ヲタッキーズ118 ハッカーの敵はハッカー
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第118話「ハッカーの敵はハッカー」。さて、今回は秋葉原で共に異次元人による家電強盗団と自警団が血で血を洗う抗争劇を展開w
互いに高度なIT知識を駆使して死闘を繰り広げますが背後に地下アイドルTOの悲しい死とサイコなハッカーの存在が浮上した時、ヲタッキーズは…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 前衛団、前へ
東アキバ高校のコンピュータールーム。深夜。無人の教室にズラリと並ぶPC。全台、アプリのインストールで稼働中。
「貴女は右、貴女は左からょ。1台も漏らさないで」
全身黒装束の女達が現れ、PCのコードを抜き片端から盗んでいく。恐るべき手際だが…突然ライトに照らされる。
「そこまでだ!全員動くな!」
「ヤバい!ズラかれ」
「コッチょ。早くして!」
黒装束の女達は、盗んだPCを捨て、真っ暗な廊下へと飛び出す。ところが、ソコで再度ライトに照らされるw
「逃げられないぞ!ソコに膝をつけ。両手は頭に!」
「ア、アンタ達…警察じゃないね?何者なの?」
「ヲタクを守り一般人を裁く…」
黒装束の女達の目鼻口に次々とガムテープが張られて逝く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝。東アキバ高校の体育館。続々パトカーが集まる。
「あ、テリィたん。前代未聞なのょ」
「ラギィ、ただの不法侵入だろ?"リアルの裂け目"と関係あるのか?何でもかんでもSATOを呼ぶなょ」
「ちゃんと"アンチ異次元人の自警団"が絡んでる。ヤタラややこしいんだから」
ラギィは万世橋警察署の敏腕警部。南秋葉原条約機構はアキバに開いた"リアルの裂け目"からヲタクを守る防衛組織だ。
「2ヶ月で5件目よ。被害者は、いずれも似通ってる」
「コイツらがパソコン強盗団?」
「YES。毎回実行犯は入れ替わるけど今回は全部で5人」
後手に縛られ体育館に車座になってる5人の黒装束の女。
駆けつけた制服の警官隊に囲まれて 大人しくしている。
「全員"blood type BLUE"、異次元人の女子です。25才から35才までの腐女子で、推しのジャンルはバラバラ。いずれもストリートギャングとは無縁です。所持品は、ピッキング用具にバール、ケーブルカッター。バッグには盗みかけた学校のPC」
「まるでラギィへのプレゼントみたいな連中だな」
「ヤメてょ。ライトや手製の手榴弾で武装した自警団が待ち伏せして縛り上げたんだって。ソンなお友達いないから」
体育館の壁に"前衛団"の殴り描き。鑑識が写真を撮る。
「グラフィティを描き残すのか?"前衛団"って何?美味しいの?」
「情報も手がかりもナシ。ただ、フロアにスマホが落ちてたのょね。コレなんだけど」
「思い切りワザとっぽいな」
ビニールの証拠品袋に入ったスマホを見せる。
「"前衛団"が落としたのかな?」
「昼間の高校生が落とした可能性もアルわ」
「ドッチにせょアイツらよりは役に立ちそうだ」
僕は、完全黙秘を続ける5人の腐女子を顎で指す。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の鑑識センター。
「ラギィ警部。MINとESNが消されている」
「ソレ地上波のTV局?」
「スマホの電話番号と製造ナンバーのコトです!」
メカニックに怒られるラギィ←
「番号はともかく、スマホの識別番号の消去は高校生には不可能ですょ。今回の連中、ヤタラITに強そうです」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同じく万世橋の取調室。ラギィ自ら黒装束を取り調べる。
「算数は出来る?せめて足し算はOKでしょ?盗んだパソコンの値段を足せば、アンタ達は重窃盗罪だから」
「でも、初犯だから保護観察。刑務所には入らない」
「へぇ誰に聞いたの?確かにアンタ達はボスには見えない。パシリね。でも、パソコンの在り方や防犯アラートの解除方法をチャンと知ってた。貴女達のボスは誰?」
若い2人の年長ポイのが年少を脅す。
「黙ってるのょ何も話しちゃダメ」
「お姉ちゃんコワーイ。お隣の部屋で私と話そう?お姉ちゃんが今後どーなるカモ教えてあげる」
「ヤメて!痛い目に逢うだけょ!」
早くもお姉ちゃんの方はパニックw妹はもっと動揺←
「や、や、やっぱりアタシ、何も知らナイ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マジックミラー越しの取調室の隣室。
「あらぁラギィがお子ちゃま相手に手こずってるわクスクス」
「誰かに脅されてる。マニラから戻った"ルフィ"かしら」
「でも、親と弁護士が押し掛けて来てる。残念だけどゲームセットだわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
超天才ルイナのラボ。
史上最年少で首相官邸アドバイザーとなった車椅子の超天才のラボは、警備の都合からSATO司令部に併設されている。
「コールドブートアタック?一昔前に流行ったブートキャンプ的な何か?」
「全然違う。通常はアイスマンアタックと呼ばれてる。スマホのSIMカードを抜くと普通はデータは消える。でも凍らせると…」
相棒のスピアが万世橋から送られて来たスマホの基盤に冷凍スプレーを吹きかける。たちまち真っ白に霜を噴く基盤。
「コレで数分間はデータを読み取れるの。いずれ消えるけど何分間かは生きてるわ」
SIMカードをピンセットで抜きリーダーに差し込みメモリを読ませる。傍らのPCに一斉にデータが表示されて逝く。
「ほらね」
「うまくいったの?」
「モチロンょ」
超天才だけど浮世離れしてる超天才ルイナにとって、ストリート育ちのハッカーであるスピアは貴重な相棒だ。
「コレをスマホ会社の識別番号データベースと照合すれば、オーナーの名前と住所がわかるわ」
「で、スマホ会社の識別番号は何処からゲットする?」
「今からハッキングするトコロ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原のクリーニング屋。
「お待たせしました」
クリーニングしたシャツをニコやかに顧客に渡す店主。だがドアの向こうに銃口がチラ見えバットを取り出し構えるw
東秋葉原は、アキバのダウンタウン←
「さぁ来い、ギャングども!万世橋には通報したぞ!直ぐにパトカーが来る!」
「万世橋警察署!万世橋警察署!お前こそバットを下ろせ!」
「もう来たのか?早過ぎるだろw」
短機関銃を構えた制服警官が1ダース突っ込んで来て、慌ててホールドアップする(真面目なw)クリーニング店主。
「バイラ・ローバ?」
「違う。俺が老婆に見えるか?」
「奴は何処にいる?」
突入隊長は、容赦なく短機関銃を突きつけるw
「おまわりさん、絶対に何か誤解してるぞ」
「あのな。このスマホはローバのモノで、強盗現場に落ちてたんだ。かくまうとお前も同罪だぞ」
「同罪って…親との同居は罪なのか?バーちゃん!スマホはどーした?何処かに落とした?」
ホールドアップしながら、思い切り裏に向かって大声で怒鳴る店主。文字通りの老婆が顔を出す。
「ココにアルわょ」
真っ赤な携帯を取り出す老婆、いや、ローバ。
しかし、真っ赤?還暦のチャンチャンコ的な?
