21.ドレスとお茶会
結局、ドレスはAラインのザ・ウエディングドレスって感じの、エルっぽい色のにして、エルの衣装は私の色、つまり黒のローブになった。
黒のローブはいつもカイルとツィリムが着てるイメージなんだけど、この世界ではスーツ並にメジャーな服らしい。これ着とけばとりあえずOK、みたいな。
それが決まれば次はアクセサリーなんだけど、残念ながら時間がなくなってしまった。
ドレスに夢中で護衛として来てもらったエスサーシャさんともほとんど話せなかったし。
でも、あとはアクセサリーだけだからめぼしいものを家まで持ってきてもらって選ぶんだって。
そんなことしなくてもまた来るって言ったら、ある程度地位のある女性はそうするのがあたりまえだから気にしなくていいって……
私、地位なんてないと思うよ!?
…………はい、私が知らなかっただけでカイルは貴族家の人なんだって。
そういや、イフレートさんを紹介してくれた時に、カイルの家に仕えてるって言ってたな。その時に気づけよ、私。
いい機会だからついでにこの国の制度の話を聞いておく。帰りの馬車のなか、暇だしね。
この国は女系相続制度で、女の人から娘に代々相続していく制度なんだそう。
夫がたくさんいるから誰の子供かわからないけど、産んだ人は確実に母親だけ。だから、確実に血の繋がりがある人が相続するとなると、女系相続にするのが合理的なんだって。
ただ、この世界は女の子が生まれにくい。だからどの家も女の子が欲しいわけで、女の子が生まれるまで子供をうみ続けるんだって。こわっ。
「私も、そのうちたくさん子供産まなきゃいけないの?」
「今のところは家として確立されてないので後継ぎは必要ありませんが、いずれは貴族家として正式に認められると思います。そうなると後継ぎを産んで貰いたいですね。
イズミルは、子どもが嫌いですか?」
「子供、好きだよ?可愛いし」
そうか、子供産まなきゃって聞いて怖くなったけど、産むのは旦那さん達の子供なんだ。それならまだ大丈夫かな。
というか、可愛いんだろうな。
「子供、欲しいかも」
子どものことなんて全然実感ないし、何となく言っただけだったけど、エルもカイルも大袈裟なくらい喜んでくれた。
「イズミルの子供は、絶対可愛いですよね!イズミルがこちらに慣れて、神殿や王宮との折り合いがついたら可愛い赤ちゃんを産んでくださいね!」
エルの笑顔にほっこりしつつ。
「落ち着いたら、ね」
エルの肩に身体を預けて甘えると、ゆっくり髪を撫でてくれた。
***
家に帰ってから。
「今日は楽しかったです。また機会があればいつでも呼んでください」
エスサーシャさんはそう言って早々に帰ろうとしたけど。
「いえいえ、ちょっとお茶でも飲んで行ったらどうですか?お忙しいのであればいいですけど」
「いいんですか?」
「はい、今日はわざわざ来てもらったのに、ドレスに夢中になってしまっていたので申し訳なくて」
「では、お言葉に甘えて」
「ありがとうございますー!
お茶いれてきますから、座っててください」
「イズミル、私がやりますよ」
エルはそう言ってくれるけど、
「お茶いれるくらいできるよ。紅茶結構好きだし」
さっさとキッチンに入ってしまう。
客間のソファセットには片側にカイルとエスサーシャさん、もう片方にエルが座っていて、エルのとなりに座った。
「お茶いれるのはそんなに上手じゃないかもしれないけど茶葉はいいの使ってるから美味しいと思うよ」
みんなの分を注いで、イフレートがおいていってくれたクッキーも一緒にお茶菓子として出す。
「ありがとうございます、美味しいですよ」
エスサーシャさんが褒めてくれたから良しとしよう。
「あの、あんまりよくわかっていないんですけど騎士って何をする仕事なんですか?」
エスサーシャさんはきょとん顔。
「あっ、ごめんなさい、聞いちゃいけなかった?」
「いえ、そんなことはありませんが。
ケインテットに聞いていませんか?」
「うーん。正直、カイルがなんの仕事してるのかもあんまりよく知らないんですよ。
エルの仕事は結婚式の時にちらっと見たからまだ分かるんですけど。
だから、エスサーシャさんの仕事はカイルと職場が近いってことくらいしか知らないので」
「えっ、イズミルは、俺の仕事知らなかったのか!?」
カイル、そんなにびっくりしないくても……
「ふわーっとしか知らないよ」
「マジかあ……
俺は王宮魔術師団の所属なんだが、王宮って付く仕事はだいたい王宮の警備とかをしてる」
王宮っていうのは私の感覚でいう首相官邸と官公庁が全部合体したみたいなもののこと。
「国の中枢だから警備は厳重なわけで、俺らは魔術的な防御、セラルシオ達騎士部は物理的な防御を担当してる」
「なるほどー。てことは、エスサーシャさんとカイルはおんなじ仕事してるんだ」
「だから仲良い奴も多いんだ」
「じゃあ、エスサーシャさんも魔術使えるの?」
「いえ、おれは使えません。魔素が身体にほとんどなくて、日常の魔法だけでも精一杯な程度なので」
「そうなんだ!じゃあ仲間だね!
私は日常の魔法すら使えないけど、まわりの人が魔術とか神術とか使えるからね、仲間が見つかったみたいでなんかうれしい!」
不意に横からエルの腕が伸びてきて抱き寄せられた。
腰をしっかり抱いてきて、ちょっと恥ずかしい。エスサーシャさんもいるのに。
ま、そんなことはいつものことだから気にせず会話を続ける。私もだんだんこの世界に慣れてきちゃってるなぁ。
それから他愛もないことを話していて、ほどほどの時間でエスサーシャさんは帰っていった。
玄関まで出て見送ったらちょっとびっくりされたけど。
私の感覚ではお客さんを見送るのは普通だけどそうでもないみたいだねぇ。
その後。
2階のリビングで編み物でもしようかなって思ってソファに座ったらカイルとエルに挟まれた。
「んん?何?どうしたの?」
「イズミルにはいつも言っていますが、あまり男を振りまわすような発言は控えてください」
ん?なんの話?
「イズミルが意図せずに言ってることでもセラルシオにしたらかなりきわどいのを自覚してくれ」
「そもそもお茶をいれてあげるなんて妻でもない限りやりません!妻でもしない人のほうが多いと思いますし」
「そんなに深い意味はありません……」
「そうでしょう、わかってますが、気をつけてくださいね」
「はーい……わかりましたぁ」
とりあえず返事はしたけど、何を気をつけたらいいんだろうね?




