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トリッキー・サーカス  作者: 中山恵一
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にぎやかな孤独


たるい。重い。眠い。そんなことを思いつつ、テーブルに突っ伏していた。

いつも利用している食堂の、いつも使用している席。


両手を枕の代わりにして、その上に頭を乗せ漫然と宙を見やる。

……なんか幸せだな。おっけーだ。

充実感を感じながら頷いていると、横に人の立つ気配がした。


「相変わらず 疲れてます感 全開で過ごしてんね」


聞き慣れた……とまではいかないが、

声を聞くのと同時に顔が思い浮かぶ程度には馴染みのある声だった。


「……なんだ。香奈子か」


「なに その御挨拶 なんだは無いでしょ」


「……いや、逢えて嬉しいよ、香奈子。

 今日は一段と綺麗だな。何か良い事でもあったのか?」


「で、今度は 誰かが言ってた冗談の真似? つっまんなーいっ」


特に嬉しそうな様子も見せずに、香奈子は正面の席に腰掛けた。


「……なんだ。言葉を選んでみても駄目だよなあ。無駄な努力だったなあ」


「はあ?」


「いや、相手が悪かった可能性もあるな。」


「だから、なんの話?」


眉をひそめる香奈子は無視して、再びテーブルにだらんと伸びる。


「……あのね。白目むいて宙を睨まれると怖いものがあるんだけど」


「ちょっと人を待ってるんだよね。少しでも体調を整えるために休息中なんだ」


「それにしても、周囲から見て どう見えるかを

 少しは気にした方がいいんじゃないの?」


「緊急時だけ忙しくて後は訓練だけな おまえさんらとは違って

 こっちは、日々のルーチンワークで忙しいんだ。休める時に休んどかないとな」


「その訓練も それなりに忙しいんだけどぉ。 ところで ね

 休憩中とはいえ そこまで だらけてるっていうか 緊張感が無いっていうか

 冷めた感じで過ごしているってのってのは ・・ ちょーっと どうなの?」


香奈子は笑みを浮かべながら ふざけ半分に言う。


「冷めてるっていうより、熱っくるしい態度をとるのが、柄じゃないだけだよ。

 例えばだ。俺が あの熱っくるしい奴みたいにだ ……」


上半身を起こして、軽く息を吸う。

そして、唐突に拳をテーブルに叩きつけて叫んだ。


「お前らが何をした 何もしねえで主張ばかりするって

 政治家にでも なったつもりかあああ!!!


 言うだけでも 言う事を聞いて行動する人々がいるんだから

 人を動かした事で何か成し遂げたとでも言うのかあああ?


 カン違いするな、自分じゃ何もしてねえんだ。今からでも、やれぃ!


 今の お前らは本を書いて死んだ過去の人と同じような存在だあああ!!

