39. 言葉で伝えることが大事
とりあえずの応急処置は終わったみたいなので気になっていた事を言っておく。
「こんなガチガチに固いベンチに寝かせてて大丈夫かな? ベッドに運んだ方が良くない? 医務室とか」
「このままで全然大丈夫だ。新人の頃に皆一度はなる症状だし、俺もツィリムもなったことがある。
本当に、放っておけば治る」
「そんなによくある事なら大丈夫ね。ありがと」
ツィリムが目を覚ますまではここでのんびりしてるのかな、と思っていた所でエスサーシャさんが話し始めた。
「カセスターニャが落ち着いたんなら、ちょっとだけ聞きたいこと聞いていい?」
「イズミルの体質のことか?」
「そう! 何、あの魔素の量!? 信じられないんだけど!」
私は分かってなかったけど、かなり異常なことだったらしいね。
「異世界の人だという事は知っているだろう? それに加えて少し変わった体質持ちなだけだ」
「ちょっとどころじゃないじゃん! オレにもその魔素使わせて欲しいし!」
私に向かってそんな真剣に訴えられても何も分かってないんだよ、ほんとに。
魔素を使わせてあげるなんて、どうしたらいいのか分かんないし。
伺うようにカイルを見ると、
「丁度いい機会か」
ぼそりと呟くようにそう言った。
「そのうち話として広めるつもりだからセラルシオに先に話してしまってもいいだろう。
イズミルの魔素の量は尋常じゃない。おそらく龍脈に直接繋がっているから実質的に無限だと思う」
「えっ、そんなに!?」
「ああ。ただ、そうなると戦力として、最悪戦争に連れて行かれたり、ということになる可能性もあるだろう。イズミルが望まないことを無理にさせてくることはないと思いたいが、今の情勢を見ていると戦になってもおかしくはないからな」
「たしかに」
「ただ閉じ込めて隠しているだけだと、いざと言う時に連れ去られてしまうかもしれない。
積極的に力を示して、イズミルの主張もしっかり言って、なるべくこちら側で状況をコントロールできるようにしようとしてるんだ」
「なるほどね。それで、こんなに連れ回してるのか」
納得したようにウンウンと頷くエスサーシャさん。
「じゃあさ、オレに魔素使わせてくれるよな!?」
「ああ、なんなら派手に使ってくれる方が良いかもな。
王宮の上層部にも話を通したいが、今のままじゃあ聞いてくれんだろう。
だが、お前が魔術回路は一級なのに魔素が無さすぎる『もったいない』奴だと言うことは皆が知っているし、そんな奴が有効活用出来そうだとなればイズミルに権力がある程度集まると思うからな」
「権力が集まる、って……
めんどくさいことが多そうだけど大丈夫?」
「確かに面倒事は増えるだろうな。
ただ、イズミルの性質上、今のままでずっといることは不可能に近い。それほどまでに多すぎる魔素が身体から流れ出しているんだ。
今は抑えきれているが、いずれどこかしらにはバレる。それが王宮の中でも戦争好きな過激派だったりした方がもっと面倒なことになるから、今のうちに穏健派に寄っておく方が安全だと思う。
ちなみに付け加えると、今の国王も王太子も穏健派で戦争に消極的だから大丈夫だ」
「なるほどねぇ……」
私には、戦争をする可能性が前提にあることがまず考え難くて、しかも自分のことが無理やり兵器にされそうとか、なかなか実感が湧かないし、対応を考えるなんてまず無理。
「カイル、私のこと一生懸命考えてくれて、ありがとう。それに、ちゃんと私に分かるように説明してくれたことも、嬉しいよ」
思ったことを言葉にして伝えることが大事だし、と思って言うと、カイルはあんまり見ることがないくらいに明るく笑ってくれた。
「イズミルに、そう言って貰えるのが、俺は一番嬉しい」
ぎゅーって抱きついたら、頭をぽんぽんと撫でてくれて、それだけで、もうほんと……
「しあわせだよ」
怖いこともあるけれど、やっぱり私の旦那様最高じゃない?
なんて思ってたら。
「おふたりさん、お邪魔したら悪いと思うけどさ、オレのこと忘れてない?大丈夫?」
めっちゃニヤニヤしたエスサーシャさんの声を聞いて、慌ててカイルから離れた。
「あのっ、えっと!ごめんなさいっ」
「いやいや、いいんだよぉー?
むしろいいモノ見せて貰っちゃったしねー!」
「セラルシオ、うぜぇ」
「あはは、カイルがツィリムみたいなこと言ってる」
「笑うんなら魔素使わせねぇ!」
「悪かったってさ! でも、オレの目の前でイチャイチャする君らも悪くない?」
照れ隠しか、カイルの口調が荒くなるし、それに追撃するエスサーシャさんも面白い。
こうやってワイワイ騒げるのも、めっちゃ楽しいよね!




