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5 嫁の破壊力

「さとるくん、なんだか元気ないのね?」

 りこたんが配信で作ったクッキーを頬張る。


 俺のパソコンのみらーじゅ都市用セキュリティ設定の確認に来てくれていた。本当に頼りになる、結城さんの最推しだ。


「まぁな。みらーじゅ都市から、ナグワだとか、マナだとか来て大変だったんだよ」

「そっか。恋愛禁止の話あったもんね。でも、そんなに気にしなくていいと思うよ」

「いや、そうはいかなくてさ。見張りもすごくて、プライバシーもないんだよ。俺なんて、趣味の調査に来られたし」

「そんなことあるの? じゃ、じゃあ・・・あれも見たってこと?」

「あぁ・・・・」

 りこたんが琴美が作ったどぎつい祭壇を指していた。

 なるべく見ないように生活してるけど、ふとしたときに視界に入るとマジできつい。


 自分の人生について考えたくなるような祭壇だ。


「BLたしなむとか、メモ取られたみたいだし・・・」

「い、いいんじゃないかな。そうゆうの好きな男性だって普通だし」

「違うって。あれは妹のだ」

「そ、そうだよね。ごめんごめん」

 りこたんまで気を使わせてしまった。

 BLをたしなんだことなんてない。ただ、そこにあるだけだ。ハルとアキのグッズが、な。



「最近、別のVtuberがまたこっちの世界でトラブルがあったみたいで、私たちもかなり縛られてるの。ライブだっていくつも申請書出さなきゃいけないし、配信も監視対象になっちゃったし」

