60.仕事の出来栄え
よし、今日は早速ツィリムから貰った翻訳のお仕事をやってみよう!
気負ってみたものの、やること自体はそんなに難しくない。
ただ楽しく本を読んで、中身をざっと書くだけ。
ちなみに今は朝みんなが仕事へ行ったあと。
イフレートが来るまでにやっちゃおうと思って。
一番大きくて薄い冊子を手に取る。
本というよりパンフレットみたいだな。
中身は、何かの商売の契約書みたい。
多分物々交換するみたいね。
それが何枚にも渡って繰り返されているので、この店同士はずっと取り引きがあったんだろう。
遠い昔に思いを馳せたけど、ツィリムの求める魔術のことは何一つ載っていない。一応中身は書いたけど。
「よし、次!」
その後も読み進めても、残念ながら魔術関連の情報は出てこなかった。
住民名簿とか、税の記録とか。
中にはただの日記もあって、長い時間を経て私にプライベート日記を読まれちゃった人がちょっと可哀想だ。読み物としては面白かったけどね。
内容を確認するためにパラパラと流し読みしただけなので随分早く終わったから、これならかなり安い値段で仕事を受けてもいいかも。
その日夕方に帰宅したツィに早速中身を見てもらう。
「ツィリム、これ見てくれる?
言われてた本を読んだんだけど、こんな感じの内容で良かったか、確認してほしいの」
「もう、終わった?」
目をぱちくりさせるツィリムがかわいい。
「うん。全部ちゃんとは読んでなくて、パラパラっとだけど」
「早いね。ありがとう」
かなりざっくり内容を書いただけなのに、ツィリムはかなり真剣に読んでくれている。
その間にカイルとエルも帰ってきた。
この二人、たまに帰る時間がぴったり重なって、途中から一緒に帰って来るのよね。
「イズミルは古代文字が読める、と聞いてはいましたが、これをスラスラと読んでいるといるのは驚きですね」
住民台帳だった分厚めの本をぱらぱらとめくりながら、エルが褒めてくれる。
「えっ、これ全部読み終わったのか!?」
カイルがびっくりするけど。
「全部ちゃんと読むのは流石に無理よ。とりあえず内容が分かればそれでいい、ってことだったから、軽く流し読みしただけ」
「いや、それでもだ。というか、古代文字を流し読みってどういう感覚だ?
まだ全体解読はされていないから、辞書を引きながら前後の文脈と合わせて推測して、何とかかんとか意味が分かる、というものだぞ」
「そうなんだ。私は普通の本と同じように読めてるよ」
あれ、前にもそう言った気がするのに、3人ともポカンとした顔でこちらを見てくる。
「これは紛れもなく素晴らしい才能だな。古代文字はまだ解明されていないことも多く、分かる部分の文脈から何とか内容を読み取るのがせいぜいだ。
それを、この速さで読めるとは!」
「うん、すごい。分かってたけど、やっぱりすごい」
カイルとツィリムに褒められて、自分で得た能力じゃないけど嬉しい。
「私が勉強したんじゃないけどね。神様がくれただけよ」
「それでもだ。その才能を使わないのはあまりにも惜しい」
「じゃあ、次の仕事をちょうだい」
私が何かをすることに一番反対していたのはカイルだ。
彼がただ過保護なだけで、私を守ろうとしてくれているのは分かっているけれど、やっぱり何か役に立ちたい私としては、絶好のチャンス。
「これを仕事にしてもいいと思う。
でも、負担にならないように、期日は決めずに出来る時に出来る分だけするといい。
イズミルには、自分を一番大切にして欲しいからな」
「カイルはそう言いますが、これはもはや家業のようなものでしょう? このくらいなら構わないのではありませんか?」
エルも賛成してくれる。
「だが、イズミルは女性だ。自分の身体を一番に考えて、なるべく穏やかに生きて欲しい」
「貴族はそうかもしれませんが、庶民の女性はカヤッタエラの女性程ではありませんが、働きます。子どもの手伝いと同じくらいでしょうか」
私はなるほど、と納得したけれど、カイル的には衝撃だったらしい。
「そうなのか!? スラムでなくても?」
「ええと、カイルがどこを『スラム』と呼ぶかは分かりませんが、僕たち庶民がスラムと呼ぶ所には男しかいません。女性はそこまで堕ちることは無いですからね。
きっとカイルが言っているのは、庶民街の中でも比較的貧しい所の事だと思います。
そういう地区では家業が外になりがちですから、女性が外に居ることも多くなるかと思います」
「そうなのか。詳しくは知らなかった」
「それに、そういう所の女性は強く逞しいとも言われ、強い子を産めるとも言います。
貧しくなくとも、本人の性格によっては外へ出ることも十分ありますよ。
イズミルは色々な政治的しがらみがあるので難しいかも知れませんが……」
ほうほうと頷きながら話を聞くカイルは文化の差に圧倒されているよう。
「だから、エルは最初にイズミルが外に出たいと言った時に反対しなかったのか」
「そうですね。イズミルの性格を考えたら普通かと思いました。
我が家の母と妹は、かなり内向的な性格なので外には出たがりませんが」
「イズミル、俺が知らなかったために無理な我慢をさせて、申し訳なかった」
深く頭を下げて謝られて、逆にこちらが慌ててしまう。
「何言ってるの、全然大丈夫よ! カイルは私のことを考えてくれてるの、ちゃんと分かってるから!」
この国の女性、と一括りに考えていたけれど、もちろん色々な人が居るし身分によってもかなり違う。
先入観に囚われずに、それぞれの持っている知恵を出しあってくれる旦那様達がかっこいいなって思った。
《殲滅の魔女》は虚弱体質 〜魔力無限の最強魔導師ですが、コミュ障なので学園潜入任務はお断りしたいです〜 を連載中です!
ガッツリハイファンタジーで、イズミとはまた違った雰囲気の女の子が頑張るお話です。
作者マイページからぜひご一読ください!




