4 あいみんの闇配信
午前1時58分、そろそろ舞花ちゃんが言ってたあいみんの闇配信の時間だ。
まず、あいみんはSNSで何も告知をしていない。サブ垢だって、登録者数100人くらいで、本当にあいみんなのか疑うレベルだ。
本当にやるのか?
少し緊張しながら画面を見ていた。
『こんばんはー、みなさん、あいみーの闇配信の時間ですよー』
「!!」
ちょっとダークな雰囲気の服を着たあいみんが出てきた。
あいみんっていうか、あいみーって・・・。
『まず、お酒、お酒開けちゃいます。え? あいみー居酒屋って名前にしたほうがいい? えへへー考えておくよ』
ぷっしゅー
缶の蓋を開ける音がした。あいみんが、飲酒しながら単独配信・・・。
コメント欄はたまたま見つけた、あいみんのコアなファンばかりだ。
『今日はまずーいこと言っちゃったら、即切っちゃうんでよろしくね。あ、みんな、ツイッターとかで呟いたら駄目だよー。ここからは、私とリスナーさんとの秘密ね』
「・・・・・・」
言ってることは、可愛いし、ファンの心をがっしり掴んでる。俺もがっしり掴まれた。
『この前の配信でー、可愛い可愛いAちゃんって子がB君って子と付き合ってるって言ってたでしょう? 創作の話で』
「!?」
創作・・・だよな。創作っつってた。
コメント欄を見るに、周知のことらしい。
なんか緊張してきた。
『あー、B君ってのはね、推しが別にいて、推しもB君のこと大好きだったの。でもB君はAちゃんが好きで好きで大好きです、ー告白した推しはふられちゃったの。もちろん、彼女もAちゃんが大好きだから祝福してるの、うん、絶対祝福してるの』
「・・・・・・」
『本当だってばー』
俺のこと・・・な気がする。
『でもー、その彼女は恋人とかいたことないから、年下のAちゃんのアドバイス乗ってあげられないんだよね。でもでも、2人にはいいお姉さんって見られたいわけ』
コメントには、彼女はそのままでいいんじゃないかな? とか、B君略奪しちゃえ、とか書いてあった。
『略奪!? それは、ぜーったいダメダメ。彼女はAちゃんのことだいすきなんだから。もう、食べちゃいたいくらいすきー』
ちょっとろれつが回らなくなりながら、にこにこしていた。
『はぁ・・・祝福してるんだけどー彼女のどこがダメだったんだろうなー。もちろん、ゆ、あ、Aちゃんがすごくすっごく可愛いのはわかってるしー・・・でも、彼女だってB君を好きな気持ちは負けてなかったのに。ゆ、あ、Aちゃんには敵わなかったなー』
「!?!?!?!?!?」
ひやっとした。
今、ゆいちゃって言おうとしたよな?
『はっ、やっぱり男の人っておっぱいが大事なのかな? Aちゃんっておっぱい大きいの』
「・・・・・・」
『レクさん、貧乳好きって嘘でしょソレ』
コメント欄では貧乳派が多いらしい。
てか、別に俺も巨乳好きなわけじゃないんだけど。
たまたまゆいちゃが胸が大きいだけで・・・。
なんか、闇配信っていけないものを見ている気がする。
『それで、最近メイン垢のほうでプライベートなこと呟いてないんだよねー。あ、もちろん、創作の話だよ。創作の話なんだけどー』
ここまでで、創作って思ってる奴いるんだろうか。
まぁ、推しの言うことなら信じるな。
酔っぱらったあいみんって、破壊力抜群だし、俺だって普通のファンだったら信じてた。
可愛いことには変わりないからな。
『私ダメダメだからなぁ。歌もダンスもすぐ疲れちゃうんだ。周りの子たちはみーんなできてるのにー』
頬杖を付きながら、コメントを見ている。
『プライベートも上手くいかない。私、もう21歳になるんだよー。私も彼氏、ほしいなーあ、ありがとう。みんな、だいすきだよ』
お酒を飲んで、ちょっとふらふらになりながら話していた。
ざーっと滝のようにコメントが流れ出す。
ここぞとばかりにあいみんに告白していた。
赤スパチャも投げられていた。
『みらーじゅ都市は、恋愛禁止だから厳しいんだけど、Aちゃんエチエチだから、本当はしたいんだろうなー。最近、彼氏のことばっかで、私も寂しいー。Aちゃんとられちゃったみたいだなー、あ、Aちゃんが幸せなら嬉しいんだけど。も、もちろん、ぜーんぶ創作の話ね』