 そう言われるのが嫌なら 今すぐ自分でも行動してみたら どうだあああ!!!!」


ピタッと動きを止めてから、ふ――っと大きく息をつく。


「……とか熱い感じのセリフを言ったらだな、似合うか?」


「似合わない……そんな、何も極端に違う印象に走ろうとしなくても。

 態度が急に変わったら周囲の人間は困惑するだけだってば

 それにしても良く覚えてたね

 あの時に あの熱苦しいのが吐いたセリフ 」


「まあ、半分くらいは正論だからな結構痛かった。

 ただ、言わんでもいいことを言ってるあたりが、

 いいトシした お子様という感じなんだが――」



「誰が お子様だ!」


怒気のこもった声を叩きつけられて、ジャディンはゆっくりと振り返った。


「それはまあ、上司に頭が上がらなかったり

 文句言いつつも香奈子のところに……って、なんだその怪我は?」


香奈子がイスから腰を浮かしながら言う。


「神無、また喧嘩?」


「いいだろうが、別に。俺の勝手だ」


ぶっきらぼうに言い捨ててから、神無は少し離れたイスに腰掛けた。

顔に痣ができていたり、服装が乱れていたりと、

全身で「喧嘩してきました」と主張している。

香奈子は苦笑しながら席を立ち、今度は神無の横に腰掛けた。


「大方、二、三人相手に華麗なる大立ち回りを

 演じてきたってところじゃないの?」


からかうように笑みを浮かべてやると、神無は忌々しそうに舌打ちをした。


「図星なわけね。いつもいつも、怪我ばっかりしてるんだから」


「ほら、香奈子」


「え?」


ジャディンは、常時携帯しているナップザックから

簡易救急箱を取り出し、必要そうなものを香奈子に渡してやった。


「大した怪我じゃないみたいだが、一応、応急処置だけしてやってくれ。

神無、どこか本格的に痛むところは? 鈍痛があったりはしないか?」


「……おおげさなんだよ。大した怪我じゃない」


「そうか。異状があったら、意地を張らずに医務室に行けよ」


吐き捨てるようにいった台詞を肯定と理解して、

ジャディンは救急箱をナップザックにしまい込んだ。


「香奈子。大した怪我じゃないって言ってるだろうが」


「いいから、ほら、見せなさいって」


香奈子が何やら嬉々として湿布を貼ろうとするが、

神無はそんな香奈子の手をうっとおしそうに振り払う。

なんとはなしに観察しながら、良太は内心、軽く肩をすくめた。


……マザコンの気まであるんだな、こいつは。声には出さずに呟いてから、


「いいからおとなしく貼られておけよ。

 いやなら、インフィニティを呼ぶ」


「なっ……!」


「どうする? 俺はどっちでもいいぞ。人にまかせたほうが楽だし」


「……ちっ」


舌打ちすると、神無はイスに座りなおした。

懐のIDカードが呼び出し音を鳴らした。


「……はい?」


『あ、ジャディンさん』


回線を開いてみると、同じ部署の人間からの通信だった。


「どうしたんだ? 仕事中だろ?」


『それなんですけど……』


『すみませんけど、今から会議室に上がってきてくれませんか?』


「……はい?」


『急な緊急対処が必要らしくて、対処する人手が足りないんです』


ジャディンは慌てて口を挟んだ。


「ちょっと待ってくれ。俺は人と待ち合わせしてるんだ。

 この時間なら、カーンがいるだろう? あいつにやらせたほうが……」


「すいません。カーンさんは他の検討会に出席中なんです。

 ……ジャディンさん、暫定遠隔対処が得意じゃないですか」


何か反論しようとして……結局、小さくうめいた後にため息をついた。


「しょうがねえなあ……分かったよ」


『ごめんなさい。非番なのに』


「気にしないでくれ。急いで対処すれば、すぐ終わるし。五分で行く」


連絡を終えると、ジャディンは咳き込みながら立ち上がった。

それから、恨みがましい目で神無を見やる。


「神無君? 頼むから、余計な面倒を増やさないで欲しいんだけど」


「向こうからからんできたんだ。文句なら奴に言うんだな」


『ざまあみろ』とでもいうように、神無は唇を歪めて見せた。


「やれやれ。最近、非番の時に仕事してばっかりだ。めんどいな」


ぼやきながら、ジャディンはその場を立ち去った。


「はっ。文句言ってるのは口先だけじゃねえか、

 活き活きとしやがって。なんなんだ、あいつは」


足早に歩き去る姿を見て、神無が悪態をついた。

てぺてぺと傷口を消毒しながら、香奈子がどこか楽しそうに応える。


「考えの違う人間に上辺だけ調子を合わせるのが苦手で、自分一人で考えるのが好きだけど

 人間が好きで孤独になるのは嫌で一人だと寂しい。喧嘩相手でいいから欲しい。

 だから、ああして誰かに声をかけてもらうのを喜んでいる。そんなところじゃないの」


「……別に、解説なんて頼んでねえ。第一、お前だってそんなに親しいわけじゃないだろう。

 どうしてそこまで分かる?」


「ああいうタイプは分かりやすいもの。」


香奈子が神無の顔をのぞきこむ。


「言ってろ」


「ま、いいわ。はい、それは置いといて、左手も出して。消毒するから」


「もういい」


「ダメ。化膿でもしたら大変でしょう」


「……ちっ」


結局、神無は無造作に左手を突き出した。



・・・



暫定遠隔対処作業がひと段落しての休憩中

ジャディンが薫に近づいて雑談を持ちかける


「なぁ、あんたって神無の幼馴染なんだって?」


「はい。そうですよ。」


「あんたも大変だな。あんな奴の幼馴染で。」


「そんなことはないですよ。神無ちゃん優しいですから。」


「優しい?」


「ええ。確かに今はああですけど、本当は いい人なんですよ。」


「いい人ねぇ・・・。」


「神無ちゃんが あんな風になっちゃったのは、色々理由がありますから。」


「振られたとか?」


「それもありますけどね。神無ちゃんが五歳の時、

 お母さんと死別しちゃってるんです。寂しいんでしょうね、きっと。」

 

「寂しい? あいつが?」


「強がってますからね、普段は。

 でも言葉にしなくても分かるんです。小さい頃から一緒でしたから。」


「ふぅん。あいつも幸せ者だな、こんな風に理解してくれている人がいて。」


「あはは、照れるじゃないですか。」


「でもさ・・・、こんなこと言っていいのか分からないけど、

 今の、あいつの人づきあい 知ってるんだろ?」


「それはそれでいいんですよ。私は神無ちゃんが幸せになってくれれば。」


「あんたの幸せはどうなる?」


「そりゃ、私だって一緒にいたいと思いますよ。

 でもね、神無ちゃんの望む自由を優先したいと思っていますから。」


「母親みたいだな。」


「そうですね。」


「恋愛っていわばエゴのぶつかり合いだと思うんだ。

 譲っていたら、あんたの気持ちなんか一生気付かないぞ?」


「気付いてないと思いますよ。だから、人づきあい・・

 色んな女性と付き合ったり別れてみたり。派手にやってますよね。」


「いいのか? それで?」



「今の付き合ってる方が神無ちゃんに愛想をつかせたら

 誰かが慰めてあげなきゃいけないでしょ?

 それは私しか出来ないことですし、ずっと慰めてきましたから

 それが役割なんですよ。それでいいんです。


 ある距離より他人が近づくと攻撃体制に入って 


 従わせて下僕にするか、視界から消すかの二択しかない

 野生動物みたいな性格なのが変わるワケないですしねー


 そういう性格なのにも慣れてますから


 たぶん、一生、こーんな感じで適度な心の距離感を維持しながら

 関わっていくんじゃないのかなーと思います


 一瞬だけ一時だけ、一生、心に残る情熱的な深いつきあいをして

 別れて二度と会う事が無くなるより


 こんな感じで、ダラダラ、のんびりと一緒に過ごす方が

 楽しいんですよねー。」



「そんなもんなのか? それいいのか?」



「そんなもんですよ。それで、いいんです、それが、いいんです。


 騒々しくて賑やかな孤独と、わびしく静まりかえった集団行動の二択で

 にぎやかな孤独を選ぶ人が多い土地柄で

 子供時代を生活したからかもしれませんが


 そんな感覚が当たり前になってるんですよねー。」


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