30.ツィリムとの時間
いつもながら美味しいイフレートのお昼ご飯をツィリムと3人で食べてから、のんびりしようかと思っていたらツィリムが出かける準備をし始める。
「ちょっと、買い物に行ってくる」
「えっ!? なら、私も行くー!」
「だめ」「何で?」
私だってたまにはお買い物行きたいのに。
「俺しかいないから、無理だって分かって欲しい」
いつになく真剣な目で見つめてくるツィリム。
……私のワガママ通せる感じじゃないなぁ。
結婚式の時とか、ドレス選びの時とか、4人体制だったもんね。
「ごめんね、分かった。いってらっしゃい」
「ごめん。また今度」
宥めるように軽く頭を撫でてから出ていくツィリム。
私、そんなことされる程子供じゃないつもりだし、ツィリムより年上だし。
それでも、こうされるのが嫌じゃない時点で、子どもなのかな。
暇が出来たのをいい事に、リビングの飾りでも作ってみようかな、って気になった。
今の家族人数には多すぎるソファと、ダークブラウンの落ち着いたローテーブル。
レース編みのテーブルクロスと、ちょっと可愛い色のお花が飾られてたりしたら可愛いかなって。
結構大きめのテーブルだから編むの大変そうだけど頑張ろ。
どんな風にするのか、図案を決めてる間にツィリムが帰って来た。
「おかえり。早かったのね」
「ちょっと足りない物だけ買いに行ったから。ここ、イズミが使う?」
「暇だから作業してただけだから、全然いいよ?」
「じゃ、ここで広げる。イズミの魔素を上手く循環させる機械を作ろうと思って」
何やらよく分からないものがいっぱい出てくる。
正直私にはただの石ころにしか見えない物も沢山あるけれど。
「そうだ、イズミの身体、何ともない? 機構のこと考えすぎて忘れる所だった」
「別に何ともないよ?」
「ちょっと頭痛いとか、お腹痛いとか、気分悪いとか……」
「全然平気」
「じゃあ大丈夫かな……? 何か変だったらすぐに言って」
そう言いつつも、思考の大半は魔術の事に占められているみたいだった。
こんなに真剣な顔したツィリムを見るのは初めてで、普段は結構子どもっぽい所もあるのにすっごくカッコ良く見える。
ツィリムは、それから何度か足りない物を自分の部屋に取りに行ったりしていた。
私は、しばらくするとツィリムの顔を眺めるのにも飽きたし、作業も何をしているのかも分からないからレース編みをし始めた。
さっき決めた図面通りにただただ編み進めるのは単純作業だけど結構楽しい。
そうやって同じ部屋の隣同士で全く違う作業をするのは、静かで心地いい。
「できた」
日が傾き始めた頃、ツィリムがようやく言葉を発した。
「これで、地下に行かなくてもこの部屋から魔素がチャージ出来ると思う。
ちょっと試して見てもいい?」
「へー、そんなものが作れるんだ。いいよ、やってみて。どうなるのか私も興味あるし」
みかんのダンボールくらいの大きめの箱から、左右に赤と青の2本の取っ手が出ているみたいな機械。
「そっちの赤い方を握ってて。もし、何かあったらすぐに離して」
ツィリムは私に抱きついた上で青い方を握る。
毎回抱きつかれるから、そうした方がいいのかと思って私もしっかりツィリムに抱きついてみる。
ツィリムがなんだか嬉しそうに見て来て、こっちもちょっと嬉しくなる。
「じゃ、チャージするよ。何かあったらすぐに離して」
何度も念を押すように確認してくれるのが、ツィリムの研究のためだけじゃなくて、私のことを気にしてくれてる証みたいで嬉しくなる。
ツィリムは真剣に箱を見つめているけど、私には何をしているのか全く分からない。
強いて言うなら、引っ付いてるツィリムがちょっとあったかいくらいかな?
しばらくそうしていると。
「ふーっ、イズミは、大丈夫?」
疲れたようで、大きなため息をつくツィリム。
「全然、何も。ツィリムがあったかいからちょっと眠くなったくらいかな」
「眠気か……ちょっと気になるけど、暖かさのせいかもしれない。ずっと眠いようだったら教えて」
「そんなに大した事じゃないよ。もう何ともないし」
「これだけの魔素を媒介して何ともないって事は、すごい事。イズミには分からないかもしれないけど、通過させただけのおれが、こんなにしんどいんだから」
「そうなの? それなら、むしろツィリムの方が大変じゃない。休んで来たら?」
「これくらいは、まだ大丈夫。イズミのおかげで、魔素に掛かるお金だけじゃなくておれの研究のことでもだいぶ出来ることが増えた。ありがとう」
「うん、成功したみたいで良かった。成功したんだから、心置き無く寝てきたら?別に仕事じゃないんだし」
「……ありがと。じゃあ、ちょっと寝る。カイルが帰って来たら起こして」
「はーい、おやすみ」
少しフラフラした様子で部屋に戻っていくツィリムが心配だけど、本人は満足そうだし、少し寝たら元気になるかな。




