16 シスターの召喚
「猫鍋まゆって元々ニシニシシティの配信者だったんだって」
「本当だ。フォームチェンジして、チャンネルを移動したって書いてある」
あいみんがマカロンを一口食べて、アイパッドを覗き込んでいた。
「さとるくんの話だと、葵って子と猫鍋まゆは別々なのね」
「あぁ、声は同じだったけど、猫鍋まゆは完全に独立して動いてたからな。葵が動かしているだけのアバターとは違うんだろう」
「じゃあ、ニシニシシティの私たちみたいな感じなのかな・・・猫鍋まゆって」
「おそらく」
チャンネルの動画を見る限りだと、ギャル子さんの話し方に近い気がした。
猫鍋まゆは臆病な感じがしたし。
どうして猫鍋まゆが自分で配信しないのかはわからないけどな。プラットフォームが違うからだろうか。
「2人はさっきから何してるんだよ」
マナとナナが向かい合って顔をしかめていた。
『何かはダメージを与えてやらないと』
『この画像を使って』
上裸のバーシをアップにする。
「・・・・・・・・」
あいみんたちが固まっていた。りこたんはほんのり赤面している。
なんとなく、『VDPプロジェクト』のメンバーの目にはさらしたくない画像だな。
「バーシの画像をばらまくってどうゆうふうにやるんだ?」
『そこが問題なんですよね』
『無名のアカウントを作ってバーシの上裸なんてアップしても、効果が無いと思うの。なんかこうパンチが足りないっていうか・・・』
『だからと言って、『ろいやるダークネス』の幹部がバーシだって流したって、かえって盛り上げちゃうだけだし』
マナとナナがその場に座り込んでうなっていた。
「わ、私たちのアカウント使ったら・・・」
「炎上になるだけでしょ」
「そうね・・・今は裏で捜査を進めて、注意しておくだけのほうが安全かもしれないわね」
りこたんが髪を耳にかけた。
『私たちは温厚なので、これといった仕返しが思いつきませんね』
『私も普段は裁判官ですし。あまり性格の悪いことは思いつかないんですよね』
マナとナナが顔を合わせていた。
「・・・・・・・・・」
こいつらが、温厚だとも性格良いっても思えないんだが・・・。
麦茶に口をつける。
『ハナに声をかけてみましょうか』
『そうですね。ハナなら何か思いつくかもしれません』
「ハナ?」
『はい。みらーじゅ都市の教会でシスターをしています』
「あれ? 会ったことあるかな?」
『浅水あいみとは会ったことあると思いますよ。学園のシスターでもあるので、頻繁に教えに行ってたはずです』
「あっ、わかったかも。英語を教えてもらったの。国際的なVtuberになりたくて、英語だけは熱心に勉強してたから」
あいみんが目をくりくりさせた。
「どんな子?」
「すっごい清楚な聖女って感じのシスターだった」
「なんでそんな子に?」
『彼女はかなり性格が悪いので事情を話せばもっといい仕返しを考えられると思います』
『ハナなら大丈夫です。安心してください』
「え・・・・・・」
あいみんの話を聞く限り全く悪い子に思えない。
そもそも、こいつらって自分が性格悪いことに自覚がないのか。
「一度くっついたラブコメの主人公とヒロインは、続編ではひたすらイチャイチャするものですよね。イチャイチャだけなら健全です。袋とじになったり、子供までできてたりしちゃうじゃないですか」
「なっ、何言い出すんだよ。急に」
麦茶を吹き出しそうになった。
「今期話題のアニメ『転生したら幼馴染がラブコメのヒロインだった件 パート2』ですよ。一期の最後に主人公とヒロインがくっついたんですけど、放置されてるって感じで」
ゆいちゃがスマホでアニメを見ていた。
「全然ラブのパートが無いんです」
「・・・ラブって・・・・」
「これは大事件ですよ。ラブコメと言ってるのにラブが薄いなんて。ツイッタートレンドに上がってもおかしくありません」
