18 マッチングアプリ大作戦
ネットでは『VDPプロジェクト』の中の人について、いろんな憶測が飛んでいた。
本当な中の人なんていないんだけどな。
特にゆいちゃは、そっくりな声のりまりまという声優がいるらしく、りまりまが公式に否定してもまだ疑っている人がいるようだった。
「He fell from hrace because use of misuse of political funds(彼は政治資金の悪用で失脚したんだ)。I Know better(僕はそんなばかなことはしない)」
「ひーいずまいふれんど」
「ゆいちゃ・・・・」
「え?」
「2ページくらいすっ飛ばしてる」
「あっ」
「・・・・・・・・」
リノの演じる『すくらぶ』の練習台になることを話したら、ゆいちゃが練習台の練習台になりたいと名乗り出た。
名乗り出たのはいいんだけど・・・。
「もう一度最初からやりましょう」
「いや・・・もう10回はやってるだろ・・・」
「何回も練習できていいじゃないですか」
全然進まない。素人の俺がゆいちゃの練習台になってる感じだ。
「ゆいちゃに声優は難しいかもな。曲とかダンスとかそっち方面で頑張れ」
「でも、わたしはあの人気声優、りまりまに声が似てるらしいんですよー」
「似てるだけだろ?」
「似てるだけです。でも、声が同じならできるはずです」
「はぁ・・・みんな得意不得意あるからさ」
「やると言ったらやるんです」
頭を掻く。こうゆうときのゆいちゃは強情だ。
ゆいちゃがアイパッドを見ながら足を伸ばした。
「これは英語だから難しいんです。英語だと途中からどこ読んでるのかわからなくなるじゃないですか。日本語なら大丈夫です」
「英語の掛け合いだから頼まれたんだけどな」
台本をぱっと読んだけど、この主人公の相手役の男は相当アホだな。
いくら気になる子の興味を引きたいからって、高校生がいきなり英語で政治の話するか?
百歩譲って理系ならガンダムだろ。
「私も『すくらぶ』好きだよーアニメは絶対リアタイする」
あいみんがにこにこしながらゆいちゃの横に座った。
「あいみん、次の配信の企画決まったの?」
「全然思いつかない。もう、休憩」
あいみんの家で、配信の企画会議をやっていた。
歌やダンス以外の雑談動画はマンネリ化してきたから新しい何かをやりたいと話していた。
ファンとしては、みんなでわちゃわちゃ話してるだけで癒しなんだけどな。
「ほかの配信者ってどんな風に企画考えてるのかしら」
のんのんが配信者のショート動画を眺めていた。
「私はお酒飲みながら料理作るコウジさんの配信が好きなんだけど。レシピもとっても美味しいし」
「レシピ、美味しい・・・食べる・・・。あっウーバーイーツで取り寄せたものを、1万円分食べるとかは?」
「いいかも。食レポもできるし」
あいみんの話に、りこたんがすぐ反応していた。
シュンッ
『まったく・・・』
突然、3Dホログラムで、マナとハナが現れる。
『住所を特定されたらどうするんですか?』
「あ、そうだった」
『こっちで何か配達してもらうなんて絶対駄目ですからね。ただでさえ、今、危ないんですから』
マナが強い口調で言う。ハナが微笑みながらマナをなだめていた。
「で、お前ら今日は何しに来たんだよ」
『ハナが『ろいやるダークネス』を追い詰めるとっておきの秘策を思いついたのです。これできっとみらーじゅ都市への脅威もなくなりますよ』
『はい、私、とってもいい案を見つけまして』
「本当に?」
あいみんが前のめりになって食いついた。
「随分早いじゃん。また、俺が単独でシェアハウス乗り込むとかじゃないだろうな?」
『違いますよ。今回はもっと壮大な計画なのです』
マナが少しふんぞり返る。
ハナが咳ばらいをして、モニターを表示した。
『題して、『マッチングアプリ大作戦』です』
「えっ」
「マッチングアプリ!?」
『説明しますと・・・・』
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Vtuberと繋がるマッチングアプリ開設
(みらーじゅ都市の架空Vtuber、AIロボットくんたちと協力)
↓
見事マッチすれば会話できる!
