お疲れさまでした
部屋に入るといつも通り、電灯を点け、テレビの電源を付けてから、バスルームに向かった。私はバスルームの鏡を見た。そこには、疲れきった私の顔があった。
私はそれから熱いシャワーを浴びた。じっと熱いお湯を顔にかけていると、急に、おじいさんの言葉を思い出した。
「おかえり。今日も一日ご苦労様」
すると、私の目から涙が出てきた。なぜだろう。私はお湯で濡れた手で目を擦った。でも涙は止まらなかった。涙はぽろぽろと排水溝へと流れていった。私は声を上げて泣いた。私は嗚咽を漏らした。嗚咽は小さなユニットバスのバスルームに響いて消えた。
バスルームから出ると私は冷蔵庫から1本の缶ビールを出し、プルトップを親指で開けた。ぷしゅっとした音がして、炭酸がすこし缶から抜けた。私は、少し、缶ビールに口を付けると、苦い味が、口の中に広がった。私はぼうとテレビを見た。何かのお笑い番組だった。芸人が一発芸をやっていて、観客は笑っていた。私はいつもなら笑うはずなのになぜだか今日は面白くなかった。私は帰りに買ってきた、コンビニのお弁当を開けた。そして、冷たいご飯から口を付けた。
その次の夜も、前日と同じように、ジャンパーを着て、おじいさんはアパートの階段にすわりながら、空を見上げていた。そして私に気付くと、
「おかえり。今日も一日お疲れ様」
と言った。私は会釈をして、
「お疲れ様でした」
と言った。おじいさんは微笑んで、頷いた。私は、そのまま部屋に向かった。
私はその日もバスルームで泣いた。