3、転生陰陽師、バズる
動画配信者である大友桃華はS級モンスター対役小角の戦いを撮影していた。桃華は元アナウンサーだ。視聴者からのタレコミを元にS級モンスター、シャドウデーモンの目撃情報を得て、現場に駆け付けたところだった。
桃華は驚きのあまり、硬直していた。役小角といえば、伝説の修験者である。S級かSS級の式神だろう。
しかも襲われているのはアイドルグループのエンジェル倶楽部の人気アイドル・黒崎杏だ。動画配信者としても力を持つ杏はインフルエンサーとしての影響力は申し分ない。
桃華はすぐにネット上に動画をアップした。
再生数はすぐに一万を越えた。桃華はほくそ笑む。桃華のチャンネルは登録者一万人程度。自分の容姿に自信のある桃華はもっと上を目指したかった。そこに美少年陰陽師が現れた。品の良いお坊ちゃまでクールな少年。刺々(とげとげ)しい物言いだが、そこがまたいい。
「ウフフ。女子が放っておかないでしょ」
時間が過ぎると、SNSでは切り抜き動画が流行っていた。シャドウデーモン対役小角などそうそう見られるものではない。
トレンドは一位となり、動画の再生数は一千万回を越えた。人気アイドルの杏を助けた謎の陰陽師は日本中の話題になった。
陰陽師庁。政府により設立された役所では陰陽師協会の副会長である土御門遥が長官室を訪ねていた。
学生服を着ている遥だが、夫も子供おり、年齢は四十歳を越えている。ただ見た目は十代と間違われくらい若い。
対して陰陽師庁長官の三善重次郎は九十歳近い高齢でこれといって実績のない人物だった。老害と陰口を叩かれることの多い老人は遥を睨む。
「この小童、化け物だな」
「惟宗のところの嫡男ですよ。ほら、追放された清美ちゃんの」
惟宗家は陰陽師の名家だ。嫁である清美が追放された時に心配してついていったという嫡男。
「ふむ……」
「今度の陰陽師試験に招きましょう。きっといい客寄せパンダになってくれるでしょう。ついでに生意気な私の娘たちをボコボコに打ちのめしてくれると助かるのですが……」
そう言って遥が笑う。重次郎はスマホの画面を見ながら、ふっと息を吐いた。