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トリッキー・サーカス  作者: 中山恵一
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ハッピー? エンド?


部屋に漂う凍り付いた空気を全員が肌で感じ取っていた。

その原因を作ったラルコは、不貞腐れてそっぽを向いていた。

まるで自分は何も悪いことなどしていないとでも言う風に。


「……どうして こんな馬鹿なことをした?

 こんな犯罪行為を実行して、この後、どうするつもりなんだ?」


「……だから」


「だから?」


「ノコノコと近寄ってきた不埒な愚か者を追い払って

 香奈子ちゃんを魔の手から救い出したら

 トーゼン香奈子姫は白馬の王子様役の僕と

 スイートな はっぴぃ・えんどを迎えるわけだから」


「……何を妄想するのは勝手だね……

 で、そんな思い込みが実現するとでも?」


「当然、実現する するに決まっている

 そんな当たり前の事は語るまでもない


 そして二人が初めて一夜を過ごすのに

 ふさわしいロケーション と思って

 この一番、贅沢な部屋を――


 って あれ? どーしたのかな? みんな」


全員が見事にコケて床に崩れ落ちていた。


「みんな 分かってくれるだろ?


 火星じゃ 一夫多妻制でも 一婦多夫制でも

 当人同士が納得すれば法律上OKなんだから


 いくつもの組み合わせに、それぞれ相手への情があって

 その中でも一番、激しく互いを想い合う

 他にも色んな情を抱えたとしても

 永遠に美しく賛美される想いに昇華させよう


 という、この健気な想い・・・・・・」



「どこが健気だっ! いくら法律上は許していても

 こんな馬鹿げた強盗行為や拉致行為が

 正当化されるとでも言うのか!?」



「んな言い方無いだろ!? こういう部屋は


 どうせ、こんな法律も常識も無視した

 金のためになら、なんでもやってきた

 マフィアみたいなのが使うより


 僕らのような人間が利用するべきだろ?」



「あのなあ……! 


 どこまで自分にだけ都合のいい勝手な思い込みで

 物を言っているんだ?


 甘い考えもいいところだ

 君の安月給じゃ一晩利用するために

 何ヶ月も働く必要があるような部屋だぞ

 それを利用できるような財力も無いのに


 何ももって利用する権利があると言い張ってるんだ?

 というより利用する権利を買った人間から

 強奪して いいわけが無いだろう?」



「だからぁ、そこらへんのー権利関係についてはー

 同じグループ企業の従業員として

 スキャンダル揉み消し部隊の皆様が

 出動してくれてー、なんとかしてくれるワケでしょ?」


リーボックは それには直接答えず、無言でラルコを見つめる

その冷たい瞳が、


”誰がおまえの暴挙を正当化させるのに協力なんかするか”


と、極めて率直に物語っていた。


「何、その冷やかな目?

 何、この嫌いな犬をポイ捨てするような空気?」


リーボックを除く全員が目を逸らす。

慌ててマリィもそれに倣おうとしたが

間に合わずにラルコと目が合ってしまった

今にも泣き出しそうな、心細げな瞳

そんな視線に縋られてなおそれを無視するには、

マリィはあまりに人が良すぎた。


「わ、分かった。分かったから

 頼むから、そんな目で見てくるな」


「マリィ~♪」


「そういうわけなんで、リーボックさん。

 さすがに、今すぐ見捨てるのはあんまりですから、

 せめて火星警察に逮捕されるまでは

 こいつを保護してやりませんか?」


「って ちょっと 待って!?」


「何だよ、大声出して」


「リーボックさん経由で執り成してくれるんじゃないのか!」


「だから そうしてるだろ?」


「どこがだ!」


「強盗なんて悪いことしたら法で裁かれるのは当たり前だろ」


「そりゃそーだけど、マフィアも悪い事をするのが仕事だから

 警察には言えないだろ? だから犯罪は発生してませんでした

 って事で 揉み消せるんだろ? 冷たいぞ!?

