sequence:1-38
涼が趣味で料理をやってると聞いて、愛はこう応えた。
「それならいいんだけど」
「まあ、親が料理を作りたがらないなら確かにネグレクトですしね」
涼も愛のいいたかったことは理解していたようだった。
「強要されてるんじゃないかと思ったのよ」
「確かに私は周りの状況を見て、それに従っている節はあるかもしれません」
それでも、と涼は続ける。
「最後に決めるのは自分の意志です」
「まあ、そうなるわよね」
愛も涼の言い分には同意できるところがあったため、頷いた。
「話を戻すと、確かに油ものって難しいわよね」
「最近の調理器具なら温度を細かく調整できますが、手間なのは確かですからね」
2050年も過ぎれば、家庭用のコンロですら細かい調整が可能だ。
流石に1℃刻みということは無いが、それでもインプットされているレシピに合わせて調整ができる。
ちなみにこの時代でも一から十まで機械で料理を作ることは難しい。
というのも、料理の味見は結局のところ人の手が入らないといけない作業だからだ。
とはいえ寿司や焼き肉といった味見の必要性がない料理は機械で作られることもある。
この時代になると機械が仕事を代替することも珍しくなく、人が生活するためのお金はベーシックインカムで賄われている。
人の手が必要な仕事は人の手で行ってこそいるものの、簡易的な医療や事務作業は機械にとってかわられている。
だがそれでも食べていくことはできるため、人々はあまり不満を漏らすことは無い。
学生として学ぶ意味がないわけではないこともあり、こうして学校もあるわけだし。
「こういう細かい味付けは人の手が必要な作業よね」
「まあ、機械は一定の尺度でしか物を測れない、といわれてますからね」
「大分前に技術的特異点ってのが来たけど、柔軟性は人間の方が勝るといわれるわ」
そんな愛に、涼はこう返した。
「割と人間は一度決めたことを変えにくい性質ですし、そうでもないかもしれません」
「へえ、あなたってそういう難しいこともいえるのね」
そう皮肉っぽいことをいう愛に、涼はこう返した。
「律の請け負いですよ。お互い中学生なんだし、そんな難しいこといえるわけありません」
「いってみただけよ。むしろそれを聞いて納得したわ」
無論その間も二人は鶏の唐揚げ定食を食べていたわけだが、二人はそれを食べきる。
「ごちそうさまでした」
二人がそう合図をすると、涼は愛にこういった。
「枝里との決闘の前に、休みましょう。お腹いっぱいだと動きづらいですしね」




