26.エルの結婚式
26.本番
普段から、結婚式はよく見ている。
今は結婚式担当ではないとはいえ、神殿に勤めていれば見る機会は多いし流れもよく知っている。
それでも、自分がするのは最初で最後。
緊張しないハズがなかった。
今日は、カイルにイズミルを連れてきて貰う予定で、だから彼女はまだ控え室にいる。
よし、時間だ。
扉を開けてくれた同僚に軽く会釈してから、気合いを入れて歩き始める。
いつも見ているだけだった場所に自分が立っているのはなんだか変な気持ちだ。いつもいる所なのに別の場所みたい。
***
中央奥の祭壇でしばらく待っていると、カイルに抱かれたイズミルがやって来た。
恥ずかしいのか、カイルの首に腕を絡めてしがみつくようにしている。
人前に出るのは嫌がらないが、抱っこには抵抗があるからだろう。
カイルからイズミルを受け取り、抱きかかえる。
少し不安定になってしまったからイズミルはバタバタと慌てていたけれど、僕の首にしがみつくようにして安定するとふっと肩の力を抜いた。
「ありがとう」
ニコッと笑うのがとても可愛い。
「変に力がかかってしまいましたね。大丈夫ですか?」
「全然平気だよ?」
ふわふわ笑うのが可愛くて思わず頭を撫でたくなったけど、あいにく両手がふさがっている。
諦めて姿勢を正すと担当の神官が入ってきた。
知り合いじゃなくてよかった……
「私エルドルト・ミラマームはイズミ・オオモリに対し、夫として生涯を捧げ、愛し守り続けていくことを誓います」
しっかりとイズミルの瞳を見つめて、誓いの言葉を紡ぐ。
僕の想いが少しでも多く、彼女に伝わるように。
「イズミ・オオモリ、夫からの愛に応えますか?」
神官からの問いかけ。
チラリとそちらに目を向けてから、僕の目を見つめてくれる。
「はい、もちろんです」
はにかんだように笑いながらそう答えてくれる。
それだけじゃなくて、僕の首に腕を回してキスしてくれた。
一気に自分の体温が上がった気がした。
たぶん、顔が赤い。でもイズミルを抱えているから隠すことも出来なくて。
からかうように頬をつつくイズミルは可愛いからまだいいとして、生ぬるい微笑みを浮かべる神官はかなりウザい。
「ここに、エルドルト・ミラマームと、イズミ・オオモリの婚姻が成立しました!」
その宣言と共に拍手が鳴り響く。
ようやく、僕は結婚して、イズミルの夫となったのだ。
婚約からの3ヶ月は、僕にとっては一瞬だった。
人生でこんなに幸せな時はなかったから。
そして、これからずっとこの幸せな、イズミルとの時間が続くことが、とてもとても嬉しい。
*****
side イズミ
「すみませんが、急いでください」
式が終わるとすぐに、ドレスもそのままで馬車に乗せられた。
「今回は朝少し余裕があった分、後半のスケジュールが結構キツイんですよね。
慌ただしくて申し訳ないですが、すぐに着きますので」
エルがそう言ってくれた。
「全然。このくらいは忙しくないよ?結婚式は私の地元でも凄く忙しそうだったしね」
「それならよかったです」
ニコニコ笑っていたエルだけど、急に真面目な顔になった。
「イズミル、一つお願いがあります。今回は招待客とは話さないでください」
「う……うん」
やけに真剣な雰囲気に圧倒されて、そう返事したけど……
「なんで?」
そう聞き返してもエルは居心地悪そうに目をそらすだけでこっちを見てくれない。
そのまま我慢比べに突入しそうだったのを、苦笑気味のカイルが仲裁してくれた。
「別に、何か危険があるとかそういうわけじゃない。
単にエルの気分の問題だからあんまり気にするな」
何が言いたいのかわからずきょとんとしていると、馬車がもうお店についてしまった。
エルはその場の空気感から逃げるように馬車を降り、扉を開けてくれる。
そして、何故かカイルに抱き上げられて馬車を降りた。
「エルじゃないの?」
素直な疑問でカイルに聞いてみる。
「あいつは客の相手をしないといけないからな。イズミルをそれに巻き込むのが嫌だから、俺らで囲いこんで欲しいそうだ」
なんか、よく分からないんだけど、そういう物なのかな?
「エルは、イズミを独り占めしたいだけ。
単純に、他の神官をイズミの夫にしたくないんだよ」
納得行っていない気持ちが顔に出ていたのか、ツィリムがフォローしてくれる。
カイルも頷いてるし、そういうことなのかな?
「イズミルに取っては職業はあんまり関係ないものみたいだが、俺たちにとってはかなり重要なことなんだ。特に、イズミルの場合は神託のことがあるから、神殿と関わることが多い。
その関わりを自分だけのものにしたいんだろう」
なるほど。
確かに、この世界では共有の妻を持つのが当たり前とはいえ、自分の独り占めしたい気持ちは当然あると思う。
だから、職業とか担当を決めたりして夫同士で住み分けして、その部分は独り占め出来るようにするのかな。




