23 マッチングアプリ説明会
『マッチングアプリ大作戦はアプリが完成し、着実に準備を進めています』
『Vtuberを身近に感じていただくのが表向きのコンセプトです。ユーザーの方が条件などを入力すると、お好きなVtuberが候補に出てきます。この中から、好きなVtuberを選んでいただきます』
「ほへぇ・・・」
ゆいちゃがスマホを床に置いて、食い入るようにモニターを見つめる。
「はいはいしつもーん」
あいみんが手を挙げた。
「私たちVtuberとリスナーさんとの関係と何が違うんですか?」
「そう、私もそれ、気になってたの」
りこたんがパソコンの椅子を下りて、絨毯に座る。
『みらーじゅ都市のVtuberと、こちらの世界を繋ぐアプリ、と思っていただければいいです。マッチングアプリに入るVtuberは少人数でのファンミーティング、個別でのやり取りなども、許可しています。大きく違うのは・・・ここですね』
ハナがモニターを大きくして、学校を映した。
『このエリアは、『みらさぶシティ』といって、マッチングアプリ大作戦のために作られた場所になります』
「み・・・『みらさぶシティ』・・・ですか」
ゆいちゃが真剣な表情をする。
『はい。このように、アプリを起動すれば、気軽にVtuberのいる場所を覗けるようになっています。といっても、Vtuberにもプライバシーはあるので、許可しないと見れませんが』
画面の端に、カギマークのようなものが表示されていた。
『Vtuberがここを押して許可したときのみ、見れるようになります』
「なるほど・・・」
「時間が無かった割には、かなり凝ってるな」
『もちろんです。これがみらーじゅ都市の最先端技術です』
ナナが誇らしげに、顔を上げた。
『Vtuberが許可をするってことは、しっかりユーザーさんを認知してるってことです』
『逆に言えば、Vtuberが認知していなきゃ、このエリアは覗けません』
「・・・・・・・」
”認知”って・・・ファンの心理の真ん中をぐっと突いてくるな。
『ここでは、リスナーさんとの思い出作りをすることも可能となります。Vtuberとのマッチングアプリですから、Vtuberにもリスナーさんを選ぶ権利もありますけどね』
「えっと・・・・今の時間・・・午前0時だけど、この時間に来た理由とかあるのか? この時間しか起動できないとか」
『いいえ。完成したのでお披露目に来たんです』
ハナがふんぞり返りながら言う。
「・・・・・・」
唐突に、マナとナナとハナが現れて、モニターを出しながらマッチングアプリの説明をし始めて、今に至る。
3人が出してきたマッチングアプリの思った以上の出来に、一瞬忘れていたが、消えたまもんが何やってるのか、気になって仕方がないな。
ゆいちゃは、たぶんまもんのことをすっかり忘れてそうだし。
あいみんが前のめりになって、モニターを覗き込む。
「本当、すごい。『みらさぶシティ』・・・・」
「みらーじゅ都市にこんなエリアを作るなんて」
『はい。ナグワ大臣の許可ももらってますよ。学校、公園、プールなどのスペースも用意しています』
「なんだか、アニメの世界みたいですね」
『人気アニメの風景を分析し、最もエモいシチュエーションを作れるよう、Aiロボットくんが頑張りましたから』
マナが画面を切り替えながら言う。
夕焼けに2つのブランコが風で揺れている様子が映っていた。確かに、音とか入ればエモさで涙腺が緩むような風景だ。
「いいなー。行ってみたい。ほんの少しだけ、視察に・・・」
『駄目です!』
「っ・・・・」
『残念ですが、ここはマッチングアプリ大作戦に参加するVtuberのみ、入ることが可能になっています。セキュリティはかなり強化していますので』
「うっ・・・」
ナナが強めに言う。
「んー、そっか、そうだよね。こんな屋上でお昼ご飯食べたりしたら楽しそうなのにな」
「私、そうゆうのアニメで見たことがあります。卵焼きとたこさんウィンナーを交換したりするんです」
ゆいちゃが羨ましそうな顔をしていた。
たぶん、まもんのことは、忘れてる。
「私たちは『VDPプロジェクト』で武道館ライブをすることが目標でしょ?」
「そうよね。こうゆう場所は楽しそうだけど、ライブでパフォーマンスするほうがもっと楽しいもの」
のんのんが腕を組んで、ソファーに寄りかかった。
マッチングアプリ大作戦のために作られた場所は、青春時代をくすぐるような華やかさのある場所だった。校舎の屋上からは海も見えるようになっているらしい。
映画のワンシーンのような思い出を、みらーじゅ都市のVtuberと作ることも可能のようだ。
これは、かなりユーザーが増えるんじゃないだろうか。
昼の学校、夜の学校、静かな公園、遠くに見える海・・・。
俺みたいな、あまりいい青春時代を送れなかった高校生の心理を、ものすごく的確にくすぐってくるシチュエーションだ。
『本当は、課金制にしたかったのですが・・・』