 むしろ、もはや退職手続きっぽいじゃねーか!」


「せっかく人が親切心で頼んでるのに……

 リーボックさん、どうします?」


皆の注目がリーボックに集まる。

彼は即座に、妙に晴れやかな笑顔を浮かべた。


「考えてみればマリィ君の言う通りだよな。

 確かに公法たる法律を扱う弁護士が

 内輪の私法による私刑を黙認するような

 発言をすべきじゃない」


「……それは そのー という事は……」


「不思議だなあ、君が我々の中から去ってしまうかと思うと、

 マフィア相手の示談仕事も心が躍り出すよ……」


「良かったですね、リーボックさん♪」


リーボックは爽やかに笑っている

濃密に漂い始めた さよならムードに

何かを言いたそうなラルコの肩にマリィは手を置き語る


「あきらめろ、ラルコ

 

 御前が香奈子さんを手に入れる事なんか、できない

 というより血迷った真似をしたものだよなあ

 ここにいる全員の心に刺青のように刻み込まれて

 誰にも相手にされる事すら無いんじゃないのを自覚しろよ


 一時の衝動で取り返しのつかない事をしてしまった

 自分のせいなんだから、諦めて火星刑務所で残りの人生を過ごせ」



「んぬぅわにおおぉおぉぉおぉ~……!!」


いつしか、大粒の涙が彼の瞳からぼろぼろと溢れ出していた。

口を半開きにして、イヤイヤするよう

ゆっくりと首を横に振り続ける。

そのまま彼は2、3歩後退り、そして――


「おまえらなんて嫌いだあっ!

 助けて香奈子ちゃ――――――――んっっ!!!!」


「あ、逃げた」


ほとんど幼児レベルの捨て台詞を吐いて、ラルコは遁走した。

取り残されたマリィ達は少しの間、言葉を失っていたが、

やがて ロントが頭を掻きながら、おずおずと提案した。


「……あのー、とりあえず 逃亡したラルコが

 香奈子ちゃんと再接触する前に止めた方がいいですよね?

 ――どーでしょ? メグミさん?」


「何でメグミさんに向かって提言すんの――

 まあそれは置いといて、君の意見には賛成だな。

 早く連絡した方がいいだろう。そもそも天野夫人のことは、

 我々 第三者が口を出す問題じゃないからね。


 彼女は もう大人なんだから、

 どこの誰と関わるか どんな関わり方をするか

 彼女自身の道徳観や常識や状況判断に委ねるしかない


 火星で生活する世界の法律上

 誰と、どのような形式で子孫を残しても

 育てられる親がいれば問題ないっていう法律を優先するか


 昔ながらの、男の父親、女の母親、子供という家族形式で

 子育てをするための法律や施設を利用する事を優先するか


 そんな選択も、彼女の自由と言えば自由なワケだし」


リーボックの言葉を聞いて、皆一様に頷く

これで、この馬鹿げた騒ぎも何とか終わるだろうと、

マリィは安堵のため息をついた


――ただ、もう一つ問題が残されていた

縛られて気絶したままのマフィア幹部らしき男をどうするかだ

意を決して、彼がそのことについて切り出そうとした刹那。


「……う……う、んぅ……」


「? なーんか悩ましげな呻き声が――

 って目え覚ましちゃうぜ、彼女!」


マフィアの愛人と思われる女の覚醒にロントが真っ先に気付く


「どーすんの!?

