第1話 転生‐傲慢の神
「というわけでお前さんには異世界へと転生してもらう。」
「はぁ」
俺の名前は矢車 龍斗
色々あって死んだあと気づいたら白髭の爺さんと一緒に和室にいた。
お前は転生するだのわしは傲慢なる神だのなんやかんや言っている。
あまりに唐突な話なので半分も頭に入ってこない。
「…あまり驚いてなさそうじゃのお」
「何分こんなシチュエーションは初めてなので」
「まあそう言わずにやってみるとよい。生きてるうちにたくさん経験しとかんと損じゃ」
「さっき死にましたけどね」
そうじゃったと目の前の老人は朗らかに笑う。
本当に神なのだろうか失礼だが疑ってしまうものだ。
「それでは、えーとリュートといったな。転生する前にだが
これからお前が行く魔法の世界で生き残るために必要な魔法をくれてやるとしよう。」
神が俺の手を取り指輪をはめた。
異常な行動のはずなのだが、自然と有無を言わさない強制力のようなものがあった。
神のオーラとかそんなんだろうか。
指輪の中にはサファイアのような青くきれいな宝石が輝いていた。
「これは?」
俺は指輪をまじまじと見つめながら質問した。
宝石には詳しくないが、素人目にもかなりの美しさだということがわかる。
「うむ、それは魔法を使うために必要な珠玉といったものでな
その色によって使える魔法は変わる。お前さんのそれは水の魔法じゃ」
「水の魔法……いまいちイメージしづらいですね」
「それはいかんな。魔法で大事になるのは想像力じゃぞ、魔法は精神に依る部分が大きいからの。
そら、そろそろ体に「魔力」が流れるぞ」
「魔力って――ううおっ!?」
神の宣言(神託?)通り、水の珠玉は蒼く光り俺の体の中に魔力が通わせていった。
血管の中の赤い血が右手の先から別の液体に置き換わっていくようだ。
全身に未知の力が、魔法の力が満ちていく。
同じはずの景色が違って見えるようだ。
とても不思議な感覚だ、身体の五感に新しい感覚が増えたようで――少し恐ろしくもある。
すると、水の珠玉からとめどなく水があふれ出した。
たちまち床が台風で浸水したかのように水浸しになった。
「あう、やってしもた、こりゃかみさんに叱られちまうわい。
新しい転生者が緊張のあまり漏らしてしもうたと言い訳できるかのお。
認知症かと思われたらどうするかのう」
「す、すみません。突然俺の指輪から」
「かまわんよ、転生者としての資格がちゃあんとあるっつーことじゃ。後この指輪はよく学ぶ」
「指輪が学ぶ?よく食べて、よく学び、よく寝るみたいな?」
「そんな健康優良児じゃないわい。あくまで指輪は指輪じゃ」
なんでも倒した魔物に指輪をかざすと魔物の力が俺も使えるようになるらしい。
聞いてみてよくわからないところもあった。
しかしこういうのは説明されるより実際にやってみる方がよく分かる。
とくに突っ込んだりはせずに黙って神の話を聞いていた。
「それでは、そろそろ行くとするかの。」
神はおもむろに立ち上がり部屋のドアを開ける。
その先には一面の雲が広がっていた。
俺も後を追い、恐る恐る雲の上を歩く。
いきなり雲が沈んだりしないか心配だ。
「なあにこの雲はわしの力で固めておる、そう怖がらんでもよいぞ」
雲と青空の境目から下をのぞくと真下には広大な大地が広がっていた
広い町や巨大な城のようなものもちらほら見え、緊張も相まって俺の気持ちは高鳴っていった。
「さて、そろそろ行くとするか矢車龍斗。それとももう一度説明しておく?」
「いえ、大丈夫です。ゲームは説明書を読まずに始めるタイプなので」
本当は少し不安であった。
しかし、まだ見ぬ異世界が待ちきれず、焦って強がりを言ってしまった。
「そうかそうか、ならば最後に言っておくと転生者はお前だけではない。お前の先に火の珠玉を渡した女の子が転生しておる。気の強い子じゃってなあ」
神は白髭をなでながら愚痴をこぼし続ける。
「わしの方から呼んだのに強盗にあった気分じゃ。それともう二人面白そうなやつを転生させてみる予定でな」
「会ってみたいですね、俺以外の転生者の人にも」
「いんや、お前は会う。絶対に会うぞ。
お互いがお互いを知らず知らずのうちに引き付けるのじゃ」
「運命ってことですか…?」
いきなり神妙な話になったので少し戸惑う。
変な人とか転生してこないといいな。
「ぬーむ、そんなおおげさなもんでもない。すれ違った人がもしかして――みたいな」
「少女マンガみたいですね」
「どっちかといえばタイムスリップとかあるSF系じゃろう」
神様がそういうの読むのか。
神の存在がつかめないな。さっきも和室に通されたし。
「まあ、そうは言ってもこの先の世界でどう生きるかはお前さんの自由じゃ。
善の道も悪の道に進むも同じ道、楽しく見させてもらうぞ。手助けも邪魔もせんがな。」
とうとう異世界に行くのか。
なんであれ俺には目の前の状況に立ち向かうしかない。
「どんな方法で俺は下に見える異世界に行くのですか?」
単純な疑問だ。
水の中を通ってワープしたりするのだろうか?
落ちないように身を雲から乗り出して、眼下に世界を俯瞰する。
「なあに、下に世界が見えているのじゃからそのまま行ってしまえばよいじゃろう」
嫌な予感がする。
命に関わる動物的直観だ。
「それって――」
俺が口を開くと同時に神が杖で地面の雲を叩いた。
足元の雲は嘘のように消え去り真っ逆さまに俺は落ちていった。
「もっとロマンチックな方法がよかったあ―――ッ!!!」