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第18話 解読−スクロール

日の光が部屋に差し込む。

目覚めの良い朝だ。

龍斗はベッドから起き上がると胸に響くような痛みを感じた。

数日前の戦闘の傷がまだ完全に治っていないのだ。


昨日何回も〈治癒−ヒール〉をかけたんだけどな。

龍斗は右手に魔力を込めて胸に手を当てる。

ボウと青く淡い光が右手に現れ、癒やしの力を与えてゆく。


内傷が治ってゆくのが感じる。

細胞が蠢いているようであまり気持ちのいいものではない。

炭酸の抜けたコーラのような不快な爽快感が胸を灼く。


その時、脳内に声が届いた。

新しいスキルの覚醒だ。


〜新スキル開放〜


ー〈治癒−ヒーリング〉の熟練度が一定に達しました

ーー〈治癒・上−グレーターヒール〉が開放されました


ー〈治癒・上−グレーターヒール〉

ーーかなりの魔力を消費して、傷を大きく回復させる


〜水の珠玉〜


治療系のスキルがグレードアップしたか。

命が一番大事だからな、いいスキルだ。


備え付けのコップに〈放水−スプラッシュ〉で水を満たす。

目覚めの一杯を一気に飲み干した。


ー美味い!

ー我ながらおいしい水を出してしまった。

雑味のない澄み渡るような一杯だ。

喉が潤うといい一日が始まりそうな気がする。


すると二つ目のコップがすっと差し出された。


「俺にも一杯貰おうか」


横にはいつの間にか男が立っていた。

エピックの兄のクイックだ。


「なんで部屋の中にいるんですか!?」


「扉の鍵が開いてたぜ、泥棒に入られなくてよかったな」


まったく悪びれずに彼は言った。


「お前の水をもらうぜ、水魔法使いの練度は出す水の味で決まるというからな」


クイックのコップにしぶしぶ珠玉から水を注ぐ。


「それはそうとなんであなたがここに?」


「言伝とお使いを頼まれてな。エピックは教会に行ってるから今日は会えない。弓持った姉ちゃんは実家の都合で来れないらしい。そこで俺に白羽の矢が立ったってわけ」


透明な水を飲みながら語るクイック。


「エピックからお前用のスクロールを調達してほしいって言われたんだ。文字が読めねえそうだし。そういうわけで闇魔法ギルドにツテのある俺が同行してやる。オーケー?あ、この水うまいな瓶詰めにしたら売れるぜこりゃ」


「スクロールとは」


「知らないか、どっから説明するかな」


すると懐から巻物を取り出した。

あれがスクロールだろうか。


「”技巧”ってのは知ってるだろう。魔法とは別系統のスキルだ。戦士系や盗賊系が闘いの中で覚えるやつだな。腕利きの職人クラスのヤツでも持ってるな」


知ってはいなかったがだいたい分かる。

この世界には魔法だけでなく、人の技術や特技も”スキル”として扱われているのだろう。


「そんで記憶を操る闇魔法で”技巧”の記憶を閉じ込めたのがスクロールってわけだ。これを開けばだれでも何度か”技巧”が使えるようになる。爺さんでも子供でも誰でも」


クイックが持っていた巻物をこちらに投げ渡してきた。


「口で伝えるより実際に使ってみるのがいいだろ。外に出な、この巻物に封じ込められている”開錠”の技巧を使ってみ」


二人でドアの外に出てから俺は受け取ったスクロールを開いてみた。

すると頭の中から記憶が湧き出るような感覚がした。


「さ、扉の鍵は閉めといたぜ。ほれ針金だ、これでもうお前は針金一本でどんな鍵も開けられるようになった」


「やってみます、見ててください」


俺は受け取った針金を鍵穴に差し込んだ。

体が覚えているとはこういう感じなのだろう。

自然と手が動き、針金から伝わる鍵穴の感触を確かめた。

鍵穴のピンを繊細な動作で外して二本目の針金で鍵を回す。


頭が理解をしているわけではない。

手が慣れている動きに身をゆだねるようにしていくと簡単に鍵を外せた。


「やりました!外せましたよクイックさん!スクロールの力ってすごいですね」


「え!外せたのかお前!い、いや、よくできたな。これがスクロールだ!」


クイックは予想外の結果に驚いた。

スクロールは確かに技巧を使えるようになるが、使いこなせるとは限らない。

初めてスクロールを使った者はたいてい,

勝手に動く身体に逆らってしまい技巧を発動しきれない。


失敗すると思ってクイックはスクロールを渡していたのだ。

”開錠”に失敗した龍斗にクイックは自身の持ち前の”開錠”スキルを披露して尊敬を得ようと彼は画策していた。

だが龍斗が初見でスクロールを使いこなしてしまい企みは失敗してしまった。


ー意外と器用なやつなのかもしれないな


龍斗への印象がすこし改まったクイックであった。


「まずい……針金が抜けない」


鍵はすでに開いているのだが鍵穴の奥に針金がつっかえてしまっているのだ。

押しても引いても抜けそうな気配はない。


ーチャンスだ!

クイックはこの機会を見逃さない。

ここで苦も無く問題を解決したら自分の株が上がることが間違いないとクイックは思案した。


「しょうがねえな、じゃあ俺が直してやるから下がってな」


「さっきまでの俺なら出来てたのに一瞬で出来ないようになりました、スクロールって不思議ですね」


「そういうもんだ、何度も繰り返して使っていけば自分のスキルとして定着することもあるがな……なんか嬉しそうだなお前」


「”技巧”使ったの初めてでしたので!もう一回やってみたいですね、次はもっとうまくいく気がします」


「変わった奴だな……あ!」


扉の中からバキリと金属が折れる音がした。


「クイックさん?」


「えーまあこれは、あのそのだな」


冷や汗をかきながらクイックは途中から折れている針金を抜いた。


「この宿の宿泊料先に払ってるよな?」


「何言ってるんですか!やめてくださいよ!」


「ばれなきゃいいんだよこうゆうのは!!」


「やめましょうよ!そんな食い逃げみたいなマネ!」


部屋の窓を開けてクイックはアクロバティックに二階から飛び降りた。


「すぐ闇魔法ギルドへ向かうぞ!時は一刻を争う!行くぞ!ついてこれなきゃ置いてく!」


「そんなむちゃくちゃなー!」

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