21 フラグ回収
「は!? ちょっと待てって」
『ばちーん!』
悪魔系Vtuber(名前はまだ保留、とりあえず悪魔っこ)がSNSのアカウントを乗っ取ってアイコンを変えていた。
トイレから戻ってきて、パソコンを開いたらこうだ。
やっと、課題が終わって、これからゆいちゃの配信アーカイブをチェックしようと思ってたのに。
画面の中に、悪魔っこが居座って、キーボードを操作している。
「やめろって。俺のSNSアカウントだ」
『エロ詐欺垢にする。で、ロック、っと』
「は?」
キーボードをたたく。動かない。
カタカタカタカタ
叩く。動かない。マウスをクリックする。動かない。嘘だろ。
「・・・・・・・」
マジかよ。積んだ。
まだ、新人Vtuberを育てるって決まってから2時間しか経ってないのに。
『VDPプロジェクト』グッズを並べた、アイコンが、すげー巨乳の女の谷間のアップのアイコンにされてしまった。つか、こんな画像、どこから拾ってきたんだよ。
『ケケケケケケー楽し。プロフィールも変えて』
画面の中を自在に動いて、やりたい放題やっていた。
セキュリティとかないのかよ。やっていることが、ウイルスだ。ウイルスっつてたけどさ。
『でけた!!!』
悪魔っこがにんまりとしながら、得意げに、プロフィール欄を見せてくる。
”ちょっと暇な大学生。遊びたいな。興味ある人はDMまで”
『さらに、こうゆう言葉も、っと』
”せっ〇〇したいなー。真夜中の渋谷散策中。会えた人、一緒にどう?”
”投資の話も持ってます。お金稼ごう”
ぬるっとツイートした。しかも、なんか怪しさが混濁している。
「おま・・・マジかって」
ガチの詐欺垢になったじゃねぇか。
ものすごい勢いで、ブロ解されていく。
『VDPプロジェクト』を語り合ったフォロワーが、次々に俺のフォローを解除していく。
そりゃそうだろう。
いきなり、推し語りしているアカウントの中に、こんなツイート流れてきたら・・・。
「!?」
このアカウント、『VDPプロジェクト』のみんなだけじゃなく、結城さんとも繋がってるんだが。
さすがに『ななほしⅥ』はいないけどな。
『ケケケケ、フォローも増えてく。よかった。嬉しい? 嬉しい?』
「・・・・・・・・」
怪しげなおっさんたちが、悪魔っこの投稿した文章に、いいね!を押していた。
類友っぽい、詐欺垢のフォローが増えていく。
100%稼げる方法、詳しくはDMまでってツイートを何回も見た。
『ケケケケ、次は、何しよう。何しよう』
俺のパソコンの検索履歴を、掘り起こしていた。
「それだけは、何もするなよ」
『悪魔だもん、悪魔だから、悪魔的なことしか考えない』
画面に『VDPプロジェクト』の同人絵が映っていた。
ものすごい勢いで、フラグを回収していく。
マジで3日後に、俺は社会的に終わっているかもしれない。
まだ、名前も付けてないのに。どうやったら止められるんだよ。
育てるどころじゃ・・・。
バタン!!!