「でも、見るんだろう?」
「二人の今後が知りたいので仕方ないんです」
「・・・・・・」
あいみんたちがみらーじゅ都市に帰った後、ゆいちゃが一人であいみんの家に来ていた。
「で、ゆいちゃはさっきなんで来なくて、今来てるの?」
「昼寝中であいみさんの着信に気づけなかったのです。昨日は動画の編集で夜遅くて・・・でも、さとるくんの無事を確認したかったので来ました。無事でよかったです」
「どうも・・・」
寝癖をぴょんとさせてほほ笑んだ。
ゆいちゃは相変わらずマイペースだよな。
ジジッ
マナが現れる。メイド服のリボンが青から赤に変わっていた。
『高坂ゆいと磯崎悟だけですか』
「あいみんたちは今日の配信の準備で帰ったからな」
「私も配信があるから、このアニメ見終わったら帰ります」
アイパッドでアニメのオープニングを流していた。
『2人でいちゃつきに来てるんだと思いました。こうゆうところからグループに亀裂が入るんですよ。気を付けてください』
「えっ!? 亀裂?」
「意地悪いこと言うなって。みんながバラバラに来ることなんて、今までだってあったし、ゆいちゃに限らずみんなそうだから」
『そうですか』
あからさまに面白くなさそうな顔をしていた。
「で、そっちこそ何しに来たんだよ?」
『ハナを連れてきたのですよ』
ジジッ
『はじめまして。みらーじゅ都市近くの教会にお仕えしているハナです』
マナと同じサイズのシスターの格好をした少女が現れた。
「あっ!」
『高坂ゆいは久しぶりですね。補修でやった知識は生かせていますか?』
「は・・・はい・・・もちろんです」
ゆいちゃが急にしゅんとなっていた。
本当に怖いのか? 清楚でおとなしそうな感じだけど。
『今日は磯崎悟にお礼を言いたくて来ました』
「ん? 俺?」
『話はお聞きしました。この汚い野郎の画像をばらまいて、精神的に追い詰める方法を探しているのですね。是非、私に任せてください。何通りかシミュレーションをした後に、最適な方法を見つけます』
「え・・・・」
『あのシェアハウスでの記録はすべてハナに渡しました。安心してください』
『はい。私、そうゆう社会的弱者を追い詰めるのが好きなので任せてください』
『確かにバーシのあの見た目は弱者ですね』
「・・・・・・」
ニヤニヤしていた。マジで性格悪そうだ。
『フフフフ・・・・』
暗黒微笑ってやつを初めて見たな。
シスターの格好で、えげつないこと言うし、首にぶら下げてる十字架は飾りか。
『わくわくというかぞくぞくしちゃうんですよね』
「あ・・・そ・・・・」
『本当は監禁拷問が好きなのですが実際できませんから。精神的なダメージを与えるので我慢しています』
ハナが悶えながら言う。
なんか趣旨代わってきてる気がする。
『ハナが喜びそうなネタですよね』
『はい。楽しみができてしまいましたね。もう、どうしてやろうって、混乱する顔を想像するだけで・・・』
『私はまだまだ面白くなるのはここからだと思ってますよ』
『そうですね。暴露系Youtuberが暴露されるなんて、なかなか香ばしいですもんね』
「・・・・・・・・」
にやにやしながら、話していた。どう見ても、こいつらが悪役側に見えて仕方ない。
まぁ、毒を以て毒を制すってことだろうけど。
「はい、ハナ先生! 私、アニメ見ていいですか?」
『あまり刺激の強いアニメなら注意したいところですが、今日は大目に見ますのでいくらでもどうぞ』
『ありがとうございまーす』
ゆいちゃがアニメの続きを流す。
ソファーに寄りかかって天井を見る。
カオスな空間になってしまった。
とりあえず、『ろいやるダークネス』がどう動いてくるか・・・。
これでみらーじゅ都市のVtuberへの嫌がらせを辞めてもらえればいいんだけどな。