「貴女がバイラ・ローバ…さん?」
「ハイ。スマホは肌身離さず持ってメールしてるわ」
「バーちゃんはスマホ中毒ナンだ」
警官隊は一斉に銃口を下ろす。
「クローンスマホだ。やられた…お騒がせしました」
「お騒がせ?それで済むか!」
「苦情はコチラまで」
明らかにテレ隠しでビシッと全員で敬礼をキメ、足早に立ち去る完全武装の制服警官1コ小隊w
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜、ヲタッキーズは殺人現場にいる。ヲタッキーズは、スーパーヒロイン集団でSATO傘下の民間軍事会社だ。
警官から話を聞くのは、ヲタッキーズの妖精担当エアリとロケットガールのマリレ。因みに2人ともメイド服だ←
「昼過ぎからウチのラボにクリーニング屋をやってるクレーマーからガンガン苦情電話が入ってるけど、何か聞いてる?」
「いいえ。私達現場は何も…ところで!別のヲタク窃盗団が神田松永町の家電量販店を襲ったようです。今回は、ついに死人が出ました」
「自警団の1員?家電強盗団を捕まえようとして、返り討ちに遭ったのかしら」
黒いパーカーの背中に白く"前衛団"の文字。胸を2発撃たれている。即死だ。
「アレを見て」
壁のグラフィティは"前衛団5 私達1"とアル。
「どーやら対立の構図が出来上がったみたいね」
第2章 もう1人の天才
万世橋に捜査本部が立ち上がる。
「死亡した"前衛団"はピタハ・サウイ。22才大学院生。システム工学を専攻。ご両親は"前衛団"のコトは何も知らないようです」
「他の"前衛団"も狙われるわ。大至急"前衛団"のリーダーと拠点を探らなきゃ。そーすれば対立の構図を解明出来るわ」
「警部。おかしなコトに、学校に侵入した一味は、全員同じ地区の出身です。TX沿線の北千住にあるマグロ通り」
アキバが世界的に有名になる一方で、北千住の街はスッカリ寂れ、繁華街は見る影もナイ。
ソンなこんなで、北千住関係者には、アキバに強いコンプレックスを持つ者も少なくない。
「北千住の…マグロ通り?回転鮨のメッカか何か?」
「いいえ。この女から取った通称です。グリン・トゥナ。数十の容疑がアル。でも、証拠が出ないのです。目撃者や情報提供者は全員殺されてる。軍隊のように手下を従え24時間体制で自分を守らせてる。統率力のあるイカれた女です。推しが被ったと言うだけで殺された例もあります」
「黒装束の女達は?」
ヤタラ北千住に詳しい刑事に尋ねるラギィ。
「初犯は罪が軽いからと彼女に利用されてます」
「あらあら。トゥナって、まるで在フィリピンの"指示役ルフィ"みたいじゃナイの」
「恐らく"前衛団"は彼女にとり目の上のタンコブですね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。ルイナのラボ。
「専用の解読機を使えば、スマホのクローンを作るのは超カンタン。人通りの多い道路で電波を拾って製造ナンバーや電話番号を片っ端から記録していくの」
「え。うかうかエッチなサイトとか見てらんないな…その解読機を追跡するコトは出来ないの?」
「信号が弱くて無理ね」
アプリ越しにルイナに期待を絶たれラギィは溜め息だ。
「ヤッパリ手詰まりか」
「いいえ。そうでもないわ。恐らく"前衛団"は、高いIT技術で家電強盗団の通信網をハッキングしてると思う。その方法がわかれば、コッチもアクセス出来るわ」
「ソレ、早速やって欲しいの」
ココでルイナの顔色が曇るw
「ソレが、ちょっと、その、えっと…キーワードは深海流集合ナンだけど、その専門家が特別講師としてアキバ工科大学に来てるのょね」
「ハレルヤ!ちょうど良かったじゃない。ルイナのお友達?」
「友達?うーん友達って言うか、何と言うか…」
頭脳明晰な超天才が、急に歯切れが悪くなる。
「友達と言うより…その、ライバル?親の仇みたいな」
「どーしたの?ルイナ、次の死人が出る前に事件を解決したいンだけど」
「わかってるわ。ソレはわかってる。だから、ちょっと話をしてみるわ」
唐突にリモート会議は終わる。クスリと笑う相棒のスピア。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバ工科大学キャンパス。
「ロバトね?ピタハについて話がアルの」
「今度はメイドさんか。さっき警察に全部話したょ」
「そんな。ルームメイトでしょ?」
ルームメイトのロバトは、ごく普通の大学院生だ。
「特に親しかったワケじゃナイ」
「どんな子だったの?」
「孤独だった。でも、俺も忙しくて…もっと話を聞いてやれば良かった。授業やバイトのコトとか」
ピタハの死で自分を責めている様子だ。一方でメイド2人に絡まれ滅多にないハーレム状態に明らかに舞い上がってる←
「最近彼に何か変化はあった?」
「うーん3ヶ月ほど前から外出が増えたかな」
「行き先は?"前衛団"の話とかしなかった?」
"前衛団"というwordにも特に反応ナシ。
「さあね。いつも行き先は言ってなかったな」
「でも…あら?どうしたの?」
「もっと話してやれば良かった!きっと妙なコトに巻き込まれたンだ。死ぬなんて。もう行くょ。ピタハの両親が来るンだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
大学の階段教室。最上段から見下ろすと教壇は摺鉢の底だ。
