19 新人Vtuber(試作品
何度かアプリの仕様のすり合わせをして、マッチングアプリ作戦が本格的に始まった。
あいみんたち含めみらーじゅ都市のVtuberがマッチングアプリについて大々的に宣伝していた。
トレンドでも上がってくるようになり、学校でもVtuberとつながるマッチングアプリについて耳にすることがあった。
『順調に広まってるみたいですね。ありがとうございます』
マナがメイド服のスカートを持ち上げて、お辞儀をした。
あいみんの部屋に俺と『VDPプロジェクト』の4人が集められていた。
AIロボットくんが作った新人Vtuberのお披露目会だ。
「この前テレビで取り上げられてるの見ちゃった」
「リリース日の発表もまだなのにな」
「私たちのリスナーさんもコメントで楽しみだって話してました」
ゆいちゃが左右に揺れながら言う。
『素晴らしいことです。皆さんには、本当に感謝しております』
ナナがマナに続いてお辞儀をする。
「それより、新人Vtuberってこんなに早くできたの?」
『はい。AIロボットくんは優秀なんです』
『まだ、試作品ですが、かなり良い出来になっていますよ』
『私も試しましたが、これはハマると思いました』
マナとナナとハナが自慢げに言う。
相当、自信があるらしい。
ハナが目の前にモニターを表示して、マッチングアプリ画面を映した。
『では、試したほうが話が早いでしょう。磯崎悟・・・と趣味は?』
「えっ、趣味・・・?えっと」
『なんでもいいんじゃない? ペンライト振るとか』
マナが適当に答えていた。
推しを追いかけることだから、あながち間違ってもいない。
「特技は?」
「勉強ですよね?」
「あ、まぁ・・・」
ゆいちゃが前のめりになりながら言った。ハナがマッチングに必要な入力項目に打ち込んでいく。
『ふうん。最推しは浅水あいみ・・・と』
「あはは、さとるくん、最推しはゆいちゃに推し変したんじゃないの?」
「俺の最推しは一生、あいみんだから」
「そうです。嫁も認めるあいみさんなのです。私もあいみさんが大好きです」
「照れるなぁ」
あいみんが頬を指で触りながら、へへへと笑っていた。
『ま、こんなもんでしょう』
ハナが勢いよくエンターキーを押した。
画面が切り替わって、背景が女の子らしい部屋になっていた。
『こんにちは。新人Vtuber、櫻井桃花です』
ピンクの髪の天然系の美少女が映っていた。
めちゃくちゃ可愛い。
あいみんともゆいちゃとも違うけど、なんとなく俺の好みにぴったりだ。
恐るべし、みらーじゅ都市の技術。
「おぉー・・・・」
「すごいわね」
「服のセンスもいいし。本物のVtuberみたい」
みんなが拍手していた。これはいける気がする。
『ふふん、私たち3姉妹で育てた自信作ですから』
「3姉妹!?」
『そうですよ。言ってませんでした? マナが長女、私が次女、ハナが三女です』
ナナが裁判官の帽子を直しながら言う。
どおりでそっくりだと思った。てか、格好が違うだけで顔も口調も同じなんだよな。
3人そろうと、圧が違うけど。
「ねぇねぇ、育てたってどうゆうこと?」
『AIロボットくんだけじゃ、どうしても人間の些細な感情とかが表現できなかったんです。だから私たち3人が手塩にかけてこの2週間、立派に育て上げました』
『もちろん、これからも継続して育てていくので安心してください』
『『ろいやるダークネス』を潰すような、強いVtuberにしなきゃいけませんからね』
『私たちのようにニシニシシティにも侵入してもらいますから』
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
あいみんと目が合った。
一気に不穏な空気が流れた。
「えっと、彼女はお、お話ってできるのかな?」
『もちろんです。一対一で話ができますよ』
ハナが小型マイクを俺のほうに向けてきた。あいみんがこくんこくんと頷く。
「ど、どうも、磯崎悟です・・・」
『桃花っていいます。磯崎くんでいいかな?』
「・・・うん」
『さっそくだけど、学生?』
一挙一動可愛い。なんかあいみんに似てる気がするんだよな。
「そうだよ」
『へぇ、そうなの。私も、本読んだり、音楽聞いたりして勉強中なの。一緒にいろんなこと勉強しようね』
桃花が桃の髪留めを触りながらにこにこしていた。
『私、ダンスが得意なの。こんな感じでリズムに乗って』
長いツインテールをふわっとさせて一周回る。
さすが、みらーじゅ都市の技術だ。
3人が育てたって聞いてやばいと思ったけど、やっぱりちゃんとして・・・。
『ところで、質問していい?』
「あぁ」
『貯金いくらあるの?』
「えっ」
