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第17話 魔王軍-蠢動

「フィヨルドの茶を一杯たのむ」


「俺もそれで」


店の奥にいる店員に届くようオーダーを放った。


病院を出た二人は喫茶店で腰を落ち着かせた。

積もる話が龍斗にはあった。


「魔王軍って一体何なんです?昔からいるのですか?」


「魔王軍とはこれからも関わらざるをえないだろう。今のうちに魔王のことを話そうか」


「お願いします」


ついとハルカは机の飲み物を飲み一息ついた後、静かに語り始めた。


「まず、魔王軍が名乗りを上げたのが二年前。最近の事だ」


「あんまり歴史があるとこじゃないんですね」


「少し話は変わるが、この国ニーズヘグ西王国と北にあるヘカトンケイル公国が今戦争状態にあることは知ってるか?一年ほど前から二つの国は何度も争いを続けている。その目的は二国に挟まれるように存在している空白の土地だ。よくある領土戦争だな。そしてその空白の土地には二年前まで国が栄えていたんだ。今は亡きその国の名は、ヘパイストス国。」


「その……ヘパイストス国という国が魔王によって滅ぼされたということですか?」


「正解だ。魔王軍の侵攻により国は瓦解し、事実上ヘパイストス国は滅亡した。かの国は優秀な職人が数多くいて隣国から輸入した鉱物などをさまざまな製品に変えて輸出していた国だった。スクロールなどの製作もほとんどその国頼りであったな。だがそのほとんどは魔王軍の手にかかった。」


「ここのニーズヘグ国は見ているだけだったんですか」


「まさか、魔物の大型進行と聞いて救援を送ろうとはしたさ。だが魔王軍はあまりにも異常だった。」


「異常?」


「魔物の大型進行自体はさほど異常事態なわけではない。数年に一回はどこの国でも発生しているし、事実ヘパイストス公国も何度も襲い掛かる魔物の大群を打ち破ってきた。だが今回の魔王軍の進行にはなすすべもなかった。その理由の1つ目が時間だ。」


「時間とは、行軍のスピードのことですか」


「そうだ、本来魔物の侵攻はおしなべてカタツムリのように遅いものだ。魔物の軍隊なぞほとんどは烏合の衆の集まり。行軍に多くの時間を取られて、そこを冒険者たちが待ち伏せをして殲滅されることがたいていだった」


「魔王軍はヘパイストス国から南に1つ山を超えた場所に陣を構えていて、そこから大々的に宣戦布告を行った。そのころは誰も事態を重く見ておらず、よくある大げさに増長した魔物の群れだろうと思っていたんだ。そして3日後にヘパイストス国は落とされた。」


「まさしく電光石火の進撃だった。大規模な侵攻の救援依頼がニーズヘグ国に入った翌日、帝国陥落の知らせが届いた。全ては後の祭りだった。」


「魔物を従え、兵士として統べるものなどいていいわけがない。そこからほどなくして隣国は数百年ぶりに”魔王”の誕生を国中に告した。」



雷雲が轟き、雨が地面を激しく打つ。

魔王城には嵐が渦巻いていた。天候の変化ではない。

そこに在る絶大な魔力が天を歪めているのだ。さながら空が恐れているよう。


魔王城最奥の”朱雀の間”。

その部屋の中央には大きな卓があり、取り囲むように五人の魔物が座していた。

卓上には装飾をちりばめた銀の箱がそれぞれの席の前にある。

空気には膨大な魔力が溶けた瘴気に満ちている。

そして一人たりとも口を開かない。黙して待っているのだ。彼らの王を。


扉が開き大気が流れ込むと同時に、仮面をした者が緩やかな足取りで入室してきた。

彼こそが魔族を統べるもの、魔王である。

その後ろを付いてエルフの女性が部屋に入る。魔王の付き人なのであろう。


「揃ったか、俺の配下たちよ」


「五人いることなどめったにないからのう、なあ?魔王よ」


「いつもいないのは貴様だろうが、気まぐれなやつめ」


「私語を慎め!魔王の御前だぞ!」


それぞれの魔物が軽口を叩く。エルフの付き人が叱るも、彼らに反省した様子はさらさらない。


「構わない、してトゥル―ぺよ。遺跡の探索はどうなった。」


眼鏡をかけた理知的な男が立ち上がる。ローブの下から触手がぬるりと這い出して石板を取り出した。


「未だ未知数と言わざるをえませんね。部下を使い掘削を進めておりますがほぼ400年が地層から歴史をさかのぼれる限界かと。この言葉の彫られている石板も新しいものはありません。」