「…集合論は、当初から空想を含むゲームだと言われてきたわ。ウィトゲンシュタインは、ZF公理系を疑問視し、エレット・ビショップは、神の数学と一蹴している」
ツインテの天才ペンフ・マシャが見上げると…
「じゃ来週の講義のテーマは、非エルミートランダム行列のスペクトル理論ょ。では、また来週。キメラは数学の天才だわ…ルイナ、眼鏡は?」
「マシャこそ、その髪型は?切ったの?」
「アキバ工科大学の学生は、みんな私の講義を熱心に聞いてくれるわ」
車椅子のルイナが話しかける。彼女の外出の常として、周囲は特殊部隊が固め、上空はドローンのスウォームが警備中w
「ソレは、マシャが…魅力的だからょ」
「魅力的と言えば、まだテリィたんと付き合ってるの?」
「え。うん、まぁ元カノ会員としてだけど」←
クスリと笑うツインテのマシャ。
「ホントに?やったじゃない、ルニー」
「マシャ、貴女に頼みがアルの。もし可能なら、勝ち誇った顔をせずに聞いて欲しいンだけど」
「あらあら」
ルイナは車椅子から見上げるようにしてマシャに話す。
「今回の事件について調べて。貴女の深海流集合論から知恵を借りたいの」
「また、私に助けを求めるの?ってか私、勝ち誇ってた?やーね。いいわょ楽しそう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風にしたら、ヤタラ居心地良くて、回転率が急降下。メイド長はオカンムリだ。
「ルイナ、眠れないの?」
「ううん、姉様。ヤタラ面白いの、深層海流集合論」
「ペンフ教授と共同作業になるの?」
車椅子のルイナは、今宵もラボから"オンライン呑み"だ。
「恒例の日曜ブランチだけど、夕食にしない?テリィたんは、昼は礼拝堂に行くみたいだし」
「テリィ様が礼拝堂へ?」
「数週間前から。姉様、聞いてナイの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝の捜査本部。
「警部。昨夜、カーオーディオ店で警報が鳴り、駆けつけたら5人の腐女子が縛られてた。例の事件の一環です」
「過去の類似案件を全て見直してみましょ…あら?コレは何?」
「グラフィティですね」
首都高のコンクリート壁に原色スプレーで描かれた文字。
「ギャングの合図?こんなの見たコトないわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
早速ルイナのラボに持ち込まれる。
「コレなんだけど。何て描いてアルかわかる?」
ラギィが壁の文字を指すと超天才は即答だ。
「部分集合が含まれてるわ」
「え。何ソレ?美味しいの?」
「集合論ょ」
ルイナは近くのホワイトボードに大きな丸を描く。
「この丸は夜空に見える物体の集合。コッチの丸は、発光する物体の集合。で、2つの丸が重なるトコロが部分集合ね。例えば、星は夜空に見え、かつ発光スルわ」
「教育番組でもやれば?ルイナ」
「問題は"前衛団"が、どうやって強盗団のターゲットを知ってるのかってコト」
傍らでマシャが冷やかすが、ルイナは説明を進める。
「深海流集合なら、光の集合を探せる。例えば、人混みは一般的なパターンで動く。でも、特定領域の現象で、全体のパターンが変わってしまう。しかし、誰も変化の原因に気づかない。このアプローチで、行動の異常値から、隠れた集合に関する情報を推測するコトが出来る。この解釈、正しいかしら」
「あ。ごめんなさい。演説が退屈で居眠りしてたわ」
「解説してたんだけど」
早くも天才同士の火花が散る。
「所詮は貴女のアプローチょね」
「貴女の理論ょ」
「ソレなら、私が説明するべきだとは思わないの?」
どーやらマシャは怒ってるらしいw
「マシャ…コレは学会での発表じゃナイの。犯罪捜査ょ」
「ところで、ラギィ警部。手錠持ってる?」
「持ってるわょ。そーゆー趣味の彼氏でもいるの?」
ルイナがエヘンエヘンと咳払い。
「とにかく!壁に残されたグラフィティの文字ょ。無作為のコンピューターコードかしら?」
「無作為じゃないカモ。暗号コードだったら?」
「解読は大変だわ」
僕が口を挟む。
「頭の悪い奴等が壁に描き殴る文字だぜ?単純なヴィジュネル暗号とかじゃナイか?スピア、アルファベットを照らし合わせてみてょ」
「OK、テリィたん。キーワードセンテンスは"前衛団"かしら…あら?あのグラフィティはURLだわ?誰かのウェブサイト」
「げ。ダークウェブにある"前衛団"のサイトだ。スゴい。強盗先の一覧表がアルぞ。あれ?事件の予定時刻まで描いてアルw」
ラボのモニターにスピアが見つけたサイトが映る。
「1番下を見て。場所は家電店の倉庫で予定は今日だわ」
「グリン・トゥナ?誰?諸悪の根源?」
「人相悪そう」←
画面に赤い文字で弾幕が張られる。
"コイツを止めろ"
"警察には止められない"
"俺達が止める"
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田リバーに沿って長く伸びる神田佐久間河岸町。
江戸時代は物流拠点とした栄えたが今は倉庫街だ。
「来ました。奴等、盗み始めます」
「わかってるわょ」
「トゥナは見えません」
密かに包囲を固めた警官隊の目の前で、倉庫の鍵をバールで壊し、慣れた手つきで家電を次々盗み出す強盗団w
「ヲタッキーズ、どう?」
「誰もいないわ。"前衛団"が待ち伏せしてる気配もナシ…奴等、シャッターを閉めた。仕事を終えて逃げ出すけど。どーするラギィ?」
「仕方ナイわ…確保!」
隠れていたパトカーが一斉に飛び出す!
