36.魔術を見せて?
「この機械はここから水が出てくるの?」
ツィリムが一生懸命操作している機械から突き出たパイプのようなものを覗き込みながら聞いてみる。
「そう」
「ジャバジャバって?」
「そう。見たい?」
「見たい!私、魔術って見たことないから」
「あれ、そうだっけ?」
ツィリムにびっくりした顔をされた。
「魔法は見たことあるよ?家のコンロとかもそうだし洗浄魔法とか掛けてくれるし。でも、魔術はまた違うんでしょ?」
「魔法とは全然違う。もっと派手なこともできる。
この機械は、魔法に近いかな」
ちょっとだけ考えるみたいに間をおいてから
「んー、演習場に行こ。これより面白いのを見て」
心做しかドヤ顔をしたツィリムが部屋を出ようとした時。
「こんにちは」
開きっぱなしの扉の向こうから、エスサーシャさんが挨拶をしてくれた。
「こんにちは〜!」
何かと縁がある人で、家族を除けばこの世界で一番仲の良い人だから笑顔で挨拶を返す。
けれど、ツィリムは露骨に嫌そうな顔をして私の腰を抱き寄せた。
「ツィリム、そんなに心配しなくても大丈夫だから、離して?」
無言で首を振られると、私にはもうどうしようもない。好きにしておくれ〜
「カセスターニャはそのままでいいですよー?」
エスサーシャさんが苦笑気味にそう言ってくれたので、後ろからギューギュー抱きついてくるツィリムは放置して話を進めることにした。
「そろそろお昼時だから、ご飯一緒にどうかな、と思って誘いに来たんです」
「ダメ」
私が何か言う前に、ツィリムからのストップがかかった。
「だから迂闊に喋ったらダメだって言ったのに。
露骨にアピールしてきてる」
うん、まあこれはさすがに私でも分かる。
仲良くなろうよ、ってことよね。
そして、この世界では割と結婚前提な所があるからツィリムが嫌がるのも分かる。
そして、一番大事なことが。
「お誘いは嬉しいんですが、これからツィリムに魔術を見せてもらうことになっていますので……」
今のところそんなにお腹は空いてないので魔術に対する興味の方が勝っているんだ。
「イズミは、セラルシオとは一緒に食事しない。帰って」
いやいや、ツィリムの言い方は露骨過ぎるでしょ。
「ツィリム、もうちょっと言い方考えれなかった?
エスサーシャさんに失礼よ?」
「むぅ」
「すみませんねぇ……
ツィリム、とりあえずその演習場?に行こう?
私はご飯よりも魔術の方が興味あるから。
本でしか知らないからね、実際に見てみたいのよ」
そこまではっきりとツィリムを優先する、と宣言してようやく、しがみつき状態が解除された。
ダメ押しに軽く頭を撫でてあげたら機嫌も良くなったかな。




