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3 妹は絶対にブラコンではない

 あいみんのタペストリー、クッション、タオル・・・。

 生活グッズは大体、推しか『VDPプロジェクト』のものだ。

 (エロ要素の強いものは、全てクローゼットに詰め込んでいる)


 この癒ししかない、俺の家に・・・。


「はぁ・・・ハルもアキも今日も素敵。心が洗われる・・・」

 早朝から、XOXOのグッズが来てしまった。

 容赦ない光景だ。


 天変地異起こるくらいの衝撃が走ってるんだが。まず、『VDPプロジェクト』とハルとアキが並んじゃってるっていう、とんでもない構図だ。


「ここにこれを・・・と。よし、上手くできたらインスタに乗せちゃおうかな」

 今、琴美が一つ一つ並べている。

 胸元の開いたハルのタペストリーとか、ハルとアキのBLみたいな絵とか・・・なんかソフトエロみたいなグッズもあって引いてるんだけど・・・。

 強制的に、妹の趣味を毎日見なきゃいけない。


 マジで、4月から一気にハードモードだ。ここまでくると、ガチでお祓いも考える。



「あはは、さすが琴美はマイペースだね」

 舞花ちゃんが絨毯にぺたんと座って、スマホをいじっていた。


「舞花ちゃん、わざわざお菓子持ってきてくれてありがとう」

「仕事でもらいすぎちゃって。今後、顔出しリアルでの仕事もあるかもしれないので、体重管理しなきゃいけないので、消費期限もありますし、食べてもらえると嬉しいです」

 にこっとほほ笑む。


「有名なバウムクーヘンらしいです。よかったら感想聞かせてくださいね」

「あぁ、LINEするよ。勉強中甘いものが欲しくなるから、すっげー助かるよ」

 舞花ちゃんは琴美の幼馴染で親友だ。

 なぜか、性格の悪い琴美とずーっと仲良くしてくれている。天使みたいな子だ。


「Vtuberの仕事は順調?」

「はい。最初はあまり反応がなくて悩んでいたのですが、最近はだんだんとチャンネル登録が増えてきて。なんか、私なんかでも誰かの役に立てるんだなって思うと嬉しいです」

「そっか」

 舞花ちゃんは、いつも夢に満ちていて、キラキラしているんだよな。

 去年、有名なVtuner事務所から声をかけられて、大型新人としてデビューしていた。

 今注目Vtuberとして、地上波でちらっと紹介されているのを見たこともあった。


「ところで、お兄さん」

「ん?」

「ゆいちゃと付き合ってるんですよね?」

「ごほっ・・・ごほ・・・・」

 お茶を吹き出しそうになった。

 琴美がこっちに気づいていないのを確認してから、舞花ちゃんのほうを見る。


「だ、だ、だ、誰から聞いたの!?」

 驚きながら、必死に声を抑え込んだ。


「あいみんの深夜の闇配信で、なんとなく勘づくことがあって・・・」

「あいみんの闇配信?」

「知らないんですか? たまーに深夜2時くらいに、ほんのちょっとしか登録者数いないサブ垢でやってる配信ですよ。アーカイブ残さないので、本当に雑談って感じですけど」

「マジか・・・・・・」

 俺があいみんの情報で、抜けてる部分があるなんて・・・。しかも、サブ垢配信だと!?