「全班行け!GO GO GO!」
「万世橋警察署!万世橋警察署!」
「全員、壁際に行け!両手を壁につけろ!」
短機関銃を構えた制服警官が黒装束の強盗団を次々検挙!
「早く。壁に手をつけ!」
「警部、コイツら武装してません」
「野次馬を調べて!"前衛団"のサインを探すの!」
ラギィの鋭い命令。刑事が若い男を引っ立てる。
「もう見つけました、警部。コイツ"前衛団Tシャツ"を着てます。強盗団が逮捕される様子を撮影してました」
「撮影?仲間を殺されたというのに悠長なモノね」
「俺は、証拠を集めるのが任務だ」
ラギィが突っかかって逝く。
「任務?アンタに任務を出したのは誰?」
男はウッスラと笑みを浮かべるが基本的に無表情だ。そのやりとりを見ていた野次馬の1人が歩き去る。
翠色の髪。グリン・トゥナか?彼女に付き従う背の高い女は、コートの下に散弾銃を隠し持っている。
第3章 追跡
万世橋の取調室。
「俺は、ただ事件を撮影してただけ。単なる野次馬だ。コレはイタズラに有罪性を高めようとスル冤罪捜査だ」
「事前に犯罪の情報を知って偵察に来たって自分で言ったじゃないか。立派な犯罪だ。仲間は?」
「お互いにコードネームで呼び合ってる。捕まってもお互い裏切れないように」
ラギィは、射殺された"前衛団員"の鑑識写真を見せる。
「知ってる?」
「もちろん。コードネームは"バーズ"だった」
「バーズ?」
男は懇切丁寧に解説スル。
「スマホの電波、バーズ。電話ハッカーだった。ヤタラとスマホに詳しかった」
「家電強盗団のターゲットはどーやって知ったの?」
「ネットや電話で知らされたり、直接指示されたり。ソレで場所や盗むモノが事前にワカル仕組みだ」
ラギィはイラつく。
「アンタ達の指示役は?"ルフィ"みたいな」
「ソレは言えない」
「そ。じゃアンタがボスの罪を被るのね?」
男は即答だ。
「覚悟は出来てる。正義のためだ」
「何が正義なの?」
「俺達は、ヤルべきコトをヤル。警察には頼らない」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そのまた隣の取調室。
「グリン・トゥナを知ってるか?」
「知らない。知らないわ!」
「わかった。わかったから落ち着いて」
年少は泣きそうな顔。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「トゥナの手下も"前衛団"の男も怖がって何も話さないわ。どーゆーコト?」
「まるで潜入捜査官みたいですね」
「悪人と英雄気取りの違いかな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その頃、ルイナのラボでも戦争勃発w
「その行動には独創性も一貫性も何もナイ」
「デマンドリクエストに基づく組織になってる」
「たかがチェーンでしょ?不規則性を伴っているわ」
ルイナとマシャ。天才同士が議論中w
「対立構造が常に優れた成果物を生むとは限らナイ」
「そこまでだ。君達天才は、穏やかに学説を論じるコトが出来ないのか?」
「テリィたん。コレは学説じゃない。何処のハンバーガーが1番かと言う話をしてたの。そしたら、マシャが…」
何だ、ソンなコトかw
「話に割り込んで悪いが、ホットドッグはハンバーガーの100倍ウマい。で、ホットドッグならパーツ通りの"マチガイダ・サンドウィッチズ"でキマリだ。コレ以上の議論は不要かつ不毛…ところで、得てして、君達天才は共同作業が苦手だが、科学の進歩には協力は常に不可欠だ。この画像を見てくれ」
2人の大学院生の死体画像を見せる僕。
「2人共ウチの学生なの?」
「YES。落日のMITを抜き去り"極東のドラゴン"と称されるアキバ工科大学の院生だ。そして、自警団アバンギャルズのメンバーだったと思われる」
「え。私の"深海流集合論"による解析でも同じ結論ょ」
直ちにルイナが反応。
「そぉなの?じゃ上位集合を調べなきゃ」
「AITの全学生を?」
「ううん。院生の数って限られてる。ソレに優れたIT技術を持つ院生となるとさらに少ないわ」
とりあえず、僕からも一言。
「"前衛団"の公開メンバーは除外して、捜査対象を絞り込んでみたらどーかな」
「そっか。私、アルゴリズムを組んでみる」
「そして、院生に適用しましょ」
天才2人を交互に見て、相棒のスピアは溜め息。
「2人共出来るじゃナイの、共同作業」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。天才達から話を聞きラギィはうなずく。
「つまり、条件に一致する学生を識別してくれるのね?ただ、あくまで確率だから逮捕は出来ない?」
「 YES。ソレは無実の院生を苦しめるコトになりかねないわ」
「ソレは、私達教授の仕事だから」
ラギィはアプリ越しに苦笑。
「しかし、ルイナのトコロの院生さん達は、なぜ危険な犯罪者と戦うの?命を取られるのょ?」
「人は、自分が賢いと思うからこそ人を出し抜こうとスル。人生をゲームのように考えてるから」
「殺人は、ゲームや授業とは違うのに」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバのダウンタウン、東秋葉原。サッカーに興じるストリートキッズが、ヲタッキーズを見ると逃げ出して姿を消すw
「マリレ。どーも私達は歓迎されてナイみたい」
「窓もドアも閉まってる。街全体が何かに怯えてるわ、エアリ」
「メイドさん。見回り御苦労様。差し入れです」
さっきのサッカーキッズがコーヒーを2杯持って来る。
「まぁありがとう」
「気が効くのね。誰のオゴりかしら?」
「ってか、誰を探してるの?」
振り向くと翠色髪の女子…グリン・トゥナだw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マジックミラー越しの隣室でのヒソヒソ声の会話。