「っ!?」
心臓止まるかと思った。
つか、たぶん、一瞬止まったと思う。
『えー私? 私もエチエチだよ。えちちーな感情は、いつも出さないだけ』
「・・・・・・・」
あいみんがにやっとしながら言う。
推しって可愛い。
『そうそう、えちちーじゃない女の子なんているのかな?』
これが・・・闇配信・・・か。深夜2時の闇配信・・・って。
『え? そうゆう動画? 見るよー。だって、大人だもん、大人なんだから大人の動画を見て当然。えっと、闇の戦士さん? そうそう、性癖は答えられないよ。そこはーちゃんとコンプラ守るから』
「・・・・・・・」
コメント欄を見ながら、上機嫌に話していた。
あいみんの深夜配信は30分くらいだったけど、かなり濃厚な配信だった。
こんなの初回から見逃していたなんて。
でも・・・やっぱり、『VDPプロジェクト』のメンバーには伝えていない配信だよな。
素のあいみんの気持ちとかわかって、いけないもの見ているような、でも癖になるような・・・なんか、変にドキドキする配信だった。
あいみんには、配信見てたこと絶対にバレないようにしないと。
カーテンから差し込む日の光で目を覚ます。
今日が休みでよかった。
さすがに、あのあいみんの配信を見た後、平常心でバイトできる気がしない。
来週から忙しくなるからなー。休めるときに休んで、課題も目途をつけておかない・・・・。
『よいしょよいしょ』
「ん?」
『異常なし・・・っと』
「・・・・・・・・何やってるんすか・・・人の家で」
手のひらサイズのメイドのマナが、キーボードの近くをうろうろしていた。
こっわ。なにこれ。怖。
『あ、おはようございます。みらーじゅ都市から派遣されたメイドのマナ・・・』
「知ってるって」
『そうでしたね。この前ちゅう罪未遂のとき、お会いしたばかりでした』
「・・・・・・・」
スカートを軽くつまんで、お辞儀していた。
「なんでここに?」
『磯崎悟の趣味を確認して来ること、みらーじゅ都市ナグワ様の許可の元、派遣されてきました。ご安心ください。プライバシーは厳重ですので。もちろん、年齢を考慮し、多少のエロいものがあっても引っかかりません』
「いやいやいやいや」
「?」
いきなり家に来て、部屋の中物色されてプライバシーもクソもないだろ。
どうなってるんだよ。みらーじゅ都市。
『私、こうやって3Dホログラムのメイドですし、こちらの世界に実体がないのでご安心ください』
「そうじゃなくて」
『すぐ終わらせますね。浅水あいみのグッズを大量に所持、クッションも浅水あいみのグッズですね』
「な、なんでここまで調べられなきゃいけないんだよ!」
『・・・・・・・』
メイドが小さなタブレットから視線を外して、俺のほうを見る。
『今、高坂ゆいと、お付き合いしていますよね? 本来は禁止しております』
「っ・・・・・」
『でも、まぁ、好きになるなと言っても感情面は制御できません。徐々に離れていくことを願うばかりですが、今すぐというわけにはいかないでしょう』
きゅっと目を吊り上げていた。
『しかし、未遂に終わったとはいえ、ちゅう罪までしようとしました。お相手が、どんな趣味を持っているかを調べておかなければ、高坂ゆいがこの世界に来ることを禁じなきゃいけなくなってしまいます』
「なっ・・・・」
『これは、みらーじゅ都市のVtuberを守るための決まりなのです』
強い口調で言う。
『もし、ご理解いただけないのであれば、高坂ゆいがこちらへ来るのを・・・』
「わかったわかったって」
手を振った。
ゆいちゃがこっちに来れなくなるのだけは嫌だ。
「好きに調べてくれ。それで満足するならな」
『ご協力ありがとうございます』
マナが深々と頭を下げて、チェックをし始めた。
『浅水あいみのグッズと『VDPプロジェクト』のグッズがほとんどですね。なるほど、XOXOもお好きなようで。これは意外でした。BLもたしなむ・・・と』
「・・・・・・・」
琴美が残したハルとアキの祭壇を見ながら言う。
タイミングが・・・。
すげー誤解を書かれた気がするけど、もう放っておこう。
休日なのに、重たい朝になってしまった。