第21話 風の珠玉
「遠路はるばるようこそおいで下さいました。冒険者のお二方」
クエスト依頼者は俺たちと変わらないぐらいの歳の女の子だった。
意外なことにこの村の村長らしい。
村長である彼女の父が病にかかってしまったため、彼女が代理として村長を務めているそうだ。
しかし村長からの依頼ということは実質村をあげての依頼ということだ、気を引き締めなくては。
「知っての通り、私たちのトーガ村は温泉が湧き出る村として名が通っています。毎年多くの人たちがこの村の秘湯を求めて遠くからいらっしゃられていて村を支える重要な資源なのです。
ですが現在温泉に入った人たちが次々と「悪寒がする」「視線を感じる」とクレームが殺到しています。村の悪評が広まってしまう前に、どうか冒険者のお二方で調査をして原因を突き止めてほしいのです」
「わかりました!さっそく調査に行きましょう!」
話を聞くなりエピックは浮足立った。
「そうだ、緑の指輪をした風の魔法使いがいると聞いたのですが」
「緑の指輪……カゲトラさんのことでしたら山で警護をしてくれてます。すごく頼りになる人で彼もいっしょに温泉の調査に協力してくれると思いますので、ぜひお会いしてみてください」
「よかったらこの村自慢の温泉も入っていってほしいです。かの二十二祖のひとりが古代より守る霊験あらたかな温泉です」
◆
「そのカゲトラさんがリュートさんのご同郷でしたか?」
「名前だけじゃなんとも言えないなあ」
山路を歩いていると足元に嫌な感触がした。
「?」
地面を見ると引きちぎれたヘビのしっぽを踏んづけていた。
らんらんと輝く黄色い瞳と目が合った。
ぬるりと巨大な蛇頭が顔を出してきた。
「GSYAAA!!」
「ヘビ!」
森の奥から飛び出してくる大蛇!
三メートルはあろう巨体だ。
人間などやすやすと丸呑みにしてしまえるだろう。
臨戦態勢を取ったその時、指輪が激しく震えだした。
「何だこれ?」
見たことのない指輪の現象に戸惑っていると、風を切って何かが飛んできた。
ブーメランだ!
大型のブーメランが回転し大蛇を切り裂いた。
ぼとぼととバラ切りになった蛇の体が落ちる。
すごい切れ味だ。
「大丈夫かい?迷える冒険者たちよ」
振り向くと、緑のマフラーをした少年が木の上で直立していた。
手には緑に輝く指輪。
ひょっとしたら。
「どなたですか?」
「名乗るほどのものじゃあない……と言いたいが求められれば絶対的に答えるべきだな」
風になびく髪型を整えながら彼は言った。
「風の珠玉の使い手にて、”最強の異世界転生者”荒巻景虎だ!」
「リュートさんの探してた人でしたか?」
「うん、間違えようもなく異世界転生者だ」
「何?するとお前も」
「ああ、俺も君といっしょの水の珠玉だ」
景虎は興味深そうに木から飛び降りてきた。
数メートルはある高さなのにすごいな。なにかのスキルかな?
「今使った俺のスキルは落下ダメージを無効する<上順下逆>だ。水の珠玉、お前持ってるか?」
「そのスキルは持ってないな。あと俺は矢車龍斗だ」
「ふーん、で。異世界に来てどんくらい?俺は一か月」
「一週間とちょっとくらい?」
「そんくらいか。ま、俺が異世界の先輩ってことだな。こう見えて修羅場はくぐってきてるんだ」
「そっかそっか、頼もしいな」
自信ありげに景虎は俺の肩を叩いてきた。
すると先ほどの大蛇の肉体がそれぞれ動き出しひとつに結合し始めた。
なんてしぶとい生命力だろうか。
「景虎、一緒に戦おうか」
「いや俺一人で十分だ、下がっておきな!」
景虎は緑の魔力を纏わせたブーメランを投げた。
ブーメランは蛇を取り囲むように周りで回転し続け擬似的な竜巻を作り出した。
中心にいる大蛇は動くことができない。
さながら風の牢獄だ。
「風に飛ばされるなよ!」
景虎が戻ってきたブーメランをキャッチ。
すかさず風の珠玉から魔法を発動させた。
翠色の魔力が溢れだす!