「前にも自ら出頭して来たコトがアルらしいわ」
「マジ?秋葉原に来る前?池袋で?」
「自信があるのね」
万世橋の取調室でトゥナの事情聴取が始まる。
「警部自らの取調べとは光栄ね。松永町にタトゥーの店を持ってるけど合法ょ」
「コレは取調べじゃなくて、御事情をお伺いしてるだけ。近所で強盗団が横行してるけど?」
「ゼヒ警察に取り締まって欲しいわ」
翠色髪の首魁はフテブテしい。
「ゴメンね、手が回らなくて。でも、警察じゃナイ人達も動いてるみたいだから」
「健全な東秋葉原市民が、そーゆー気持ちになるのはワカルわ。ストリートギャングや闇市がハビこる街は、誰かが取り締まるベキょ。自警団への潜入捜査本部は、どーせ何年もかかるでしょ?途中でバレて消されたりスルし」
「さすがは健全な東秋葉原市民。ケーサツ事情にも精通してるのね」
トゥナは、マジメな表情になる。
「カルチャーセンターの市民講座で警察学を勉強した。私は警察学校に入れば、きっと首席で卒業して、アンタの上司」
「私も首席だけど、未だ警部ょ…"前衛団"の話は何処で聞いたの?」
「風の噂ね」
軽く笑うラギィ警部。
「まぁ。どんな噂かしら」
「お勉強が得意な学歴社会の勝者。でも、人生では敗者」
「どーゆー意味?」
ホントに意味がワカラナイw
「夢の世界に逃げてる。腐女子と同じ」
「へぇ。で、連中はどうなるの?」
「夢から醒める奴もいれば、事故に遭う奴もいる」
思わせぶりな言葉を吐くトゥナ。
「事故?」
「YES。事故ょ。自動車事故とかね。そうそう。最近のAITの院生にはウツ病が流行ってるそうょ。浮世離れした教授連中が学歴社会でしか生きて行けないガリ勉に育て上げてる。図書館の1室で首を釣ったりスル奴が出るカモょ?」
「AITの図書館?」
笑うトゥナ。
「でも、ソレがナンだと言うの?ガリ勉もプーも遅かれ少なかれ誰もが死ぬのょ」
「待って。何処に行くの?」
「私は任意で出頭した。帰るのも任意でしょ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。ルイナのラボ。
「あぁイライラする!ペン先が潰れてインクが出ないわ!」
「まさか貴女がイチゴの香りのインクが好きとはねクスクス」
「じゃ今度から秋葉原には自分のペンを持って来て」
ルイナは顔を真っ赤にして怒る。マシャは余裕だ。
「"前衛団"に関するルニーの解析は、和集合の濃度を無視してる」
「ソレは考えた私が1番よく理解してるわ」
「あら?深海流集合の専門家は貴女だっけ?ソレとも…」
ルイナは相棒で唯一の友達のスピアに愚痴をコボす。
「マシャは、いつも私に反対スルの」
「天才って負けず嫌いなのね。ところで"前衛団"のメンバーがソースコードに詳しいなら、ブラウザコードも見るべきだと思わない?」
「ナルホド。特定のオブジェクト指向の記号や命令文がアルかもしれないわ」
ポンと手を打つルイナ。何々?とマシャも集まる。
「"前衛団"が使ってるコードだけど、ある天体物理学の公式に似てると思うの」
「えっ…そっか。結論を見つけたのは、天才2人じゃなくてハッカーの貴女だわ」
「そのコードを描いた腐女子が家電強盗団のリーダーかも」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「ソレにしても、マシャってイチイチ勘に触るのょミユリ姉様」
「ルイナ。そーゆー宿敵こそが貴女の人柄を育んで逝くって思わない?」
「思いません。彼女は、私が嫌いナンだわ」
例によって、ルイナはラボから"オンライン呑み"だ。
「本心じゃナイわ。スピアも逝ってたでしょ?彼女は、貴女のライバルょ?」
「ライバル?」
「YES。ライバル。彼女はルイナと一緒だと、学会やAITでの自分の立場を不安に思うんでしょ」
ナルホドと思いつつもタダでは起きないルイナw
「…ミユリ姉様のライバルは誰?」
「ソレは…テリィ様の前カノのエリスさんね。最近、向こうもスーパーヒロインに覚醒したみたいで、この前、新コスプレになって初めて対決したら私、敗北しちゃった」
「テリィたんからライバルの話って、聞いたコトがナイわ」
コレにもミユリさんは即答だw
「テリィ様のライバルは自分自身ょ。彼は、常に自分と戦ってるわ…だから、礼拝堂に通うのかな。ヘンシェル曰く"宗教哲学の最大の目的は、宗教が答えとなる立ち位置を探すコトだ"なんちゃって」
「姉様は、テリィたんの礼拝堂通いの話は、誰から聞いたの?」
「え。テリィ様ご自身からょ?」
ルイナは唇を噛む。
「テリィたん、私には何も話してくれなかったわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。万世橋の捜査本部。
「ラギィ警部、どーしました?」
「グリン・トゥナの話が気になるわ。"前衛団"の1人が図書館で自殺するとか…アキバ工科大学に連絡を」
「承知しました。警部」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
AITの古い図書館は摩天楼の谷間にアル。
「グリン・トゥナ。アンタ、賢いけどイカれてるって」
開架式の本棚に器用に首を吊った死体は"前衛団"のTシャツを着ている。見つけた図書館ガードマンは…吐いてるw
「ホントにイカレてるわ」
首吊り死体の胸には手紙が貼ってアル。
「前衛団5 私達3」
第4章 戦慄の"リトル広東"
万世橋の捜査本部。
「ラギィ警部!自殺したのは、フリメ・イソン19才。物理学専攻。死亡は、遺体発見の約10時間前です」
「状況はトゥナの予告通りね」
「しかし…証拠が足りません。しかも、彼女はウツ病。現場に彼女以外の指紋はなく、遺書も直筆でした」
ラギィは溜め息だ。ソコへモニターから吉報!
