5、陰陽師試験①
土御門夢乃は怯えていた。余裕だった陰陽師の国家試験。そこにとんでもない怪物が現れたのだ。“東十条和人”。SSR級の役小角とS級のシャドウデーモンを従える少年の顔をした化け物。しかも和人は動画配信を始め、その登録者は十万人を越えている。
夢乃は深呼吸する。隣に妹の綾乃がいた。綾乃も怯えたように姉を見る。
「棄権するわけにはいかないわ。土御門家の家名に泥を塗ってしまう」
「……そうね。お姉ちゃん。逃げたら土御門家の恥さらしよね」
二人は頷き合う。勝つ見込みなどない。ただ逃げることも彼女たちのプライドが許さなかった。
和人は一次試験の式神召喚、二次試験の筆記試験もトップで通過した。呆気ないものだ。和人はつまらな過ぎて欠伸をしてしまう。
「ああ、和人様ぁ。奴隷になりますのでお許しくださいィ~~~~」
対戦相手の三善美咲は涙を流しながら、土下座して許しを請うた。彼女の足に猫がすりすりと顔を擦りつける。棄権だ。和人は舌打ちをする。あまりにも相手が弱すぎる。もっと骨のある相手はいないのか、と……。
「もう五人目の棄権だ。つまらん」
和人の視線はVIP席にいる制服の土御門遥に向かう。極悪人として知られる策士で父親の恋人だった時期もあるという。和人の母親追放のために裏で動いていたとも言われる。
(捕えて尋問したいな)
和人の思いが通じたのか、遥はニコニコ笑うと手を振ってくる。
食えない女だ。和人はくるりと踵を返す。今日の試験は終わった。和人はホテルに戻って次の試合に備えることにした。
『夢乃たんも綾乃たんも可愛い』
『姉妹のどっちがタイプですか?』
「そうですね……どちらかといえば、姉の方でしょうか。胸の大きな女が好みです」
『正直だなwwwww』
「隠すことではありませんよ」
和人は動画配信しながら、視聴者の質問に答えていく。和人の後ろではシャドウデーモンと役小角がトランプのババ抜きをするシュールな光景が広がっていた。