みらーじゅ都市のアバター(ロボット)を用意。市内でのデートが可能。
『ろいやるダークネス』が食いつくはず!
管理人Z含め関係者をおびき寄せる。
情報をかき集める。
↓
注目が集まったところで、『ろいやるダークネス』の存在を表に出す。
みんな平和!二度とみらーじゅ都市に関わらない!
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ハナがスライドショーに映して説明していた。
『という感じです。完璧な作戦ですね・・・・』
鼻息を強める。
どこかだよ。強引すぎるだろ・・・。
「俺は反対だ。みらーじゅ都市全体が危ないってことだろ? 第一、誰がマッチングアプリをやるんだよ」
「そうそう。マッチングアプリって、なんだか危ない気がする」
あいみんが小刻みに頷いて同意した。
『もちろん、みらーじゅ都市のVtuberの皆さんを危険にさらすようなことはしません。基本的には架空のVtuberをAIロボットくんに作ってもらい、彼女たちとこちらの人間たちがマッチするようにしてもらいます』
『ハナ、彼もですよ』
『そうでした。猫鍋まゆのことがあるので、『ろいやるダークネス』には女性もいるんですもんね。ちゃんと女性が夢中になるような男性Vtuberも用意しなきゃダメですね』
「さ・・・詐欺じゃねぇか」
『失礼な。Vtuberと繋がるマッチングアプリなので、最初から架空のキャラと繋がるってことを前提にしていますよ』
『ほら、見てください。ちゃんと注意書きもあるじゃないですか』
マナが"Vtuberと繋がるマッチングアプリ"って文章の下に小さく"繋がるのは架空のキャラクターとなります"って書いてるのを見せてきた。
「まず、この文章を大きくしろよ。勘違いする人も多いだろ?」
『わかりましたよ。うるさいですね』
「・・・・・・・」
マナがふてぶてしく言いながら、文字を拡大した。
『『VDPプロジェクト』の皆さんも含め、みらーじゅ都市のVtuberの皆さんには配信で是非、このアプリの存在を広めてほしいんです。お願いします』
ハナが手を組んで懇願してきた。
「え・・・と、どうしよう・・・」
「うーん・・・・」
「本当に安全なんだろうな?」
マナを睨んだ。推したちがマッチングアプリに関わるとか気が気じゃない。
特に・・・。
「私、そうゆうの関わっていいのでしょうか? だって、お嫁さんなのに」
ゆいちゃが困ったような表情で言った。
『お嫁さん!?』
「はい。さとるくんのお嫁さんです」
『え!?!?』
ハナは聞いてなかったらしく、頬に手を当ててマナのほうを見た。
『お嫁さんじゃないですし、付き合うことも認めていませんが、天地ひっくり返ってそうだとしても、マッチするのは決して皆さんではありません。AIロボットくんが作った架空の男女です』
マナが声を大きくする。
『このままみらーじゅ都市を危険にさらすわけにはいかないのです。これから、こっちの世界と会話したいっていう後輩Vtuberもたくさんいるのですが・・・・。今の危ない状態では、絶対に許可できません』
『皆さんにばかり負担をかけて申し訳ありません。ですが、このアプリを使い、必ず目標を達成してみせますから』
「・・・・・・・・」
何もしなければ、変わらないってわかってるんだよな。
ななほしⅥだって、また標的になる可能性だってあるし。
「わかった。でも、いろいろ聞かせて。まだ、心から納得できてないというか・・・」
「そうそう。私たち、こっちの世界の人たちが好きだから、みんなの悲しむようなことはしたくない」
『わかりました。納得するまで話し合いましょう』
マナとハナがモニターの横に立つ。
あいみんたちが顔を合わせて、不安な部分を洗い出していた。