「ラギィ!グリン・トゥナの強盗団が使ってる方法がわかったわ!"前衛団"の技術を逆行分析して、メンバーを特定してた。その方法を再現してみる!」
「え。何を言ってンだかイマイチと言うか、実は全くワカラナイけど急いでやって頂戴!天才同士、仲良くね!」
「何ソレ?あと"前衛団"の誰かが首魁トゥナと顔を合わせてる可能性がアルわ」
こーゆーコトの反応は早い。
「トゥナとAITの接点を洗ってみるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。1時間後。
「警部!グリン・トゥナは、アキバ工科大学の2つの講座を聴講していました。しかも、聴講中に要注意人物に指定されてます」
「要注意人物?赤点取ったとか?」
「同じ聴講生を逆レイプして自殺に追い込んだ容疑です」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部の取調室。
「聴講生が死んだ話は聞いてる。でも自殺だろ?」
「誰から聞いたの?」
「誰?何となく話題になってた」
ラギィは突っ込む。
「亡くなった子の名前を教えて」
「本名はわからない。でも、みんなが心を痛めてた」
「コレは、殺されたメンバーの復讐なの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その頃、僕はラボのギャレーでルイナに捕まってるw
「テリィたん。礼拝堂に通ってるの?」
「え。ミユリさんが話した?」
「スピアも、みんな知ってた。私に隠すナンて」
車椅子の超天才はオカンムリだw
「でも、ルイナも良く逝うだろ?実験の邪魔するなってさ。僕が礼拝堂に通うのが合理的かどうか、未だルイナと議論出来る段階にナイんだ」
「私の言うコトが気にかかるの?」
「いや。怖いんだ」←
驚くルイナ。因みに彼女はいつもゴスロリ←
「私が…テリィたんに怖い想いをさせてたナンて」
「必死に隠してた」←
「あのね。悩みがアルのなら礼拝堂に通うコトは理に適ってると思う。僧院じゃナイから頭もそのママだし」
何故か晴れ晴れとした顔でマシャとの共同作業?でラボへと帰って逝くルイナ。気のせいか足取りも軽やかだ?何で?
「聞いちゃった」
「え。立ち聞きしてたのか?」
「全部聞いてた。ルイナの言葉が怖いナンて、よくもまぁ言えたモノね」
物陰から現れたのはスピアだが、さっきの言葉は本心だ。その逝われ方は辛亥革命、じゃなかった、心外w
「スピア。"前衛団"の1人が天体物理学の公式を用いた暗号を使うンだって?」
「あら。ソレこそ誰から聞いたの?…実は、改行コードのパターンが似てるのょね」
「その改行コードの使い手が"前衛団"のラスボスじゃナイのか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヲタッキーズによる聞き込み。図書館で自殺した"前衛団"メンバーのロジヲの研究室仲間。
「ロジヲを殺したのは、間違いなくトゥナだと思うが、証拠がナイんだ」
「ロジヲにガールフレンドは?」
「いるハズ無いだろ。理系だぞ?だが、推してる地下アイドルはいた。確かTOを張ってたンじゃないか?グッズを買い込んでた。名前はレイク・トンポ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
引き続き捜査本部。
「レイク・トンポのSNSです。コンピュータ工学専攻の理系アイドルとの触れ込みですが…恐らくTOのロジヲから個別指導を受けてたか、単に受け売りしてたか」
「今も歌ってるの?」
「はい。ただ、先週からSNSの更新が滞ってる。親バレで田舎に帰ったか、あるいはトゥナに殺されたのカモ」
ラギィ警部は首を振る。
「ソレなら遺体が出るハズ。天才達に情報を流して。きっと見つけてくれるわ。同じヲタク同士だから」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の捜査本部。取調室。
「エポジ。シラを切らないで。レイク・トンポを知ってるわね?アンタもドルヲタでしょ?」
「だから?」
「アンタの推し、殺されるわょ。推しだけじゃ無い。"前衛団"は、全員トゥナに捕まり殺されるわ」
キツい口調のラギィ警部。だが、相手は動じない。
「心配ナイ。大丈夫だ」
「レイク・トンポのせいで大勢が死ぬの。居場所を教えて」
「知らないょ。隠れ家は聞いてない」
ラギィ警部は"説得"にかかる。
「レイクは、殺されたTOの仇打ちで、トゥナに復讐する気ょ。しかし、トゥナは手強い。アンタ達は返り討ちに逢うわ」
「ソンなコトは承知の上だ」
「アンタ達の動機は何?何のために家電強盗団を狩るの?」
良くぞ聞いてくれた、という顔のエポジ。
「レイクは、今までの俺達の人生を塗り替え、新たな世界へ導いてくれる。ガリ勉だった俺達が、アイドルと一緒に陽の当たる場所を歩けルンだょ」
「…メジャーへ行きたいの?」
「YES。そうさ。いつまでも、秋葉原の地下でくすぶってるモンか!アンタだってそーだろ?警部さん」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜のラボ。マシャはつぶやく。
「私は馬鹿ょ」
「その根拠なら、いくらでもアルわ」
「局地的セルマトリックスが深層流だわ。トゥナはスマホのGPSで商品の動きを知る。一方"前衛団"はトゥナのスマホを探った。導関数から…」
ルイナも溜め息。
「ソレじゃスーパーコンピューターでも数日かかる。やはり貴方はバカかも」
「じゃ貴女に別の考えが?」
「データ集合を絞り込めば良いのって、何でいつも喧嘩腰なの?まるで口論だわ」
「コレは口論じゃナイ」
「じゃ何なの?」
「貴女が始めたのょ?」
「いいえ。違うわ」
「貴女ょ」
ココでデータ解析終了のBEEP音。
「何?」
「過去事象のターゲット分析をしてみたの」
「え。次はスマホ修理店が狙われる?何で?」
ルイナも頭をヒネる。
「でも、データがパターンから外れてる。異常値だわ」
「過去に通報してないとか、"前衛団"が何かを描き残している可能性も否定出来ない」
