43.近衛兵
43.近衛兵
声が聞こえることもドアがノックされ続けることも怖いから、大通りから遠い側のリビングで軽くバリケードを作っていると、ようやくイフレートが来てくれた。
「イフレート!来てくれてありがとう!大丈夫だった?」
「こんにちは。大丈夫でしたか?」
「めちゃくちゃ怒鳴ってるし、ずっと居るし、めちゃくちゃ怖かったぁ!」
イフレートに言っても仕方ないし、何ならたぶん来るまでの間に巻き込まれてる側なのに、来てくれたのがとても嬉しい。
「彼らの話は今ひとつ要領を得なかったのですが、何があったのですか?
魔術を暴発させたと聞きましたがカイルセルさまやツィリムさまが暴発させるとは考えにくいですが?」
「色々あってね……」
全く何も事情を知らない状態で、玄関先に来ていた人たちに絡まれたイフレートに何があったのか説明する。
「なるほど。それは大変なことになっていますね」
「イフレートでもそう思う? ツィリムはめちゃくちゃ焦ってたしやらかしちゃった自覚は多少あるんだけど、イマイチ状況わかってなくてね」
「要するに魔力のない人が大きな魔術を扱えると言うのが大変なことで……」
カンカンカンカン
イフレートが話している最中なのにまたドアノッカーが鳴る。
その音に対してイフレートが顔を歪める。
「私が居るのは伝わっていますから、無視する訳にはいかないでしょう。
表に出ますが絶対に出てこないでくださいね。
様子を窺うとかもダメです」
「分かってるよ、大丈夫!」
ちょっとストーカーじみてて怖いんだけど精一杯元気な声で答えたらイフレートがぽんぽんと頭を撫でてくれて、それから階下へ降りていく。
ずっと鳴っていたドアの音も止んだから、全てをイフレートに任せてしまうことにする。
疲れるだろうから、せめてお茶の準備だけでもしておこうかな。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい!」
あれから1時間ほどして、外で押し問答を続けていたイフレートがようやく戻ってきた。
「どうだった?変なことされてない?大丈夫?」
あんまりにも心配だったから、イフレートが返事をする暇もないくらいにまくし立ててしまう。
「ご心配おかけしましたが何もされていませんよ。ありがとうございます」
「それならよかった」
誰が来ているの、とか何が起こっているの、とか。
聞きたいことは山ほどあるけれど、イフレートがかなり疲れているようなので後にした方がよさそうかな。
「私、部屋に戻ってるね。イフレートがしないといけないこととか色々あると思うけど、そのまま置いといて大丈夫だし、ゆっくりしてて?」
「えっ、今からお話ししなくてよろしいのですか?」
「まぁ気になるけどさ、疲れてるでしょ?後にしようよ」
「私は特別疲れている訳ではありませんし、出来れば先に話を聞いていただきたいのですが」
「あっそうなの。それなら話聞きたいなぁ。あの、家の前にいる人達、誰なの?」
「誰と、申しますと、近衛兵です。ご存じですか?」
「ごめん、知らない」
「王家直属の護衛部隊のようなものです。要するに、王様の部下の人が直々に呼びに来たということですね」
「大変じゃん」
「大変です。なので私の代わりにツィリム様が一緒に王宮に行くことで、この場を収めてもらいました。正直なところ、私が行ってもどうにもなりませんしね」
「えっ、ツィリムが言ってくれたの? 王様の呼び出しに?」
「ええ、出かける時に、安心してって言っといて、と言われております」
「安心してって言ってもねぇ……。私が直接連れて行かれるのも不安だけどさ、ツィリムだって充分不安だよ? 無理はしないでほしいな」
「そうですね。我々にはできることがないのも、もどかしいですね」
「本当にそう」
ふぅ、とため息が漏れてしまう。
「だけどイフレートがいてくれて本当に良かった。ありがとう。一人ぼっちだったら、こんなに落ち着いてはいられなかったと思うから」
イフレートの紫色の瞳が私を見てくれているだけで、少しずつ不安が減っていってるような気がする。




