***㈦大浴場の惨劇と焼き鳥㊀***
その日の晩はホテルに泊まってもらうことにした。
エレベーターに乗ったら滑車が壊れたらどうするのだとか、縄を引いている人たちが奴隷のような扱いを受けていないか後で調べないといけないだとか、越前さんったら色々と煩くて仕方なかった。
そして自動ドアが開きたり閉じたりするたびに、“新しい忍法か⁉”とか訳の分からないことを言って驚くし、もうバカバカしくって付き合っていられない。
部屋に案内すると、今度は水道の蛇口から水が勝手に出て来ることに驚いたので、聞かれる前に建物の屋上に水の入った大きな桶があってそこから筒を伝って降りてくるのだと言うと、屋上へ水を運ぶのに子供たちを労働させているのではないかと心配しだす。
良い人なのは分かるけれど、常識が無さ過ぎる!
その点、こういう時に何を考えているのか分からない、お気楽なヨッシーの方が楽。
「このチェーンの付いたゴムで風呂桶の底にある穴を塞いで赤い色の付いた蛇口をひねればお湯が出ます。熱い時は水色の蛇口をひねると冷たい水がでますので、この2つの蛇口を使ってお好みの温度に調整してお湯に浸かってください」
「簡単じゃのう」
さすがヨッシー、物分かりが早い!
「それで、俺の体は楓が洗ってくれるのか?」
「はぁ?なにそれ、なんで私がヨッシーの体を洗うの?」
「普通は洗うだろう?」
「意味わかんない!」
「コレ楓、上様に対してなんて無礼な!」
「上様じゃないしー!今はヨッシーだしーっ!そんなに人に洗って欲しければ越前さんに洗ってもらいなさい。じゃあね~!」
バタンとドアが閉まり、楓は部屋を出て行った。
仕方ない。
将軍の入浴と言えば、必ず大奥の次女たちが着替えから入浴、そして風呂から上がった後に体を拭いたり服を着せたりと、お世話をするのが当たり前の世界。
さすがにソレを楓に断ら得て落ち込んだのか、しばらくヨッシーはベッドに寝転がり静かにホテルのパンフレットを眺めていたが、急に起き上がると越前に“最上階に良いものがあるぞ‼”と言うなり部屋を飛び出して行った。
いきなりヨッシーが出て行ったので、越前も慌てて後を追う。
エレベーターに乗って最上階に着くと、そこには「大浴場」と書かれた看板。
「楓のやつ、このような良いものを我々に隠していたのか」
ヨッシーが苦々しい顔で言いながら着物を脱ぎだしたが、越前はこの場所を楓が我々にワザと教えなかったことに不安を感じていた。1
「いや、楓殿には楓殿なりの思惑があったのだと思われます。ですからここは部屋でおとなしくしておいた方が寛容かと……」
心配性の越前の言葉も聞かずにヨッシーは、ふんどしを脱ぐとスタスタと洗い場の中に入って行き、越前も後を追った。
広い洗い場には他に何人もの客が居た。
掛湯をして、体を洗い湯船に浸かる。
「やはり、いいのう。風呂が広いというのは」
「は、はあ」
さっきまで居たハロウィンで賑わう街の中とは違い、着物にチョンマゲ姿のヨッシーと越前は目立ちまくっていて周囲の注目を集めまくっていた。
そしてその中には酔った客もいた。
ヨッシーと越前が大浴場の湯船に浸かり、寛いでいるときに事件は起きた。
あろうことかその酔っ払いが、いきなり2人の傍に近付き「本物なのか?」と言ってヨッシーのチョンマゲを掴もうとした!
「無礼者‼」
さすがにこの行為にはお気楽なヨッシーも眉間にシワを寄せて叫んだが、その声よりも一瞬早く越前が酔っ払いの伸びた手首を掴み「えいっ‼」と、ばかりに振り回し、酔っ払いを頭から湯船の中に沈めた。
「チクショウ!何しやがる!」
「戯け者‼ 上様の髷に手を掛けようとするとは、何事だ!」
越前が愚か者を窘める。
「うえさまぁ? お前ら、いつまで成り切ってんだよ」
「だいいち、上様がこのような所に来るはずがないじゃん」
「この上様の名を騙る不届き者め」
「たとえオメーが本当の上様でも構わねえぜ」
悪いことに酔っ払いには、風体の悪い何人かの連れがいてヤル気満々。
「いたしましょう?」
素直に言うことを聞きそうにないので、越前はヨッシーにお伺いを立てるとヨッシーは眼光鋭い目で「越前、成敗いたせ」と言って大浴場大喧嘩の幕は切って落とされた。
いっぽう楓もその頃、となりの大浴場(女風呂だよ)に浸かっていた。
「はあ……私って、やっぱり駄目ね」
湯船に浸かりながら溜息を漏らす。
折角いい雰囲気だったのに、いちいち細かな心配をして私に聞いて来る越前さんにイラついたり、ヨッシーに体を洗うのは私かと尋ねられて慌てて部屋を飛び出したり……。
大浴場は偶に酔っ払いが居るから使わないようにとか、部屋のドアがオートロックだからカギを持たずに部屋を出てはいけない事とか、他にもいろいろマダ伝えていない注意事項があったのに……。
まあ越前さんがあれだけ色んなことにビビっていたから大丈夫だとは思うけど、今日はこのホテルにラフプレーで有名な岸和田工業のラグビー部員が泊っているから……。
「キャーッ‼」
明日は午前6時の予約投稿になります(^▽^)/