「データの補強が必要だわ。相棒のスピアと現場を見て来てくれない?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
日曜夜の"潜り酒場"。
夕食用のワインをセラーから出すミユリさん。
僕はダッジオーブンのポットローストを持参。
「天才2人は来れないのかな?」
「きっと今も口論に夢中なのょ」
「腹ペコだわ」
笑いながらスマホを抜くミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋警察署の前から新幹線ガードをくぐり昭和通りに至る界隈は"リトル広東"と呼ばれる1大コピー商品生産地だ。
「店は空いてるわ」
「入ってみましょう」
「どうも。誰かいませんか?」
ガード下の闇店舗街の、そのまた奥にあるスマホ修理店。
マシャとルイナの代理のスピアが、恐る恐る店に入ると…
何と家電強盗団が盗み出しの真っ最中だw
「今日は棚卸し。明日にして」
「こんな真夜中に棚卸し?店長さんにお会いしたいんだけど」
「私が責任者ょ」
忙しく立ち働く店員?を尻目にヤタラ落ち着き払った店長が出て来る…やや?良く見たらグリン・トゥナだw
「修理なの?」
「い、い、いえ。引き取りの日を知りたいんです。ほら、預けたコンパクトスーパーコンピュータは高価だから」
「コンパクトスーパーコンピュータ?」
ソンなの聞いたコトなひw
「そうょ!CPU28基搭載のベクタープロセッサー。因みに水冷式。素粒子の通り道を計算スル奴」
「しかも300のPCを1度にハッキング出来るのょ」
「あぁアレか!覚えてるわ。同僚が修理したハズょ。一緒に探そ?奥に来て」
トゥナの後から店の奥へ。スピアはスマホをオン。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その頃"潜り酒場"では、ワインが抜かれ日曜日の夕食会スタート。
「あら。スピアから電話だわ。もしもし」
「…"もしよければ自分で探しますけど""好きに見て。貴女達のマイクロスーパーコンピューターだし"…」
「スピアだった?いつ来るって?」
シッと唇に指を当てるミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「見つかった?その…マイクロスパコンだっけ?」
「コレじゃないわ。あーんワカラナイ」
「ソッチかも」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
中央通りを疾駆するSUV。赤い回転灯。サイレンを鳴動。
「ラギィから万世橋!首相官邸最高顧問付きのスピアのスマホの発信地を調べて!大至急!」
「警部、何ゴトです?」
「グリン・トゥナと一緒なの!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「もしかして修理の時、ケースの外装を変えてしまったのかな。ココにはナイみたいょ」
「そう。悪いけどコッチもコレ以上待ってられない」
「OK。明日出直すわ。じゃCiao!」
店を出ようとスルとトゥナが通センボ←
「ヲタッキーズを待ったらどう?マシャ教授」
顔を見合わせるマシャとスピア。背筋が凍るw
「超カンタンな数学の問題を出すわ。現場で私を目撃した人数から法廷で証言出来なかった人数を引くと…答えはゼロ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
中央通りを左折、行政が"ふれあい通り"と呼ぶ(誰も呼ばないけどw)をSUVが通過。ソレを見届け発車するセダン。
逆方向の暗闇に消えるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
深夜の新幹線ガード下。4車線を通行止めにして、パトカーにナゼか救急車まで来て全車が赤い回転灯をクルクル回転。
「スピア!マシャ教授!生きてる?殺されてナイ?」
「ムーンライトセレナーダー、トゥナは逃げたわ」
「ついさっきょ」
口々に話しかける2人。ラギィが割り込む。
「首都高で検問中。しかし、貴女達、なぜここに来たの?」
「解析の結果、過去の現場だと思って来たら、just窃盗中だったwえ。マシャ、どーしたの?」
「アドレナリンが出ると痒くなるの」
数学の天才は、胸の谷間をかいて赤くしているw
「テリィたんが喜びそうw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
全員、捜査本部にとって返す。
「全くアイツのせいで胸の谷間が痒くて痒くて…あぁ全然集中出来ないわ!」
「私達を殺すと脅して来た。"前衛団"に嫌われるハズょ」
「そりゃ友達を殺されたら復讐するわね」
アプリでラボのルイナが割り込む。
「みんな、無事で良かった!で、コレは典型的なゲーム理論の状況ょ」
「3人の銃撃戦って奴ね?」
「わかりやすく解説して!死にかけたんだから!」
スピアがムクれる。今や"戦友"となったマシャが解説。
「3人の決闘を考えて。私は3発撃っても1発しか命中しない。敵の1人は3発撃つと2発は命中する。3人目は3発とも絶対に外さない。チャンスは1人1回。私は誰を狙うべきだと思う?」
「1番危険な3発3中の人?」
「いいえ。私は3発1中を撃ち3分の2の確率で外すわ。で、3分の2の確率で生き延びる相手は誰を撃つ?」
スピア即答。
「当然1番危険な3発3中の人を撃つわ」
「そして、3発3中の人が生きてれば、自分に次ぐ脅威である3発2中を殺すわ。つまり、私は残り2人を敵対させるコトに成功したワケ」
「今までの出来事から、トゥナと"前衛団"は互いのIT技術を知り抜いてるコトがわかってる。この両者に情報をネジ込んで衝突させてみるわ」
指をパチンと鳴らすラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部とルイナのラボで2人の天才がフル回転w
「"合同ターゲット"を設定し、トゥナと"前衛団"の双方に同時刻周知したわ」