 なんて説明するつもりなんだよ リーボックさん?」


「どうって、どうしろってんだよ、

 俺に? いきなりでまだ心の準備が……」


「とりあえず猿ぐつわとロープを取ってあげないと」


神無は女の口に押し込まれていた布を取り出してやる

彼女は数回ほど苦しそうに咳き込んで目を開けた。


「……ん……?」


キツネを連想するようなキツイ感じの顔立ちをしているが

かなりの美人であった。

燃えるように紅く長い髪と肉感的な肢体が、

まだ焦点の合わないぼんやりとした緋色の瞳と相俟って、

えもいわれぬ色気を醸し出している

男ならば思わず見惚れずにはいられないような風情であった。


「リーボックさんっ!」


「私達は怪しい者ではありません

 というか何というか、貴方に危害を加えるとか

 そんなつもりでは決してなく、むしろ助けようというか」


メグミに一喝されて、リーボックは

しどろもどろになって弁明じみた説明を始める。


「だから あんたらは誰?――痛っ!」


「まずはロープを、おほどきしま――神無君 頼むっ!」


メグミに物凄い形相で睨み付けられたリーボックは、

食い込む縄に苦しむ女に近寄ろうとする自分を必死に制した。

神無はリーボックの代わりに結び目に手をやる。


「ちょっと待ってて下さいね……

 あれ? か、固いなあ。全然解けない」


「どけ 神無っ! 俺がやる俺がやる!」


声を弾ませて、ロントは神無を押し退けた

頭髪の染めた金色同様、品の無い下卑た笑みを浮かべている

その様子に女は露骨な嫌悪感を浮かべたが、口に出さない

ロントはナイフを取り出し、器用に操ってロープを切断した。


「ああ、こんなに縄の痕がくっきりと……。

 ラルコの奴、こんな美しい女性になんて酷いことを!!」


「ラルコ?」


「あ、貴方をこんな目に遭わせた犯人です。

 極悪非道の社会不適合者でして――あ!

 僕たちはあんなダメ人間の仲間なんかじゃないっすよ。

 単なる知り合いでして、誤解しないで下さいね?」


「知り合い……だって?」 


ぽつりと呟いた時、女の瞳がぎらりと光った。


「ええ、ただの知り合――へ?」


次の瞬間には、ナイフは女の手に握られていた

彼女はロントの後ろを取って彼の首に左腕を回し

冷たい刃をその首筋に押し当てる。


「な――!」


「動くんじゃねえよっ! このガキの命が惜しけりゃね?」


まさに一瞬の出来事であった

あまりの早業に呆気に取られて口をきくことすらできない

かろうじて何とか口を開こうとしたリーボックも、

彼女の太股の内側に描かれているものを発見して絶句した

しなやかに色鮮やかに彫られている『紅龍』の刺青。


「まっ、まさか君――」


「そこいらのビッチにでも見えたとでも言いてえのかぁ?

 組織の長老どもだって迂闊に手が出せない存在として

 火星の闇社会に君臨している この顔を?」


「そんな……! ちょ、ちょっと待ってくれ!

 だから俺達はあんたらを襲った犯人じゃないんだ!

 それどころか こうして縄を解いてやって――」



「そ ん な こ たぁ  ど う で も  いいんだよ!


 組織内に存在している人間としての この顔を知った事


 不意を突かれたとはいえ

 面子をつぶされるような舐めた真似をされた事を


 犯人のラルコとかいうのを含めて

 オマエラに知られたって事が問題なんだよっ!


 お前らを永遠に黙らせるしかねぇっ!


 今から呼ぶ手下に闇に葬られてもらうよ!!……」



「そ そんな 理不尽なああああああっ!!!」


なりふり構わず、ほとんどリーボックは叫んでいた。

その彼に、ロントはこれ以上ないほどの沈痛な表情を向ける。


「どうしようもないですよ、リーボックさん。

 こう柔能く剛を制されては……」


「ど、どういうことだロント君!

 そんなに強いのかい、彼女は!?」


 狼狽するリーボックに、マリィは冷静に突っ込んだ。


「いや、要するに背中に当たってる

『弾力』を楽しんでるだけでしょ、あいつ」


「………………」


「ばかやろマリィ! いくらこの人の胸が豊満だからって――

 あ、痛い! 頚動脈に刃を立てないでっ! お願いです!」


痛がりつつもロントの顔はだらしなく弛みきっていた。

まさしくアホであった。ロントの絶叫が、

豪壮なロイヤルスイートに空しく響き渡る。


「誰か、助けて――――――――――――――――っっ!!!!」


その叫び声と同時に、ホテルの部屋に設置された

空間緊急停止装置の起動ボタンを

部屋の出入口の近くにいたメグミが押した。


何も問題が発生していない数時間前の状態に全てを戻すために

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