮かべた。
「ねえ、ホタル」
「なあに?」
「夢を見たんでしょ。みんなで螺鈿様を呼び出す夢」
「もう何回目かな? 途中から数えるのが面倒になっちゃった。でも、今日のが今までで一番鮮明で人数もハッキリ分かったの」
「見たままのことを話してごらんなさいな。あなたを心配してくれた、こちらの皆さんも知りたがっているわ」
「いいのかな?」
「いいのよ」笑顔。
後ろの横に並んでいる五人に顔を向けて、ウィンクをした。これを見た間嶋聡子が、瞳をキラキラさせてひと言。
「相変わらず素敵なお母様ですね」
「あらー。ありがとうね」
こう礼を返して、再び娘を見た。
「ほら、聡子ちゃんたちも聞きたいって言っているわよ」
「そうだね。そうするよ」
笑顔で母親を見上げた。
2
「変な夢だったなあ」
「どんなふうに変な夢だったの?」
ベッドから生体電気信号感知車椅子へと腰を移らせながらこのように洩らしていく摩周ホタルに愛らしさを感じた石神里美は、ニコニコして質問した。
「んーとね。まず、摩魚さんがセンターなの。そして両側に、ミドリさんと亜沙里さんと有子さんと真海さんと私と…………あとひとり、ミドリさんにそっくりなとっても綺麗な女の子だった。その人まで入れて七人」
「摩魚ちゃん、センター確定なんだ。やっぱキャンパスのアイドルは伊達じゃないのね」
と、感心をしつつ。
「それで?」質問続行。
「それでねー。私たち七人が虹色に目を光らせたときに、なんかデカイ魚のような龍のような怪獣が現れてきてね、ダゴンとハイドラに組み付いて暴れだしたんだ」
「なにそれ? ホタルちゃんたちが呼び出したの」
「そうみたい。夢の中ではだけど」
そう返して、続けていく。
「あとはだいたい、そこで目が覚めるんだ」
「突然の打ち切りね」
「あんまりだよね」
ホタルのこの言葉は、さあ!今から最終バトルが始まるぞ!から急にリモコンでテレビ映像を切られた気持ちであった。不満になるのも、しょうがない。そのような若い娘たちの微笑ましい姿を親目線で見ていた摩周ホオズキだったが、先の言葉が気になったので口を挟んでいく。
「ねー、ホタル」
「なーに?」
「さっき言っていた、ミドリちゃんにそっくりな女の子ってさ、それもうタヱちゃんじゃないの?」
「やっぱそうかな?」
「そうでしょ。ーーーちなみに、その子は夢の中で黒いお洋服着ていたかしら?」
「うん。黒いツーピースで上はブラウスと下は長めのプリーツスカートだったよ」
「ほら。やっぱりタヱちゃんなのよ」
「でも、いつもの黒いワンピースじゃなかったよ」
「お洋服は変えるでしょ」
「それもそうかな」
小さめな鈍色の尖った歯を見せて、笑顔になる。
そんな娘に「うふふ」と目じりを下げたあと、ホオズキは話し出した。
「そうそう、話しは変わるけれど。亜沙里ちゃんがね、先週完全に解放されたのよ。あと、一昨日は虎子ちゃん」
「解放されたって、マインドコントロールから?」
「そうよ。ーーーそして今日は、“お勤め”の送迎に“お肉屋さん”の女の子たちと玲子ちゃんが行ってくれているから、これはなにかありそうよ」
「なにかって、なに? まさか、連鎖反応でも始まるの?」
「始まるんじゃないかしらね」
そう返したホオズキは、うふふと愛娘に微笑みを向けた。




