私は毎日不安で仕方が無いんです
私は仕事で疲れた帰りに、おじいさんと一緒に階段の上で座ることが日課になった。おじいさんは私に何も押し付けなかった。ただ、私を見守っていてくれた。そのことを隆介には言わなかった。そのことを言うとおじいさんとの親密さが消えてなくなりそうな気がした。
ある日、私がおじいさんと階段に座っていると、急になにかを語りたくなった。おじいさんは私を見つめ、ただ頷いた。私はぽつりと話始めた。
「私はただ生活のために仕事をしているんです。なんの楽しみもありません。ただ付き合っている人がいて、その人と結婚して子供を産むんだなということはわかるんです。それが不満と言うわけじゃないんです。彼は優しいし、仕事もちゃんとしているし、そして私の事を愛してくれている。それは分かるんです。でも、私は毎日不安で仕方が無いんです。なにが不安なのか自分でも分かりません。でもその不安は私を食べようとしているんです。私はときどき夜中に目が覚めて、泣くことがあるんです。私の人生ってなんなんだろう? って。人生に明かりが見えないんです。ただ暗闇が私の前にあって、こっちへ来いと呼んでいる気がして、私は怖くなるんです」
私はそのまま、泣いた。おじいさんは私を優しく見つめ、ただ一言言った。
「歩きませんか?」
「え?」
「夜の散歩です」
おじいさんはしゃがれた声でははと笑った。私は暫く考えた後、涙を拭いて、階段から立ち上がった。おじいさんも弱った足腰で階段の手すりを持ちながら立った。そして、私達は階段をゆっくり降りた。階段の軋む音が聞こえた。






