15 ニシニシシティ
「お前ら・・・まさかみらーじゅ都市のVtuberなのか?」
『大切なVtuberがここに来るわけないじゃないですか』
バチッ
暗かった画面にマナが映る。メイドの格好のまま、見たことが無いくらい冷たい目をしていた。ナナが猫鍋まゆに向かって手をかざす。
『猫鍋まゆはこうしておきます』
『なっ・・・』
ガンッ
ガラス張りの檻が現れて、猫鍋まゆを覆う。
『噓でしょ。ニシニシシティまで入ってくるなんて』
『ニシニシシティがこんなふうになってるとは思わなかったけど・・・』
『回線さえ繋げば、私たちに入れないところは無いから』
ナナが睨みつける。
『そんなことって・・・何これ。全然出れない。バーシさん!』
「駄目だ。全然入り込めない」
『無駄。完全に乗っ取ったんだから』
バーシがキーボードを動かしたり電源を切ったりしていたけど、まったく消えなかった。
「ニシニシシティ・・・・か」
「磯崎悟・・・最初から・・・」
「・・・俺がただで帰るわけないだろ?」
バーシを睨みつけて、スマホをかざす。
バックグラウンドでマナとナナに情報を流していた。ギャル子さんが設定していた情報も、猫鍋まゆの様子も、部屋からわかる限りのすべてをポケットで打ち込んでいた。
俺だってみらーじゅ都市を守るためにできることはある。
『葵ちゃん、葵ちゃんにも連絡が取れない』
『磯崎悟をここから出してくれれば、このガラスも解いてあげる』
『そいつを、裁くのはこっちだから』
マナとナナが両側から鋭い口調で言った。
「・・・・わかったよ」
バーシがドアに手をかざすと、光が消えて、普通のドアに戻っていった。
「早く出ていけ。今日のところは負けを認めてやる」
『あ、そ』
『あ・・・・・』
ナナが猫鍋まゆのバリアを解いた。
「でも、ニシニシシティ界隈は絶対だ。お前らに潰されるようなことなんてないからな」
仮面の奥からぎろりとこちらを見ていた。
ニシニシってなんだかわからないな。
「マナ、ナナ、そこから抜け出せるの?」
『予定通り、大丈夫よ』
マナとナナがピースをして見せた。
「これ以上の情報を抜こうというならこっちにも考えが・・・」
バーシが自分のスマホを取り出した時だった。
『あー、キモ。まさか上裸のおっさんが出てくると思わなかった』
「え・・・・・・」
『ね。どんなに鍛えたってキモいものはキモいのに気づかないってどんな世界にいるのかしら。行動もキモいし、こっちにいたら即死刑にできるのに』
『見て。全体的に汚い。早く出なきゃ目が腐るわ』
「ぜ・・・全体的に?」
バーシがかろうじて言葉を呟いた。
『たぶん、暴露系Youtuberで登録者数がトップだから、自分がかっこいいとおもって勘違いしちゃったのよね。痛々しいわ』
『暴露してる対象が人気者だから有名になっただけなのにね。本人なんかただの崩れたおっさんじゃん』
「崩れたおっさん・・・」
すっげー鋭いワードを本人に突き刺していた。
崩れたおっさんって・・・。
『一応、その姿撮っておいたから。メモリが汚染されるけど、この際仕方ないわ』
「えっ」
『手始めにばら巻いてみましょうか。あ、でも、みらーじゅ都市の許可を得てからにしましょ』
『そうね。私たちが変態だと思われたくないから』
『ナナ、行こう行こう。変態が伝染するから』
『はーい』
シュッ
呆然とする俺らを無視して、画面からマナとナナが消えていった。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
バーシがものすごいダメージを受けて固まっていた。
なんか、俺まで心が痛くなった。
いや、こんな奴どうでもいいんだけどさ。
『バーシさん・・・・』
「あ、あぁ・・・・・・」
猫鍋まゆが声をかける。あからさまに戸惑っているみたいだった。
ここまで言われたら、俺だって死にたくなるな。
「あれ!? どうして!?」
階段を降りていくと、ギャル子さんが俺を見て立ち上がった。