「おじゃまします!」
「ゆいちゃ」
突然、配信と同じパーカーを着たゆいちゃが、部屋の中に入ってくる。
「さとるくんが、大変なことになってると思って助けに来ました」
「本当、マジで大変なんだよ」
『・・・・・・・・・』
ゆいちゃが画面を覗き込むと、悪魔っこの動きが止まった。
じっと、ゆいちゃのほうを見つめている。
「わー、悪魔ちゃん、すごいですね。さとるくん、さっき、SNS乗っ取られましたよね? 『VDPプロジェクト』のみんなと、結城さんにはちゃんと連絡しておきましたよ。安心してくださいね」
「ゆいちゃ・・・」
「アカウントも復旧できます。フォロワーもちゃんと戻ってきますよ」
「ありがとう」
ゆいちゃってやっぱり、こうゆうところだよな。
普段は抜けてるけど、嫁感があるっていうか・・・。
『XXXXXXXX(自主規制、数日前に一瞬だけ開いたエ〇動画の音)!!!!』
「!!!!!!!!」
悪魔っこが俺の履歴動画を堂々と、画面に映していた。
「ゆいちゃ・・・・?」
「あ・・・・・・・」
ゆいちゃが呆然としていた。
地獄だろ。こんな状況。
キスもしたことない、嫁の前で起こるイベントかよ。
ハードモード越して、ナイトメアだ。
フラグ回収、早すぎるだろ。
「わ・・・・・あ・・・・・すごいです。わわ、私もこれは刺激的過ぎて・・・・さとるくんがこうゆうの好きだったんですね。過激です」
ゆいちゃが顔を真っ赤にして、手で顔を覆っていた。
「違うって、違うんだ。これは・・・」
『違くない。磯崎悟のアクセス履歴を検索してる。こんなのも』
「いい加減にしろって」
『XXXXXXXX(自主規制、数日前に何回か開いたエ〇動画の音)』
バチン
「っ・・・」
パソコンの電源を切った。
「ふぅ・・・・・」
数十分やった課題は消えたが、今、ゆいちゃに俺の検索履歴を見られるくらいなら、消えたほうがマシだ。
問題はどこまでスルーできるか、なんだけど。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・えっと・・・終わりました?」
指の間から、目をこちらに向ける。
「一応・・・」
ゆいちゃが耳まで真っ赤にしながら咳ばらいをする。
ぎこちなく歩いて、ソファーに座った。右手と右足が同時に出ていた。
「少し離れた隙に、パソコンの中に入ってたんだ。甘かったよ」
「どどどど、動じていないです。さとるくんが、えちえちなのが好きなのは知っていますし、私もえちえちには興味があります。健全な、男女なので、いずれはそうゆうこともあると思いますし。私だってその気になればそうゆうのができると思いますし、嫁なので、えっと、何を話そうと思ってたんでしたっけ」
熱暴走のまますごいことを言った気がする。
でも、冷静さを保つために、今は忘れよう。
「えっと、まとめると、その・・・ちゃんと知らないさとるくんを知りたいのです」
「・・・・」
「私、さとるくんの嫁なので」
ゆいちゃが、上目遣いで言う。
破壊力抜群に可愛い。
今なら、マナもナナもハナも居ないし、いいんじゃないか。
少しくらい理性を・・・。
「!」
ゆいちゃの横に座ると、びくっと身を固くしていた。
「そうですよね。なんだか、き、緊張します」
「嫌なら何もしないって」
「嫌じゃないです」
ゆいちゃが前のめりになる。
「少し、恋人っぽいこともしてみたいのです。あの、知ってると思いますけど、私、さとるくんが大好きです。本当に本当に大好きなのです。みらーじゅ都市の法には触れてしまうかもしれませんが・・・」
バチッ
ガタガタ ガタガタガタガタ
「!?」
スマホが急に鳴り出した。ばっと、ゆいちゃから離れる。
「いいいい、いきなり、な、な、なんでしょう・・・」
「みらーじゅ都市の誰かじゃないのか?」
ゆいちゃが、髪を耳にかけて、スマホを拾う。
『ばぁ!!!』
「わっ!?!?!?」
『ケケケケケ、全部見てた。今から、えちえち始めるの? 始めるなら、録画する。ケケケケケケー』
悪魔っこが笑いながら、画面にアップで映っていた。
「えぇっ!?」
ゆいちゃがぱっと放り投げたスマホをキャッチする。
「ゆいちゃのスマホは、マナたちが録画機能を一時的にロックしてる。『ろいやるダークネス』対策だ」
「あ、そうでした」
『面白くない・・・』
悪魔っこがぷくっと頬を膨らませた。
拗ねると、どこかゆいちゃに似てるんだよな。他は全然、似てないけど。
「名前! 名前決めたいです。この子の名前」
ゆいちゃがスマホを持って、悪魔っこに話しかける。
「名前決めましょう。ね」
『・・・・・・・?』
「そうだな。まだ、決めてなかった。なんかいい案あるのか? 俺、そうゆうの苦手なんだよな」
「任せてください」
ゆいちゃがポケットからメモ帳を取り出した。
「私、今日の配信でコメント欄のリスナーさんの名前見ながらいくつか考えてきたのです。読み上げていきますね。まずは、ウイルスのうるちゃん、悪魔から、あくまだもんちゃん・・・」
紙に走り書きした文字を読んでいく。
暴れると思っていた悪魔っこが、スマホの中からじっと、ゆいちゃの案を聞いていた。




