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   ***㈤奇天烈な世界へ***

 次の襖を開けると、急に眩しい光が差して、目の前が真っ白になった。

「楓、これは何と言うことだ!?」

「新しい見世物の始まりに御座います」

「楓!我々をたぶらかす魂胆ではないであろうな‼」

「ふふふっ、それは、どうかしら……」

「おのれ妖怪変化!この越前が成敗して遣わす‼」

 越前になった忠相が刀を抜こうとしたそのとき、急に視界が開けヨッシーと越前は言葉を失った。


 目の前に現れた世界。

 空に輝いていた太陽は既に沈み、空は真っ黒になっていた。

 しかし、その夜空に見えるはずの無数の星々は殆どが見えず、周囲は煌々と明かりに照らされていた。

「祭りか……」

 能天気なヨッシーでさえ、そう言葉を発するのがやっと。

 それもそのはず、ここは見世物小屋に相応しく、2人が見たこともない世界が目の前にあった。

 見たこともないくらい背の高い墓石が立ち並び、その墓石には何やら光る札が沢山つけられていて、地上に目を戻すとそこにはいかにも面妖なモノノケたちが所狭しと犇めき合っていた。

 或る者は棺桶から抜け出してきた死人の様ないでたちをし、また或る者は身分の高い朝鮮人が被っているカッに似た背の高い帽子を頭に乗せていて、多くの女どもは粗末な夏用のふとんを体に巻いただけで、脚を露わにしていた。

「これは何事だ?」

 あまりの光景に言葉を失っている越前に代わり、ヨッシーが楓に聞いた。

「今宵は10月最後の日を祝うお祭りに御座います」

「祭り、とな!……死者の祭りか?」

「いいえ、みんな生きていますよ」

「生きている」

「狂っているのか!?」

 ようやく越前が口を開いた。

「みんな普通ですよ」

「死者も居るし、あの丈の短い粗末な格好をした女どもは一体何者だ!?」

「学生とかOLとかじゃないですか」

「学生? 欧得る?」

「彼らは噛みつきもしませんし、流行り病も持っていません。こちらから危害を加えなければ、おそらく先方から危害を加えることもありません。さあさあヨッシーも越前さんも、お祭りの輪に加わりましょう!」

 楓に言われて越前は目を凝らして様子を見なおしたが、輪に加わると言ってもどこにも踊りの輪は出来ていないばかりか踊る姿さえ見えない。

 ただ面妖な者どもがゴチャゴチャ居るだけ。

 これが祭りと言えるのだろうか?

 祭りの中心には必ず神事があって然るべきはず。

「Hi, that's a nice cosplay by the shogun. Let's take a photo together!」

 急に見ず知らずの者に何か訳の分からない言葉を掛けられた。

 何者かと思って振り向くと、白い顔をした恐ろしく背の高い男女がこれまた変な格好をしていた。

 “こやつ伴天連か!?”

 幕府では伴天連によるキリスト教の布教活動を禁止している。

 まさか江戸に潜伏しているとは思いもよらなかった。

「成敗してくれる!」

 越前は、ご政道を守るために刀を抜いた。

「ちょっと待って、待てって、越前さん‼」

 慌てて楓が止めに入る。

「離せ楓、鎖国禁止令をも破り江戸に密入国した伴天連を前にして、法を守る立場のこの大岡越前守忠相、見過ごすことは合いならん!」

「伴天連じゃないよ。この人たちはキリスト教の布教活動のために江戸に来たのではなく、観光を楽しむために来たただの外国人なのよ」

「ただの外国人とは?」

「Where did you come from?」

「I'm from California. Otani is the best! Yay‼」

 楓が変な言葉を使って相手に話しかける。

 楓が亜米利加の加利福尼亜から来たそうだと伝えた途端、何やら分からないが大喜びの外国人が、いきなり楓を押し倒そうと両手を前に突き出した。

 越前は楓を守るために慌てて前に進んだが、越前が楓の前に出る前に楓は同じように両手を突き出して相手の攻撃を押し返してパチンとお互いの手が鳴った。

 “25貫(約94㎏)も有ろうかという大男の突きを一瞬で突き返すとは、この楓と言う女ナカナカの者……”

 外人が言い、楓が返す。

「Oh! wonderful. Japan's best!」

「Please enjoy it!」

 言い終わった次の瞬間に外国人は左右左と平手打ちを繰り返し、楓もそれに対して相手の手を平手打ちで返し、最後はげんこつ同士ぶつけ合う。

 だが2人の喧嘩は、何故かフェアーで楽しげに見えた。


「Who is that person? Ieyasu? Or Yoshinobu?」

 楓を守るために上様の傍を離れた隙をついて、その外国人の連れの女が許可も無しに勝手にヨッシーこと吉宗に話しかけていた。

「俺は吉宗だ」

 ところがヨッシーは気分を害することもなく、相手と互角に話した。

「Oh! Yoshimune! It's Abarenbou shogun!」

「おお、よくこの吉宗のあだ名まで知っているとは驚いたな」

「nice to meet you. Mr. Yoshimune, I am very happy to meet you!」

「楓、通訳いたせ」

「はい。“はじめまして。 吉宗さん、お会いできてとても嬉しいです!”と言っています」

「なんと返せばいいのだ?」

「“ミーツ―”で宜しいかと」

「オー!ミーツ―!ミーツ―!」

 ヨッシーはスッカリ外国人と打ち解けて、なにやら長い棒の先に蒲鉾板のような物を付けて伸ばしたかと思うと、いきなりその蒲鉾板が光った。

 なにがあったのか分からないで、あとで楓に聞いたところ写真を撮られたのだという。

 しかし我々には写真と言う言葉の意味が分からなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あー…スマホにアメリカ人…でも、たった百五十年でこんなにこの国はいろんな人が訪れるでかい国になったんですよね…。あと百五十年先、うちらはどうなっているのでしょう。なんとなくなろう作家の何人か…
2023/10/14 01:30 退会済み
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