商魂漫才(アリとジャディンの出会い)
マーズ・プリンセスホテル・グループに所属する大企業
火星移住ビジネス社の社員、アリ・カーンは
ぼやきながら社内を歩いていた
毎日のデイリー作業、毎週のウイークリー作業
それに伴う報告やら連絡やらにも慣れ
現在は仕事のインターバル時間の退屈しのぎに
広大な社内を社内地図を見ながら見学をしている
「こう同じ事の繰り返しで不満が積もっていくだけの日々が続くと
退屈だからで、しょうもない鬱憤晴らしをするアホが出んだろな」
(しっかし、やけに部外者立ち入り禁止区画が多いな
徹底した部外者排除の秘密主義
中には部外者を雑菌扱いするような奴すらいるのか
コイツ等は純粋培養されたビフィズス菌なのか?
そうツッコミたくなるくらいだ
まあ会社が奴らをプライドの化け物にしたのにも
色々とあるんだろうけど、にしても、ウゼェ)
そんな事を思いつきながらブラブラしていた
「あ~あ」
自分の思考に滅入ったのか、手を横に伸ばして大きく伸びをすると、
その瞬間、派手な音がして右腕に痛みを感じる
エンジン付き火星移住船内車が猛烈な勢いで通りすぎようとして
その右腕に接触してバランスを崩していた
そのまま船内車は一直線に進み壁に激突
乗っていた男はバイク形式の船内車から放り出され倒れていた
どうやら男はアリの腕でラリアットを喰らい
すっ飛ばされたようだった
「なんだ? 今時、暴走族か? 当たり屋か? なんだ御前」
「……」
男は完全に気を失って返事は無い
端末で顔認証スキャンして身元を確認して、脈を取って生死を確認
「ジャディン…と言うのか、このガラの悪い変なガキ
…脈はあるか、仕方ない医務室へ連れて行くか」
艦内車を担架がわりにして、ジャディンを引きずっていき
医務室でジャディンを引き渡し、ついでに自分の腕も診てもらおうとすると、
「すみません。少し待ってください」
応対に出た浜野という医務職員がそう言ってきた。
どうも今日は混んでいるようだ。そこで順番を待っていると、
「ふっか~つ!!」
床に転がしておいたジャディンが
奇声を上げて起きあがり、そのまま暴走を開始した
「なんだ、どうした?」
「敵襲か?」
「またインフィニティの実験か?」
「おい、誰か薫さんかインフィニティを呼んでこい」
「あれがバックヤードってやつか?」
その光景をアリはのんびりと見ていた。
「何のんびりしているんです!?」
「別に俺とは関係ないし」
「あなたが連れてきたんじゃないですか
責任取ってガキの暴走を制止して下さい
このままだとあなたの腕の治療もできませんよ」
「なるほど、それは困るな」
そう言うとアリは、ハリセンビームを取り出し振りかぶると、
「ジャディン!」
「ん?」
呼びかけた瞬間、ハリセンビームが
ジャディンの顔面をめがけ伸びていった
スパ-------ン
いい音を発したハリセンビームはジャディンの顔面へ命中
ジャディンはそのまま倒れた
「威嚇用ハリセンビームの出来は まあまあってところか
しかし…一体なんだ、コイツは?
とりあえず暴れるのが趣味の目立ちたがり俺様?