「絶体絶命、食らわせてやる!」
ブーメランの勢いを衰えさせぬまま、再び投げた!
竜巻の中でスーパーボールめいてブーメランは風に弾かれて跳ね回り、大蛇をずたずたに引き裂いていった!
風が止むとそこには見分けのつかない肉片が散らばった。
とてつもない技だ。
「あいつの風魔法はすごいな、エピック」
「……そうでもないんじゃないですか」
「どうしたんだ?不機嫌なことがあったらちゃんと言った方がすっきりするよ」
「……リュートさんのこと、彼がバカにしているみたい」
「別にいいんじゃないか?」
「でも……」
「ヘイッ!見たか!?二人とも!!俺の絶対的な活躍を!」
景虎が手を広げながら機嫌よく戻ってきた。
「ざっとこれが異世界転生者の違いってやつだ、わかるな?」
「だいたいわかった。それはそうとお前使ってたブーメランどこ行ったんだ?」
「ん?しまっ……」
景虎の後頭部にブーメランが直撃した。
◆
「ああ……やっぱり温泉はいい、身体に染み渡る」
「爺臭いな」
2人の間に煙が立ち上る。
俺の提案で村の温泉に入れさせてもらった。
しばらく水浴び程度で過ごしていたものだから、入浴の心地よさがたまらない。
息をしているだけで生きていることが実感できる至福の時間だ。
「後頭部だいじょうぶ?死んだかと思った正直」
「コブになってるが問題ない。俺の風魔法で斬撃属性を付与しているブーメランだからな。あのときには魔法の効果が切れてたんだ。めちゃくちゃ痛いけどな」
「景虎はこの世界に来てからずっとこの村にいるの?」
「ああ、右も左もわからなかった俺をヴィークスや村のみんなが支えてくれたんだ。だから俺もこの村を守るんだぜ。恩返しっていったら変な感じだけど」
「そっかー」
「ところでさ、この村に来たときヴィークスに会ったんだろ?なんか言ってたか?こう……俺のことを」
「頼りになる人って言ってた、お前、恋か!恋だな!恋か!」
「そういうのとは違う!絶対に違うぜ!絶対!」
景虎、嘘が苦手だな!
ウソがつけない人間は悪い奴ではないのだ。
俺はけっこう得意だがな。
「そうだ、龍斗が俺のところに来た理由は言われなくてもわかるぜ。この村の二十二祖のことだろう」
「へ?なにそれ」
「オイオイ、俺たちが転生するときに言われただろう。俺たち珠玉の使命は世界に蘇った二十二祖を再び!封印する事ってな!」
「聞いた覚えがないなー。自由に生きろみたいにしか言われてない」
「ま、神さまにはわかるわけよ、絶対的に使命を託すべし人間ってのが。安心しとけって」
「そいつらを全部封印するとどうなるんだ?俺たちは元の世界に帰るのか?」
「龍斗は元いた世界に未練があるのか。俺はないぜ、あんな世界に二度と居たくはない」
景虎は湯から立ち上がると俺にぶつけるように話しだした。
「ずっと憧れてたんだ、異世界転生ってやつに。ラノベの中でしかなかった世界に俺も入ってみたかった。物語だってわかっていても。でも偶然俺が事故で死んだとき、ひょっとしたらって思った。そして目が覚めたら雲の上にいた。夢が叶ったんだ」
景虎は右の拳を握りしめた。
月の光に照らされて、右手の指輪が緑に輝く。
「俺はもう一度この世界で強くなってやり直す。元いたクソみたいな世界には思い出も後悔もない。この風の珠玉の力で絶対に全部から勝ってみせる」
突然麓の村から鐘の音が響いてきた。人が寝静まる夜に鐘が鳴るなど尋常なことではない。
トーガ村に何が起こっているのだろうか。
「この鐘の鳴らし方は……間違いない、魔物の襲来だ!」