「……そうか」


魔王は諦観の混じらせながら次の指令を返す。


「なんとしてでも失われた歴史の欠片を見つけるのだ。無視することはできん」


「しかしな、我が魔王よ。われわれほどの力を持つものがそこまで恐れる必要があるのか?その……天臨者の珠玉たるものに」


暗く青い髪を腰まで下げた少女が質問した。彼女は見た目は幼いながらもこの場にいる者の中で最も長く生きている。


「ある。珠玉を持つ者こそ我ら魔王軍を打倒しうる唯一の力だ。野放しにしておくことは出来ない」


断固とした意志で魔王は述べた。

魔王が珠玉の力を危惧していることが配下にも伝わった。


「魔王、始原22祖を冠する我らがいながらずいぶんと臆病ではないか」


武骨な太刀を携えた男の魔物はわずかに抗した。

彼の冠する称号は”塔”だ。

彼の瞳は常に未来を見てい居る。


「珠玉の力は神の意志を宿し、魔物を封じ込め無限に進化する存在だ。いかな22祖といえど敗北しうる存在が珠玉だ。こいつのようにな」


懐から魔王は一枚のカードを取り出す。

そのカードに描かれているのは、空、海、大地。全てを表した絵だった。

カードの名は「世界」

それからはあふれかえらんばかりの魔力が漏れ出していた。


「「”世界”の22祖!」」


配下たちが驚きの声を上げた。

彼らの見知っていた魔物。

彼らの知る限り最も敵対したくはなかった魔物が魔王の手に握られていたのだ。

身動きもできず力を使われるだけの封印のカードとなって。



「命からがら亡命してきたヘパイストス国の職人たちの口から伝えられたのは凄まじき蹂躙の様子だった。詳しくは語らんが深夜に国の四方から魔王軍に攻められ、あっという間に市街は火の手に包まれた。市民はなぶり殺され、建造物は破壊しつくされ憎しみさえ感じさせるほどの蹂躙ぶりだったそうだ。一足先に救援に行こうと朝日とともにヘパイストス帝国に着いた冒険者たちが見たのはガレキの山と化した王城だった。」


「職人ギルドの棟梁や王族に連なるものなどは生かされたまま魔王軍に連れ去られていったらしい。奴らにとって利用価値があるのだと判断されたのだろう。」


「ヘパイストス帝国の軍隊もけして軟弱なわけではなかった。だが魔王軍は強すぎた。魔王には今まで姿を隠していた”始原22祖”の魔物が五人も味方していた。動き出すときを水面下で待ち続けていたのだろう。」


「”始原22祖”?」


「説明をしていなかったな。太古の魔物、その源流の血を引き継ぐもので一人一人が国をも潰すほどの強さだ。実際に帝国が滅ぼされたがな。これを見てくれ」


懐から取り出したカードの束をぱらぱらと並べた。

カードにはそれぞれ絵が描かれており、太陽や帝王や車輪、さまざまな事象をモチーフにしたものだった。


「これは……タロットカード」


「リュートの故郷にもあるか。この魔物の始まりを模している22枚のカード。その名前を冠した22体の魔物がそれぞれ存在しているんだ。確認されているもので”女帝””悪魔””節制””吊られた男””塔”の五人が魔王に味方している。」