なんてワケの、わからねえ奴なんだ」
これが二人の初対面
・・・・・
ある日の職場にて
「朝から呼び出して何の用だよ課長?」
眠そうな顔をしてそう言ったのはアリ・カーン
朝とは言っても、既に10時近くではあるが
「ああ、ちょっとコレを見てくれ」
課長は、そう言って業務用端末画面を指差すと
画面には『商魂万歳』の文字が擬人化し、文字通り踊っていた
しかも流れる音楽に合わせて阿波踊りを
少し時間が経つと今度はコサックダンスを踊り出した
課内にある他の端末画面も似たような状況だった
「…ギャグか? 新しく流行してるスクリーンセーバーか?」
課長が応える
「いや、メールソフトにあるメールアドレスを探索して
そのアドレス全部の端末にウイルスを送信
ウイルスを受信した端末の画面をロックして
この『商魂万歳』画面を表示するだけにしてしまう
という悪質なウィルスだ。今朝発生した」
「被害は?」
「数台が感染した時点でメールを停止したので軽微だ
データ破壊とかは特に無い、ただ画面上で文字が踊っているだけだ
何か操作をすると踊る文字は消えるが
少し操作をやめると頭に浮かぶ雑念のように表示される
もしかすると洗脳効果があるかもしれん…」
「それで、俺にどうしろと?
ワクチンを作って駆除しろとでも?」
「犯人を捕まえてくれ」
「それは艦内警察の仕事だろ?」
「艦内警察に言ったら、
こんな事を実行するのはジャディンくらいしかいないから
君に頼むようにと言われた」
その課長の言葉を聞いて、アリは額に手を当てて脱力顔をした
確かに画面で踊る文字の下に
”作成者:天才ジャディン”と表示されている
「どうした疲れた顔をして?」
「なら自分で捕まえりゃ良いじゃねえか!?」
課長の言葉が癇に障ったのか、アリはそう怒鳴り返した。
「だって、怖いし」
「俺なら良いのか!!」
「君の仕事じゃないか」
「違う!」
「特別ボーナスを払うから」
これ以上の会話が無駄と悟ったのか、それとも単純にボーナスに引かれたのか、
「わかった。引き受けてやる」
心底嫌そうにアリは課長の頼みを引き受けた。
それから10分後、ジャディンが派手な暴走で訪れた
「俺の端末に こんな子供騙しなモノを流した奴は誰だああああ!!!」
スパァァァァン
「ぐわ」
「ほら捕まえたぞ」
入ってきた直後にハリセンビームの一撃を炸裂させ
投げやりにアリは、課長に対してそう言った
周囲では、やっぱりアリさんに頼むのが一番だ、
などと無責任な会話が囁かれている。
「何しやがる! このふざけた音楽と
散々人の事をバカにした言葉を流したのはお前か!!」
数分後、復活して起きあがると、
そう言ってジャディンは自分の連絡端末を突き出した
その連絡端末からは某笑点のテーマをBGMに
ジャディンの悪口がひたすら流れていた。
「信者になりたいって言葉で釣るのもワンパターンだからな」
アリは連絡端末を操作して音楽を止めると、そう言った
「いい加減にしろよ、この歩く理不尽!」
「やかましい、呼吸する不条理!
お前と掛け合い漫才やるほど暇じゃないんだ。これを見ろ!!」
そう言ってアリは画面を指差した。
「おお! 全自動全端末配布実験は成功したか
やっぱ、俺って天才だなぁ」
スパァァァァン
「誰が天才だ 俺に言わせりゃ天災だ
まったくいらん手間ばかりかけさせやがって
これで仕事は終わりだ、さあ特別ボーナスを出せよ課長」
ハリセンビームでジャディンを沈黙させると、アリは課長にそう言った
課長の方は二人のやりとりに圧倒され絶句して、呆然していたが
課長とアリが携帯端末でクレジットによる特別ボーナス受け渡しをすると
ジャディンが元気に復活
「ははは、そう簡単に捕縛監禁されてなるものか!」
そう叫ぶと、次の瞬間、煙幕を発生させ、ジャディンの姿は部屋から消えていた
「ちっ、逃げられたか
まあ、捕まえたのは事実だからボーナスは返さんぞ、じゃあな」
アリはそう課長に告げ、部屋を出ていった
あとには、呆然とする中間管理職だけが残された。
「……後始末は?」
残された課長はそう呟きながら、膨大な作業量となるだろう
リカバリ作業を開始する連絡をするための連絡を開始した。