馬と梯子のラプソディ! 屋根の上の悪魔
異常テンション回。
ちょっとどうかしてたのかもしれません。
「馬車?」
いざ出発と意気込んでいた俺達は、今回の移動手段と対面していた。
「えぇ、既に移動用の馬車を用意していますわ」
流石王族。
この程度の手配は朝飯前らしい。
だが。
「馬、ね……。いや! 馬車は必要無いかも知れないよ」
「まさか! 徒歩では次の町まで行くのでさえ、何日かかるか……」
徒歩? 当然そんなことは言ってない。俺も嫌だ。
「ちょっとゴメンよ」
そう言うと、地面の泥から作った簡易駒ヶ根玉で、馬の鬣を一掴み切断した。
「馬の鬣……なるほど、確かに理論上は可能! だけど本当にそんなことが?」
「流石だなエリー。俺の意図と、その難易度にも気付いたか」
エリーの疑問は最もだ。俺も修行中に論文で読んだだけの、難しい加工。
日本では馬なんて実際に見たことすら無かった。だが……!
「心配するな、俺は職人だ。その誇りにかけて、絶対に成功させる!!」
「アキラ……!」
「アキラサン、ガンバッテ クレ!」
「一体、何を……!?」
「うおおオオッッ!!!!」
近くにかけてあった梯子を一息に駆け上がる。
当然、鬣を掴んだ右手は使わずに、だ。
「!? アキラさんが、民家の屋根の上に!!?」
「……ハッ! そう言うことね!! 確かにそれなら、成功率は飛躍的に上昇するッ!!!」
「エリーさん、一体どういう事ですか!?」
「位置エネルギーよッ!!!」
その通り。
物体は高い所に在る物程、エネルギーを持つ。
勿論この程度では大した効果にはならないのだが、現状、無いよりは遥かにマシなのだ……。だが!!
「ノォウ! ヤベエゼ、アキラサン ガ!」
「!!?」
屋根の上という不安定な足場!! 全力疾走していたアキラは! あぁ!
足がもつれて!! 転がり落ちてしまったのだッ!!!
「アキラアアアアァァァッッ!!!!」
「そ……そんなッ!! イヤァッ!!!」
「…………フゥオッ!? アレハ、ドウイウコトナンダ!?」
アキラは……生きていた。
確かに転落した筈のアキラの足元には、巨大な何かが浮かんでいる……!
「ア、アキラ……! やった! やったのね!!」
「まさか……!? アキラさんの作っていた物と言うのは!!」
「コレサエアレバ、マオウ モ コワク ナイノデハ!?」
「…………あぁ、正直自分でも信じられないよ。こんなに上手く出来るなんてな」
正真正銘、俺の今までの職人人生、最高傑作だ。
「完成したぜ……ッ!! 『駒ヶ根玉』がなッ!!!」
「ナンテコッタ、コイツハ ハヤイ ゼ!」
俺達四人は完成した駒ヶ根玉に乗り、目下東を目指している。
「馬の鬣を使っているからな。速度は折り紙つきだよ」
「地形を無視して行ける分、馬なんて比じゃないわね」
「乗り心地も思ったより良い……。完璧ですね!」
知っての通り、生き物の一部を素材にした駒ヶ根玉は上質で、持続時間が極めて長い。
当分の間はこれで空を駆け、快適な移動が可能と言うわけだ。
「次の町でUFOに間違われなきゃ良いがな……」
「ユウフォオ、ッテ ナンナンダ?」
眼下には広大な草原。目を凝らすと、ちらほらと魔物らしき姿も見える。
「ああいうのって、放っといて良いのかな?」
「わけの分からん雑魚共は、無視!」
狙うは、魔王の首だ。こんな所で道草を喰う暇は、俺達には無い。
「魔王……か」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと……どんな奴なのかと思ってな」
「あ! 次の町が見えてきましたよ!」
次の町。そうだ、確かめなくては。
「なぁ、あの町の名前は……何て言うんだ?」
杞憂であってくれ、という願いは
「あの町は、確か……」
打ち砕かれた。
「『セカンドシティ』よ」
「…………そうか。ありがとう」
予想通りの町の名前。
ファーストシティの次が、セカンドシティ。そんな安直なネーミング、とても普通の事だとは思えない。
(何かこの世界の歴史や……成り立ちそのものに秘密が有るのか?)
セカンドシティの乾いた風が、四人を歓迎した。
馬の旅って、良いですよね。
あ、次回から新章みたいですよ。新章。