 もちろんあいみんからは一言も聞いてない。


 ツイッターのフォロワーも何も言ってなかった気がする。 

 最近、繋がってるフォロワーが多すぎて、タイムラインを追えてないんだよな。

 忙しいとはいえ、ショックだ。こんな、コアな情報を見逃してしまったのか。 


「お兄さんがあいみんの情報を逃すなんて、やっぱりゆいちゃのことで頭がいっぱいってことですか・・・?」

「そ・・そうゆうわけじゃないけど・・・・・・・・」

「私、お兄さんに告白して、まだ返事もらってないんですけど」

「ごめん。ちゃんと話そうとは思ってて・・・」

「私、本気なのに・・・」

 じぃっとこちらを見てくる。まずかったよな。


「本当、ごめん」

「忘れてたわけじゃないならいいですけど」

「忘れるわけないって。舞花ちゃんをそうゆうふうには見れないけど、本当に大切に思ってることには変わりないから」

「大切・・・ですか?」

「あぁ、いつも琴美と仲良くしてくれるし。妹みたいな存在だよ」

「・・・・・」

 舞花ちゃんが黙ってしまった。


 元々あまり連絡も取ったことなかったし、琴美を通すわけにもいかないし。言うタイミングを逃してしまっただけで・・・。

 って、何を思っても言い訳だけどな。

 怒るのも無理ない。俺だって告白流されたら・・・。



「ねぇ、舞花。ハルのグッズはここに置いて、そこからよく見える?」

「あ、えーっと、アキと被ってるよ。もう少し右にまとめたほうがいいんじゃないかな?」

「やっぱり、そうだよね。ありがとう! じゃあ、こっちは下ろしたほうがバランスがいいかな・・・?」

「・・・・・・・」

 こっちの会話なんて気にせずに、推しグッズ並べるのに必死だ。

 祭壇は作るなって言ったのに、作り始めている。


「ゆいちゃなら可愛いですし仕方ないです。でも、私もずーっと好きだったのでそう簡単には諦められないですよ」

「舞花ちゃん・・・」

「もうしばらく好きでいますから」

「えっ、いや・・・俺は」

「私に黙ってた罰です。覚悟してくださいね!」

 目を逸らさずに話していた。


 舞花ちゃんは上京してから強くなった気がする。

 琴美について回ってた、ちょっと弱弱しい子の印象しかなかったのに。


「あと、たまには、私のVtuberチャンネルもチェックしてくださいね。実際にはゆいちゃには敵いませんが、Vtuberの姿なら私だって負けませんから」

「えっと・・・うん・・・」

 舞花ちゃんって自分に自信がないけど、本当はかなりモテるだろうし。

 東京にいれば普通に彼氏ができると思うんだよな。



「あっ、琴美にはゆいちゃのこち・・・」

「もちろん話していませんし、今後も絶対言いません。琴美はブラコンですし、言うときはちゃんとお兄さんのタイミングのほうがいいと思うので」

「は? 琴美がブラコン」

 あまりにも現実離れした言葉に頭の整理が追い付かなかった。

 琴美のほうを見る。祭壇作りに夢中で、近くに置いた麦茶を一口も飲んでいなかった。


「いやいやいやいやいや、んなわけないって」

 思わず声が大きくなりそうになって、腹筋に力を入れた。


「今だって上手く利用されてるし。あんな、俺が全く興味ないようなグッズ並べまくって・・・」

「そんなことないですよ。琴美はお兄さんの部屋に行く口実が欲しいんです。お兄さんが上京して、一人暮らしして、しばらく落ち込んでましたもん」

「琴美が・・・・?」

「そうです。お兄さんがいないと、寂しいんですよ。だから、あんなふうに、好きなグッズを並べて、たまにここに来て話したいんですよ」

「・・・・・・・」

 舞花ちゃんが必死にグッズを並べる琴美を見ながら言う。

 肩より長い髪を、時折後ろに流しながら、真剣にフィギュアを並べていた。


「・・・・・・・・・」

 琴美がそんなことを・・・。

 そういえば、実家にいたときはほぼキモイしか言われたことなかったのに、上京してから何かにつけて連絡が来るようになったような・・・。

 意外と可愛いところもあるんだな。



「お兄ちゃん! ここちゃんと掃除してないでしょ? 埃たまってるんだけど」

「あーそもそもそこの一角使ってないからな」

「ハルとアキの神聖なグッズに埃がかかったらどうするの?」

 琴美が立ち上がって、バッグから濡れティッシュを出していた。

「本当、信じられない。こんなんだから彼女ができないのよ」

 ぶつぶつ文句を言っている。


 前言撤回。

 琴美がブラコンだなんてありえない。


「・・・・・・・・」

「これからは、ちゃんと隅々まで掃除してね。このグッズの周りとかもちゃんと! 勉強とかバイトとか言い訳にならないから」

「ちゃんと、やってるって。お前が急に来るのがいけないんだろ?」

「そんなことばかり言ってるから、モテないの。わかった? ここに埃ためちゃダメだからね」

「はいはい・・・」

「もうっ・・・・」

 舞花ちゃんのほうを見る。くすくす笑いながら、麦茶に口をつけていた。


 一瞬でも、舞花ちゃんの話を真に受けた俺が馬鹿だった。

 琴美にブラコンらしき要素なんて一つもない。

 むしろ、都合のいいサンドバッグって感じだ。


「お兄さん、音楽流してもいいですか?」

「あぁ、好きにしていいよ」

「ありがとうございます」

 舞花ちゃんが琴美に近づいていって、スマホを見せていた。

 子供の頃と同じように、楽しそうにはしゃいでいた。琴美は美人だし何でもできるから、周囲から距離を置かれることもあるけど、舞花ちゃんと話すときだけは、いつもリラックスしてるんだよな。

 常に、あんな素直な妹だったらいいんだけど。


「お兄ちゃん、アイス買ってきてー。冷たいもの食べたくなっちゃった」

「自分で買いに行けって」

「どうせ暇でしょ? あ、アイス買ってきてくれたら、夕食作ってあげるよ」

「夕食までいるつもりかよ」

「だって、せっかく来たんだもん。舞花も一緒だしーよろしくね。私、チョコアイスでコーンがついてるやつ」 

 とりあえず、ブラコンってのは絶対にない。


 俺の都合を完全に無視するし、わがままだし。

 舞花ちゃんは、俺と琴美に対して、なんかフィルターが入ってる気がする。  

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