ナナが心底残念そうな顔をする。
『あくまでも『ろいやるダークネス』の尻尾を掴む、奴らを永久にみらーじゅ都市のVtuberから遠ざけることが目的なので、今回は課金は無しです』
『ユーザーはほぼ無課金で、Vtuberとマッチングすることができます。一部コンテンツのみ、500円以下の課金するかもしれません』
「そんなことして、サーバーは大丈夫なのか? 殺到するぞ」
俺の言葉に、ナナが待っていたようににやりと笑った。
『みらーじゅ都市の処理能力は、こちらの世界の比じゃないのです。私たちのいる都市はかなり発達していますから、地球上の人間が全員アプリにアクセスしたって、耐えられます。ご安心を』
「地球上・・・・・」
急に、宇宙レベルの話をされたような気がした。
まぁ、確かに、画面から出入りできる時点で、次元が違うのは確かだけど・・・・。
ますます、あいみんが最初に作っていたダサいHPは何だったのか不思議になってくるな。
『ところで・・・』
ナナがゆいちゃのスマホに座って、ごほんと咳ばらいをした。
『皆さんの育成しているVtuberはどうですか?』
『もちろんVtuberはたくさんいますが、その子たちが、中心となって作戦を進めていくことになるので、進捗状況を見たいのですが』
「・・・・・・・・」
来た。
ごくり、と息をのんでゆいちゃと顔を見合わせる。
「私のところのルナちゃんは、結城さんのスマホで寝てるの。だって、もう0時過ぎてるから」
『まぁ、それはそうですね』
「あの、私のところも同じく。のんのんのスマホで寝てるから」
「そうね。『VDPプロジェクト』の配信が終わるまでは待ってたんだけど、ほら、もう寝てるわ」
のんのんがスマホを起動すると、画面の中で少年がすやすやと眠っていた。
ナナがふっと笑う。
『可愛い寝顔ですね。さすがです。理想的に育成されているようで何よりです』
「あははははは、よかった」
あいみんが少し引きつっていた。何かあるようには見えないけどな。
「!」
マナがぐるんとこちらを振り返る。
『で? 磯崎悟と、ゆいの悪魔系Vtuberは?』
「えっと・・・・」
「ま、まもんちゃんも寝てるんだと思います。ちょっと、どこで寝てるのか、わからないだけで。あ、悪魔なので、気まぐれで・・・」
ゆいちゃが両手でスマホを握りしめながら言った。
『そうですか。午前0時、確かに皆さん寝てるのは当然ですね。次は、寝ていないときに来るようにします。ちゃんとお話もしてみたいですしね』
マナがふぅっと息をついた。
『では、引き続きよろしくお願いしま・・・・』
『ケケケケー!!!』
聞き覚えのある笑い声が、部屋中に響き渡る。
「あれ!」
「!?!?」
『みらさぶシティ』のプールの画面に、まもんが映り込んでいた。
服を着たまま、バシャバシャ泳いでる。
『楽しい、楽しい。ケケケケケー』
笑いながら、水をまき散らしていた。
どうやってそこに入ったんだ?
「・・・・まもん・・・・ちゃん?」
ゆいちゃが固まる。口が開いたまま、何度も瞬きをしていた。
『どうしよう。まだ、Vtuberは入れないようになっていたはずなのに・・・』
『連れ出さなきゃ。まだプールは整備されていないし、アプリに穴が空くかもしれない。最悪、リリース前に流出しちゃう』
『それだけは避けなきゃ。私は、AIロボットくんに連絡を・・・』
3人が急に顔色を変えて、キーボードを出していた。
文句を言う暇もないほど、大変なことになっているらしい。
『ケケケケケケー』
まもんが笑いながら手を振っている。
「なんか・・・全く、悪いことしてると思っていないみたいだな」
「入れるから入ってしまったんでしょうね。普通、セキュリティのこととかありますし、躊躇するのですが、悪魔って難しいです。私はゴリラではなく悪魔について勉強しなきゃいけないです」
ゆいちゃが呆然としながら、絨毯を指でいじっていた。
「私のせいです」
「いや、俺も悪いんだから。ちゃんと見張っておけばよかったよ」
『今、AIロボットくんを1体向かわせています』
『コードの一部に穴が見つかりました。直ちに修正を。他には影響ないのを確認し・・・』
3人の空気が一気に変わっていた。
ガチで、申し訳ない。
「・・・・・・・・」
アプリのリリース前に全く予期せぬ障害が起こるって、ユーザーが想像する以上に大変なことだ。
啓介さんが、連日の障害対応で歩く屍のように、結城さんの後をついてきていたのを思い出していた。しばらくモンスターエナジー飲んで生きてるって聞いて、ぞっとしたな。
「ゆいちゃ、さとるくん、元気出して。私のところのルナちゃんも、ちょっと不機嫌なこととかあるし、たまたままもんちゃんがこうなっちゃっただけで。ほら、失敗は成功の基だもの。きっと大丈夫」
「ありがとうございます。りこたん大好きです」
「よしよし」
りこたんがゆいちゃの頭を撫でて、慰めていた。




