27.4人だけで
会場に入る時だけはエルに抱っこしてもらっていたけれど、それからは宣言通りカイルに抱っこされ、食事はツィリムが持ってきてくれた。
そのままツィリムが食べさせてくれるんだけど、結構恥ずかしい。
会場には、カイルの時より少ないとはいえ30人くらいの人がいるし、結構視線も感じる。
そんな中で子供みたいにご飯を食べさせられるのは結構恥ずかしい。
「あのさ、1人で座るし、自分で食べるから」
さっき他の人と関わるなと言われたところだから離してもらえる可能性は低そうだけど、控えめにアピールしてみる。
でも案の定ツィリムは器を握りしめたまま首をふるふると振った。
「いや、みんな見てるし恥ずかしいんだけど」
「イズミは可愛いから、みんな見てるんだ。見せつけてやればいい」
なぜかドヤ顔のツィリム。
残念ながら私はそんなに自信に満ち溢れた感じにはなれないんだけど。
「本当に嫌なら控え室に下がるか?
顔見せは済んだから下がってもいいとは思うが……」
「うーん、そこまでじゃないけど……」
いなくなるのはエルの立場的にもさすがに良くないだろうし、そこまで嫌なわけでもないし。
うん、諦めたらちょっとこの場を楽しむ気になってきた。
せっかくだから料理もデザートの楽しまなきゃ。
緊張して縮こまってるだけでは損だよね!
「よし、気分転換成功」
突然の独り言に首を傾げていたツィリムだけど。
「イズミ、もっと可愛くなった。
そうやって、笑ってる方がいい」
私にとってはツィリムの微笑みの方が綺麗だけどね。
「ツィリム、さっきのトマトで煮たお魚が美味しかったからあれ食べたい」
ツィリムが取りに行ってくれてる間に会場を見渡してみると、今日のお客さんは殆どがエルと同じような水色のローブを着た神官さんだった。
やっぱ髪の色とか色鮮やかだしイケメンばっかりだし眼福だわぁ……と、ぼーっと眺めてると目が合ったイケメンさんに微笑まれた。
反射的に会釈すると首が折れるかと思うような速さでカイルの方へ向かされた。
……やば。わりと怒ってる。
無言で壁側に向きを変えられる。
「他の人の話すなと言っていただろう?自分からアピールしてどうする?」
「アピールって……そんな大層なもんじゃないよ」
「目が合って笑いかけただけでも十分だ。今は俺が間にすぐ入ったから良かったが、あのままだと話しかけにきたかもしれないんだぞ?」
「……ごめんなさい」
「そうやって、誰とでも仲良くできるのはイズミルのいいところだとは思うが……
今日は大人しくしててほしい。エルのために」
「わかった。ごめんなさい」
行動が制限されすぎていてちょっと納得いかないところもあるけど、理由も教えてもらえていることだし大人しくしておこう。
「今日は、皆様お越しいただきありがとうございました」
うん?
エルがもう締めの言葉を言い始めた。
まだデザート食べてないのに、早くない!?
しかも私は相変わらず壁に向かされたままなんだけど……
さすがに失礼じゃない!?
状況がわからず混乱している私には構わず、会は終わった。
見送らないといけないと思い、振り返ろうとしたらカイルに抱き寄せられる。
カイルの首筋に顔埋めるようになって、一瞬背後の客人たちがザワついたのを感じる。
……恥ずかしい。恥ずかしすぎるぅ。
「少しの間でいいからこうしててくれ」
カイルに懇願するような口調で囁かれて……
ずるいと思う。
私はカイルのこと好きだし、顔だって声だって好きだから。
いくら自分の扱いを不満に思っていても言う事聞かなきゃいけない気分になっちゃうじゃない。
しばらくそうしていると。
「よし、終了です! イズミル、お疲れ様でした」
エルの明るい声が響いた。
「すみませんでした。イズミルは本当に居づらかったと思いますが、僕のために我慢してもらって。
今からももう少しこの部屋を取ってますから、4人だけで好きなものを食べましょう」
「えっ、本当に?」
「はい、イズミルは自分で好きなものを取って食べるのがいいんですよね? もう誰も来ませんから、好きなだけ食べてください」
「やったー! エル、ありがとう。じゃあ今からは4人だけで結婚パーティーだね!」
本当に旦那さんたちはすごい。
私はなんにもできないのにこんなに気を遣ってくれて、私が喜ぶことをしてくれて。
「実は、僕もまだ何も食べれてないんですが、どれが美味しかったですか?」
「そっか、エルはずっとお客さんの相手したもんね。私のおすすめはこれ。お魚をトマトで煮たやつ。あっ、こっちのパンも美味しかったから、パンと一緒に食べても美味しいと思う」
「じゃあそのオススメ食べてみますね」
「イズミ、これも美味しい」
ツィリムがオススメしてくれたのは鶏のクリームシチューみたいなの。
「美味しそう!」
一通り美味しそうなものを取ってテーブルに着く。
立食形式のパーティーだったけど、お客さんは帰ったから椅子を四つ出してきてみんなでテーブルを囲む。
「勤務の時間がバラバラだからあんまり一緒にご飯食べれることないから、みんなで食べれるだけでも楽しいのに……こんなに豪華なご飯だし!
エル、ありがとう!」
「いえいえ、イズミルが楽しんでもらってるようで良かったです」
「うーん、何かお礼するよ! 何がいいか分からないんだけど、何がいい?」
「いえいえ、いいですよお礼なんて」
「でもさぁ……」
「どうしてもっていうなら、今日の夜にでもたっぷりしていただきましょうか?」
とびきりの微笑み付きでそんなこと言われて……
顔が真っ赤になっている自覚はあるけれど、その場から逃げることもできずに顔を隠すしかなくて。
「イズミ、かわいい」
なぜか私の照れ顔が好きなツィリムがいつものように近づいてくる。
うん、こういうことを『幸せ』って言うんだろうな。