「トラブルってどんな?」

「詳しくは聞いてないけど、こっちで借りてる家までついてきたとか・・・・」

「えっ、家特定されたってこと?」

「そう。どうやって特定したのかわからないけど・・・」

「マジか」

「私たちも気を付けないと」

 たまに、ネットですごい特定技術持った人いるんだよな。

 麦茶を一口飲む。


「だから、いつでも指定した画面の中に逃げ込めるようにって、技術が取り入れられたの。こんな風に・・・・」

「!?」

 麦茶を噴き出しそうになった。

 りこたんがエンターキーを押して、モニターに手を当てると、水に浸かるように入っていた。


「えっ、俺の家のパソコンからでもそんなことできるの?」

「そう。今設定したから」

 すげー・・・。

 ファンタジーの世界がここまで来たか。


「・・・でも、他の人たちにバレたらさすがにまずいだろ」

「そうなのよね。だから、申請を出したパソコンが限定。さとるくんのパソコンは、元々ログインアカウント持ってたし、私が出しておいたの。くれぐれも気を付けてね」

「あぁ、ありがとう」

 りこたんがちょっと得意げにほほ笑む。


「じゃあ、試しにゆいちゃと繋げてみようか?」

「ゆいちゃと・・・」

 マナの襲来事件以来、直接会ってなかった。


「だって、会いたいんでしょう?」

「・・・そりゃ・・・まぁ・・・」

「いいなー。ラブラブで。ゆいちゃも、私と話すとき、さとるくんのことばっかだし」

 りこたんがからかうように言ってきた。


「えっと、ゆいちゃの部屋は・・・」

 カタカタとキーボードを打ち始める。

 俺の家にゆいちゃが頻繁に来れる状態になる・・・って嬉しいんだけど。


 どうしてもマナのことが過るよな。あの後、俺についてどんな報告をしたんだろう。

 クローゼットの、ちょっとエッチな同人グッズも見られてしまったし・・・。警戒レベルを上げられてないといいんだけど。




 バチッ


「繋がった!」

 可愛らしい部屋がモニターに映し出される。

 ゆいちゃの配信部屋はぬいぐるみが多くて、ちょっと子供っぽいような部屋だ。

 なんか、変にドキドキするな。


「ゆいちゃー」

『はーい』

「わっ・・・」

 いきなり、ゴリラの被り物をして現れた。びっくりして、息が止まる。

『あははは、さとるくん、慣れないと駄目ですよ』

「慣れないだろ、普通」

「ふふふ、それ、配信で着る服でしょ? ゴリラの被り物してると、人獣みたいだよ」

『そう。トレンドを取り入れたので、ゴリラにぴったりだと思ったのです』

「・・・・・・・・」

 シンプルなワンピースを着たゴリラだ。

 そう簡単に慣れてたまるか。


「ねぇねぇ、ゆいちゃ、今さとるくんの家に繋いでるの。そっちからこっちに来れるかやってみてくれる?」

『うん! よいしょっと・・・・』

 ゆいちゃがゴリラの被り物を取って、手を伸ばした。

 モニターが水のように波打って、ゆいちゃの手が飛び出てくる。


『これでいいのかな? そっちに手いってる?』

「大丈夫よ。成功みたい」

「・・・・・・・」

 軽く、ホラーだな。夜中にやられたら失神しそう。


『さとるくん、引っ張って』

「お、おう」

 小さな手を掴んで、思いっきり引っ張った。


「!?」

「わわわ、強すぎです!」


 ガタンッ


 ゆいちゃを抱きとめて、床にしりもちをついた。

「痛って・・・・・」

「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ・・・・って、ごめっ」

「あ・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 両手を上げて、ぱっと離れた。

 なんか、このシチュエーション、ラブコメの定番だよな・・・。普通のラブコメならいい雰囲気になるんだが。


 あの祭壇がちらつく。りこたん以外の視線が多すぎる。


「へぇ、すぐそうやっていちゃつくんだー」

 りこたんがジト目でこちらを見ていた。

「ちちちがいますよ! 今のは勢いがついちゃってそれでっ・・・」

「はいはい事故ね。事故だもんね」

 ゆいちゃが顔を真っ赤にしていた。

 なんか、マナに止められて以来だな、ゆいちゃに触れたのは・・・。


 ビービービービー


『よいしょっと』

「えー!?」

 机の上に、ちょこんとマナが現れた。りこたんがびくっとして、マウスを落としそうになる。


『たった今、エチエチ罪の波動をキャッチしました』

「は?」

 俺とゆいちゃを交互に見る。


『ふむふむ、行為には至ってないようですね』

「違うって。事故だったんだって」

「そうです! 単なる事故で、引っ張り上げたときに、さとるくんが受け止めてくれないと、私顔面から落ちちゃうところだったんです! だから、何もしてません」

 ゆいちゃがムキになって言っていた。


「はいはーい。私も見てました。接続確認で、モニターからゆいちゃを引っ張り出したら、勢い余ってしまったのをこの目で見ました」

 りこたんがすかさずフォローしてくれた。

 マナが顎に手を当てて、うんうんと頷いていた。小さなモニターを出す。


『確かに今回はただの事故だったようですね』

「だから言ってるだろ?」

『でも、数秒だけ服の上からおっぱいに触れたようです。じゃなきゃ、エチエチ罪の警報が鳴らないでしょうから』

「!?」

 なんで、んなことまで・・・。

 っていうか、事故で。本当に事故で触っちゃっただけで。マジで誤解だ。

「・・・・・・・」

 ゆいちゃが床をいじいじしながら俯いている。

 耳まで赤くなっていた。


『まぁ、今回は無罪でしょう。では、失礼します』

 マナが軽くお辞儀をして、消えていく。


「・・・・・・・・・・」

「わ、私見てないもんっと・・・えっと、音の調節でもしようかなー」

 りこたんがちょっと動揺しながら、ヘッドフォンを付けていた。

 飲もうとしたお茶を、こぼしそうになっている。


「さとるくん、さっき、危なかったですね」

 ゆいちゃが小声で話しかけてきた。寝癖のついた前髪をとんと押さえている。

「いや、だって、ただの事故で・・・」

「私、りこたんの前なのに、勢いでちゅうしちゃうのかと思いました」

「!!!!!!!」

 頬に手を当てながらにやついていた。


 破壊的に可愛いんだよな、俺の嫁。


「なんちゃって」

「・・・・・・・」

 ゆいちゃが顔をくしゃっとさせてから、りこたんに近づいていく。



「りこたーん、昨日の配信で使ってた音源ってなんですか? すっごくいいと思ったんです」

「え?」

 少し大きな声で話しかけていた。りこたんがヘッドフォンを外す。


「昨日の配信の音源ですよ」

「音源? それなら・・・最新のボカロ曲から拾ってきたの。神崎すなはまっていうボカロPさんで、いい曲なのにあまり伸びてないみたいで」

「そうなんですか。まだ、みなさん気づいてないのかもしれないですね」

「そうね、ボカロPってたくさんいるから・・・」

「今度、私たちもカバーしてみましょうか。なんか、癖になるフレーズでバズると思うんですよね」

「んー・・・・でも、あの曲だと音程とるのが難しそうよ。ちょっと待ってて」

 りこたんがキーボードを打って、神崎すなはまを検索していた。


 肩の力を抜いて、クッキーを口の中に放り込む。

 そういや、『VDPプロジェクト』は5月の野外ライブにも呼ばれてるんだもんな。

 何としてでも、バイトと勉強を避けられるように準備しておかないと。

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