『学生だったらあまり課金できないよね。課金できないなら情報ちょうだい。単独で『ろいやるダークネス』の拠点に乗りこんでほしいの。オタクくんなら知ってるでしょ? あ、住所は東京都大田・・・』
「ちょちょちょちょ・・・」
「待って!!!!ストップストップ」
りこたんと同時に声が出た。
『?』
『どうしましたか?』
『何か問題・・・』
「問題ありすぎだろ!」
桃花が3人と同じように首をかしげていた。
「個人情報を漏らしたら犯罪よ。それにいきなり課金って言うのもどうかと思うし、それじゃあリスナーを傷つけるだけ。私のリスナーにこんなことしたら、絶対許さないから」
りこたんが叱るように言う。
『そこまで怒るなんて・・・すみません。これで、絶対、磯崎悟を落とせると思ったのですが・・・』
『神楽耶りこがそう言うなら、そうなんですね・・・』
『磯崎悟も照れで言っているわけではなさそうですし』
3人が腕を組んでうなっていた。
なぜ、この子で俺を落とせると思ったのかわからん。確かに雰囲気は好みだけど・・・。
「AIロボットくんにすべて任せたバージョンだとどうなるの? ほら、そっちは言葉遣い直せば普通になるとか・・・」
『それは、こちらになります』
ハナがモニターに手をかざすと、桃花の髪が青くなった。
『貴方が磯崎くんですか?』
「うん。よろしく・・・」
『私、桃花です。もうVtuberやめたいと思います』
無表情のまま言う。さっきの笑顔が全くなくなっていた。
「それは・・・どうして?」
『疲れた』
「・・・・・・・」
「桃花ちゃん、Vtuberの浅水あいみ、こと、あいみんっだよ。どうして疲れちゃったのかな?」
『・・・・・・・・』
無視してそっぽ向いていた。ゆいちゃも話しかけていたが、とことん無視だ。
「これ・・・どうゆうこと?」
『AIロボットくんが集めた情報から作ったVtuberだと、リスナーとの会話を拒否してしまうんです』
「なんで?」
『ほかのVtuberに対する変なコメントばかり目につくからじゃないですか?』
「私たちのリスナーはそんなことないわ」
『AIロボットくんが非表示にしてるんですよ。どのVtuberにも変なコメントする人も一定数います』
マナがのんのんにぴしゃりと言う。
確かに、Vtuberの中にはかなり誹謗中傷受けている人もいる。
人気があっても辞めてしまう人も多かった。
「んー困ったわね・・・」
「アプリもキャラデザも完璧なのにな。正直これなら、一般人が育てたほうがマシだと思うよ」
「あー!」
あいみんがぱっと思いついたような表情をした。
「私たちで育てればいいんじゃない? 新人Vtuber」
「育てるって・・・」
『それは名案ですね』
マナとナナとハナが同時に言った。
「そんなことできるの?」
『はい。話しかけたり、教えたりしていけば、人格が形成されていきます。この子もそうやって、いろんなことを吸収していきました』
『ここにいる全員でやれば、5人のVtuberが誕生しますね』
「俺も?」
『当たり前じゃないですか。人が足りないんですよ』
マナにきつめに言われる。
「でも、こうゆうのって一日中一緒にいなきゃダメだよね?」
『そうですね。愛情不足だと不良になりますから』
『ちゃんと愛情を注ぐことは大前提です』
「んー」
あいみんとりこたんが顔をしかめる。
「私たち・・・ライブとか配信とかの準備で忙しくて・・・・」
「1日中一緒ってのは難しいかも」
「そうね。おもしろそうだとは思うんだけど・・・」
のんのんが座り直して、モニターを見つめていた。
『2人で一人育てるのはどうでしょう?』
「それならいいかも! 頑張れると思う。ね。片方が見られないときは片方が見る」
「え、うん」
あいみんが目をくりっとさせて俺のほうを見た。
「確かに2人なら・・・」
「楽しそうです。頑張ってみたいです」
ゆいちゃが両手をぐっと握りしめていた。
『では、そうしましょう』
『ほかのみらーじゅ都市のVtuberにも声をかけてみますね』
「うん!」
「でも、ここにいるの5人だから、2人組作るなら1人足りないわ」
「結城さんに声かけてみるよ。たぶん、協力してくれると思う。いいだろ?」
『もちろんです。結城みいなは適任かと思います』
「よかったー。組み分けは公平にくじでいいよね?」
「はーい」
あいみんがじゃあと言ってくじを作ろうとすると、マナが両手を広げて引き留めた。
『待ってください』
「え?」
『組み分けは、6人の性格を分析し、私たちで決めさせてもらいます』
『少々お待ちください』
『今からみらーじゅ都市のアプリを使って、新人Vtuberを作成するのに最適な組み合わせを割り出しますから』
マナとナナとハナが同時に座って、モニターに何かを打ち込んでいる。
期末テストの結果発表並みに緊張しながら、3人の分析が終わるのを待っていた。