「罠だとバレない?」
「ダークウェブの情報源を通じて自分達だけがつかんだ情報だと思わせた」
万事抜かりナシと胸を張るマシャ。裏で"戦友"スピアが凄腕ハッカーぶりを発揮してるコトは言うまでもナイ。
「私達も武装した方が良さそうょ」
「憎しみを利用するの?皮肉ね」
「ルイナ。私は貴女を憎んでナイわ。貴女は私を憎んでる?」
マシャは珍しいコトに真剣な表情。
アプリ越しに慎重に応えるルイナ。
「貴女が私をルニーと呼ぶ時はね」
「え。アレは"折り合い"をつけてるだけょ」
「折り合い?」
小首を傾げる車椅子の超天才。
「貴女は、誰もが知る首相官邸の最高顧問ルイナ。超天才ょ。私にとっては、かなり怖い人なの」
「やれやれ。怖がられるのは今日2度目だわ」
「たった2度?」
からかうように笑顔を浮かべるマシャ教授。
「マシャ。私のコトは言えないわ。私だって何か思いつく度、貴女に批判されるンじゃナイかと不安にナル」
「ルイナ。休戦しない?」
「ソレがゲーム理論の策略でなければ」
マシャは苦笑。
「その時には"利他的戦略"を使ってるわ」
「OK。休戦しょ?」
「そうね」
リモート会議で相手と握手スル時はどーするのだろう。
アバター同士?誰かアプリを作ってくれょ。待ってるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
深夜の新幹線ガード下の倉庫街。神田リバー沿いにコンテナが野積みになっている。
ふれあい通りからリバー沿いへ入り込んで来たセダンのドアが開いてトゥナが降車。
スマホを抜く。
「どう?」
「異常ナシ」
「OK」
トゥナがセダンのルーフを叩くとセダンはライトを点滅させる。ソレに応えるように黒装束の腐女子がワラワラ現れる。
「このコンテナの中身はスマホが2200台と音楽プレーヤーが800台。量販店の仕入れ用。コッチは60インチのプラズマテレビが32台。コッチは…」
闇に沈むコンテナヤードから、特定のコンテナを選びコンピュータトラッキングのバーコードをリーダーで読むトゥナ。
「ショータイム。早くコジ開けて!」
バール片手に一斉に取り掛かる腐女子達…ん?機械音?何処からともなくドローンが飛来!激しい銃撃を加えて来る!
「な、何なの?」
「トゥナ、待ち伏せょ!」
「ワナにハマった!」
低空飛行で銃撃を加えるドローン。蜘蛛の子を散らすように逃げ出す黒装束の女子。キョロキョロ周囲を見回すトゥナ。
「待て!モノホンの銃撃じゃナイわ。音だけょ!」
「え。ホントか?」
「どうしたの"前衛団"?大したコトないじゃナイ!実験室で作ったドローンで戦おうっての?どーせ私達に手は出せないクセに!」
吠えるトゥナにドローンがサーチライトを交差させる。
脱走寸前に壁際で見つかった、刑務所の囚人みたいだ。
「ヲタッキーズ!ムーンライトセレナーダーょ。武器を置いて!」
「万世橋警察署!万世橋警察署!両手を頭の後ろに!膝をつけ!」
「ちくしょう!いつの間に…」
空中はメイド服にレオタードのスーパーヒロイン。地上は短機関銃を構えたSWAT。パトカーに警官隊が続々と現れる。
「撃つな!ギブアップ!」
黒装束の女達は、たちまち圧倒され次々と逮捕されて逝く。
一方、トゥナは手にした拳銃を振り回しギブアップを拒否。
「嫌ょ!私は絶対にギブしない!」
先頭の警官に狙いを定めた瞬間、青い電光が肢体を貫く。
ムーンライトセレナーダーの必殺技"雷キネシス"直撃!
拳銃を落とし、バッタリ倒れてピクピクするトゥナ。
「死んだわ!とうとう首魁をやっつけた!」
物陰に隠れ、スマホ片手に一部始終を記録していた"前衛団"のTシャツ男が飛び出して、泣き笑い顔で凱歌を上げる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ある日曜日の夕暮れ。"潜り酒場"。
「で、マシャ教授。捜査協力はどうだった?」
「素晴らしかった…と思いたいけど、もうガード下でサイコな犯人と対面スルのは遠慮したいわ」
「ホントに真っ赤なのね」
さも痒そうに胸の谷間をポリポリと搔くマシャ。ドサクサ紛れにみんなと一緒に覗き込む僕←
「そーいえば、もうルイナと口論しないの?サスガにもう
飽きたワケ?」
「口論じゃなくて真理を追求スルための意見交換ょ。真理の探求に飽きるコトはナイわ。ね、ルイナ」
「そうね。でも、私とマシャはコレからは仲良くやれそうだわ」
この前もソンなコトを逝ってたなw宅配ピザが届き、紙のお皿を配りながらニマニマする僕←
「ルニーが問題だったなんて…アダ名って嫌なモノょね。ところで、スピア。貴女には驚いたわ、天体物理学に造詣があったナンて」
「え。天体物理学?…あぁ天体の運行表のコトね?アレはインド式占星術の星占いのホロスコープょ。私が物理学ナンてトンでもナイわ」
「なーんだスピアらしいわ。笑える」
どーゆー意味?とスピアはムクれ笑い声が弾ける。
ダッジオーブンの食卓にファミリーの笑顔が並ぶ。
そんなアキバの団欒。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"自警団"をテーマに、異次元人による家電強盗団の首魁、強盗団の黒装束の女達、彼女達との抗争で命を落とす自警団員や記録係、抗争の主因である地下アイドルとそのトップヲタク、抗争を追う超天才と相棒ハッカー、超天才のライバルの数学天才、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。
さらに、強盗団と自警団の社会階級闘争の側面、天才同士の確執と再生などもサイドストーリー的に描いてみました。
また、諸般の都合により、シリーズは継続しますが、時系列としては今作で1区切りとする予定です。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、マスク明けを予感しつつ多くのインバウンドを迎える秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。