1、女子高生の依頼
少年の名は東十条和人、高校一年生になる。和人は転生者であり、前世では罠に嵌められ、殺された。かつてトップクラスの実力者だったこともあって、和人の実力は申し分ない。
「あの、こっちです……」
制服姿の美少女が和人を案内する。同じ高校の先輩である田所美紀、三年生で帰宅部になる。美紀の後ろには和人の母である東十条清美がいた。三十四歳とは思えぬ肌の白さ、胸は大きい。清美の色気に大抵の男たちは鼻を伸ばす。共に歩いていると和人の妹に間違われるほどの美しい容姿を持つ清美だが、陰陽師としての仕事はほとんどなく、事務所は赤字続きだった。
「グォォ」
ズシンっと地鳴りがする。十五メートルほどの巨体の鬼が現れた。鬼が棍棒を叩きつける。
和人はすかざず、美紀を抱えて逃げる。清美は逃げ遅れてガタガタ震えていた。和人は母を見捨てて、走り出す。
のどかな風景が広がっていた。見渡す限り畑や田んぼが広がっている。
和人は美紀を降ろした。美紀が青い顔して、胸を上下させる。どうやら深呼吸をしたようだ。
「和人君、お母さんは良いの? あのままでは殺されてしまうわ」
「いや、その心配はありませんよ。先輩」
和人は札を放つ。美紀は尋常ではスピードで田んぼに飛びのいた。
「いつから気づいていたのよォ、このクソガキぃ!」
二本の角を生やした美紀が怒りの形相で吠える。
「気づいてなどいない。試しただけだ」
美紀の体が固まった。地中から手が出て足が捕まっている。
「その様子じゃ、本当の田所美紀を殺して成り代わったのか?」
骸骨に羽交い絞めになった美紀はせせら笑う。
「アハハ! 私は本物よ! ただアンタを殺すように頼まれただけ!」
「ほう、では躊躇なく葬れるな」
鈍い音がして、美紀は宙を舞った。和人は冷徹にそれを眺めていた。