時間停止!最強の能力者、ルシファー現る! ~ルシファー、死す。~
口調の書き分けで悩んでいるそこのあなた。
病ませると楽みたいですよ。
「えっ? ミカちゃん、魔法使えるの?」
「………… 雷、属性……」
ミカ。魔物によって滅ぼされた、セカンドシティ唯一の生き残り。
爆発を目の当たりにしたショックで、極端に口数が減ってしまったのだ。
「ヤッタゼ センリョク フエタ ウレシイ ゼ」
メンバーの5分の2がまともに喋れないと言うのはいかがなものか。
しかしこれも全て、魔王のせいなのだ。
「駄目だ、こんな幼い子にこれ以上……。次の町で引き取ってくれる家を探すからな」
「…………」
次の町はまだ見えてこない。
俺達は駒ヶ根玉で東へ東へと向かっているのだが……。
「見て! あれ、人間じゃない?」
エリーが下方を指差した。
端から落ちないてしまわないよう、慎重に下を覗き込む。
「! 近くに魔物も居ますわ!!」
「チッ……! 助けるぞ!」
玉を急降下させる。
流石は馬の鬣で作った駒ヶ根玉だ。この降下速度なら間に合う!
「ふぅ……、ふぅ……」
「ヤベッ、 手が滑っ……!」
「キャッ!」
「何だ? ひいいっ!! ぐえっ!」
ズシン、と重い音が響く。
駒ヶ根玉は墜落してしまったのだ。
「……町で爆発があったと聞いて来てみれば……、何だ? お前ら。何だその乗り物は?」
「ぐっ……! 大丈夫か!? 皆!」
「大丈夫よ! それより!」
「あの魔物……、喋りましたよ!」
目の前の男は、顔こそ魔物と分かる異形のものだったが、紳士のような服と、長いマントを羽織っている。
俺がかつて見た魔物にはこんな知性は無かったし……、人型でもなかった。
「アキラカニ キョウテキ ヤバソウ ダゼ」
「……怖い」
「大丈夫だ! お前らの魔法なら、魔物の一匹や二匹……!」
違和感。
何か忘れているような……!
「おい、そこの魔物」
「……何かな?」
「お前が追いかけていた人間。いったい何処にやった?」
「人間? ……フッ。気付いていないのか?」
そう言うと、奴は俺達を指差す。
否、俺達の後ろを!
「キャアッ!」
「ひっ……!」
「マサカ、コノオジサン シンデイル!?」
「貴様!! よくもやりやがったな!!」
男性は……即死だった。落下する駒ヶ根玉に押し潰されたらしい。
「アキラ! 何でこんなことに!」
「理由は分かってる! 奴の仕業だ!」
「……ほう?」
「奴は上空を飛ぶ俺達にいち早く気付き! この人を落下予測位置まで誘導していたんだ!」
「なんですって!?」
そう。始めから全て、罠だったに違いないのだ!
「そして……、何かは分からんが不思議な力で、俺の操縦をミスさせた!」
「それで墜落してしまったのですね!? 確かに辻褄が合います!」
「……外道!」
「ほう……、私が……? ふむ……」
余裕ぶりやがって。
自らの手を汚さない……、俺はこういうタイプが、一番許せねぇっ!
「大方俺達の士気を削ろうって魂胆だったのだろうが、逆効果だぜ! 許さんぞ!」
「ククク、確かに。お前達……、特にそこの男のメンタルは、目を見張るものがあるようだな」
「皆!」
「ええ!」
四人の魔法が一斉に襲いかかる!
「これを避けることは……なっ!?」
「無駄だ」
魔法の着弾点に奴の姿は無く!
「てめぇ……、何をしやがった?」
あろうことか! 俺達の背後に立っていたのだ!!
「なぁに。ただほんの少し、『時を止めた』だけだが?」
「なん……だと!?」
「ナンテヤツ! ジカンヲ!?」
「私は魔王軍幹部の一人、ルシファー!」
「魔王軍!?」
「そんな……アキラさん! どうすればっ!」
魔王軍、幹部、時を止める。余りの事態に俺は膝を折り、地面に崩れてしまった。
「そんな! アキラさん!?」
「アキラ!? ……!!」
そうだ。よく気付いてくれたエリー。
行けるぜ! 策は既に思い付いた……!
「ふふ、失礼。並外れた精神力だと思ったが……、買いかぶりだったかな?」
奴に気付かれないよう、町で買っておいたパンを! 地面に埋め込む!
「しかし、君達の魔法……敵対するには惜しい」
周辺の形を整えれば……!
「どうだね諸君。君達さえ良ければ、我々魔王軍に招待したいのだが……。もちろん、そこの君もご一緒に」
! よし、できた! エリー!
「……! いえ、結構よ! 死んでも御免だわ!」
エリーの炎が、再びルシファーを襲う! が!
直後、やはりその姿は消えていた!!
「エリーさん! そんなことをしても、こいつには!」
「無駄だと言うのに……ガッ!?」
「……え?」
時を止め、炎を回避した筈のルシファーの! 足が!!
トラバサミのように! 雑草に貫かれていたのだッ!!
「な!? なんなのだこれは……!?」
「今だ! エリー!」
「はぁっ!!」
「なっ……ぐわあああぁぁっっ!! あっぢいいいぃぃっ!!!」
計画通り!
「気付かなかったか? 俺が絶望したフリをして、駒ヶ根玉を作っていたことに!」
「駒ヶ根玉……? ハッ! そういう事でしたのね!」
「そう! 半径20メートル! 駒ヶ根玉の結界がッ!! お前の動きを手に取るように感知し、貫いたんだッ!!」
「この付近の地面そのものを駒ヶ根玉に加工していた……! 流石はアキラね!」
「ぐわあぁ……! こまが……何そ……グアアアッッ!!」
「熱いか……? ルシファー。オラッ!」
「クゲェッ!」
「お前に殺されたあのおっちゃんは……もっと痛かったんだ!! ドラッ! オラァッ!!!」
「痛ッ! いっ、アアアァァッ!!!」
「アキラさん! そいつは幹部と名乗っていました! 情報を引き出せるかも知れません!!」
「そうか! おい貴様!! 仲間の情報を吐け!! 命だけは助けてやっても良いぞ!」
「ヒッ……クッ、ゥ……」
「言えぇ! オラッ!」
「…………」
「……おい」
「…………」
「おっちゃん殺しておいて!! 勝手に死んでんじゃねえェェッ!!!」
「ルシファー……、最低な男だったわね……」
「コレカラ サキ コンナヤツ バカリ ナノカ」
「…………魔物、悪いやつ」
殺人屑男、ルシファーを辛くも撃破した一行。
だが我々人類は、この勝利の影に、一人の男の犠牲があったことを忘れてはならない。
「…………魔王! 俺は……絶対に許さねぇからな!!!」
旅はまだ、始まったばかりだ。
ルシファーの名前と能力は2秒で決めました。いやほんと。