第13話 決着-避役
「何者だ!」
ハルカは矢を放つも男はナイフを振るい矢を弾き落とした。
エピックとハルカは森の中に入っていった龍斗を支援しようと追っていたが、謎の男に行く手を阻まれていた。
「魔王軍の者か?」
男は答えない。その顔は口から上を紫色の布で隠しており表情はうかがい知れない。顔を覆い隠す布には目をモチーフにした紋章が1つ施されてある。不気味な装飾だ。
表情は見えないが、相手と対峙した陽炎のような殺気からハルカは目の前の男は相当な力量であることを察していた。
男が手に持っているナイフも華美な装飾こそ無いがかなりの業物であろうことが刀身からわかる。
「〈珠玉〉を持つ者が戦っている…戦闘の邪魔はさせない。」
「何?」
「珠玉って…リュートさんの持つ指輪の?」
「その通りだ、それを知っているからといって見逃すことはないがな」
男の平坦な声が答えを返した。
リュートのことを狙っているのか?ハルカは思案する。
「エピック!」
「はい!」
「お前は先にリュートのところに行け、こいつは私が相手する。」
「えっ!で、でも」
するとその時、謎の男は懐から小刀を取り出し、ひと呼吸もせずハルカの後ろのエピックに投げてきた。手慣れた動きだ。
だが一瞬にしてハルカの弓に矢がつがえられ少しの迷いもなく彼女は矢を放った。空中を跳ぶナイフに矢が直撃し勢いよくナイフは弾かれた。
「先に行け」
「はい!お気をつけて!」
自分は戦いの邪魔になるとエピックは悟り、森の奥へ向かっていった。
「負傷した体で俺と戦う気か?」
「この状況でそのことが察せない男とは、貴様の実力を見誤ったかな?」
言い終わった瞬間、すでにお互いに向けて投げナイフと矢が放たれていた。
◆
「ぐあっ!」
龍斗の体に冷徹な一撃がクリーンヒット!
カメレオンの魔物の、敵をふっ飛ばすべき痛烈な舌攻撃には遠心力も加えられその衝撃は倍増。
この時、戦場にいたすべての者が龍斗の敗北を確信した。
だが、龍斗だけは違った!
魔物の舌のなぎ払いを食らった龍斗の体は空中をボロ雑巾のように舞うはずだった。
が、龍斗の体は吹き飛ばされずなぜか地面から少し離れた空中で浮遊していた!
これは龍斗が空に浮いているのか?いいや違う。
透明になっている魔物の舌の先端に龍斗は引っ付いているのだ。
龍斗の横腹にくっついているのは〈強・粘性‐スティッキー・スライミ―〉。龍斗の魔法だ!
その魔法で龍斗の体と魔物の舌は完全にくっついてしまっている。
これこそが龍斗の”できれば使いたくない策”であった。
龍斗は最初にこの魔物と対峙した時、なんとかして攻撃を捉えることで透明になった魔物を逃さないようにできないかと考えた。
そして龍斗の考えついた策が、攻撃される箇所にあらかじめ〈スティッキースライミー〉を付着させておくことでトリモチ罠のように敵の体を捉えられないか?という物であった。
龍斗がこの策を使いたがらなかったのは、敵の攻撃が当たっても自分は吹き飛ぶことはないが直撃したときの衝撃は普通に来るというデメリットがあるからだ。
自分の体を罠にする捨て身の策である。
だが結果的にその目論見はメリットもデメリットもひっくるめて成功した。龍斗はかなりのダメージこそ喰らえどカメレオン魔物を完全に補足していたのだ。
「ずいぶん手こずらせたな!これでトドメだ!」
龍斗の手のひらの間に魔力が収束していき、水の円盤が形作られる!右手の珠玉は青く光り輝き、水の円盤はグルグルと回転してゆく。必殺の〈フルイド・スラッシャー〉だ!
「させるものか!<属性玉-エレメントボール>!」
土魔術師が右手のひらをこちら側に向けると、その手に重力場が生まれ地面の石などが引き寄せられて一つの岩石になった。狙いは龍斗だ!
「まだ魔法を放てたのか!」
俺は驚いた。さっき土の壁を出して魔力は尽きたと思っていたのに!自然回復したのか!
これ以上ダメージを食らったら俺の身体がもたない。
魔物への攻撃をあきらめて防御するしかないか!?
その時、森の奥から火の玉が勢いよく飛んできた。
火球は寸分の狂いなく岩石にあたり、粉々に破壊した。
「やった!命中しました!」
エピック!来てくれたのか!最高のタイミングだ!
もう外さない、<激流切断‐フルイドスラッシャー>!
水の円盤は凶悪に回転し魔物の身体を引き裂いた。