31.これからの方向性
カイルとエルが帰ってきて、ツィリムも起こして4人でご飯を食べる。
その後はデザートにフルーツを食べながら4人でのんびりする。
「今日はツィリムと2人で魔素を貯める装置を作る実験してたんだけど、何かうまくいったみたい」
「一応できたけど……目的達成とまでは行ってない」
「そうか、それは残念だが……まぁそうだろうな」
「目的って?」
私、何も聞いてないんだけど。
「魔素を貯めれたら便利だなってのもあったけど、本当の目的としては、イズミが放出してる魔素を少しでも軽減できたらいいと思って。
でも、あんまりうまくいかなかったというか、多少吸いとったところで無駄だったんだけど」
「へえ、そんなことしてたんだ」
まだあんまり話が分かっていない私に、カイルが解説してくれる。
「この家は防御魔法を外向きだけじゃなくて、内向きにもかけてるんだ。泉の魔素を抑えるためと、もしも暴発した時にも押さえるためにな。
でも、それが他の人に薄々バレてきていて、何か隠してるんじゃないかと疑われてるんだ。
隠しているのは事実だし、それはいいんだが、何かの弾みで捜査されると面倒だろ?」
「それに、神殿側も少しずつですが、イズミルを気にするようになってきています。私がほとんど何も報告しないというのも原因ではあるとは思うのですが……
なんせ穏便に報告できることが少なすぎるので」
「それにこのままイズミルを家の中に隠しておくのは無理があるだろう。何よりもイズミルの明るさとか、俺たちがイズミルに惹かれたものが失われていく。それが一番怖いんだ。
そういう色んな事情があって王宮か神殿かどちらかに寄っていくことになると思う。さすがに俺ら3人だけで、泉を守ることはできないから」
なるほど。
私の異常さを隠して置けないってことか。
それに、私が閉じこもりっぱなしでストレスかかってるのも、気にしてくれてる。
「王宮か神殿かどっちになるの?」
「そこが悩みどころなんだが、一応俺達としては王宮側によって欲しいと思ってる。王宮の方が組織的にオープンな分、何かあった時にわかりやすいし、体面を気にするから無理矢理イズミルの意思を全く無視して何かをするということは少ないと思う」
「なるほどね。でもエルはそれでいいの?」
「多少は揉めるかもしれませんが、それは王宮と神殿が話をすることであって、僕に影響になることではありませんから大丈夫ですよ」
エルの不利益にならないのならいいんだけど。
「ちなみに王宮の人達と話をするようになったらどうなると思う?」
「そうだな、とりあえず夫が2人ほど増えるのは覚悟して欲しい」
「えっ、どういうこと?」
王宮と関わることと、夫が増えることって関係ある?
「夫が増えるのイズミルは嫌がってただろう?」
「うん」
知らない人と生活するのは怖いし、嫌だ。
「だけど、その感覚はこの国ではあまり普通じゃない。イズミルにとって結婚は好きな人同士でするものみたいだが、こちらでは結婚した相手を好きになっていくという方が一般的だ。
だからとりあえずという感じで王宮側の権力者の息子か何かがイズミルの夫として紹介されると思う。すぐに結婚ということにはならないだろうから、よほどイズミルが嫌がれば人が変わるだろうが、それでも誰かと結婚しないといけないことには変わらない」
なるほど。
保護してもらえるし、ある程度予想がつく代わりに結婚することになるだろうってことね。
「じゃあ神殿によったらどうなるの?」
「うーん、それが何とも言えないところでなぁ……」
ずっとカイルが説明してくれていたけれど、神殿のことはあまり分からないようでエルに代わった。
「おそらくですが、神殿からいきなり誰かと結婚させるという可能性は少ないと思います。
多分、イズミの魔素をどうにか神術でも使えるように変換するように頑張ることになるかと。ですが、根本的に神殿側と王宮側では、王宮側の方が魔素をそのまま使える分イズミルの価値が高いんです。価値が高いということはその分言うことを聞いてもらえる可能性も高いということになりますよね?
イズミルの魔素を提供する代わりに何か言うことを聞いてもらうということが可能になります。
ですから、とりあえずは王宮によっていくのが正解なんじゃないかなぁと僕は思っています。神殿内での僕の立場は考えないでください」
立場を気にしないでって言われても、エルの人生設計を私が邪魔するのはダメだと思う。
でも、確かに私の魔素を交換条件にできるってのは分かるし。
「多分、ある程度は分かったと思う。説明してくれてありがとう。
なるべくエルに迷惑掛からないように、王宮に紹介してもらう方向で話を進めて貰える?」
「夫が増えることになると思うが、それは?」
「まぁ、それは仕方ないと思う。それに、今4人で生活していてとっても幸せなの。
だからここに知らない人が入ってきても、その人が私を攻撃しないならその人と一緒にやっていけるんじゃないかなーってちょっとだけ思ってる。
一緒にやって行けなかったとしてもカイルとエルとツィリムがいてくれたら、私はそれで大丈夫だから。知らない人とでも、多分大丈夫。って言うかそう思うしかないし。だから大丈夫」
「イズミルはそう言ってくれるから、強いな」
「うーん、そんなに強いわけじゃないけどね。単に楽天的なだけだよ。あんまり深く考えるのが苦手だし、仕方ない事もあるし」
「そうやって仕方ないって思えるのはいいところだと思う」
「それにね、ここの世界の人達、いい人多いんだなぁってちょっと思ってるんだよ? それに、今ならカイルもエルもツィリムも居てくれるし、間に入って調整してくれるでしょう? だから来てすぐの頃より全然怖くないの」
少しの不安がない訳じゃない。
文化が違って、感覚が違う中でこんなにも仲良くなれたのは奇跡に近いと思うし。
でも、この世界で生きていくしかないし、大丈夫。
そう自分に言い聞かせるだけで、少しは強くなれる。
「それより、外に出て色々遊べる方が嬉しいくらいだよ?」
「じゃあ、明日、図書館に行こ」
突然ツィリムがそう言い出した。
「図書館?」
「そう。魔術師団に図書館があるんだ。イズミは、最近魔術書に読むのにハマってたけど、高いし個人で買える量はたかが知れてるから。
師団の図書館だったらカイルと俺の権利で本を借りることもできるし、行ってみたい?」
「嬉しい! 久しぶりのお出かけだもん!」
「じゃあ、明日は2人にお願いしますね」
「あれ、エルは行かないの?」
「僕も行きたいのですが、王宮の魔術師団に入るとなるとちょっと話がややこしいですし。一応関係者以外は入れないところなんですよ。まぁ僕も関係者といえば関係者ですけど、ちょっとややこしいかなぁっていうところで、今回はパスです」
「そっか、残念。じゃあまた今度別のところに遊びに行こうね」
「はい、そうですね、楽しそうなところを探しておきます」
よし、明日は久しぶりのお出かけだ。
楽しみだな、本もいっぱいあるみたいだし。
 