「ど、どんな手を使ったの? どうゆうこと?」
「じゃ、俺は帰るから」
「ちょっと!!!」
ギャル子さんを無視して、シェアハウスから出ていった。
結局、このシェアハウスには、ギャル子さんとバーシがいることしかわからなかったな。
本当は管理人Zがいるんだろうが・・・。
「わぁ、大変だったね」
あいみんの家で、一連の流れを説明してお茶を飲んでいた。
「無事帰ってこれてよかったね」
「まぁな」
「お疲れ様、さすがさとるくんね。あ、マカロン作ってきたから食べて」
「ありがとう」
のんのんが可愛らしい皿に色とりどりのマカロンを置いていた。
あいみんとりこたんとのんのんが座って、マナの持ってきたデータを眺めていた。
『ニシニシシティは昔流行ったクリエイターのプラットフォームです。『ろいやるダークネス』はそこから来ているみたいですね』
ナナが画面にバーシと猫鍋まゆを映しながら話す。
「ニシニシシティって、なんか聞いたことあるんだけど・・・昔流行ったんだっけ?」
「私も業でそうゆうクリエイターのプラットフォームがあったのは知ってるけど・・・詳しくは・・・」
マナがため息をつく。
『今の動画配信は各個人が一つの動画を作りますよね?『VDPプロジェクト』だったら『VDPプロジェクト』のチャンネル・・・みたいな』
「そうね」
「私たち個人のチャンネルも、あいみんチャンネルとかだよね」
あいみんが口のチョコレートを拭きながら言う。
『ニシニシシティは曲作りの得意な人がいて、絵が得意な人がいて、歌が得意な人がいて、ダンスが得意な人がいる。それぞれがリスペクトしながら動画を作り出していくんです』
『そうゆう著作権がグレーなプラットフォームです。クリエイターだけじゃなくてリスナーも活躍しましたね。コメントも職人と呼ばれるような人がいたんですよ』
「あ、そっか。私たちがやってる歌ってみたとか踊ってみたって」
「ニシニシシティから来てるのね」
あいみんが二回首を縦に振っていた。
ナナがぱっと自分のモニターにニシニシシティというサイトを映した。
『みらーじゅ都市にいる私たちには馴染みがありませんけどね。これがニシニシシティのサイトです。動画投稿、掲示板、チャットなど、いろんな機能が揃ってます』
「なんかみらーじゅ都市みたい」
横に街並みが映されていて、作曲家や絵描きなどの看板が立っていた。
アバターが行き来しているみたいだけど、ぽつんぽつんとしかいなかった。
ナナが指を動かして、動画投稿メニューを開く。
『これが、今週の動画投稿ランキングになります』
「私たちと同じVtuberみたい」
りこたんが髪を耳にかけて、前のめりになる。
「なんか、私たちが投稿しているところとあまり変わらないような気がするわね」
「本当・・・」
上位にきているのは、ツールで作成したようなVtuberの女の子だった。
『でも、再生回数を見てください。このトップの彼女でさえ1日に100回しか再生されていないのです』
ナナが顎に手を当てる。
「本当だ・・・・」
『技術と共に廃れていってしまったのがニシニシシティの文化です。一時代を築いたのですが、現代の若者はこのようなもの知らないですもんね』
「・・・・・・・・」
確かに、ネットにかなり触れている自分でも、ニシニシシティが何なのか知らなかった。
「う・・・なんか同情しちゃうかも。だって、せっかく投稿した動画を全然見てもらえないなんて」
「私たちも、他のVtuberに比べてなかなか同接伸びなくて悩んだことあったもんね」
「うんうん」
3人が顔を合わせて頷いていた。
『情に流されちゃだめですよ。現に危険な目に合ってるのですから』
ナナがぴしゃりと言う。
「そ、そうだよね」
『気の毒には思いますが、同情する理由にはなりません。相手は私たちを潰そうとしているのですから、こちらも全力でいかなきゃいけません』
マナがニシニシシティの街並みを睨みつけていた。