五枚のカードが机に並べられた。

それぞれに鮮やかに描かれた不気味な絵柄が、龍斗のことを睨み返してきた。



「珠玉を持つものとはいずれ相見えることとなるだろう。だが、座して打ち破らなくてはならぬ。人間族の支配を再び砕き、魔族の統べる世界を作るまでは」


魔王軍の軍議は終わった。

踵を返し、退室しようと扉に向かう。


「また会おう配下たちよ。後はゆっくりとしていってくれ」


言い残してエルフとともに魔王は去った。

魔王軍の定例会議は終了した。もはやこの場に留まる義務はない。

だが、22祖の5人は動かない。

まだ彼らにはすべきことが残っている。むしろこれからが彼らが集まった理由ともいえる。


部屋の隅に控えていた使用人たちが円卓に近づき銀の箱に手をのせた。

机の上にある銀の箱にすべて手が乗せられると、使用人たちは同時に持ち上げた。


その箱の中にはなんと

諸国から取り寄せた材料をふんだんに使った豪勢な料理が並べられていた。


5人は平常な姿勢から1秒も経たないスピードで箸を奔らせた!

お互いの箸がぶつかり合い、衝撃波が部屋を震わせる。


「おのれ!ちょこざいな!」


青髪の少女が机から身を乗り出しながら器用に料理をこぼさぬよう皿を弾き飛ばした。


達人同士の剣戟にも似た攻防が円卓の上で繰り広げられる。

目の前の料理はどれも魔王軍でしか食べられない絶世の料理だ。

彼らはこの食事の時間のために魔王軍に属したといっても過言ではない。


火花散る激戦の中、先んじて”塔”が中央にあった料理を奪い去った。


「あっ!貴様、先天の魔眼を使ったな!」


「俺の目を何に使おうと俺の勝手だ!」


「食事程度に魔の力を開放するとは魔族として恥ずかしくないのか!」


「食事ならば貴様が出てゆけ!」


2本の箸を4組、その手と触手に持っている”節制”のトゥルーペが”塔”と料理を奪い合う。


「おーおー、録に飯も食えねーなーここは」


開いている左手で水晶玉を転がす男、彼の称号は”吊られた男”である。


「ほれ、口まわりが汚れておるぞ。もっときれいに食べんか」


”女帝”を冠する青髪の少女が吊られた男の顔をナプキンでふき取ろうとする。


「いらねーよ!あんたは俺の母親か!」


「そう照れるな。ほれ、ほれ!」


「俺よりあいつ拭いてやんなよ、拭きがいがありそうだろ?な?」


吊られた男が指差す先には、室内だというのに甲冑を纏う者がいた。

拷問器具めいた兜の奥からはすすり泣く声が聞こえてくる。

彼は”悪魔”だ。


「まるで家族のように仲間と食事ができるなんて……うっ、泣けてくる」


鉄の顔の奥から鼻をすする音が漏れる。

彼が兜を脱いだ様子はないが目の前の皿の料理は減っている。不思議なものだ。


「ほんとに泣いてばかりじゃのう、おぬし」


女帝が彼の兜をつるつると撫でながら興味交じりで言った。


「感動しやすいので……グアッ」


兜と鎧の間に皿が飛んできた。

彼の防御を貫通してしたたかにクリーンヒットした。


「食事の時間に攻撃されるなんて……うっ、泣けてくる」


「私の射線上にあなたが勝手にいたからだ」


トゥルーペに反省する様子はない。


「ほら、また泣かせおって!それでもおぬしは”節制”か!」


「さっさと食わんと飯がなくなるぞ」


「待て、わしがとっといたガトーショコラはどこだ?」


「…………」


「”塔”!貴様、先天の魔眼で未来を読んで盗み取りおったな!」


「……早い者勝ちだ」


「おのれ臓物をひっぺ返してくれる!覚悟せい!」


”塔”が”女帝”が卓上で殺し合いを始めた。

お互い全身全霊で殺す気の戦いだ。


「毎度のごとながら騒がしいなぁ」


”吊られた男”ハングドマンは左手で水晶玉をころころ回す。

水晶が生きている蛇が巻き付くように左腕で踊る。


「変わらぬいつもの光景、泣けてくる……」


”悪魔”が仮面の奥で涙を流す。



簡素な部屋で魔王が食事をとっている。

向こうの部屋からは殺意の混じる喧騒が響いてくる。


「なぜ我が軍の者どもは食事も静かにできないのでしょうか」


「にぎやかでいいじゃあないか」



ーー魔王軍の血の凍るような夜が明けてゆくー

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